魔女被害報告書
このページは図鑑を閲覧してくださった方々のアンケートによって作成されています。
ご協力ありがとうございます。

「はぁ……」
 また、私の口から溜息が漏れる。さっきから目に映るのは踏みしめられた小道と、着
慣れた衣服をまとった自分の体だけ。うつむいたままでも良く見知った道は自分が今ど
こを歩いているのかをちゃんと伝えてくれる。いや、たとえそうでなくてもこんな小さ
な村で道に迷うことなどありはしなかったのだろうけど。
そんなことを考えていた頭の片隅に、ふと、いつぞやの自分の言葉が蘇る。

 ……あんたね……もう18にもなったんだから、いい加減冒険者の真似事なんてやめ
て真面目に働いたらどうなの……
 ……いつまでも子どもじゃないんだから、遊んでないでしっかりしなさいよ…… 

 彼に向かってそう言ったのは、つい先日のことだ。いつものように冒険者の真似事を
している彼が、いつか危ない目に会うんじゃないかと思って。心配してるんだよ、とこ
の胸の想いを伝えようとして。
 結局、いつもの憎まれ口を叩いてしまったのだ。
「はぁ……」
 これで何度目だろうか。30を超えた辺りで数えるのを止めた溜息はまだ漏れてくる。
その音が耳に届くたび、自分が随分とあのことを気にしているというのを自覚して、そ
れがまた私に一つ息を吐き出させた。なんで、素直になれないんだろう。昔はもっと、
自然にお話も出来たのに。いつの間にか、彼と会って口を開けばそんな言葉ばかり。
「いやな子、だよね……」
 そう呟き、私は歩き続ける。
 ふと、私はすっと顔を上げる。視線が緑と黄土色の地面から離れ、穏やかな陽光が降
り注ぐのどかな村の風景を捉えた。青い空には小さな雲がいくつか浮かび、その下での
びのびと枝を広げる木々の葉が、かすかに風に揺れている。全くいつもと変わらない村
の風景で、どこにも問題があるようには見えない。いや、実際この穏やかな村に問題な
んてないのだろう。もしあるとすれば、私の心の中の問題なのだ。
 そのいつもと変わらない風景の中、これまた昔からずっと、私の記憶とどこも変わら
ない小さな一軒家が目に映る。……見るつもりは無かったのに、見てしまった。無目的
に歩いていたつもりなのに、結局は無意識のうちにそこを目指していたのだった。私は
目の前の小さな家から視線を外すことができず、しかし決して足はそこへと近寄らず、
ただぼんやりと道の中ほどに立ちすくんでいた。
 どれほどの時間、そうしていたのかは分からない。もしかしたら日が暮れるまでただ
ただその家を見つめているかもしれなかった私の意識は、不意に聴覚がよく聞き知った
少年の声を捉えたことで現実に引き戻される。それほど大きな声ではなかったのに聞こ
えたのは、彼の声が良く通るものだったからなのか、それとも私が耳を済ませていたか
らなのかは分からなかった。あんまり、深く考えたくも無かったし。
 がちゃり、という鍵を外す音が響き、目の前の家のドアが開かれる。その音が響いた
瞬間、私は反射的に近くの木の陰に身を隠していた。なにやってるんだろう、と自嘲と
呆れが頭に浮かぶ。何も悪いことなんてしてない、やましいところなんて無いはずなの
に、逃げるように隠れるなんて。
 自己嫌悪にうつむきかける私の視線は、目の前の家から一人の少年が姿を現したこと
で固定された。いつものように冒険者の真似ごとでもするのか、彼が身につけるのは丈
夫で動きよさそうな服装。その腰には短い剣の鞘といくつかのポーチが括り付けられ、
ゆれている。離れたここからでも、彼がいつも通りの明るい顔をしているのが見えた。
幼い頃からずっと見てきた顔立ちは、今では18歳の青年という年相応の凛々しさを感
じさせる。ただ、その表情の中にかすかに子供っぽい幼さが見えるのは……きっとそれ
も、彼の個性なのだろう。
 少年はこちら、物陰に隠れる自分に気付いている様子は全く無い。私は隠れているん
だから当たり前だけど。彼が自分のいる場所と反対方向を向いている今なら、気付かれ
る前にここから歩み出て声をかけ、たまたまどこかへ行く途中で出会ったふりをして自
然に話しかけられるかもしれない。ここしばらく、彼とは話が出来てなかったし、そろ
そろちゃんと顔を合わせてもい頃合だと思えた。
「……うん、そうよね」
 ほんの数秒の逡巡ののち、意を決して足を一歩踏み出そうとした私の足は、目の前の
光景を目にした途端、石になったように固まってしまった。なぜなら、私の目は彼とは
別の、もう一人の人物が彼の家から出てくるのを見てしまったからだ。
「レオン、ちょっと待ってくれてもよかろう?」
 開いたままのドアから私の幼馴染に続いて出てきたのは見た目10歳くらいの小さな
女の子。数日前から少年、レオンの家に住むようになった子だ。村の噂では遠縁の子か
何かだろう、なんていってたけど。でも、彼の親戚の話なんて、聞いたこと無かったの
に。
 姿を現した彼女――たしか、ルリムとか言う名前だった――薄紫色のワンピースと、
陽光に照らされる栗色の髪は少女の子供らしい見た目に良く似合っていて可愛かった。
ただ、姿どおりの幼さをにじませる声とは裏腹にそのしゃべり方は妙に年寄り臭い。そ
のせいか、私には彼女がどうしても外見どおりの年には思えないのだった。
 私の違和感をよそに、二人は仲よさそうに会話を続ける。
「ごめんごめん、ちゃんと待ってる。ルリムのことは置いてったりしないからさ」
「うむ。ちゃんと気をつけてもらわねば困る。レディを置いていくなど言語道断じゃ」
 そういって少女が小さな差し出した手を、少年が自然な動作で取る。幸せそうな少女
の顔に、ちくりと胸が痛んだ。けれど、私はその痛みをむりやり心の奥底に押し込める。
 私の視線の先、手をつないだままの二人が歩き出す。その姿は一見、年の離れた兄妹
のようでありながら、なぜか私には別の関係のように思えた。二人の距離感が近いのだ。
恋人というよりも、そう、まるで新婚の夫婦のような。
「……ばかばかしい。どうかしてるわ、私」
 私は首を振って自分に言い聞かせるようにそう呟いた。けれども、一度浮かんだ考え
は心を暗く濁らせ、澱は消えそうに無い。
「確かめて、みる?」
 考えを纏めるよりも早く、私の足は歩き去ろうとする二人の後を追って、ゆっくりと
進み始めた。

――――――――――――――

「はぁ、はぁ、はぁ……」
 荒い呼吸を繰り返しながら、私は家に駆け込み、後ろ手にドアを乱暴に閉める。震え
る手つきで鍵をかけ、窓にカーテンを閉めると着替えもせず、外から帰ってきた服その
ままベッドの上にうつぶせに倒れこんだ。枕に顔を押し付け、眼を閉じる。しかし、そ
れで記憶が消えるわけはなく、むしろさっき目にした光景がありありと思い起こされて
しまった。



 時を遡ること一時間ほど前。幼馴染の少年と、彼と共に暮らし始めた妙な少女の後を
つけた私は二人が村はずれの林に入っていくのを見て、自分もまた林の中に足を踏み入
れた。普段人が立ち入る事もほとんど無いそこは雑草が伸び、わずかに獣道が奥へと続
いている。こんな所まで来て一体何をするのか。私の脳裏には変な考えが浮かび、無意
識のうちに顔が赤らんだ。
「や、やだ、そんなことないわよね」
 慌てて首を振って変な妄想を吹き飛ばす。我に返った私は二人に気付かれないよう慎
重な足取りで進むと、やがて前方に木々に囲まれたわずかな空き地が姿を現した。私は
太い木の陰に隠れ、空き地の中ほどに進んだ二人をそっと観察する。
 私の視線の先では幼馴染の少年、レオンがショートソードを腰の鞘から抜き、構えて
いた。もう一人の少女、ルリムは手近な木の切り株に腰掛け、その姿を見守る。やがて
レオンは短く息を吸い込むと、ゆっくりと剣舞を始めた。片手にしっかりと握られた剣
が虚空を薙ぎ、払う。腕だけでなく体全体を使うようにして、時に大きく振り下ろし、
時に鋭く突きこむ。ひゅんひゅんと刃が風を切る音がリズミカルに響き、彼の額には珠
の汗がにじんでいた。傍らに座る少女は声をかけることも無く、少年の鍛錬の姿をじっ
と見つめ続けていた。
 しばらくその様子を物陰から窺っていた私は、二人に気付かれないよう、安堵の吐息
を小さく漏らす。なんだ、やっぱり私の早とちり、気にしすぎだったのだろう。見栄っ
張りなレオンのこと、大方剣の練習をしている所を人に見られたくないと言う所だった
のだろう。それでも同居する少女に見せてくれとせがまれて、しぶしぶ連れてきたとか
いうのに違いない。二人の仲がやけによさそうに見えたのは、私の気のせいだったのだ
と自分に言い聞かせる。
「ほんと、馬鹿みたいね、私」
 自嘲が漏れ、私は顔をうつむける。こんなこそこそしてる私の方が、あの二人よりず
っと性質が悪いわ。もうここには用もないし、帰りましょう。そして、次こそはちゃん
とレオンに会えばいいじゃない。
 そう自分の心が戒めてくる。全くその通りだと思った。
「……うむ。レオン、鍛錬はそれぐらいでいいじゃろう」
「あ、うん。そうだね」
 気付けば随分長い時間ここにいたようだ。いつの間にか少年は剣を腰の鞘に収め、腰
を上げた少女が彼をねぎらうように駆け寄っていく。
 その光景を目にした私の胸に、またちくりと痛みが走る。再びうつむいた私はこれ以
上ここにいても何も起こらないだろうと判断し、そのまま踵を返そうとして。
 その音が耳に聞こえてきた。
「……んっ……ちゅ、ぷ……」
「……え?」
 無意識に小さな驚きの声が口から漏れるのは止められなかった。それくらいその音は、
異様な響きを持っていたのだ。はじかれるように顔を上げた先、木々に囲まれた小さな
空き地の中で、幼馴染の少年と小さな女の子が、キスをしている。目に映る光景は、そ
れをきちんと伝えてきていた。けれども、私にはその情報をきちんと受け入れることが
出来なかった。いや、したくなかったのかもしれない。
「んふぅ……ん、んん、っ……ちゅ、ちゅ……」
 レオンはひざを地面につき、ルリムと顔の高さをあわせている。お互いに腕が相手の
体に回されしっかりと抱き合い、唇が触れ合っていた。舌と舌が絡み合い、水音が響く。
なぜか、私にはそれがやけに大きい音として聞こえた。
「……!」
 私はまるで金縛りにあったように、逃げ出すことも眼をそらすことも出来ず、二人の
姿を見つめ続ける。なんで? あの二人、何してるの? どうして? え、だってレオ
ンは私と同じ18で、あの子はどう見てもずっと年下なのに。そういうものなの? そ
ういうことするの? 彼女と? 彼が?
 思考に浮かぶのは驚愕なのか悲しみなのか、はたまた別の何かなのか。頭を満たすも
のが何なのかも分からず、ただ混乱したまま、事態を見守り続けることしか私には出来
無かった。
 やがてどちらからとも無く顔を離した二人の口の間に唾液の橋が掛かり、彼らはうっ
すらと赤みがかかった頬のまま、名残惜しそうな表情でお互いを見つめあう。ちょっと
の間をおいて、ルリムは小さく頷き、一歩レオンから離れた。少女は恥じらいながらそ
っと、身に纏った衣服を脱いでいく。離れたこちらにも、衣擦れの音がはっきりと響き、
直後、ぱさりという音と共に地面に薄紫色の服が落ちる。
「……嘘、だよね。うん、そんなこと、無いよね?」
 誰に向けての問いかけか。私の口から言葉が空しく漏れる。無論その言葉は彼らに届
くはずも無く、私の目の前で二人の行為は、先へと進められていく。
 ルリムが彼のズボンをそっと下ろしていく。すぐに彼のモノが外気に晒され、私は無
意識に息を呑んだ。少女は既にはちきれんばかりに固くなったそれに愛しげに触れ、そ
して自らの秘所へと導いて……。
「んっ、あ、はぁ、あ、ああああぁぁんっ…………」
 挿入される瞬間、私は反射的に目をつぶっていた。それでも、無情にも耳には彼女の
嬌声が届く。その声は愛しい彼のモノを受け入れる喜びに溢れ、これ以上ないほどに幸
せそうだった。そして、彼もまた、挿入の快感に小さなうめきを漏らす。その声もまた、
幸せそうだった。長い付き合いの中で初めて聞く彼の声に、私は絶望に近いものを感じ
る。あんな幸せそうな声を彼に出させたのが自分ではないことが、とても悲しく、悔し
かった。ここまで来たのは自分のせい、自業自得とはいえ、そんな声は聞きたくなかっ
た。私は隠れてただ眼をつぶり、いやいやするように首を振るしかなかった。
 やがて、肉を打ち付けあう音が辺りに響きだす。見たくは無い。見たくは無いのに、
私の目は少しずつ開いていく。どうしようもない人間の好奇心のせいなのか、わからな
かった。私の意思に反してまぶたがゆっくりと上がり、再び辺りの光景を捉える。
「……っ!?」
 口からでかかった声を、両手でふさぐことでかろうじて留める。私の目に映った光景
はある意味では想像通りで、ある意味では全くの予想外であった。
 先ほどと同じ場所。小さな空き地の真ん中で少年と幼い少女がまぐわっているのは、
認めたくは無かったし、何かの間違いであっては欲しかったが……残酷までに予想通り。
 だが、その少女の姿は、先ほど私が目を閉じる前に見ていた少女とは全くといってい
いほど異なっていた。
 抱き合う少女、幼い体はそのままにいつの間にか栗色の髪からはヤギの角のようにも
みえる節くれだった硬質の角が二本、突き出ている。少年の背に回される腕や、小さい
手は獣のようなふさふさした毛で覆われており、こげ茶色をした獣のような鋭い爪が生
えている。折り曲げられた足も同様で、ひざの辺りまで毛で覆われ、つま先は牛や馬の
もののような、ひづめの形になっていた。角や手足の毛は明らかに衣装やアクセサリで
はなく、「生えている」という感じである。
 どこからどう見ても、人間の姿とはいえなかった。魔物、という単語が私の頭に浮か
ぶ。
「い、いったいどういうことなの?」
 状況だけ見れば、幼馴染が魔物に襲われているということなのだろうか。だが、少年
の顔には恐怖や嫌悪感は全く無い。どころか、彼女に対する愛しさと、幸せそうな表情
が浮かんでいる。と、すれば、魔法か何かで操られてるとか、幻を見せられて騙されて
るのだろうか。
「と、と、とにかく、だ、だれ、誰かにしらせなきゃ……!」
 幼馴染が魔物の虜にされているといっても、ただの村娘の私には何も出来ない。とり
あえずは誰か人に知らせることぐらいしか出来ないだろう。そう考えた私はその場から
離れようと、震える足に力を入れ、あの魔物に気付かれないようにそっと体を隠れてい
た木から離す。
 しかし、あまりに目の前の魔物に注意を向けていたのが悪かったのか、私の足は地面
に落ちていた枯れた枝を踏み、折ってしまった。ぱきり、という小さな、しかしよく響
く音が辺りに響く。
「……!?」
 瞬間、少年と交わっていた魔物の少女が鋭くこちらに振り向く。その視線は過たず立
ち去ろうとしていた私の姿を捉えた。彼女の紫色の瞳が、私の目を射抜く。
「ッ!」
 人外の輝きを持つ瞳に射すくめられ、私の背には恐怖が電撃のように走った。それに
はじかれるように駆け出し、脇目も振らず私は逃げ出す。幸い、後ろから追ってくるよ
うな気配は無かった。それでも、後ろを振り返るような余裕は私には無かったけれど。

 そのまま家まで走り続けた私は、ベッドの上に倒れこみ、今はこうしてただ震えてい
るのだった。ようやく、先ほどよりはいくぶん恐怖は薄れたが、それでもまだ安心は出
来なかった。さっき振り向かれた時に、私の存在は明らかに相手に気付かれた。一瞬だ
ったから顔を見られたかは微妙な所だったけど、多分……見られたと思う。あの魔物は、
あそこで自分達を見ていたのは誰だったか気付いただろうか。もしも、それがわかって、
覗いていた人物、つまり私の家の場所まで知っていたら……。その後どうなるのかは、
分からない。というよりも、考えたくなかった。
「ああ……なんで、こんなことに……」
 後悔の言葉が漏れる。やっぱり、あの時後なんてつけなければよかった。そうすれば
あんなもの見なくても済んだし、こんなことにもならなかったのに。しかし起きてしま
った出来事は取り消すことは出来ず、私はただべッドの上で枕につっぷしたままこれか
らどうなるのか、その不安と恐怖に震えていた。
 外はすっかり薄暗くなっている。カーテンを閉めているせいで、部屋の中にはさらに
濃い暗闇が下りていた。
 不意に、庭の木が風にざわめく。不気味なその音にびくりと顔を上げた私は、ふと先
ほどよりも室内の闇が濃くなっているような印象を受けた。
「…………ここにいたのか。ふふ、秘め事を覗き見とはあまりいい趣味とはいえんのう」
「ひっ!」
 突然部屋の中に響いた声に、私の口から短い悲鳴が漏れる。そんな、一体いつの間に、
どうやって。鍵はかけたはずだし、ドアが開く音も、足音も、いや気配だって、さっき
まで全然しなかったのに。
 恐怖に固まる私の背後から、再び少女らしい高い声がかけられる。
「ああ、そんなに怯えなくても良いぞ。覗かれたことについては、わらわはちっとも気
にしておらん。まあ、レオンは多少恥ずかしがっていたがの」
「あ、あの、あの……」
 淡々と語る魔物の声は静かで、言葉の通り怒ってはいないようだった。だが、それで
安心など出来るはずも無く、私の口は意味の無い言葉を発し続けることしか出来なかっ
た。
「ふむ、いきなり現れた相手、しかも魔物にこう言われてもすぐには安心できんか。と
はいえこちらには手荒な真似をするつもりなどこれっぽちもないのじゃがのう」
 かすかな嘆息と共に、魔物の声が続く。
「まあ、どちらにしてもやることは同じじゃしの。さっさと済ませてしまうか。娘、こ
ちらを向くのじゃ」
「あ、ああ……はい……」
  先ほどよりも少しばかり強く発せられた魔物の声が私の中に響き渡る。その声に操
られるように、私は震えながらも体の向きを入れ替え、ベッドに仰向けに横たわったま
ま魔物に向き直った。視線の先に、先ほど林の中で見た異形の姿をした少女が立ってい
る。獣と人間の女の子を合わせたような姿に私は思わず小さく悲鳴を上げたが、なぜか
体を動かすことは出来なかった。その様子を魔物の娘、ルリムは満足そうに見つめ、小
さく頷くと毛に覆われた手を私の方にかざす。
「よし、でははじめるかの。娘、そなた、名はなんという?」
「あ……ぷ、プリム、です……」
 魔物の問いかけに、またさっきと同じように私の口は私の意思を無視して勝手に動き、
自らの名を告げる。自分の体の自由をあっさり奪われたことに、目の前の少女が人間と
は全く異質の存在であることを痛感させられ、私は息を呑んだ。
 しかしルリムは私の様子には全く構うことなく、淡々とすらいえる様子で言葉を紡い
でいく。
「ふむ、プリム、か。可愛らしい名じゃの。ではプリム。闇と夜とバフォメットの名に
おいて汝に魔の祝福を。そして魔の洗礼を。ふふ、わらわの力、わらわの血を受け、汝
は魔に染まりし娘、魔女として生まれ変わるのじゃ」
「ひ……いや、やめ、やめて……」
 魔物の女の子の話す言葉の内容はちっとも理解できなかったが、彼女が私に何か取り
返しのつかないことをしようとしていることだけは本能的に分かった。私はかろうじて
動く首をかすかに振りながら、目に涙を溜めてやめてと懇願する。しかし目の前の魔物
はそんな私をただ静かに見つめるだけで、この恐ろしい行為を止めてくれるつもりはか
けらもなさそうだった。彼女の目を見た私は、例え目の前の魔物に思いつく限りのどん
な言葉を持って説得しても、許しを乞うても、その決定を覆すことはないのだと絶望と
共に悟った。
「なに、そう嘆くことも無いぞ。魔女になればそなたもすぐに気持ちよくなる。その快
楽を知れば人の身に戻りたいなどと思うことなどあるまいよ。それに、結局はそなたの
望みも叶うことになるのじゃからな」
「え……?」
 意味深なルリムの言葉を聞き、その真意を問おうと彼女に顔を向けた私の目の前で、
魔物娘はかざした右手の平に左手の親指の爪を突き立てる。皮膚を爪が破る痛みに、彼
女がかすかにまぶたを動かしたのは一瞬。左手を振って爪についた血を飛ばすと、その
飛沫は仰向けになった私の胸の上にぴちゃりと落ちる。同時にかざした右手の前、中空
に赤い二重の円が浮かび上がった。その内部には円周に沿って複雑な模様が浮かびあが
り、不気味に明滅を繰り返している。
「……なに、なにが、始まるの……?」
 怯える私が呟いた言葉には答えは返らず。次の瞬間。胸の上に落ちた血の跡が輝きだ
すと、直後ベッドに横たわった私を取り囲むように大きな円形の魔法陣が浮かび上がっ
た。立ち上る赤い光はまるで目の前にオーロラがかかったようで、一瞬で現実感が喪失
する。
「さあ、儀式を始めようぞ! 受け入れよわらわの力を! そして生まれ変わるがよい、
われらの僕に!」
 ルリムが一際強く叫んだその瞬間、魔法陣から立ち上る光は勢いを増し、殆ど閃光と
なって私の体を包み込む。それだけでは終わらず、さらにはその光の奔流に飲み込まれ
た体の中に、言葉にできない何かが染み込んでいくような感覚が私を襲った。あえて言
葉にしようとするなら、それはまるで実体の無い生暖かい水が、全身の皮膚から私の奥
底へと浸透していくかのような。
「あ、ああ……、いや、いやぁ……!」
 正気を保てなくなりそうな異様な感覚に、私は涙をこぼしながら悲鳴を上げる。この
ままこうしていたら、自分がどうにかなってしまうと直感的に悟った。逃げようにも指
一本すら動かず、輝き続ける濃い光のせいで、目が眩む。自分の存在を犯す本能的な恐
怖に、私は身を硬くして体を襲う感覚にただ耐えるしかなかった。既に私の目の前は赤
一色で、部屋の様子はちっとも分からない。その赤い光のカーテンの向こう側から、魔
物娘の幼い声が響いてくる。
「怖がらなくて良いのじゃ。力を抜き、心を穏やかに、あるがままに受け入れよ。さす
れば、そなたは至高の快楽を得ることができよう」
 耳に届くその声はどこか心地よく、しかしどこかで私に恐怖を感じさせる。聞いちゃ
ダメだ、と頭の中で私が叫ぶが、別の部分の私は、絶え間なく体を襲う嫌悪感と恐怖か
ら逃れようと、つい魔物の声を受け入れてしまった。無意識にか私が少しだけ頷いた瞬
間、体と心の防壁がわずかに緩み、その隙間から何かがどっと私に流れ込んでくる。同
時に、先ほどまで感じていた違和感が少しずつ薄れていく。
「あ、いや、う、やだ、入ってこないで! だめ、私、わたしが、わたしじゃなくなっ
ちゃう……! あ、あぁ、なに、これ? きもち、いいの……? ……あ、ああ、ああ
ぁっ!! やあぁ、き、きもち、いい……! きもちいいよぅ……っ!!」
 自分の体と心に何かが染み渡っていくような感覚。このままではまずいと、理性が不
安を感じ恐怖に震えて警告を発する。だが、それを吹き飛ばすほど、私は言葉に言い表
せないほどの気持ちよさを感じていた。快楽を認めた言葉を反射的に口に出すと、もう
自分を騙すことはできなかった。じわじわとしみこんでくる力は、まるで媚薬のように
私の体と心を犯す。
 ついに私の抵抗が消えた瞬間、まるで全身を雷に打たれたような強烈な快感が襲い掛
かってきた。
 最早完全に自分を守る心の鎧を捨て去った私に、魔物娘の魔力はどんどん染み込んで
いく。魔法陣から立ち上る光はまるで絡みつくように私の体に流れ込み、恍惚の表情を
浮かべた私は涙とよだれをこぼしながら、その力を受け入れていた。
「ああ……いい、きもちいい……もっと、もっとください……たくさん、たくさんくだ
さい……」
 虚ろな声で快楽を求める私の声が、熱に浮かされた私の耳に届く。どこか他人の言葉
のようにそれを聞きながら、私はただ横たわっていた。
「あ……あふぁ……」
 やがて、私を包み込む光が弱くなると共に、その熱と快感が少しずつ引いていく。呆
けたような声を漏らし、私は長い息を吐き出した。気だるさが全身を支配し、私はくた
りとベッドに体を沈みこませる。
「気持ちよかったであろう? ふふ、だがまだまだじゃ……」
 傍らの魔物が呟き、ベッドの上の私に歩み寄ると、ゆっくりと上下に動く胸にその毛
むくじゃらの手を置く。直後、まるで私の体全体が心臓になったかのようにどくんと拍
動した。胸の辺りがじわりと熱くなったと感じたのはつかの間。その熱は私の体全体、
頭のてっぺんから足の先にまで広がっていく。
「よしよし、なじんだようじゃな。思ったよりも力との相性が良い。これなら……」
 ルリムは戸惑い怯える私に構わず、その人ならざる手で私の体に触れていく。彼女に
触れられるたび、体の熱が高まっていくように思えた。
「うぁ……ひ、なに、これぇ……あ、あつい……あついよぉ……」
 全身がマグマになってしまったかのように、熱い。しかもそれだけではなかった。熱
と共に絶え間なく襲い来る違和感に体に目を向けると、私の腕が身に纏った服、その袖
の中へとどんどん隠れていく。慌てて首を動かし下半身を見ると、二本の足は同じくス
カートの中へとすっかり隠れ見えなくなっていた。
「や、な、なにこれぇ……、わ、わたしぃ、いったいどうなっちゃったのぉ……?」
 そう呟いた時、私は事態をおぼろげながら理解する。耳に届いた涙まじりの私の声は、
妙に舌足らずなものになっていたのだ。そう、丁度目の前の女の子のような、10歳程
度の子供が発する声に。この声といい、服のサイズが合わなくなったことといい……つ
まり私は……幼い子供の姿になっている?
 自分でも信じられないその考えは、私の姿を見下ろすルリムが満足げな表情を浮かべ
て発した言葉を耳にしたことで信じざるをえなかった。
「察したようじゃな。ふふ、そうじゃ。そなたはまさしく今、「変わっている」のじゃ。
ほれ、ここも……」
「やっ……、何を……」
 私の小さな悲鳴にも構わず、魔物の彼女は私の服をまくり上げ、胸に触れる。密かに
自慢だったふくよかな胸は幼い見た目の魔物娘の手では覆い切れないようだったが、彼
女は気にした風もなく、ふかふかの手で優しく私の胸を揉み始める。
「……んっ、きゃ……や、やめて……」
「そうか? その表情。とてもそうは見えぬがのう」
「そ、そんなこと、な……んんっ、やぁ、だめぇ……!」
 ふかふかの手は暖かく、優しく揉み解すような手つきは私に快感を与え続けてくる。
そしてついに、その快感に屈した私の口から、快楽を認める言葉が漏れてしまった。
「あ……や、やぁん……きもち、いい……」
 その瞬間、先ほどよりも一際大きく私の体が跳ねる。同時に、胸に感じる違和感。
「え……? んっ、だめ……あ、あん……きゃ、いい、いいの……」
 だが、その感覚が何か確かめる前に、再び彼女の手が動き、私は嬌声を漏らす。そし
てまた、違和感が大きくなる。
 やがてそれを何度か繰り返した私は、自分の身に何が起きたのかようやく悟った。い
つの間にか私の胸は魔物娘の手にすっかり覆われるほど小さく、幼いものになっていた
のだ。だが、感度は大きかったとき以上に良くなっているらしく、彼女が触れるたびに
胸に電気が走る。すでに、私は新たな快感を貪ることしか考えられなくなり、新しい体
におぼれかけていた。
「ふふ、なかなかに可愛い姿じゃ。体の方はもうすっかり魔女のものに変わったようじ
ゃな」
 快楽を求め続ける私を見、嬉しそうな魔物の声が響く。その言葉に、私はぼんやりと
聞き返す。
「ま、まじょ……?」
「そうじゃ。そなたの体はもう人間ではない。わらわと同じ魔に属すもの。わらわたち
バフォメットの僕、魔女なのじゃ」
「わたしが、まもの……? やだ、そんなのやだよぅ……。おねがい、もとに、もどし
てよぉ……!」
 彼女の言葉に、ふと正気に戻った私は、既に自分が人間でなくなってしまったという
ことに困惑し、パニックに陥る。幼い子供の姿にされたせいか、精神も退行しているら
しい。感情が上手くコントロールできず、私は大粒の涙をこぼしながら目の前の魔物に
助けを求める。
「いきなりのことに戸惑うのも無理は無いがの。魔女もそう悪いものではないぞ、プリ
ム」
 ベッドの上で泣きじゃくる私の頬に、ルリムはそっとふかふかの手を添える。その柔
らかな感触と、幼い子をあやすような優しい声に私はいつの間にか泣き止み、目の前の
バフォメットを見つめ返していた。
「ほんとう?」
「ああ、本当じゃとも」
 バフォメットは怯える私を安心させるように言葉を繰り返し、私の頭を撫でる。だが、
幼い魔女を見つめる紫の瞳には、どこか妖しげな輝きがかすかに灯っていた。けれども、
唐突に我が身に降りかかった理不尽からの救いを、目の前の相手に求める無知な魔女に
は、その本心は見抜けない。
「わらわたちは人ではない。なればこそ、様々なものにおいて人とは違っておるもの。
時の流れに縛られその姿がうつろうこともなく、その身は人では味わえぬ快楽を得るこ
とも出来る。数多の人間が求めたモノの一部を、そなたは手にしたのじゃ。それは喜ぶ
べきこと」
 子供に教え諭すようなバフォメットの言葉を、私はじっと聞き続ける。と、魔物にや
りと笑みを浮かべた。
「ふふ、それにそなた、レオンのことを好いておったのじゃろ?」
「っ! ち、ちが、ちがう、ちがうの!」
 突然振られた思いがけない問いかけに、私は顔を真っ赤に染める。慌てて否定する姿
を愉快そうに眺め、バフォメットはくっくっと笑いを漏らした。
「何が違う? 昼間わざわざこっそりとわらわたちの後をつけ、隠れて秘め事を覗いて
いたのは、わらわたちが……いや、レオンが気になったからじゃろ? 想い人が見知ら
ぬ娘と歩いていて、不安になったのじゃよな?」
「ちが、わ、わたし、そんな! だ、だって、わ、わたしがあいつとなんて!」
「本当にそうかのう? そなたの本心は、そうはいっておらぬのではないか?」
 強情を張る私の心を見透かすように、バフォメットが問いかける。
「そなたはもう魔女、魔物なのじゃ。人であったときのようにつまらぬ対面を気にする
ことは無い、心を隠すことはないのじゃ。そなたにも欲しいものはあろう? 好いた相
手に、自らのすべてを捧げ、そして愛しきものを受け入れて、快楽を得ることを望んだ
ことがないわけではあるまい?」
「そ、それは……」
 私に語りかけながらじっとこちらに向けられた紫の双眸を見つめるうちに、私の頭に
は靄が掛かっていく。それでもなおも彼への気持ちを否定しようとする私の言葉は、そ
の視線の前に消えていった。そうして、意地を張っていた私の心の殻が、少しずつ溶け
ていく。
「そなたはもうれっきとした魔女なのじゃ。自らの欲望に素直になったとて、咎めるも
のなどおりはせぬ。それが魔物としての自然な姿なのじゃから。さあ、奥底に秘められ
た偽りなき心をさらけ出すと良い……。そなたは、誰を好いておるのじゃ? 誰に、抱
かれたいのじゃ?」
 決して詰問口調ではないが、それでも抗うことの出来ない声が、私に降りかかる。
「あ……わたしは、レオンくんがちいさなころからだいすきです……レオンくんをきも
ちよくしてあげたいです……いっぱい、きもちよくしてもらいたいです……」
 体が子供になったことで、心も幼い頃の素直なものになっているのか。夢見心地のま
ま、ぼやけた頭で私は幼い頃からずっと抱いてきた思いを語る。魔女になったためなの
か、その言葉と同時に、決して幼い子どもはしないような淫らな妄想も浮かび上がって
きた。昼間、林の中で彼らがしていたようなことを。今度は私がレオンの相手になるの
だ、と。そのことを考えた私は、無意識に幼くなった顔に似合わない淫靡な笑みを浮か
べていた。
 私が本心をさらけ出し、さらに欲望を求める表情を浮かべたことに、バフォメットは
微笑み、満足そうに頷く。
「ふふ……。そうじゃ。素直になればよいのじゃ。淫らな良い顔になってきたの、交わ
るのを待ちきれんような表情じゃな。魔女らしい良い顔じゃ」
 そして、愛しい彼との逢瀬を夢見、ぼうっとしたままの私の側に歩み寄ったバフォメ
ットが耳元で囁く。暗示をかけるように、その言葉を精神の奥底に刷り込み、永遠に忘
れないように。
「……その望み、叶えてやろう。ただし、無条件というわけにはいかんがのう。何、簡
単なことじゃ。魔女プリムよ、そなたはわらわとレオンにその魂の全てを捧げ、尽くす
のじゃ。そなたがわらわたちに忠誠を誓えば、すぐにでもその望みを実現させてやろう。
考えるまでもあるまい? 魔女となったそなたは、そもそもわらわの僕。そして、そな
たの心と体は全て、わらわの夫、レオンのものになるというだけじゃ。そもそもの望み
と何の違いがあろう? さあ、プリム。契約を。さすれば、わらわはそなたの望みをか
なえ、そなたは望むままレオンの慈悲を受けることが出来ようぞ……」
 その言葉は、決して破ってはならない誓いのように響き、私の心の奥底に刻み込まれ
ていく。
「私が……ルリムさまと、レオンさまのものに……?」
「そうじゃ。そなたにとってもそうは悪い話ではなかろう。むしろ、利益も多いはずじ
ゃが?」
 ルリム様が語る内容は、私には素晴らしいことのように思えた。私があのお二人の僕
になれば、もう今までのように意地を張ることなく、素直にレオン様に甘えることが出
来るのだから。なればこそ当然、私に拒む理由など無かった。
「はい……わたし、プリムはルリムさまのしもべ、レオンさまのものになります……。
私のすべてを、お二人に捧げます……。だから、どうか、どうかレオンさまの側に、ず
っといっしょにいさせてください……」
「ふふ……そうじゃ。よい子じゃ。もちろんじゃとも。かわいい僕の願いじゃ、どうし
て断ることがあろうか。プリム、そなたはこれからずっと、わらわとレオンのものじゃ」
「はい、ルリムさま……わたし、嬉しいです」
「ああ、しかしその格好のままではなんじゃな。どれ、少しそこに立ってみよ」
 私の格好はさっきまでの服のままだったため、小さくなった今の体にはサイズが全く
あっていなかった。確かに、これでは私のご主人様となる大切な人、レオン様の前には
出れたものではないだろう。恥ずかしげに頬を染め、ルリム様に言われるまま、だぶだ
ぶの服を纏った私はベッドから降り立つ。彼女が短く呪文を呟き、手をかざすとまばゆ
い光が私を包んだ。思わず私は目をつぶる。
「……まあ、こんなものかの。プリム、もう目を開けても大丈夫じゃぞ」
 数瞬の間。ルリム様の言葉に恐る恐る目を開けた私は、自分の姿を確かめ、思わず歓
声を上げた。
「……わあ……!」
 私が着ていたのはさっきまでのだぶだぶの服ではなく、魔法使いが着る服というより
も、都会の女の子が着るような可愛らしい衣装になっていた。ケープ付の赤い上着は幼
くなった私の体にぴったりのサイズに変わっており、下半身はさわやかなミントの色の
プリーツスカートを穿いている。ぷにぷにとした足は、ひざ上までの靴下に覆われ、革
のブーツが足を包んでいた。頭の上に感じる重さに手を伸ばせば、いかにも魔女の帽子、
といわんばかりのとんがり帽子が手に触れる。
「……ルリムさま、ありがとうございます!」
「よいよい、これぐらいお安い御用じゃ。ふむ、よく似合っておるの。そなたのその可
愛らしさならレオンも気に入ろう」
「あ、はい……そうだと、うれしい、です……」
 ルリム様の言葉に思わずその光景の想像を浮かべ、顔を赤らめる私。傍らの主は私に
どこか淫らな視線を向け、微笑みかけた。
「おお、そうじゃ。折角の機会じゃ、そなたにはわらわの知る限りの技術を教えておい
てやろう。わらわの夫に奉仕するのじゃから、それに見合った腕を持ってもらわなくて
はの」
「はい……るりむさまぁ……わたし、がんばりますぅ……」
 彼女に見つめられたまま、私はそっと衣服を脱ぎ捨てベッドの上に横たわった彼女に
近づいていく。
 そして、しばし、明かりの消えた室内には少女達の嬌声だけが響いていた。
「どれ、それでは早速、生まれ変わったそなたの姿をレオンにお披露目と行くかの」
「はい……」
 少女の一人が声をあげ、期待にこもった声でもう一人の少女が返事をする、そのとき
まで。

――――――――――――――

「レオンさま……私のすべては、魂のひとかけらまで貴方様のものです……。どうか、
貴方のお好きなように、この魔女の体をお使いください……」
 場所は飽きるほど見慣れた僕の部屋。僕の前で、幼い女の子がそう呟き、そっとスカ
ートをつまむ。ゆっくりとたくし上げられたその布の下には想像に反して下着はつけて
おらず、隠されていた未成熟な割れ目が僕の目の前に晒される。彼女は恥ずかしそうに
目をそらしたが、その表情とは裏腹に彼女のそこはしとどに濡れており、この先の行為
への隠しきれない期待を雄弁に物語っている。
「ど、どうぞ……レオンさま……」
 彼女は下半身を露にしたまま、潤んだ目をこちらに向ける。戸惑ったままの僕が彼女
の顔を見返すと、10歳程度の子供の姿をした僕の幼馴染は、興奮と羞恥にさらに顔を
赤らめる。その姿は、僕の記憶にある子供の頃のプリムの姿とそっくりだった。ただ一
つの違いを述べるならば、その瞳にはどこか淫らな色が浮かんでいることだ。記憶の中
の彼女は、あんな目を、あんな表情をしたことはなかった。混乱したまま、僕は目の前
の少女に問いかける。
「ぷ、プリム……?」
「はい、そうです」
 僕に名を呼ばれたことが嬉しいのか、記憶の中の過去の姿をした彼女はにこりと微笑
む。だが、僕はますます困惑し、頭に浮かんだ疑問を口にする。
「い、いきなり一体何を、いや、そもそもその格好、どうしちゃったんだよ……?」
 だが、その問いかけに答えたのは彼女ではなかった。
「まあ、言うなれば不器用な意地っ張り娘へのほんのサービス、といったところじゃ。
わらわの秘術で少しばかり自分の心に素直になるようにのう」
 いつの間にか彼女の背後に立っていた、僕の恋人にして妻にして魔界でも有数の力を
持つというバフォメットという名の魔物――ルリムが、彼女の幼い肩を抱き、自慢げに
微笑む。その声に、肩を抱かれるプリムも嬉しそうに頷いた。
「私、ルリムさまに魔女にしていただいたんです。レオンさま、いままできついことや
ひどいことばかり言ったりして申し訳ありませんでした。これからは、もっとずっと素
直になります、私のすべてを捧げますから……どうか、どうかレオンさまのモノとして
お側にいさせてください……!」
 涙を浮かべ、魔女になってしまった幼馴染が哀願し懇願する。
「ほれ、この娘もそういっておることじゃし。どうじゃレオン。そなたの召使、僕、何
ならペットでもよい、このけなげな魔女を愛してやってはどうじゃ。ああ、わらわのこ
となら気にしなくともよいぞ。最初の一回くらいは、かわいい僕の望みをかなえてやら
ねばな」
 異常な内容のセリフを平然と言うと、ルリムはこちらにちらりと視線をおくる。まさ
か、以前言ってた「僕のための召使を作る」とかいう内容を本気で実行するとは想わな
かった。しかも、僕の幼馴染を魔物に変えてまで。
 僕の視線から心のうちを読み取ったのか、ルリムは少々憮然とした表情になると、口
を開く。
「なんじゃ、その目は。断っておくが、この娘には魔女化の秘術以外の魔法や呪いはか
けておらんぞ。今さっき言ったことは、全てこの娘の本心じゃ。いくら愛する夫のため
とはいえ、同じ男を想う娘の心までいじくるような趣味はわらわにはないからの」
「え? ……ええ? じゃ、じゃあ」
「はい、ルリムさまの言葉は本当です。私、本当はずっと貴方のものになりたかったん
です……。でも、素直になれなくて。それを、ルリムさまがこうしてくれて、私、今幸
せです……」
 そういって心からの笑顔を浮かべる少女の想いは確かに嘘偽りのないものだった。そ
の好意をまっすぐに向けてくる彼女は、今まで見たどんな彼女の姿よりも美しく、僕の
心臓がどきんと跳ねる。
「その表情じゃとわらわのプレゼント、そなたのための僕は気に入ってもらえたようじ
ゃな。ふふ、よかったのうプリム。主人のために、これから誠心誠意つくすのじゃぞ」
「はい」
 そういってバフォメットは彼女をそっと僕の方へ押し出す。一歩足を踏み出した彼女
の肩を、僕は思わずそっと掴む。嬉しそうに目を細めた彼女にどぎまぎしながらも、僕
は恋人であるルリムの方をちらりと見た。
「む……? わらわのことを気にかけてくれるのか? ふふ、嬉しいのう。だからそな
たを選んでよかったと想うのじゃ」
 恋人の目の前で別の女の子に触れる僕の内心に広がる気まずさを払うかのように、ル
リムはにこりと笑う。
「先に言ったじゃろ。そなたが別の娘に好かれることも、愛妾を持つこともわらわは気
にせぬと。そなたがわらわのことを大切に想ってくれている、それがそなたの瞳からわ
かっただけで、わらわは十分じゃ。ほれ、いいからその娘を抱いてやれ」
 そういって、彼女は部屋のドアを開け、立ち去る。だが最後、思い出したようにドア
の陰から顔をひょこりと覗かせると不敵に言い放った。
「大体、なりたての魔女とわらわでは勝負にならんわ。そなたを一番気持ちよくさせら
れるのはわらわ。そなたの愛を一番もらえるのはわらわ。それは決まっておるのじゃか
らな」
「あ、うん。そうだね」
 自信満々の彼女の声に、僕がそう返す。ルリムは当然じゃ、とばかりに頷き、それで
今度こそ本当に部屋を後にした。
「いろいろごめん、プリム……」
 静けさが戻った室内。何となく謝らないといけないような気がして、謝罪の言葉を口
にした僕に、彼女はそっと首を振る。
「いいえ、気にしないでください……。私は、こうしてレオンさまのお側に置かせてい
ただけるだけで、幸せなのです……」
 そう、何度目かの笑顔を浮かべた彼女の頬に、嬉しさの結晶がつい、と流れ落ちる。
「ありがとう……」
 また彼女の目じりに浮かぶその水滴をそっと指でぬぐうと、僕は彼女と口付けを交わ
す。誓約の儀式のように、消えない呪いをかけるように触れ合った唇は暖かく。その熱
が彼女の想いの強さを感じさせた。
 やがてどちらからともなく離された口に、唾液の橋が掛かる。それが、僕のしもべと
して彼女を縛り付ける鎖のように思えた。
「それでは、契りを。私を貴方のモノとする契りを……」
 幼馴染の魔女は小さく、しかし決意を込めて呟くと体を僕から離し、そっと服を脱い
でいく。僕も、幼馴染とするという少しばかりの恥ずかしさと共に服を脱ぎ捨てていっ
た。
「では、どうぞレオンさま……私が捧げるすべてを、お受け取りください……」
 生まれたままの姿になり、静かにベッドに横たわった僕のしもべが希うように囁く声
を聞き、僕はゆっくりと彼女に覆いかぶさっていった……。

 そうして、永遠に解けない幸せな呪いは、完結する。
少年に残るのは、ずっと側にいる可愛らしいしもべ。少女が手に入れたのは、愛しい彼
に支配されるという喜びだった。

 どこか歪んでいるが、それは、彼女にとっての幸せであることには、間違いは無いの
だった。



 辺りに満ちる闇を、小さな蝋燭の光だけが押し返す部屋の中。外見だけならごく普通
の少年と、彼よりも随分と幼く見えるものの、しかし異形の姿をした少女――レオンと
ルリムが一糸纏わぬ姿で重なり合い、抱き合い、愛し合う。既に夜も遅く、この家で共
に暮らす少年の姉、リーザは深い眠りの中に沈んでおり、彼らは何も気にかけることな
く、存分に楽しむことが出来た。
 やがて少女が大きく背を仰け反らせ、少年が小さくくぐもった声を上げると、二人と
も糸が切れたようにベッドにとさりと倒れこむ。それでもなお、お互いをしっかりと抱
きしめあい、顔を見合わせると幸せそうに微笑んだ。
 やがて、ふと思い出したようにレオンが呟く。
「あ、あのさルリム。プリムのことなんだけどさ。あ、勘違いしないでよ? プリムも、
こうなれて嬉しいって言ったから魔女にしたこと自体はどうこう言うつもりはないんだ
けど。でも……流石に村の皆が良く知った子がいきなり子供の姿になっちゃったら、皆
おかしいと思うんじゃない?」
 わずかに不安げな表情を浮かべる彼に、少女は自信満々に答える。
「ふふ、その点なら心配ないぞ。もう既に、この村の人間の価値観はわらわたちと同じ
になっているからのう。もう皆わらわたちのが夫婦だということは知っておるし、それ
を普通じゃと思うておる。仮にわらわ本来の姿を見たとて、驚くことも無いわ」
「ええ!? 一体いつの間に」
 全く知らない間に、村人全員の価値観が改変されていたことに、少年は驚く。やっぱ
りすごい魔物なんだなあ、などとどこかずれた感想が頭の片隅に浮かんだ。
「そなたとプリムが愛し合っているうちにじゃな。随分楽しんだようじゃの。流石に一
日中というのはわらわも少し妬いたがの」
「う……ご、ごめんなさい」
 罰の悪い思いを感じ、レオンは口ごもる。そう、あの日は結局魔女となったプリムと
ずっとし続けてしまったのだ。彼に抱かれ、突かれ、迸りを体に、中に受けるたび嬌声
を上げ、幸せそうに微笑む彼女が愛しくて、ずっと抱き続けてしまった。ルリムがいる
のに、あれはちょっとひどかった、と思う。
 だが、バフォメットの娘は突然顔を近づけ、彼の頬にそっとキスをする。そして、い
たずらっぽく笑った。
「ふふ、冗談じゃ。じゃから今日はこうして、ずっとしてくれてるのじゃろ? ……
ありがとう、レオン」
「……どういたしまして、って何か妙な気がする」
「気にしたら負けじゃ」
「…………そうだね、今更だったね」
 顔を見合わせてあははと笑う。そこで何か思いついたのか、ルリムは楽しげに目を輝
かせると部屋の入り口に目を向けた。
「どれ、折角の機会じゃ。そろそろプリムも混ぜてやるとするかの」
 そういって彼女は何かを短く呟く。ほんの小さな声で、傍らのレオンすら聞き取れな
かったのに、すぐさまドアがとんとんとノックされ、その向こうから彼らの僕の声が響
いた。
「ルリムさま、レオンさま。何か、御用でしょうか?」
「うむ。プリム。折角の機会じゃ。そなたとも一緒にレオンと愛し合おうと思っての」
「あ……よろしいのですか……?」
 少しためらうような声に、ルリムが答える。
「もちろんじゃ。ほれ、入ってくるがいい。レオンも、わらわとプリムと一緒にしてみ
たかろう?」
「あ、その……」
 少年を見、その表情に期待がありありと浮かんでいるのを見たルリムは、小さく笑う。
ややあって、かすかな音と共にドアを開けて入ってきたプリムは、二人が見つめる前で
恥ずかしそうに衣服を脱ぐと、そっとベッドに上がった。
「ルリムさま、レオンさま、お招きいただきありがとうございます。どうか、私を存分
にお使い、気持ちよくなってください……」
 魔女に、二人の僕になってしまった少女、プリムは可愛らしく頭を下げる。

 そうして、3人の淫らな宴は始まった。

 ベッドの真ん中に寝そべる少年の左にルリム、右にプリムが添い、キスをねだる。レ
オンは微笑んで二人に応え、その唇を吸った。舌と舌が絡み合い、唾液が交換される。
 やがて二人の少女はキスには満足したのか、顔を上げ、体を起こす。寝そべる彼の足
の方に移動すると、二人はしゃがみこみ少年の股間に顔を近づけた。
「まずは、口で、じゃな」
「はい……」
 バフォメットの声に、僕の魔女は頷く。そうして、二人は興奮で固く反り返ったもの
を、ぺろぺろと舐め始めた。
「はむ、ちゅ……んちゅ、ん、んぷぁ……。ふふ、レオン、気持ちよいか? もっとも
っと、気持ちよくしてやるからの……」
 少年から向かって右側に、ヤギの角を栗色の髪から伸ばすバフォメットのルリム。快
楽にうめき声を上げる少年を見つめる彼女の顔には、自分が夫を感じさせていることへ
の嬉しさと、どことなく得意げな色が浮かんでいる。
「はぁ……んっ、れろ、んん、ぁ……ごしゅじんさまぁ、いかがですかぁ……ちゅ、ち
ゅ、わたし、がんばりますからぁ……」
 そして左側には、幼い顔立ちを淫靡に染める魔女、プリムが座り彼の竿に一心不乱に
舌を這わせていた。その顔は、主に奉仕する喜びに満ち溢れている。彼女たちは既に良
く知る少年の弱点を的確に攻め、快感を引き出していった。彼の方も震え、あえぎ声を
漏らしながら魔物少女二人の責めに耐え、より長く、強い快楽を味わおうとする。
「う、ぅ……くっ、う、あああぁぁっ!」
「んんっ、あ、ああぁん……!!」
「や、ぁっ。あつ、あついの、がぁ……ん……」
 だが、それもやがて限界を向かえ、彼が悲鳴にも近い声を上げると共に、少女達の顔
へと白濁した液体が降りかかった。
「ああ……そなたの熱いものが、こんなにたくさん……」
「喜んでいただけたんですね……わたし、うれしいです……んっ、ちゅ……」
 あどけない顔を白く汚された二人は、淫靡に顔を染め、うっとりと呟く。そして、濡
れた少年のモノを綺麗にしようと、再び舌を動かし始める。その刺激に、瞬く間に肉棒
は固さを取り戻していった。その光景を間近で見つめる少女達の顔に、抑えきれない興
奮が現れ、頬を染めていく。
 少年はその表情を見、二人に声をかける。
「ありがとう、それじゃ……今度は僕の番だね。まずは……」
 まだであってそう長い付き合いではない、だが、彼にとって大事な人となった、異形
の姿をした少女、ルリムに目をやり、頷く。
「あ……」
 それに、強大な力を持つ魔物、バフォメットの彼女は恥ずかしそうに小さく頷き返し、
ベッドの上に寝そべる。大きく開かれた足の付け根、その中心に位置す割れ目は既にぐ
っしょりと濡れ、彼のモノを一時も早く受け入れたいと淫らに蠢いていた。
「れ、レオン……、は、はよう……」
「うん。行くよ……」
 羞恥に視線をそらし、口元を隠した彼女が呟く。レオンはごめんと小さく謝罪の言葉
を発しながら、彼女の秘所に自らのモノをあてがい、沈めていった。狭い道を押し広げ
奥へとものを挿入していくごとに、肉の締め付けが快感を呼び起こす。
「……うっ……ぐ……すごい、ルリムのここ、きつくて……」
「んんっ……あ、ああぁっ、レオン、レオンの、大きいのが、おく、奥にぃ……」
 脳髄を焼くような刺激に、二人は嬌声を上げ、目じりには涙が浮かぶ。
「ああ……、レオンさまぁ……わ、わたしにもぉ……」
 その様子を傍らで切なげに見つめていた魔女も、彼らの声と表情についに我慢が出来
なくなったのか、飛びつくようにレオンの背に抱きつく。そして、薄い胸を大きな彼の
背にこすり付けるように押し付け、動き始めた。
「やぁ、これ、気持ちいいです……ああん、レオンさま、れおんさまぁ!!」
 興奮にピンと立ち上がった乳首が擦れるたび、甲高い声が響く。ぺったんことはいえ
柔らかな肉が押し付けられる感覚はレオンの背にぞくぞくとしたものを感じさせ、彼は
眼下の妻を突く動きを加速させていく。
「やあっ、あっ……あぁっ、レオン、もっと、もっとじゃ、もっとしておくれ……!」
 揺さぶられるルリムは顔を涙とよだれでぐちゃぐちゃにしながら、もっともっととせ
がむ。それに応えた彼の動きが獣のように激しくなっていくと、蕩けきった表情で嬉し
そうに息を弾ませた。
 そうして、しばし一つの塊となった魔物たちは、快楽を貪りあう。
「あっ、ルリムっ……で、でる! 僕、もうでるよぉ!」
「よ、よい、いつ、でも……良いのじゃ。な、なかに、あ、あぁぁぁぁぁ!!」
 だが、その享楽の宴もやがて、少年が限界を向かえ、幼い少女の見た目をした魔物の
膣内に精液を迸らせると、一次の終幕を迎えた。
 しばし抱き合うように、折り重なるようにベッドに横になっていた彼らだったが、や
がて誰からともなくむくりと起き上がる。
 バフォメット、魔女、そしてその二人と交わり続けた少年もまた、常人にはありえな
い勢力と回復力を身につけており、まだまだ限界には達しないのであった。
「待たせてごめんね、プリム。今度は君の番だからね。……さ、おいで、僕のしもべ」
「はい、あるじ様……失礼、いたします……どうかこの魔女の体で、存分にお楽しみく
ださい……」
 レオンの口から発せられた言葉に、彼の従順な召使であるプリムは嬉しそうに微笑み
ながら一礼する。そしてゆっくりと、ベッドに大の字に横たわった少年の股間に自らの
割れ目をあてがい、腰を下ろしていった。
「ゃ……ぅぅ、ぅぁ、ああぁん……!」
 自らの下の口が、主のモノをずぶずぶと飲み込んでいく感触に、少女は声を上げて歓
喜する。
「はぁぁ……、あ、あるじさまぁ……ぜ、ぜんぶ、入り、ましたぁ……。う、動いても、
ぁ……よろしいですかぁ……」
 やがて根元までうずまり、彼の腹にぺたんと手を突いたプリムは、主の許しを請う。
彼は、既に我慢できそうに無い僕ににこりと微笑みかけ、ねぎらいと許しを与えた。
「よくがんばったね、プリム。いいよ、動いて」
「あはぁ……はい、わたし、やぁ、がんばりますぅ……」
 幸福そうな表情を浮かべた彼女は、少しづつ彼の上で腰を降り始める。その動きのたび
に飛び散る汗が淫靡な香りを漂わせ、室内の空気を妖しく変えていく。
「はぁっ、あぁん、あ、あん……やぁ、あああっ、あ……」
「っ……きもち、いいよ、プリム……」
 リズミカルに振られる腰が、彼に快感を送り続ける。主の口から漏れた言葉に嬉しそう
に目を細めた魔女は、さらに腰の動きを加速させていった。
「あっ、あっ、あ、あん……、あ……きゃぅ、あ、やぁあん!!」
 不意にプリムの声が乱れる。ちらりと視線を動かして彼女を見たレオンは、自分にまた
がる少女の背後から、いつの間にか回復していたバフォメット娘が腕を伸ばし、魔女の小
さな胸を揉み、撫で回しているのに気付いた。
「ふふ……わらわをのけ者にしてもらっては困る。一人だけ気持ちよくなろうとするいけ
ない僕には、お仕置きが必要じゃな……?」
 にやりと笑みを浮かべたルリムは、毛に包まれた指で器用にプリムの乳首をつまみ、そ
っとひねる。
「あっ、ルリム様、そ、そこは……ぁぁぁぁぁっっ!!」
 瞬間、彼女の背が仰け反り、甲高い悲鳴が上がった。同時に彼のモノを包んでいた肉壁
が収縮し、痛いほどに締め付ける。不意打ち気味にもたらされた強烈な刺激に、レオンは
声のこもった喘ぎを上げた。
「おっと……やりすぎたかの? ふふふ、かわいい僕にあまり意地悪してもかわいそうじ
ゃ。このくらいにしておくかの。レオン、プリム、今度は3人一緒で楽しむとしようぞ?」
 優しげな、しかしどこまでも淫ら笑みを浮かべたルリムの言葉に、二人はそろって頷く。
そして、儀式の夜は、どこまでも淫らに更けていった。


――『素直になれない彼女に捧ぐ』 Fin ――

SS感想用スレッド
TOPへ 本館