バルログ

・サキュバス属 ・悪魔型

○生息地…火山地帯
○気性……強気、傲慢、好色
○食糧……人間の男性の精

 炎の大悪魔「バルログ」に関しては、怪物の姿であった古の時代の伝承が多く残されている。
 かの悪魔達は火山から膨大な炎の魔力を取り込んで身に宿し、溢れ出るそれは全身に纏う業火となり敵のことごとくを焼き尽くしたという。
 常に怒り狂い強大な力で暴れまわっていたという全てを焼き尽くす炎の様な存在だが、卓越した技量を持つ戦士でもあり、戦いになれば剣の形に変えた炎を振るい、燃える尻尾はまるで鞭の様に鋭く長く、一振りで山が焼きえぐれたとされる。
 
 現在は根城となる火山一帯を統べる大悪魔ではあるが、自らを着飾る事を好み、眷属「パイロゥ」達と街で遊び回って過ごし、愛する男に抱かれる事を何よりの悦びとする享楽的な魔物へと変貌している。
 かつての凶暴性は鳴りを潜めているものの、苛烈で衝動的な気性は健在で、かつ欲深い彼女達は欲しいものは必ず手に入れ、全てにおいてやりたい様に振る舞うのだという。
 また極めて傲慢で、大悪魔である自負を持つと共に自身は女としても極上の存在であると豪語し、夫となる者もまた自らに相応しい最上級の男でなければ釣り合わないと考えている。
 実際に夫達がどの様な人物なのかを確かめてみれば、世に広く名の知れた者も多く、総じて活力に満ち溢れる人格にも優れた人物で、大勢の人間や魔物に慕われ自然とその中心となっている……バルログの夫は必ずその様な男性である。
 そんな夫に対しての彼女達は大悪魔の自負はどこへやら、男に身を預けて熱っぽく甘える恋人として、愛する男性に求められ抱かれる悦びにただ浸っている。
 
 ならば、夫に選ぶのは元より勇者や英雄、各分野での成功者なのだろうと思われがちだが、必ずしもそうとは限らない様だ。
 実例として、あるバルログの夫がしてくれた話を記そう。彼は享楽の限りを尽くす伴侶に代わり、とある火山の国を統治する王として知られる人物である。
 彼はある日、街で美しい女性に軽い調子で声をかけられる。間もなくして結ばれたその女性こそがバルログであったわけだが、その時の彼はなんと街の小さなパン屋の次男、即ちごく平凡な青年であったそうだ。
 当初は確かに平凡だった彼だが、彼女と出会ったその瞬間に「身体の奥が燃え上がる様に感じた」のだという。
 燃え盛る炎の勢いは、恐怖も戸惑も諦観も全てを容易く上回り、度重なる失敗の後でさえも燻る事無く、それこそが彼に惚れた女性をモノとする情熱を与え、誰しもが王と認める人物に至るまでの研鑽の日々へと突き動かした。
 炎は今も消える事なく、なお激しく燃え盛り、無限の活力をもたらし続けているという。
 それ故に疲れ知らずだそうだが、有り余る活力と共に湧き上がるのが煮えたぎる様な性欲と無尽蔵の精力であり、特に何かすべき事を終えた後などは、通常ならば訪れる休息への欲求の代わりに、発散しなければどうにかなりそうな程の衝動に見舞われるという。
 そして彼の傍には、衝動を煽るかの様に挑発的な誘惑を繰り返し、衝動が自らに向けられベッドに連れ込まれる事をいつでも期待して、今も肩を抱かれてウットリ身を委ねてくる、そんな恋人が常にはべっている。
かつては女性に迫る様な事は考えもしなかった彼であっても、彼女を抱かずにはいられず、空いた時間は常に身体を重ねて過ごしてしまっているそうだ。
 他にも何人かに話を聞いたが、バルログに選ばれた男性全てにこの様な心身の活性化といえる現象が見られた。

 学者達の調査により、バルログは火山から溢れ出す炎の魔力を己の身に取り込んだ後、外部に発散する事で火山が噴火しない様に制御する役割を持つ魔物だという事がわかった。
おそらく古の時代のバルログは、その発散を暴れまわる事で行っていたのだろう。
しかし、現在ではその凶暴性……つまり行き過ぎた程の活力による暴走は前述の通り見られない。
現在ではどの様に発散しているのか? 即ち、彼女達は火山から取り込む膨大な魔力を自らに宿すだけではなく、選んだ男性へと注いでいる。という事である。 
 欲深な彼女達は、必ず愛した男性を選び、必ず手に入れる。そして、彼女達は愛し、選んだ男性が「自分に相応しい最上級の男」である事を望む。そうであれば、それも「必ず」なのだ。



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