バフォメット被害報告書
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「そなた、わらわの婿になれ」
 僕の目の前にある祭壇。大きな石の段が積み重なったその上に立ち胸を張る少女は、
幼い見た目とは裏腹の尊大な態度で言い放った。謎の自信で満々な笑顔に、不敵な表
情はややツリ目がちの彼女にはよく似合っている。まあ、腰に手をあて背を反らした
所で張るほどの胸はなかったが。
「……いや、意味が分からないんだけど」
 対する僕はといえば、壇上からこちらを見下ろす彼女に反射的に突っ込んでしまっ
たところだった。というか、誰だって出会ったばかりの女の子にいきなりこんなこと
を言われたら、同じ反応を返すんじゃないだろうか。まあ、出会ったシチューション
とか、余りにも突飛な告白、いや求婚?の言葉とか、その他諸々を除外して「女の子
が自分を好きだといってくれている」ということだけを見れば、喜んで然るべきなの
かもしれない。とはいっても異常な事態には変わりなく、普通ならこの時点で素直に
受け入れられるような者はそうはいないのかも知れないだろうけれど。
 ああ、何でこんなことになってるんだろう。牙が小さく覗く口の端を曲げ、紫の瞳
でこちらをじっと見つめる少女に、僕はそれ以上何一つ言葉を発せず、視線を返すこ
とだけしか出来なかった。

――――――――――――――

 話は、その少し前に遡る。

 王都から遠く離れた、辺境といっていい地にある村。その集落の中にある、ごくあ
りふれた小さな民家が僕、レオンと姉のリーザの暮らす家だ。両親は僕達姉弟を置い
て早くに亡くなってしまい、姉と僕は小さなころから苦しい生活をしてきた。それで
も今は僕が冒険者の真似事をして、ダンジョンから手に入れたアイテムを売った金や、
簡単なクエストでの報酬をいくばくかは得られるようになったために、昔と比べれば
多少なりとも楽な暮らしが出来るようになっている。

「ごちそうさま!」
 窓から穏やかな日差しが差し込む我が家の食卓。僕はいつものように手早く朝食を
平らげ、いそいそと荷物を掴んで声を張り上げた。壁に下がっていたバッグを取ると
肩から紐をかけ、棚の上に置かれていたショートソードを腰につける。持ち物に不備
がないことをさっと確認すると、はやる気持ちを抑えながらドアノブに手をかけた。
「あら、もう行くの? 気をつけてね」
 戸をくぐり、出発しようとした僕の背に、台所から顔を出した姉の声が掛かる。足
を止めて振り返ると、食器の片づけを終えた姉が僕の方にいつものおっとりとした笑
顔を向けている姿が見えた。
「ああ、昨日の探索で、今まで調べてなかった区画への通路を見つけたんだ。わざわ
ざ隠されていたくらいだし、きっと何かあるに違いないと思うんだ。今度こそお宝を
見つけて、姉さんを楽させてあげるよ」
 興奮して話す僕に、姉はその表情を少しだけ心配に曇らせ、優しい声のまま僕に語
りかける。
「レオンくんがこの家を支えるために頑張っているのは分かっているの。でも、遺跡
の探索、それも一人でだなんて、お姉ちゃん心配で」
「大丈夫だって。あの遺跡にはもう何度も行ってるんだし。それに、今まで一度だっ
て罠や魔物にあったこともないんだから」
「でもね……」
 なおも不安げな様子の姉を安心させようと、僕は明るく笑う。
「約束する、無茶なことはしないからさ」
「本当? 約束よ」
「うん、だから心配しなくても大丈夫。それじゃあ、行ってきます!」
 念を押す姉に、僕は大きく頷く。彼女を不安にさせないよう元気よく声を張り上げ
ると、今度こそ家を後にした。

「おう、レオン。また遺跡へ行くのか? あんまりリーザを心配させんなよ?」
「レオン、出かけるのね。頑張るのはいいけど、無茶はしちゃだめよ?」 
 家を出、村の入り口まで向かう道すがら、見知った人々が口々に僕に声をかけてく
る。僕は分かってる、大丈夫と彼らに返しながら、毎日見慣れた村の中を歩く。
 やがて、僕の前に村と外の世界との境界を区切る柵が見えてきた。だがその前に僕
の目は、道の中ほどでこちらに厳しい視線を向ける一人の少女が立っているのを捉え
ていた。先ほどから僕に対する視線を外さず、見つめるというよりは睨むといえるく
らいの少女は僕があちらの存在に気付いたのを見ると、つかつかと歩み寄ってくる。
幼馴染が取るこれまたいつもの光景に、僕もいつも通りに手を上げて話しかけた。
「おはよう、プリム。早いね、どこか出かけるのか?」
「おはよ。まあ、そんなところよ」
 素っ気無くそう言ってプリムは僕の格好を上から下までじろりと見る。彼女はすぐ
に僕の格好が冒険に出るためのものだと気付くと、先ほどまで以上にキツイ視線をこ
ちらにやりながら口を開いた。
「レオン。念のために聞くけど、あんた今日の予定は?」
「森の遺跡に探索へ。見りゃ分かるだろ。それがどうしたのさ」
 僕の返事にプリムは首を振り、呆れが混じった長い溜息を漏らす。
「あんたね……もう18にもなったんだから、いい加減冒険者の真似事なんてやめて
真面目に働いたらどうなの。リーザさんだって、心配してるんでしょ? いつまでも
子どもじゃないんだから、遊んでないでしっかりしなさいよ」
「む……うるさいな、こっちだって色々考えてるんだよ」
 諭す、というよりも詰るような気さえある彼女の物言いに、むっときた僕は、つい
トゲのある言い方になってしまう。
 確かに、彼女の言っていることは正しい。僕が行く場所は、危険ではないと言い切
れない場所もあるし、姉に心配をかけているという点については言い訳できない。そ
れに探索や戦闘の知識や技術は、かじった程度はあるとはいえ……ちゃんとした冒険
者でもない僕は危険な分実入りの多い仕事や、凶悪なモンスターが巣食う代わりに莫
大な財宝が眠るダンジョンには手が出せない。当然、収入は不安定であり――僕が本
当に幼い子どもだったころよりはましとはいえ――僕らの生活は豊かとは言い切れな
かった。
 しかし、だからといってプリムの言う通りにするのも何か癪だった。物語に出てく
る勇者のようにとは言わないけれど、僕だって多少の魔物となら戦えるという思い込
みもあって、彼女の言葉に素直に頷けないのであった。
 そもそも、昔はそうでもなかったのに、いつの頃からか彼女は僕に対してこういう
つんけんした態度を取るようになったのだ。第一、自分なりに思い入れのあるものに
対しさっきみたいな言い方をされて、機嫌を悪くしない人がいないはずがなかった。
「遊んでるわけじゃない。今度こそ宝物を見つけてくるさ。大体、プリムには僕が何
しようと関係ないだろう」
 自然、僕の口から出る言葉も、突き放したようなものになってしまう。彼女が僕の
将来を案じているのは頭では分かっているのだが、これぐらいの歳の男がプライドと
いうものを大事にする、という例には僕も漏れなかった。
「あっ……そう……」
 僕の言葉に、プリムは少し傷ついたような表情を浮かべたような気がした。だが、
それはほんのわずかのことで、僕が再び彼女の顔を見たときにはには既に消えており、
確かめることは出来なかった。
「それじゃ、僕はもう行くよ」
 プリムのことが少しだけ気にはなったが、遺跡調査への関心が上回っていた僕は彼
女との会話を早々に打ち切り、再び歩き出す。立ち去る僕の方に振り向き、後姿を見
送るプリムの視線を感じながら、僕は村を出、近くの森の中にある遺跡入り口へと向
かった。

「……あ。……私の、ばか……」
 青年が背をむけ、立ち去った後もその場に佇んでいたプリムの口から、小さな呟き
が漏れる。彼の後ろ姿が見えなくなってもしばしそのままぼんやりとしていた少女だ
ったが、やがてそっと溜息をつくと踵を返して歩き去った。

――――――――――――――

 村を出て少し歩くと、鬱蒼とした原生林が広がる一帯がある。大きな街からも離れ、
財宝が埋もれた深い迷宮も無く、ギルドが手配するような危険なモンスターもいない
この森は冒険者達の目にも止まることは無く、特にめぼしい果物の木などがあるわけ
でもないため地元の人間であっても好き好んでやってくるような場所ではなかった。
だからこそ逆に、これから僕が行く遺跡は誰にも荒らされず、放置されていたわけだ。
 なら何故僕が全く情報が無いに等しい遺跡を知ることが出来たのかというと、たま
たま冒険者の真似事をしていた僕が修練代わりに森に足を踏み入れた時に、森の中、
木々に隠されるようにしてひっそりと佇む遺跡の入り口を見つけることが出来たから
だった。
 そんなことを考えている間に、森の中を目的地へ慣れた足取りで進む僕の前にもう
何度となく見ている遺跡が姿を現す。いつ、誰が作ったのかも定かではないその建造
物は所々崩れ風化していたが、地下へと続く通路は思った以上にしっかりとした形を
残しており、何回見ても、この先に待つ未知のものへの不安以上に僕の好奇心と財宝
への期待を刺激した。まあ、実際にはそうそう上手くいくものではなく、今までの探
索で見つけたものといえば、この辺りの村では多少は珍しいがそれほど高値で売れる
わけでもないいくつかの道具だけだったが。
 それでも、昨日の探索でこの遺跡には隠された部分があることが分かった。行き止
まりの壁に巧妙に隠された扉の先には、上手くいえないが今までとどこか違った空気
が漂っており、否が応でも僕の期待を高めていった。残念ながら昨日はたいまつが切
れてしまったのでそこで引き返したのだが、今日は装備もしっかり整えてきた。まだ
太陽も昇りきっていないし、時間はたっぷりある。僕は頷くとランタンを取り出して
火をいれ、地下への階段を一歩一歩慎重な足取りで下りていった。



「うーん、見込み違いだったかなあ」
 隠し扉の先、未踏エリアに足を踏み入れしばし探索した後、僕は思わずボヤキを漏
らした。わざわざ隠してあるくらいだから、その先の部屋はてっきり宝物庫か何かに
なっているとばかり思っていたのだが、ふたを開けてみれば何のことはない、がらん
とした空き部屋だった。所々にガラクタがいくつか積まれてはいるものの、ざっと見
ただけでも特に宝物のようなものも無いと分かる。
「あ〜あ、これじゃあプリムに遊んでるって言われても仕方ないよなあ」
 先ほど出会った幼馴染の少女の顔を思い出し、僕は息を吐き出す。あれだけの見栄
をきって手ぶらで帰ったんじゃ、一体何を言われることか。それに、家で待つ姉にも
財宝を見つけて楽させると約束して来た以上、せめて何か一つでもお宝を見つけなけ
れば合わせる顔が無い。
「とは言っても、隠し通路の先もここで行き止まりっぽいしなあ」
 壁に隠されていた通路の先の区画は一本道で、この部屋のもの以外には扉も無かっ
た。となると、この遺跡自体がハズレだったのだろうか。考えたくは無いが、別に遺
跡を作ったものたちだってサービスで宝箱を置いているわけではないのだろうし、こ
れだけ探して何もないとなると、そういうことなのだろう。
 全身から力が抜けた僕は、そのまま無造作に背後の壁に寄りかかる。
「あ〜あ……結局無駄足か……ッ!?」
 呟いた直後、かちりという小さな音と主に背中に当たっていた壁の感触が無くなり、
僕の体は背後に倒れこむ。状況を理解する間も、悲鳴を上げる余裕も無く僕はそのま
まごろごろと坂を転げ落ちた。そしてがん、という音と共に僕の体が何かにぶつかり、
止まる。
 実際にはほんの一瞬の出来事だったのだろうが、パニック状態の僕には随分長い時
間のように感じられた。体に走る痛みにうめきながら起き上がり、周囲を見回した僕
はようやく自分が居る場所と置かれている状況を理解する。
「ここは……」
 僕の目の前に広がる空間、それはまるで何かの儀式場のようだった。中央には石造
りの台がまるで祭壇のように置かれ、その周囲には複雑な模様が刻み込まれた石柱が
円を描くように配置されている。耳に届く水音に振り返ると、僕が立っている場所と
祭壇のある部分の周囲は水で満たされ、時折どこかから垂れる水滴の音が暗い空間に
澄んだ響きを広げていた。背後には僕が先ほど滑り落ちた、スロープ状になっていた
部分があり、その上部には先ほどの部屋へと続く出入り口が見えた。
「隠し部屋の先に、さらに隠し部屋? それに、この妙な感じは」
 どうやら先ほどまでのあの空き部屋はカモフラージュで、こっちが本命の隠し部屋
なのだろう。部屋を満たす神秘的とさえいえる雰囲気に、僕の期待は再び高まった。
 まずは、いかにも怪しいあの祭壇を調べようと、僕は一歩踏み出す。
 その瞬間、僕の耳にぶううんという音が響いたかと思うと、聳え立つ石柱の模様が
ぼんやりと光りだす。戸惑いの声を上げる間もなく光は強さを増し、中央の祭壇に集
まっていった。直後、祭壇を中心とする巨大な魔法陣が部屋の床いっぱいに広がり、
まばゆいまでの輝きがあふれ出す。
「うわぁっ……!」
 爆発するような光に、僕は思わず目を閉じ、腕で顔をかばう。
「………む、もう着いたのか?」
 一瞬の後、目をつぶり顔を覆ったままの僕の耳にかつんという小さな足音と、この
場には全くふさわしくない少女の声が聞こえてきた。おそるおそるまぶたを上げて顔
をその声のした方に向けると、僕の目の前の祭壇の上、先ほどまでは誰も居なかった
はずの場所に一人の少女の姿があった。
 少女、というよりも子ども、といった方がしっくり来るかもしれない。年のころは
僕よりもずっと下か、せいぜい10を一つ二つ超えた程度に見える。薄紫色のワンピ
ースを纏った栗色の髪の少女は周囲を見回し、次いで自分の体を確かめしばしうんう
んと頷いていたが、やがて安堵の声を発した。
「ふむふむ。うむ。随分と古い転移装置じゃったが、上手く行ったようじゃな。さて
まずは手近な集落へ行くとするか……ん?」
 少女は、突如現れた彼女をじっと見つめる僕の視線に気がついたのか、壇上に立っ
たまま首をこちらに向ける。混乱したままの僕の顔をじっと見つめると、まだ幼い顔
に満面の笑みを浮かべた。そのまま祭壇から無造作に飛び降り、軽やかに着地した彼
女は親しげに僕に話しかける。
「おお、こちらにやってきたばかりで早速人に出会えるとは運がよい。そなた、この
辺りの者か? 悪いが近くの集落まで案内してくれんかのう」
「え? あ、うん。それはいいけど……」
 君は誰、とか、何でここに突然、とか色々と訊きたいことも訊くべきこともあった
のだが、まるで知人に「ちょっと手伝って」と頼むかのようなごく自然な彼女の態度
に流され、僕は反射的に頷いてしまった。目の前の少女といえば、僕が素直に自分の
頼みを聞いてくれたことに気を良くしたらしく、満足そうに頷いている。
「ふむ、出会ったばかりのわらわの頼みを快諾とは、そなた良い男じゃの。こちらに
来て初めて会えたのがそなたのような者とは、ますます幸先が良い。では、行くとす
るかの」
 事態がさっぱり飲み込めない僕を置き去りにして、少女はとことこと歩き出す。数
歩先に進み、ぽかんとして立ちすくむ僕に振り返ると、彼女は訝しげに眉を寄せた。
「なんじゃ? 案内してくれるのではなかったのか?」
「あ、え、あ、うん」
 少女の言葉に我に返った僕は、振り返り再び歩き出そうとするその小さな背を追っ
て慌てて駆け出す。彼女のこととかは確かに気になるけど、今まで魔物には遭わない
で済んでいたとはいえ、こんな遺跡に小さな女の子一人では危険だろう。色々考える
のは村まで送ってからにしよう。
 そう無理やり自分を納得させ歩き出した僕の脇、祭壇を囲むプールの水面が不意に
さざなみ立つ。思わず足を止めた僕が見つめるうちに、水面は激しく波打ちぼこぼこ
と泡だった。
「なんだっ!?」
 刹那の間もなく、水面が爆発したかのようにしぶきを上げ、その中からまるで巨大
なミミズのような怪物が姿を現す。その先端には乱杭歯とうねる無数の触手が並び、
大木ほどもある真っ白な胴体は不気味にうねっている。悪夢のような光景に、僕の体
は無意識に縮み上がった。
「……ほう、ダンジョンワームか。大方、珍しい餌のにおいに惹かれて出てきたのじ
ゃな。うーむ、随分放置していたからのう。確かに何が住み着いてもおかしくは無い
のじゃが」
 うねるモンスターを見つめ、まるで危機感の無い声で呟く少女。その声に反応した
のか、不気味な巨大ミミズは目玉の無い顔を彼女の方に口をむけ、襲いかかろうとす
る。
「……! あぶないっ!」
「っ!? なにを!?」
 目の前の光景に正気に戻った僕は、考えるよりも早く女の子の方に駆け出していた。
飛びつくように小柄な体を抱え、戸惑う彼女と共に床に倒れこむ。地面に体をしたた
かに打ちつけた痛みに顔をしかめた一瞬の後、先ほどまで彼女が立っていた場所にモ
ンスターの巨大な体が雪崩のように襲い掛かった。巨体が石の床を崩し、轟音が辺り
に響く。
「……そなた、わらわを庇ったのか?」
 僕の腕の中に抱かれた少女が、かすかに戸惑いを響かせる声で尋ねる。
「当たり前だろ、目の前で小さな女の子が襲われてて、見過ごせるもんか!」
 半ばやけくそ気味に叫ぶと、押し黙ってしまった少女を背後に庇い僕は体の痛みと
モンスターの恐怖を無理やり押し隠し、ナイフを取り出して構える。目の前では先ほ
どの攻撃を外したワームがゆっくりとその巨体を起こしているところだった。体が大
きいせいかスピードはさほどでもないのが救いだが、だからといってこんな小さな刃
物一本でどうにかできる相手ではないことは変わらない。
「……そなた、震えておるぞ」
「わ、わかってるよ! でも、やるしかないだろ!?」
 少女に怯えていることを指摘され、こんな時にもかかわらず顔が真っ赤に染まる。
それでも、男のプライドとして小さな女の子を見捨てて逃げる訳には行かなかった。
 そんな会話をしているうちに、再び鎌首をもたげたワームは、鈍重な動きで僕らの
方に向き直る。ゆっくりと、だが確実にこちらに狙いを定めた怪物は、僕ら二人をも
ろともに飲み込もうと、その巨大な口を広げた。
 玉砕覚悟でやれるとこまでやるしかない、そんな悲壮な決意を固める僕の背後で、
少女が頷く気配がした。それとともに、どこか嬉しそうな声が響く。
「……うむ、優しさ、勇気共に申し分ない。ふふ、気に入ったぞ。……多少未熟な点
はあるが、それはわらわが鍛えてやればよいだけの話。……よし、決めた!」
「決めたって何が!?」
 少女の言葉を僕が理解する前に、眼前のワームは勢いをつけてこちらに襲いかかろ
うとしていた。
「……う、うわぁあっ!」
 どう考えても受けることは出来ず、かといって背後に少女を庇ったこの状況では避
けることも出来ない。眼前に迫った無慈悲なまでの現実に、僕は絶望と死の恐怖で思
わず凍りつく。
「ええい、蟲が! 邪魔じゃ! 消えておれ!」
 だが、その巨体が僕に迫り来るよりも早く、叫び声と共に少女は僕の背後から大き
く飛び上がっていた。いつの間にか彼女の手に握られていた禍々しい鎌が、無造作に
振るわれ、丸太のような怪物の胴を横一文字に切り裂く。まるで雑草を刈るかのよう
に、あっさりと巨体は両断された。一撃で絶命したワームの体は、水面に叩きつけら
れ、激しい水しぶきを上げる。ぶくぶくと泡を浮かべながら巨体が深く沈み、しばら
くして再び辺りには静けさが戻った。
「ふん、知性の欠片も無いワーム風情が。わらわを誰だと思っておるのじゃ。貴様如
きでは1000年経とうがわらわの足元にも及ばぬわ」
 大鎌を担いだまま、軽やかに祭壇上に着地した少女は得意げに言う。そして呆然と
したままの僕の方に向き直ると、不敵な笑顔を浮かべたまま、僕に言い放った。
「そなた、わらわの婿になれ」

「いや、訳が分からないんだけど。えっと……そもそも、君、何者?」
 余りにも突然の彼女の言葉に反射的に突っ込んだ僕は、途切れ途切れの言葉でよう
やくそう聞き返す。僕の言葉に一瞬きょとんとした表情を浮かべた彼女は、すぐに合
点がいったとばかりに手をぽんと叩いた。
「おお、そうか。わらわとしたことが嬉しくてつい名乗りを忘れてしまったわ。わら
わは『ルリム=グリム』。そうそう、そなたも名前を教えてくれんかの」
「あ、はい。『レオン=ジェスティ』ていいます」
 目の前の少女の風格に、無意味に敬語になってしまう僕。
「ふむ、レオンか。良い名じゃな。今日から夫婦として、よろしくの」
「え?」
 今、明らかに異様な単語が聞こえたような。いや、そもそもいきなり現れたことと
いい、巨大な怪物を一刀両断にした強さといい、すべてにおいて普通じゃあないんだ
けれど。
 だが、それ以上に僕を戸惑わせたのは、目の前の少女の姿そのものだった。さっき
も言ったように、彼女を一言で言い表すなら「幼い女の子」ということになる。ただ
し、それは彼女が「人間であったならば」という条件の上でだ。いや、さっきまでは
確かに人間の姿だったはずなのだが、今は全く違うものになっているのだ。
 10前後の幼い体はそのままに、いつの間にか少女の栗色の髪からはヤギの角のよ
うにもみえる節くれだった角が二本、突き出ていた。小さかった彼女の手は獣のよう
なふさふさした毛で覆われ、先端にはこげ茶色の獣の爪が生えている。足も同様の毛
で覆われ、つま先はひづめのような形になっていた。いつ着替えたのか、未発達な肢
体は殆ど衣装としての役割を果たしていないような小さな布切れと装飾で、局部だけ
が覆われているような状況だった。どう贔屓目に見ても、人間の姿ではない。
 混乱したまま彼女をじっと見つめる僕の視線に、ルリムと名乗った少女は不思議そ
うに首をかしげた。
「……む? わらわの格好、どこかおかしいかのう? 変じゃな、わらわの母上が旅
立ちのために用意してくれた一族の伝統衣装なのじゃが」
「いや、そういうことじゃなくて……あの、ルリム、さん?」
「ルリムでよいぞ、レオン」
「そう? それじゃルリム?」
「うむ。なんじゃ?」
 僕に名を呼ばれたことに嬉しそうな表情を浮かべ、かすかに頬を染める少女。異形
の姿をしていながらもその表情だけを見れば、可愛らしい女の子といっていい姿で、
僕も思わず頬が熱くなる。だが、それは別としてこれだけは確かめておかなければな
らなかった。
「ええと……君、人間じゃ……ない、よね?」
 僕のおそるおそるの問いかけに、目の前の少女は胸を張りどこか誇るように答える。
「うむ、見ての通りわらわは魔に属するものじゃ。名は「バフォメット」という」
「バフォメット?」
 問い返す僕の言葉に、彼女は頷く。
「そうじゃ。そなたらの分類で言うならば、魔の獣というものの一つじゃな。魔界の
中でも由緒正しきわらわの一族を獣扱いなのはいささか失礼じゃがのう」
「……そうなんだ」
 確かに、あの巨体を一撃で倒したことといい、魔物の中でも強力な力を持っている
ことは想像に難くない。目の前で胸を張る少女にそんなこといわれても僕はただ頷く
ことしか出来なかったが。
「よし、それではレオン。契りを交わそうぞ」
「はい!?」
 唐突に発せられたルリムの言葉に、僕は素っ頓狂な声を上げる。彼女はそんな僕の
顔を見つめると、またも首をかしげた。
「なんじゃ? 夫婦となる二人には自然なことじゃろう? 何かおかしいか?」
 その目には全くふざけた様子はなく、純粋に僕の反応が不可解といわんばかりであ
った。このままではルリムのペースに巻き込まれて、なし崩し的に彼女との一線を越
えさせられかねない僕は、慌てて口を開く。
「ちょ、ちょっとまった! いや確かに夫婦はそういうことするけどさ! 出会った
ばかりの僕らがするのはおかしいだろ! 大体、いきなり婿になれってなんなの!?」
「ん? 言葉通りの意味じゃが。レオン、そなたをわらわの婿として迎え入れようと
思っての。その相手と契る、全くもって自然じゃろ」
「いや、そもそもそれがおかしいって! いきなり婿とか言われても!! そもそも
僕の何処が気に入ったのさ!?」
 そう、そこが分からない。出会ってすぐといっていいほどのあの短時間で、一体彼
女は僕のどこが気に入ったのだろう。戦いの腕だって彼女の方が上なのは明らかだし、
自分の顔も……悪くはないと思うけど、かといって格別整っているとまでは思えない
のだけど。
 自虐的な考えに沈みこむ僕を、ルリムは頬を染めて恥ずかしそうに見る。
「その……なんじゃ、初対面というのにわらわの頼みを聞いてくれたり、明らかに勝
てない敵であっても命がけで庇ってくれたりしたそなたの優しさと勇気に、じゃ。
わらわはそなたのそこに惹かれたのじゃ。それだけでは婿に選んではいけないのか?」
「う……。い、いや……そんなことはないと、思うけど……」
 恥ずかしがりながらもストレートに好意を表してくる少女に、僕の頬も染まる。こ
んなに直接的に褒められたことはなかったから、何だか照れくさくて、むずがゆかっ
た。
 それに、ルリムの言うことももっともだ。確かに人が人を好きになるのにいちいち
段階を踏まなくちゃいけないとか、そんな決まりは無い。彼女は人間じゃないから、
なんか変な感じだけど。
 とはいっても、やっぱりいきなり契りとか夫婦といわれても考えが整理出来ない。
かといってこんなにも真剣に想いを伝えてきた相手を無碍なく断るのもかわいそうだ
し。
「あ、あのさルリム? 気持ちは嬉しいけど、ほら、やっぱり余りにも急すぎると思
うんだ。お互いを良く知る時間は大切っていうか……」
「なんじゃ、急なことなぞあるものか。それにわらわの目は確かじゃ。時間をかけず
ともそなたがわらわにふさわしいことはわかる」
 しどろもどろで何とか説得しようとする僕の言葉に、目の前のバフォメットは不満
げな表情を浮かべていく。さらには、その目が潤み、僕に詰め寄ってきた。
「……そなたは……わらわでは嫌なのか?」
「うう……そういうわけじゃないけどさ、でもほら……」
 僕の胸にしがみつき、潤んだ目で上目遣いに顔を覗き込んでくるルリム。魔物では
あっても人と変わらぬ体温と、服越しにも分かる彼女の柔らかな体の感触に、僕の鼓
動は激しさを増す。それでも何とか彼女を押し留めようとする僕に、ルリムは痺れを
切らしたように口を開いた。
「ええい、じれったいのう! よい、わらわのことをそなたの体に直接教えてやろう。
なに、怖がることはない。すぐにわらわの素晴らしさを理解できるようになる」
「ま、まって、だからそういうことじゃ……むぐぅ」
 背伸びするようにして、ルリムの唇が僕に押し当てられる。ほとんど密着状態だっ
た僕はそれを避けることもできず、僕の唇に、彼女のやわらかく小さな唇が触れ合う
のを感じた。人間以外とキスしているという考えは、彼女の唇のやわらかさにかき消
され、不思議と違和感も嫌悪感もなかった。
「んっ、ちゅ……んん……」
 そのままルリムは舌を入れ、僕の口内に唾液を塗りたくるように舐めまわす。彼女
の舌は熱く、唾液はまるで蜜のように甘かった。僕はいつの間にか自ら彼女と舌を絡
めあい、少女がもたらす甘露を貪るように求める。いつしか僕の思考は靄がかかった
ように鈍り、彼女がもたらす快感を味わうことだけを考えていた。
 そんな僕の様子をルリムは嬉しそうに見つめ。ふかふかの毛に覆われた腕がしっか
りと僕の頭を抱きしめた。僕と間近で見つめ合う彼女の紫の瞳は淫靡な輝きを宿し、
しばし、互いの口内を舐めあう。
「くちゅ……ん、ぷぁ……」
 しばらくして口を離した僕らの間に、唾液の橋が掛かる。ぼんやりとルリムを見つ
める僕の前で、彼女は口の端に垂れた涎を瞳に妖艶な光をたたえたまま舌で舐め取っ
た。
「……どうじゃ? わらわとの接吻は。なかなかのものじゃろ?」
「うん……すごかった」
「ふふ、当然じゃ。人間の娘などとは一味違うからの。そなたも美味であったぞ」
 僕の感想に満足そうな笑顔をつくり、ルリムが頷く。
「では、次じゃな……」
 桜色に染まった顔で、彼女が告げる。胸、というよりも乳首だけを隠すようなきわ
どい衣装を外し、僕の目の前にツンと立ち上がった胸の突起があらわになった。さら
にするりと下着を脱ぐと、小さな割れ目が僕の前に晒される。未成熟な肢体に似合わ
ず、そこは既にしっとりと濡れているのが僕にも分かった。
「ほら、見ておくれ……そなたと結ばれたいと、わらわのここはもうこんなになって
おるのじゃ……」
「あ……」
 かすかに照れを覗かせる声で恥じらいながらも、秘所を隠しもせず僕に見せ付ける
彼女。僕の目は初めてみる女の子のあそこに釘付けになり、知らず、荒い呼吸が漏れ
る。既に股間は痛いくらいにふくらみ、布地を押し上げていた。そんな僕の様子をち
らりと見たルリムは、その顔に嬉しそうな表情を浮かべる。
「ふふ……喜んでもらえてなによりじゃ……。どれ、そなたもそのままでは苦しかろ
う。わらわが脱がしてやろう……」
 そういって側に来た少女は、獣のような手にも関わらず器用に僕の服を脱がしてい
く。幼い女の子が奉仕している姿に、僕は言いようのない優越感を感じた。そんなこ
とを考えているうちにあっという間にズボンと下着が脱がされ、興奮に固くなった僕
のものが外気に晒される。
「嬉しいぞ……そなたも、もうこんなにして……」
 ルリムはそういって目を細め、獣毛に包まれた彼女の手がそっと僕のものを撫でる。
敏感な所に与えられた刺激に、僕は思わず声を漏らした。
「あっ、くぅっ……」
「ああ……立派じゃの……。熱くて、動いておる……。もっとさせておくれ、もっと、
わらわで気持ちよくなっておくれ……」
 僕のものの反応に、魔物の少女はうっとりと呟く。しばし慈しむように僕のものを
そっと愛撫していたが、やがて欲望に耐え切れなくなったのか、もどかしそうに僕の
手を取ると自らの秘所へと這わせた。指が触れた瞬間ルリムの体が跳ね、ちゅ、と小
さな水音が響き僕の手を濡らす。初めての感覚が、僕の興奮をさらに高めた。ルリム
は切なそうな表情で、僕に嘆願する。
「ん……ふぅっ……レオン、あっ、ああ……ここ、ここを弄ってほしいのじゃ……」
「んっ……く……こ、こう……?」
 彼女の言葉に、僕は脳を焼くような快感を堪えて少しづつ指を動かす。
「ふぁぁっ、そう、そうじゃ……。いい、気持ちいいのじゃ……もっとしておくれ、
もっと、いっぱい……そう、もっとぉ……」
 指が動くたびに甘えるような声を出すルリムが可愛らしい。僕よりもはるかに強い
はずの彼女があえぐ姿がもたらす征服感は僕の背を震わせ、ルリムの可愛い顔をもっ
と見たいという想いがさらに愛撫を激しくさせていった。女の子とこんなことをする
のは初めてなのに、無我夢中で動く僕の指は彼女の反応が一際強い所を的確に責めて
いく。彼女もまた、僕のものを撫でる手を休めず、その動きは最早擦るようになって
いった。
「く……あっ、ぐ……きもち、いいよ……。ルリムの手、あったかくて……うぁっ」
「あぅぅ……、上手、すぎて、わらわも……くふ、んっ……! だ、だめじゃ、こん
な……あ、ふぁ……、も、もう……あああああぁぁぁぁっ!!」
 やがて与えられる快感に耐え切れなくなったように、ルリムが叫び、その背が弓な
りに反る。力の抜けた体がぐったりと僕に寄りかかり、はぁはぁと荒い息をついた。
その姿から達したのだろうということは、僕にも何となく分かる。僕の指で彼女が感
じてくれたという嬉しさが目の前の魔物の娘に対して愛おしさを感じさせた。それと
ともに、気持ちよくしてあげられたという感覚が、不思議な満足感をもたらす。僕は
彼女の華奢な体をそっと抱き、支えてやった。
 やがて、息を整えた彼女は満足そうな表情を浮かべながら顔を上げる。
「ふぅ……ふぅ……まさか、指でいかせられるとは思わなんだ……。レオン、そなた
は巧者じゃな……罪な男じゃ……」
「そ、そんな。だって初めてだったから無我夢中で!」
「初めて?」
 少女の言葉に責められているように感じ、思わずそう口走った僕に、ルリムはきょ
とんとしてそう繰り返す。余計なことを暴露した気まずさで顔を真っ赤に染める僕に、
彼女はなぜか嬉しそうに微笑んだ。
「初めて、しかも無意識であれだけのことが出来るとは素晴らしい才能じゃ。うむ。
やはりわらわの目に狂いはなかった。そなたなら、わらわが教えればすぐにサキュバ
スすら快感にむせび泣く腕となれよう」
「……それってすごいの?」
「無論じゃ」
 まるで自分のことのように誇らしげなルリム。だが、僕としてはなんだか生来のプ
レイボーイって言われてるみたいで複雑な気分だった。同じ才能なら、もっと別のも
のが良かったなあ。

 それからしばし見詰め合っていた僕達は、再びどちらからともなく唇を触れ合わせ
る。いつの間にか僕の中では彼女とすることへの抵抗も罪悪感もほとんどなくなって
いた。きっと、それは彼女が一生懸命で、本当に僕と結ばれたいと感じていることが
分かったからだと思う。
「それではレオン、わらわと契ろうぞ……」
「うん……よ、よろしくお願いします」
 どこか厳かに響いた声に、僕も真剣に頷き返す。見た目はずっと年下の女の子に頭
を下げて頼む姿はどこか妙であったが、彼女は気にした風もなかった。ただ、惚れた
相手と一つになれるということに幸せそうな表情を浮かべている。
 僕は一度自分のものを見下ろし、再び顔を上げてルリムの顔を見つめる。小さく、
しかし確かに頷いた彼女に頷き返し、僕は自身を彼女の秘所にあてがい、ゆっくりと
沈めていった。
「ぐ……う……」
「うぁ……ん……ぅ……くぅ……」
 狭くきつい膣内にものが擦れ、僕の口から呻きが漏れる。だが、それ以上にルリム
の口から漏れる苦悶の声が気になった。ふと、視線を下ろすと、結合部から紅いもの
がにじんでいるのが見える。それが何を意味するのかは、さすがの僕も知っていた。
「ルリム……ち、血が……! あ、じゃ、これって、つまり……!」
「あ……ばれて、しもうたか……。そうじゃ……く、そなたと同じで、わらわも、初
めて……んっ……なのじゃ……」
 慌てる僕の声に、ばつの悪そうな顔になる少女。
「な、なんで、黙ってたのさ……!? ぼ、僕てっきり……!」
「ふふ……せっかくの契りに、相手が……うく、わらわを、気にするようでは……悪
かろう? そなたには、ただ……気持ち、よく、なって欲しかったのじゃ……」
「……!」
 痛いだろうに、無理やりに笑顔を作って僕を気遣う。その優しさに、僕はルリムに
対し先ほど以上の愛しさを感じた。それと同時に、ここまでしてもらいながら彼女の
気持ちに甘えていた自分に対する情けなさも。
 無意識にそれが顔に出ていたのか、ルリムは僕を抱き寄せ、そっと耳元に囁く。
「ふふ、そなたは優しいのう……。ほら、そんな顔をしないでおくれ。わらわは初め
てをそなたに捧げられて良かったと思っているのじゃから」
「うん、ごめん……ありがとう」
 根元まで埋めたまま、僕はしばしじっと動きを止める。やがて先ほどよりは苦痛が
和らいだ様子の彼女が静かに息を吐いた。
「さ、もう大丈夫じゃ、好きなように動いてよいぞ……」
「わかった……あの……やさしく、するから」
 僕はそう呟き、ルリムを強く抱きしめる。彼女もまた嬉しそうに僕に抱きつく腕の
力を強めたのを感じると、密着したままゆっくりと腰を動かし始めた。
「ん、く……ぁぁ……ふぁ……っ」
 擦れるたびに雷に打たれたような刺激と快感が走る。動き続けるうちに、やがて彼
女の口から甘く蕩けだした声が漏れ、耳に届いた喘ぎが更なる快感をもたらした。そ
の声に導かれるように僕らはお互いの動きを激しくしていく。
「あぅ……く……。う……すご、熱くて、気持ちいい……」
 注挿を繰り返すたびに、彼女の狭い中の襞が纏わり付いてくるようだった。彼女に
包まれているという幸福感と、処女を貰った相手としているという満足感が僕を満た
していく。ルリムもまた、同じようなことを考えているのだろうということは幸せそ
うに蕩けた彼女の表情が物語っていた。
「ふぁ……ぁ、あっ、やっ、ああん、んんっ……!」
 獣のように激しくお互いを求め合う中、やがて僕は限界が近いことを感じる。いき
そうになるのを堪えながらルリムを見ると、彼女も僕と大差ない状況のようだった。
僕の様子に気付くと、小さく頷き腰をさらに激しく動かしてくる。
「ルリム、ぼく、ぼく……くぅぅ……げん、かい……!」
「んっ……あっ……や……そろそろ、わらわも、いきそう、じゃ……!」
 お互いの体をしっかりと抱き合い、僕がその最奥に打ち込んだ瞬間、少女の膣が強
く一物を締め付けたのがとどめだった。
「うあああぁぁぁぁっ!!」
「や、ああああぁぁっ……!!」
 僕達はほぼ同時に達し、僕のものから勢いよく精液が迸る。彼女の膣内はそれを受
け止め、最後の一滴まで搾り取ろうと蠢いた。
「あ、ふぁ…………」
 やがて全てを出し尽くした僕は、心地よい脱力感と共に息を吐き出す。呼吸を整え
て目の前の可愛い魔物の女の子を見つめると、彼女もまた優しく微笑み返してくれた。
「……いっぱい出してもらったの。……幸せじゃ……」
 そう呟いて手でそっと胎を撫でる彼女。僕もまた穏やかな表情で、その姿を見つめ
る。そして、僕は決意を込めた言葉を発した。
「あのさ……、えっと、順序が逆になっちゃった気もするけど。さっきの答え、言う
よ。ルリム、僕の……お嫁さんになってください……」
「……! 嬉しいぞ……。これから、ずっと……よろしくの……」
 涙ぐむを彼女を僕はそっと抱き寄せ、小さな唇を自分の唇とそっと触れ合わせる。
そうしてしばし、情事後の淫臭が立ち込める空間で、僕達は寄り添っていた。



「それでは、正式な夫婦となったことじゃし……早速続きじゃ。今度は口が良いか?
もう一度手か? 足でされるのが好きという者もおるらしいの? どこでもよいぞ、
レオン、そなたが好きなところを好きなように使ってよいのじゃ。もちろん、わらわ
のことも気持ちよくさせておくれ?」
「って、ちょっと待って!? いくらなんでもそんなすぐには!」
「ふふ、心配いらぬぞ。何度でも出来るようにわらわの魔力を送り込んでやろう。そ
なたの体に魔力が馴染み、そのうち自分のものとなれば一日中していても大丈夫なく
らいの力はつくようになるからのう。わらわの婿殿じゃ、それくらいでなくては困る」
「えええ!?」
「うむ、そうじゃ。そのうちそなたの召使いとなる娘も見繕っておこう。誰か好みの
娘は居らぬか? わらわの秘術で魔女にしてそなたの僕として贈ってやろうと思うの
じゃが」
「いや、いいから! そんなことしなくていいから!!」
「気にしなくてよいぞ。わらわの夫となる男じゃ。別の女子から好かれるのも当然じ
ゃし、愛妾がいくらいても良い。無論、正妻の座はわらわのものじゃがな。うむ。男
たるものハーレムの一つや二つ持ってしかるべき。ふむ、いい考えじゃ。一息ついた
ら早速町にでも、わらわたちの僕となる娘を探しに行くとしようか。いや、それより
もどこかの国を奪った方が良いかの」
「ちょ、話飛躍しすぎ! いいから、ルリムが居てくれれば僕は別にハーレムとかい
いから!!」
「おお、嬉しいことを言ってくれるのう……わかった。そなたのためにも、バフォメ
ット族の名にかけて、まずはわらわがたっぷりと気持ちよくしてやろうぞ……。さあ、
どういう風にしたいのじゃ?」
「む、無限ループ!? そんなひどい!」

――――――――――――――

 それから僕が村に戻ったのは、一週間後のことだった。遺跡に行ったまま帰らず、
散々心配をかけた姉にはこっぴどく怒られたけど、それも仕方ない。僕は大粒の涙を
零しながら僕を抱きしめる彼女にただ平謝りするしかなかった。
 ただ、僕と一緒に帰ってきたルリムの姿を見、恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら
もなんとか「彼女が僕の妻になった」と言うと途端に上機嫌になったのがわが姉なが
らすごいというか何というか。
 「レオンくんにもいい子が見つかったのね。お姉ちゃん嬉しいわ」って、他に何か
言うべきセリフはあると思うんだ。しかもその後でルリムがバフォメット本来の姿に
戻っても全然驚かなかったし。そんなもんだからかルリムはルリムで姉さんを気に入
っちゃうし。あっという間に本当の姉妹のように仲良くなってしまった。まあ、姉さ
んもルリムもある意味普通とはズレてるからなのかな。

 で、今はどうなっているかというと。
「レオン、レオン! ああ……んっ、もっと、深く……そう、そうじゃ、奥まで、い
っぱいぃ……!」
「くっ、うく……ルリム、ルリムぅ……いいよ、すごい、気持ちいいよぉ……」
「ふぁあっ! く、あ……っ、だめじゃ、もう、すぐにも……いって、しまい……あ
ぁん、そうじゃ……!」
 
 ……とりあえずの所、この小さな魔物の女の子と僕は幸せにやっているのだった。

――『エンゲージ・オブ・バフォメット?』 Fin ――

――――――――――――――

おまけ その1

「あらあら、レオンくんもルリムちゃんも幸せそうね。お姉ちゃんちょっとうらやま
しいな」
「む、ならリーザ、今度はまた3人で一緒にしようぞ」
「あら、いいの? うふふ、そのときはよろしくね」
「そうじゃ、そなたも魔女にならんか? 今まで以上に気持ちよくなれるぞ?」
「うーん、それは遠慮しておくわ。一応私、レオンくんのお姉さんだし、魔女になる
と弟より小さな女の子になっちゃうでしょ?」
「そうか……残念じゃ。まあ気が向いたらいつでも言うがよい。レオンの姉君じゃ、
腕によりをかけて、特別な魔女に変えてやるからの」
「うふ、もしそうなったらよろしくね」
「…………姉さん、自重してよ……」

おまけ その2

「ねえ、ルリム。そういえば何であの遺跡に現れたの?」
「うむ、実は魔界にいると母上が結婚しろとうるさくての。しかしそもそも魔界にや
ってくるような者はそうはいない上、来たとしてもわらわのところにはなぜか「マン
トにパンツ一丁で斧を持った筋肉達磨」やら、「真っ白な衣装にヒゲと白髪の魔法使
いのジジイ」やら、「赤い鎧の3倍早い騎士」やらばかりで、ろくなの男がおらんか
ったのじゃ」
「それは……確かにヤダね」
「じゃろう? じゃから自分から相手を探しに人間界にやってきたわけなのじゃ。そ
れにしてもわらわは運がよかった。すぐに夫が見つかったのじゃからな。そうじゃ、
落ち着いたら魔界へ母上に紹介にいかねばな」
「ええ、魔界!? ……うう、僕の実力で大丈夫かなあ」
「心配することはないぞ、レオン。魔界に来る勇者なぞ小指一本で倒せるよう、バフ
ォメット族の修行と秘術でわらわがみっちり鍛えてやるからの。ふふ、強くなった暁
には、わらわを守ってくれると頼りにしておるぞ?」
「う、うん……ちょっと自信ないけど、ルリムを守れるくらいにはなれるように頑張
るよ」
「うむ。期待しておるぞ、婿殿」

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