「英雄志願と魔物の少女」シリーズ
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エピローグ

 穏やかな陽光が優しく大地を照らす、うららかな午後。それはここ、この辺り一体を治
める領主であるフリスアリス家の屋敷でも変わりは無かった。
 小高い丘にあるその屋敷の一角、領主にしてフリスアリス家の現当主、キルレインの執
務室にも窓越しに明るい光が差し込んでいる。
「……以前に届いた手紙と、今聞いた話から大体のところは分かった。とりあえずは、
『天啓の宝珠』が悪用される心配は永久に無くなった、ということだな」
 そう言うと黒い長髪を後ろになでつけ、豊かな口ひげを蓄えた男性はイスに深く腰掛け
ながら長い息を吐き出す。彼がアレイクの師でもある人物。フリスアリス家現当主にして
このあたり一帯の領主、キルレインである。
がっしりとした身体と、落ち着いた物腰。領主として理想的な姿とさえ言える彼の顔には
しかし今は、安堵と少々疲れたような色が入り混じる複雑な表情が浮かんでいた。
 そして室内には今、キルレインの他に3人の人物の姿があった。いや、厳密には3「人」
という言い方は出来ないのかもしれなかったが。
「あの……それで私たちへの処罰はどうなるのですか?」
 そのうちの一人、狐の耳と尻尾を持つ少女、クズノハがキルレインを見やりながら問い
かける。その表情には罪を犯したことへの後ろめたさはあるものの、罰せられることに対
する恐れというものは無かった。
「うむ……」
 彼女の顔に目を向けながら、領主は口を開こうとする。だが、その前にクズノハの隣に
立っていた少年、アレイクが口を挟んだ。
「待ってくれよ師匠! そりゃ、くーが宝珠を盗んだのは事実だけどさ、それを命令した
のはガスパーニュのおっさんだろ!? それに、くーにはたくさん助けてもらったんだし!
くーたちが罰せられることなんて無いって!」
 机に勢いよく両手をつき、身を乗り出す少年の肩にそっと手を置くと、クズノハは静か
に語りかける。
「いいんだよ、アレイク。例えどんな理由があろうと、償うためにどんなことをしようと
罪は裁かれなければならない。それが、法というものなんだから。
それに、ここで私たちだけを許してしまったら、領主であるキルレイン公に不満を持つも
のが現れないとも限らない」
「そうそう、領主様っていう人の上に立つ立場の方は、何においても公平でなければなら
ないのよ。私たちだって、覚悟はしてるわ」
 もう一人の少女、金の眼を持つエキドナのベルフェンディータも、クズノハの言に頷く。
「だけどさ……!」
 二人からそういわれてもアレイクは納得できないのか、彼女たちのほうに向き直り、口
を開きかける。だが結局は何も言わず、口をつぐんでうつむいた。
「確かに、そこにいる二人……クズノハとベルフェンディータの行動は法に照らしてみれ
ば罪であり、裁かれなければならない」
 腕組みをしたまま目をつぶるキルレインの口から発せられた重い響きの言葉に、アレイ
クははっとして師の方に向き直り、クズノハとディータは面持ちを引き締める。
「……だが、結果として、その行為のおかげで世に迫るかもしれなかった危機を未然に防
ぐことが出来たともいえる。よって状況と結果を鑑みれば、酌量の余地はある。
また、彼女たちは決して自ら人に害をなそうとしたわけではなく、そもそも人と魔物はそ
のあらゆる点において異なるのであり、単純に人の法で裁けばいいというものでもない」
「……」
彼は片目を開け、押し黙るアレイクをちらりとみると言葉を続ける。
「以上のことから、領主キルレインは、クズノハ、ディータ両名に対し、一定期間の保護
観察処分を申し渡す。なお、期間中においてはアレイク=エルフィードに両名の監視とし
ての役割を申し付ける……と。
まあこんなところでどうだね?」
 どこかいたずらっぽく言いながら、目を開けたキルレインは3人の顔を見つめた。
「……えっと、それはつまり」
「事実上のお咎めなし、ね」
 いまいち内容を理解していなかったアレイクに、納得した様子のディータが説明する。
「それにしてもやっぱりアレイクの師匠だけあって、器の大きな方ね。ねえ領主様?
私に子ども、産ませてみる気は無いかしら? きっと貴方の子なら素敵な魔物が生まれる
と思うの」
「はは……美しいお嬢さんからの提案とあってはなかなかに魅力的だが……。
残念だが遠慮しておくよ。弟子から女性を奪ったとあっては、娘夫婦が怖いのでね」
 冗談めかして誘惑するエキドナに、領主もまたお遊びのように答える。その言葉を聞く
と、ディータはますます彼を気に入ったようだった。口元を押さえ、くすくすと笑う。
「しかし……いいのですか?」
「かまわんよ。そもそも先ほどは罪といったが、実際の所我が家以外には特に被害はない
ようなものだからな。それに、宝珠がそんな危険なものだったと分かった今になっては、
むしろ処分できてよかったくらいだからね」
 いまだ処分の軽さに納得をしかねるクズノハの問いかけに、キルレインは答える。
「さらに言うなれば今回の事件の元凶は、先の事件の時にガスパーニュ家を完全に潰せな
かったこちらが招いたものでもあるわけだ。なら、君たちばかりに責任を押し付けるわけ
にも行くまい」
 そういって机の上に報告書をどさりと置いた領主には、むしろ以前娘にちょっかいを出
した抵抗派を完膚なきまでに潰せてよかった、とすら言いそうな気配があった。

「それより問題は……お前だアレイク」
「え? 俺? 俺が何か?」
 やれやれと言いたげな声で名前を呼ばれた少年は、戸惑いながらも己の師へと振り向く。
彼の顔を正面からまじまじと見つめ、キルレインは長い溜息を吐き出す。
「『天啓の宝珠』を破壊したことについては、さっきも言ったように別に問題ではない。
旅立ちの際、勝手に倉庫から貴重なアイテムを持ち出したことも、まあよかろう。
だが、問題はその目だ!」
 言われて少年は自分の目をパチクリさせる。その言葉を聞いたクズノハとディータも
ふう、と息を吐き出した。
 本来は茶色をした少年の瞳。だが今、そのうちの右目はまるで燃えるようなルビーの
紅色をしていた。だけでなくその瞳には複雑な魔法紋が刻み込まれ、強大な呪いがかけ
られたことを物語っている。
「最初に、お前があの魔剣を持っていくことを分かっていて止めなかったこちらの落ち度
は確かにあろう。だが、いくらなんでも神威召喚を、それも何の備えも無しにやるとまで
は思わなかったぞ! まったく、例の女神がお前のことを気に入ったからよかったような
ものの、一歩間違えればお前の命を力を借りる代償にされかねなかったんだからな!」
「わ……わるかったよ師匠……」
「ふん、本当に悪かったと思っているのなら、お前のことをずっと心配していたそこの二
人のお嬢さん、それからペトラやプリミエーラにもちゃんと会って謝るんだな。
それで、お前はどうするのだアレイク? その目の紋章は、お前たちから聞いた話による
と、例の女神がお前が死んだ後その魂を支配下に……というよりは自らの眷属に転生させ
るための契約印のようだが。まさか魔神の一族になる気か?」
 説教をしながらも真剣な表情で愛弟子を案じるキルレインに、アレイクは自分なりの考
えを話す。
「いや……。俺、あれから考えたんだけど……なんとか契約を破棄する方法、この呪いを
解く方法を探そうと思う。力を借りといて約束破るって、あの女神様には悪いけど」
「……そうか。まあ、お前もこの旅でいろいろ学んだものはあるだろう。もうそろそろ、
私の元を離れてもいい時かもしれんな」
「それに、くー達も手伝ってくれるってさ」
少年の言葉に、二人の少女は頷く。
「アレイクが女神との契約をすることになった原因は、私たちを守るためです。
その恩を返すためなら、私はどんなことでも協力は惜しみません」
「そうそう。せっかくの夫と決めた人を、魔神なんかに取られてたまるもんですか」
 言葉や態度、瞳に宿した光から、彼女たちが心から少年の身を案じていることを見て
取ったキルレインは、二人に頭を下げる。
「……ありがとう。どうにも未熟で出来の悪いバカ弟子だが、どうかよろしく頼む」
 深々と頭を下げるキルレイン。その姿に師弟関係というよりも、子を想う親のような
物を感じ取ったクズノハとディータの二人は、領主を見つめながら力強く頷くのだった。

 その後、執務室を後にした彼ら三人は、屋敷の母屋を出ると広大な庭を横切り、アレ
イクが寝泊りしている離れへと向かう。
 本来はこの家の来客が泊まる場合のものなのだが、そもそも母屋にも十分な数の客間
があるため、この小さな――といっても並みの民家よりはよっぽど立派なのだが――建
物は師がアレイクを引き取って以来、ほとんどアレイクの家のような状態になっていた。
「あ。おかえりなさい、アレイクさん、皆さん」
「おう、ただいまペトラ」
 玄関まで来た所で、丁度彼らを迎えに出てきたペトラと出会う。あの事件後、この街
に家を持つプリン以外の魔物の娘……つまりクズノハ、ペトラ、ベルフェンディータは
アレイクと共に、フリスアリス家で暮らしていた。
 男と女、しかも女の方は男に惚れているとくれば……当然、魔物である彼女たちが我
慢出来るはずは無く。
 あの事件の後、アレイクはプリン、クズノハ、ペトラ、ディータから四者四様の告白
やら求婚やらを受けていた。まあ、ディータは最初に会った時に求婚していたようなも
のだったが、やっぱり他の者がしているのに自分だけしないということはできず、負け
ていられなかったらしい。
 だが、やはりと言うべきか。その手のことには不器用で優柔不断、そして何より心優
しい少年はただ一人を選ぶことなど出来なかった。彼女たちに詰め寄られ、アレイクは
最終的に、
「……み、みんな好きなんだっ!」
とある意味どうしようもない答えを逆切れ気味に叫んだくらいである。
 そこで、アレイクを困らせることが本意では無かった彼女たちは協議の結果、結局彼
に対しては「一夫多妻制」で行くしかないだろう、という結論に達した。本音を言えば
自分だけが独占したいという気もあったものの、誰か一人を無理やり選ばせても少年は
喜ばないだろう、と思ったのである。
 そしてさすが魔物というべきか、そうと決まれば話は早く。みなの怪我が治ったその
日から、もう毎日のように彼女たちは愛しい少年と「愛しあって」いたのだった。

 夕食を済まし、一人自室に戻ってきたアレイクは壁の鏡に自らの姿を映す。そこには
オッドアイの少年が立っており、紅の魔眼をこちらに向けていた。普段自分では見るこ
とが出来ないが、こうしてみるとやはりこの右目は目立つ。
「……」
 少年は無言で、しばし鏡に映った己の姿を見つめる。あの時、自分がとった行動に後
悔は無かった。しかし、時折皆がこの目を見てなんともいえない表情を作るのを見ると、
やはりなんとしてでもこの呪いを解かなくてはならないと彼は思うのであった。
 考えにふける彼を、カンカン、という小さな音が現実に引き戻す。
「ん?」
 何だろうかと思い、音のした方向、窓に目を向けると、窓の外に一人の少女が立って
いた。
よく見知ったその姿を認めた彼は窓に近づき、その鍵を外す。すぐに窓は開けられ、小
柄な少女が室内に入り込んだ。
「あ、あはは……、来ちゃった」
どこかばつの悪そうに笑うインプの少女、プリミエーラに、アレイクは問いかける。
「プリン、どうしたんだ?」
少年の知る限り、彼女がこんな遅くになってから彼を訪ねることはめったにない。さら
に、そういった時であっても大抵はきちんと玄関から入ってくるはずだった。
少年が知る限り、彼女がこのような訪ね方をすることは、今まで一度もなかったはず
だった。
 困惑する少年をよそに、何か考えていたプリンは意を決すると、彼をまっすぐ見つめ
口を開く。
「あのさ、アレイク。聞いたんだけど、また旅に出るの?」
「ん? あ、ああ。ほら、この瞳のことなんだけどさ。師匠の倉庫にもここまで強力な
呪いを解く方法は無かったんだ。けど、世界のどこかにはきっと何か方法があるはずだ
と思ってさ」
 少年の説明に、しかしインプの少女はうつむく。
「……それで、次はいつ、ここに戻ってくるの?」
「あ……」
 言われて気がついたのだが、この呪いを解く方法を探すとはいえ、実際の所まだなん
の手がかりも無い。ひとたび旅に出れば、今回の冒険とは比べ物にならないほど長い間
ここを離れることになるだろう。クズノハたちはどこまでも付き合うと言ってくれたが、
この街で自分の生活を持っているこのインプの少女を自分のわがままに再び巻き込むこ
とは、少しばかり成長した今の彼には考えられなかった。
「……」
 黙りこむ少年に、目に涙をためた少女が抱きつく。
「ずっと離れ離れなんて、いやよそんなの! 旅に出ないでなんては言わないわ。
でも……私だけ仲間はずれになんてしないで! 私が前に言ったことを忘れちゃったの
なら、もう一度言うわよ。
私……貴方が好き、大好きなの! ずっと側にいさせて欲しいの! どんなに辛い旅
だって、貴方と一緒なら平気だから、だから……おいていかないで、離れないで、
アレイク……」
 ぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら彼の胸に顔をうずめる少女を優しく抱きながら、
アレイクは口を開く。
「プリン……ごめん、ごめんな……。俺、自分のことばっかりで、お前の気持ち、全然
考えてなかった……」
 少年の小さな声に、いつの間にか泣き止んでいた魔物の少女は顔を上げ、くすりと微
笑む。
「いいのよ、あんたがこういうことに鈍感だってことは皆知ってるわ。言ったでしょ?
私たちはそれでもみんな、あんたが好きだからこうして一緒にいるんだって。
だから私も、一緒に連れてってくれるわよね?」
「……ああ、分かった。でも、本当にいいのか? もしかしたら最後まで見つからない
ものを探す旅かも……」
「いいの」
 言いかけた少年を短い言葉で遮り、プリンは背を伸ばすとその口を自らの唇でふさぐ。
突然のことに戸惑っていた彼も、すぐに彼女に応え、二人はしっかりと抱き合ったまま、
長い口付けを交わすのであった。

「ね……アレイク? その……して、欲しいの」
 やがて身体を離し、真っ赤に染まった頬で、プリミエーラは呟く。アレイクはそんな
彼女をそっと抱き上げると、ベッドの上に優しく横たえた。
「あ……」
 戸惑いか期待か、少女から小さな声が漏れる。アレイクは彼女の服を優しくはだけさ
せると、薄い胸にそっと手を置く。じっと目をつぶったプリミエーラの身体が、ぴくん
と震えた。
「綺麗、だ……」
「……やだ、あ」
 少年の言葉に顔をさらに染める少女。彼はそのまま胸を優しくなでまわすように愛撫
しはじめる。
「や……、くすぐった、……んっ……あ……」
ぎゅっと目をつぶるインプは彼の与える刺激にときおり震え、素直に反応を示している。
興奮のためか、少女の身体からは偽装していた角や羽、細い尻尾がその姿を現していた。
「んっ、アレイク……した、ここも、して……?」
 やがて少女は自らの手で胸を愛撫する少年の手を取り、既に濡れていた秘所に導く。
その敏感な場所に彼の指が触れた瞬間、くちゅ、と小さな、しかしはっきりとした水音
が聞こえた。
「プリミエーラ、濡れてる……」
「やぁ、言わないで……」
 羞恥に顔を染め、いやいやと首を振る彼女。その姿がまた、アレイクになんともいえ
ない興奮を呼び起こす。
 下着をずらし、熱いそこにそっと指を這わす。彼女がこくりと頷くのを見ると、少年
はゆっくりと指を動かし始めた。
「こう? 気持ち、いいか……?」
くち、くちゅ……という音をさせながら、彼の指が動く。そのうちの一本が入り口にう
ずめられると、彼女は大きく震え、嬌声を上げた。
「あ、んんっ!!」
 そんな少女を優しく見つめると、彼は嬉しそうに微笑む。プリミエーラはお返しとば
かりに彼の頭を抱くと、口付け舌を差し込んだ。
「んっ……ん、ん……ちゅ……」
 しばし、室内に言葉にならない音が響く。
 やがて口を離した彼女は、正面からアレイクを見つめ、そっと囁いた。背の羽がゆっ
くりとはためき、尻尾が揺れている。興奮しているんだ、と少年には一目で分かった。
「アレイク……もう、来て、いいよ……」
「ん……わかった……」
 その言葉に少年は服を脱ぎ捨てると、彼女の上にそっと覆いかぶさり、熱く固くなっ
た肉棒を少女の濡れそぼる割れ目にそっとあてがう。
「いくな……」
「うん……」
見つめあい、短く確かめあうと、アレイクはゆっくりとそれを彼女にうずめていく。
「あっ……ん、んん……はぁっ……ああ……」
 肉が擦れ、侵入する感触をインプの少女はびくびくと震え、涙をこぼしながらも嬉し
そうに味わっていた。
「はいったぞ……」
「ん……」
 それだけを言うと、お互いにそのまま抱き合っていた二人だったが、やがてどちらか
らとも無くゆっくりと、互いをいたわるように優しく動き出す。
「ふぁ……はぁ、あっ、あっ、やっ、ああ……!」
次第に加速し始めた動きに、彼女の声も高くなっていく。口の端からはつ……と一筋の
よだれがたれ、しっかりと閉じられた目からは快感のあまり大粒の涙がこぼれた。
 少女も自ら腰を動かし、快感を貪っていく。少女の身体に快感が走るたび、腰からの
びる尻尾がびくびくと震えていた。
 そして、その高まりはやがて限界を迎える。
「プリミエーラ、もう、おれ……いく、いきそう、だ……!」
「いいよ、アレイクっ、いって、なかでいっていいから!
ちょうだい、いっぱいちょうだい!!」
「くっ……う、うあああああああああああっ!!」
「あっ、くる、きちゃう……! やぁ、あ、あああぁぁんっ!!」
 快感のまま発せられた言葉に、彼のものから熱い精液が彼女へと注がれる。
体内の熱にぶるぶると少女は震え、その横に少年がとさりと倒れこんだ。
「ありがとう、アレイク……」
 その頬にプリミエーラはちゅっと口付けると、彼の身体を抱き、静かな優しい眠りへ
と落ちていった。



 行き交う人々が作り出す活気に満ちた街の一角、そこに少女の姿をした魔物の一団が
集まっていた。不意に通り過ぎた風が、彼女らの頬を撫でる。
「しばらくこの街ともお別れですね〜。ちょっと寂しくなりますね〜」
 どこか名残惜しそうな声で、メドゥーサの娘が呟く。それに、狐の耳を生やした少女
とエキドナの女性も頷いた。
「ああ、そうだね。住んでいる人たちも、皆優しくていい街だからね。
だからこそ、またいつか、必ず皆で帰ってこよう」
「そうね、彼以外にも、子どもを産んであげたい人、いっぱいいたしね。
さっさとあの呪いを解いて、帰ってきましょ」
そういって、彼女は色っぽい瞳で街並を眺める。と、彼女が見つめる大通りを旅装の少
年が一人、少女達の方に駆けてくるのが見えた。
「わ、わりい! 支度にてまどった!!」
黒い外套の下に軽装の革鎧を着込み、腰に魔剣をつけた少年は彼女たちのところまで来
るとぜいぜいと息を上げながら、口を開く。その姿に皆はくすくすと笑いを漏らすの
だった。
「準備は済んだ? それじゃ、行きましょうか」
インプの少女の言葉に、他の娘達も頷く。
 青空のもと、旅支度を整えた一団が街の門をくぐる。最後に少年は丘の上に立つ領主
の屋敷を見つめると、先を歩く少女達の下へ駆け出した。


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『英雄志願と魔物の少女』 FIN

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