クイーンスライム被害報告書
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 幸か不幸か。
 人は唐突な状況に相まみえたとき、「運」の善し悪しで状況の全てを語ろうとする。そこに至る経緯、原因を考慮せず、全てを「運」の一言で片付けてしまう。
 幸か不幸か。
 それを決定するのは、当事者であるべきハズだ。だが、私にはこのどちらかを決定づけるのに難儀している。
 幸か不幸か。
 私の状況を客観的に判断できる人間がいない。今の状態では、私の状況を知ることの出来る「人物」が、一人としていないから。私自身、冷静に自分を客観視するだけの知恵も知識も欠落している……そもそも、私は自分を客観的に判断する「必要」があるのかも疑わしい。
 幸か不幸か。
 私は今、完全に「外界」から隔離された状況にあるのだ。仮に私のことを知り状況を判断できる者がいたとしても、私が目撃者の考えを知ることは出来ないだろう。私は今そういう状況下にあるのだ。
 幸か不幸か。
 こんな事を、何度も何度も繰り返し考察するだけの「時間」が私にはある。だがそんな時間だけがある、とも言い換えられる……それが幸か不幸か、私には判らない。

 思えば、少なくともこのような状況になった事件だけは不幸と言い切れるはずだ。いや、もしこの状況が幸福ならば、その事件すら幸福への一歩と言うことになるが……客観的にこの事件だけを見れば、不幸でしかないはずだ。
 私は王宮魔物対策本部に配属された、一般兵の一人だった。特に手柄を立てた経緯があったわけでもなく、武勇に優れていたわけでもない。むろん魔物を調査する学者達のように知性溢れる頭脳を持っているわけもなく、私はむしろ知性溢れる頭脳達を護衛するために配属されたに過ぎない。兵士である以上、一般市民よりは体力面に自信はあるが、取り柄はそれだけだ。護衛という役職は、その時の私には最適な仕事だったのだろう。
 ただ、私が対策本部に所属されたのには別の理由もあった。それを知ったのは……最初の事件が起きてからだいぶ後のことだった。
 最初の事件……その時、私はスキュラと呼ばれる魔物の実態を調べに向う調査隊の護衛をしていた。スキュラは海に生息する魔物であり、当然調査隊は彼女の領域である海へ船出することになる。幼い頃港町で育った私は船になれており、そんな理由で今回の調査隊護衛の任務が回ってきた。当然私以外の護衛も似たようなものだったが……肝心の調査員がまずかった。調査員の半数はものの見事に船酔いしていた。
 流石に船酔いから調査員を護衛することは出来ず、そもそも船酔いというものを軽く見ていた調査隊はしかるべき準備も対処もしておらず……それを知った私はただ呆れるばかりだった。頭脳の方は確かに優れているのだろうが、彼らはその頭に「常識」を詰め込むことを忘れていたようだ。
 そう、特に陣頭指揮を執っていた学者……彼が特に酷かった。一般常識が欠落していると言うよりも、彼は他人に興味がないというか……コミュニケーションそのものを全く知らない、そんな人物だったな。そんな彼だったから、酷く船酔いに苦しんでいても内心でザマアミロと笑って同情する気にはまったくなれなかったよ。彼はそれなりの学歴があり調査隊を任されるほどの地位も手に入れていたようで、それを鼻に掛けた態度が私は気に入らなかったんだが……指揮を執らなければならない男がまともに立つことも出来ない状況は非情にまずい。男を笑いつつも、私は不安でいっぱいだった。
 そして案の定、調査対象であるスキュラが出現したときの指揮系統はメチャクチャだった。何とかしろ、という「命令」だけが弱々しく繰り返される船上。護衛するにもその対象が方々に逃げ出してしまいまとめることも出来ず、調査隊はあっけなくスキュラによって壊滅させられた。そして私は、崩壊した船と共に海を漂流することとなった……これが幸か不幸か……現状への第一歩となる。

 あの船に乗っていた学者連中や他の護衛兵達がどうなったのか……判らない。私は一人だけ、沖に流されていた。私と共に流れ着いたのは、多くの木片と船に積んであった調査書などが入れられていた宝箱。中身が紙だけだったからか、沈むことなく私や木片と同じよう波に流されたようだ。中身は一応確認したが、私自身が何処に流れ着いたのかを確認する方が先だと、その時は詳しく調べることなく開けただけでそのままにしていた。今なら冷静でいられるから思うのだが……よくインクが滲まなかったものだ。おそらく特殊なインクや紙が使用されていたのだろう。そう思えば書類の入っていた宝箱も何か特殊な物だったのかもしれないが、今となってはどうでも良い話だ。
 とにかくまずは調べることだ……私はまず周囲の様子を探るために沖から内部へ、周囲を一通り見て回ることにした。そしてものの2時間も見て回るだけで、私は無人島に流れ着いたのだと知ることが出来た。高台から見渡せる周囲は海に囲まれていて、人が暮らすような痕跡が一切見られなかった……ただの護衛兵士にだって、こんな光景を見ればここが無人島であることに気付ける。そしてただの護衛兵士だからこそ、私は両膝を曲げながら途方に暮れ、両手を突いてその時の状況に絶望した。
 このままでは助けを呼ぶことも出来ないばかりか、寝る場所も食べる物もない……生命の危機が、すぐ間近に迫っていた。むろんそれを黙って待つようなことはしない。私は何か無いか、もう一度島を探索に出た。まずは安全を確保できそうな場所をと、高台から見えていた平野へと向かった。それが次の事件、今こうして過去を振り返る私の現状を決定づける事件の始まりだった。

 平野といっても、周囲を林に囲まれたそう広くはない場所。その中央に、ぽつんと水たまりがあった。自然に出来た水たまりにしてはあまりにも美しい水色……その時警戒すべきだったのだろう。だがともかく食料をと焦っていた私は、飲み水が確保できるという「幸運」に飛びついてしまった。だが「不幸」にも、それは罠だった。
 それは水たまりなどではない。スライムだ。その事に気付いたのは、水たまりと思いこんだ私が手で水をすくおうとスライムに触れたときだった。スライムは瞬く間に手を伝い、私に張り付いてくる。慌てて取り払おうとするも、スライムはその柔軟すぎる身体を活用し、着ていた皮鎧の下へと潜り込んでいく。直ぐさま鎧を脱ぎ捨てたが、そのときにはもうスライムは私の腰にへばりつき、そして足下からも近づいていたスライムは私の下半身を完全に包み込んでしまった。私はなすがままに倒され、自由を奪われた。そしてスライムは……事もあろうか、人の、女性の形を形成していった。話には聞いていた……昨今の魔物は女性型ばかりなのだと。よもやスライムまで……変わりゆくスライムを見つめながら、私は恐怖と、そして好奇心が目まぐるしく脳を、心を、駆けめぐっていった。
 女性の形になったとはいえ、やはりスライムだ。上半身は女性の形だが、下半身はドロドロのまま私の下半身を包んでいる。騎乗位のような形のまま、スライムはじっと私を見下ろしている。見た目こそ止まっているように見えていたが、私は小さく呻いた……私を包むスライムは、こともあろうか、私の急所……肉棒を自分の体内で激しく刺激し続けていたから。
 これがスライムの「捕食」なのだと知ったのはこの時より後のことなのだが、その時の私が何故このようなことをスライムが行うのか、その理由が分からず混乱していた。だが感情とは裏腹に身体は刺激に対して正直に反応する。密閉されながらも、まるで凹凸があるかのように不均一な圧力が肉棒に与えられ、その圧力が波打つかのように移動する。初めて得た刺激……それはまさに快感だった。ジッと見つめる上半身とは別の生き物がそこにいる……そんな感覚すらあったと思うが、鮮明に思い出されるのは初めての快感……そのおぞましくも心地好い刺激のみ。
 これが女性の中……なのだろうか? 私は不器用な人間で、正式に女性と付き合った経験がない。そして安月給の護衛兵士には女を買う金もなく、肉棒への刺激など自主的な物以外あり得なかった。だからこれが……今でも、女性の生殖器、膣内と同じ構造なのかを知る術はない。だが上半身が女性の形をしていることもあって、私は女性と性交しているという錯覚に陥りつつあった。自分ではない他の者からの刺激がこんなに気持ち良い物だとは……初めての快感に戸惑い、それを行っている者が魔物であるという事実に恐怖し、だが見つめる女性の上半身……豊満な裸の女性というシルエットに興奮し、いつの間にか私は抵抗という感情を打ち消されていた。
 突起のように小さな刺激が亀頭をリズミカルに、だが様々な箇所を刺激し、リング状に竿を包む圧力は下から上へ、その圧力を波のように移動させる。なのに私の目からスライムはピクリとも動いていない……まさに魔物の刺激。魔性の刺激。人ではあり得ないだろう快楽のツボ、快楽の波に肉棒が包まれ、気付けば私は腰をカクカクと動かしていた。呻きもした。それでもスライムは、ジッと私を見つめたまま……そのままで、私を攻め続けた。
 ほどなくして……倒されてからそう時間は掛からなかったと思う……私は初めて、他力によって射精した。これを童貞の喪失とは言い難いのだろうが……しかし私にとっては今でも……これが「女性」との初体験だと思っている。しかし通常の初体験……いや初体験に限らず、女性との性交では見ること出来ない光景が繰り広げられていた。射精した私の精液が、彼女の中に透けて見えているのだ。海のように鮮やかな水色。そんな半透明の身体を持つスライムの中に、白濁した精液が見えている……異様な光景なのは間違いない。間違いないのだが、それよりも私は彼女の中へ射精したという証拠をまざまざと見せ付けられ……ああ、今でもあの時に芽生えた感情が「始まり」だったと思っているよ。
 それでも射精をし終えた私は急速に落ち着きを取り戻し、彼女の中に残った白色も薄れていった。そして同時にこの時の状況がどんな「意味」なのかを理解し始めていた。だから私は……スライムから逃れようともがいた。そんな私をあざ笑うかのように、再び与えられる肉棒への快楽。一度果てたことで敏感になっている肉棒は、その刺激にコレまでとは違う痛みにも似た感触を得た。だがその痛みすら心地よさが含まれ、そしてそれは完全に快感へと切り替わる。為す術もなく、私は二度三度、気を失うまで射精を迫られ何度も彼女の中に自分の子種を吐き散らした。

 悦楽の中精子を吸い取られ、やがて死に至る……その時の私は逃れられない快楽に包まれながら死を意識していた。だがその意識は戻った……つまり私は死なずに済んでいた。私は生きていることに胸をなで下ろしたが、安心は出来なかった。なぜならば、私はまだスライムに束縛され続けていたから。
 目を覚ました時私の目に映ったのは、スライムの「笑顔」だった。捕食中は表情一つ変えなかった彼女の笑顔に、私は自分を取り巻く状況も忘れ、照れてしまった……ああ、今思い返してもそれが「恋」の始まりだったのかもしれない。射精したときに得た感情が確実に恋へと変化していったその瞬間……しかしあの時の私は、ただ姿を変えているだけの魔物に一瞬心を奪われた自分を恥、また逃れようと無駄に足掻いていた。暴れる私をけして放さず、しかし彼女は笑顔から一点、悲しみに半透明な顔を曇らせてた。私はひとしきり暴れてから……逃れることを諦め、生きることを模索したのだと思う。言葉が通じるか判らないのに、私は空腹であることを彼女に訴え、せめて食料をと懇願していた。すると彼女は緩慢な動きながらも私を捕らえたまま側の林までズルズルと近づいていく。そして実のなっている木を見つけ、身体を伸ばしてそれをもぎ取ってきた。見たことのない実だったが、私はスライムに差し出されるままにその実を口にする。予想以上に果汁の詰まったその実は私の喉を潤し、甘みを口いっぱいに広げてくれた。私は思わず美味いと口にすると、スライムはまた微笑んでくれた……あの時の光景は今でも忘れない。

 自分の思い描いていたものとはあまりにもかけ離れていたが、それでも私は寝る場所と食べ物を確保することが出来た。私を離さないスライムがそのまま私の寝る場所となり、私の食べ物は彼女が捕獲し私の口に運んでくれていたから。だがこの状況が長く続くのはマズイ……私は魔物に捕食され続けているのだから。理性は私にそう告げていた。しかし反面、無人島という逃げる場所のない牢獄の中にいる私に、彼女から逃れても生きていけるかどうか疑わしく……ズルズルと、スライムとの共存生活は続いていた。
 私に食料を運んでくれるスライムは、その代償として私から食料を得ていた。その食料とは当然、私の精液なのだが……これだけではなかった。私から出る他の物……排泄物ですら、一部は彼女の食事になっていた。捕らえられたままの私は、当然排泄行為も自由に出来ない。まさか彼女の中でするのは……と戸惑っていたあの頃の私は、どうにか排泄する場所を提供してくれるよう彼女に尋ねてみた。しかし食べ物を探してきてくれたときとは違い、彼女はただ微笑むだけで動こうとはしなかった。それどころか……まるでこのまましろと促すかのように、肉棒の時同様、私の肛門へ刺激を与え始めたではないか。これは流石に恥ずかしいと、私は悶えて移行するそぶりを見せるが、そんな私を弄ぶかのように、彼女は肉棒も刺激しながら肛門を突くよう圧力を掛けてくる。元々我慢し続けていたこともあり、私は顔を赤らめながら彼女の中へ排泄した。するとその排泄物は彼女の中を通り……カラカラの状態で彼女の外へとはじき出された。この時私は、彼女の食事が私から出される「水分」全般なのだと知ることとなった。

 私の食事は木の実ばかりではなかった。そもそも私がこの島にたどり着くまで何を食料としていたのか疑問だったが、彼女は私が引っかかったように、「水たまり」に擬態することで近づいてくる渡り鳥などを補食していたようだ。むろん相手が鳥でも得る物は同じ……繁殖期でもない鳥から無理矢理精液や血液を搾り取り糧としていたようだ。
 私はその現場を直接目撃した。彼女の中で捕らわれた鳥が干からびていくのを……彼女との共存にも慣れていた頃だったが、流石にその光景に私は再び恐怖を感じたものだ。だが彼女は自分が必要とする生き血などを吸い尽くすと、今度はその鳥を彼女の中で「調理」しはじめた。羽がむしられ彼女の外へと捨てられ、肉と骨と内臓がミンチ状になっていく。そしてミンチ肉は幾つもの小さな玉へと分けられ、ミートボールへとその姿を変えていた。彼女は私の顔を引き寄せ、キスを迫る。唾液も彼女の糧だったこともあり、私は少し怯えながらも慣れていた接吻に応じる。すると彼女の中で出来ていたミートボールが口へと持ち上がり、口移しで私の口内へ。果物ばかりで偏りがちな私に、彼女が食事を作ってくれたのだ。私は彼女の「手料理」を味わいながら、美味しいよと告げた。満足げに微笑む彼女から、私はおかわりを強請っていた。舌を絡めながらミートボールを受け取り、軟らかい肉の感触と更に柔らかい舌の感触を味わい、肉を飲み込みながら唾液を飲み込まれる。食事すら、私達にとっては官能的な行為になっていた。

 スライムにも知性があることは、私の言葉を理解していることから気付いてはいた。だが彼女自身が話せるようになっていたのは……正直驚いた。
 私はスライムとの共同生活を完全に「日常」としていたが、どこか孤独さも感じていた。話しかける相手はいるが、話しかけられることのない寂しさ……それをも、彼女が癒してくれるようになるとは。どうやって言葉を覚えたのか、そもそも変幻自在の彼女の何処に知性を宿す頭脳があるのか……謎は多いが、問題にはならない。彼女と話が出来る。その事実が重要なのだ。
 私は孤独からか、独り言が多くなっていた。最初こそ抵抗のあった「喘ぎ」も、気にせず口にするようになっていた。気持ち良いよ、といった快楽の言葉だけでなく。カワイイよ、ステキだよと、彼女を褒めるような言葉も口にしていた。そんなことばかり口にしていたかだろうか……彼女の第一声は「気持ち良い?」だった。その言葉に驚きながら……それでも私は、気持ち良いと素直に答えた。すると彼女は「どこが?」と尋ね返してきた。私はまた恥ずかしげもなく陰茎が気持ち良いと返答。それから矢継ぎ早に出される質問に事細かく返答していく内に……彼女の「テクニック」はみるみるうちに上達していった。それを褒めると彼女は笑い、もっと気持ち良くなってと激しく攻め立てる。私の中から寂しさが取り除かれた、記念すべき日だったな……今でこそ当たり前のように会話をしているが、会話が出来るようになってから、私はますます彼女に魅入られていったのは間違いないだろう。もうすっかり、彼女から「逃げる」などという考えは取り払われていたのだから。

 スライムは本来、分離して繁殖する生き物……今はその事を知っているが、あの時の私は驚いていた。すっかり私の全身を包めるまでに「成長」した彼女から、もう一人の小さな女性の半身が形成されていくのを見たときには。まるで彼女の娘であるかのような、幼いもう一人のスライム。身体は繋がっているのだが、突然別人が「生まれた」ようにすら見えた。そう、「別人」と思ったのは、彼女が元の彼女とは違い、積極性のあるスライムに思えたから。
 元の彼女はどちらかといえば動きが緩慢だった。私から食事をするときでも、彼女はあまり動かない。むろん「中」は激しいのだが、外側……女性の形になっている彼女はあまり動かない。時折彼女からキスを強請られたこともあったが、この頃は私から強請らない限り自分からは求めないことも多くなっていた。そんな元の彼女とは違い、新しい彼女は積極的に唇を重ね、口内へ舌を入れむしゃぶりついてきた。今までは唾液を提供するかのように、私が彼女の中へ舌を入れていたのだが、新しい彼女はその唾液を根こそぎ奪うかのように吸い付き、舌を激しく絡め、一滴も逃さないと口内を舐め回した。場合によっては喉の近くまで舌を伸ばし、食道を舌で愛撫したりもする。まるで喉を犯されているような……いや実際に犯されている。新しい彼女の淫技に私はすっかり翻弄され、元の彼女へ沢山射精した……今思えば、あの時から「主」と「従」の関係はあったのだろう。

 小さかった新しい彼女も、元の彼女とほぼ同じ大きさになった。しかし彼女は分裂しない。その頃の私は「そういうもの」と認識していたのだが、彼女「達」が通常のスライムとは違う亜種であることを知ったのは、やはりこの頃よりも後になってからだ。
 そしてこの頃から、元の彼女と新しい彼女との間に主従関係のようなものが明確になってきた。それは態度や役割だけでなく、見た目そのものまで変わっていた。元の彼女は頭にティアラのような物が、新しい彼女の頭にはヘッドドレスのようなものが形成されるようになったのだ。まるで元の彼女は女王あるいは王女のように、新しい彼女は王女に仕えるメイドのように見えてきたのだが、その見た目はそのまま彼女達の関係を表していた。
 元々自分から動くことの少ない女王スライムはもっぱら私との直接的な性交……肉棒を刺激し精子を絞り出す役に徹しており、メイドスライムは接吻などの行為はもちろん、私の胸や首筋を舐めたりして私の性欲を高める役回りをするようになっていた。またこの頃から……スライム達にも「性感」が芽生えたようだ。
 私は彼女達との共存生活で不満だったのは、彼女達に食事を与える以外に何もしてあげられない……ただ一方的に攻められるだけなのが面白くなかった。だから頻繁に胸を揉んでは感じないかと尋ねたり、気持ち良くはないのかと尋ねたりしたが、曖昧に微笑むだけで終わっていたため彼女達に性感はないのだと思っていた。だがメイドスライムが「奉仕」を行うようになってから、徐々に変わり始めていた。
 胸を揉んでくださいと言われたときには驚いたっけ。そして言われるままに胸を揉んで、メイドスライムが軽く喘いだのにも驚いたが……最初は演技だと思っていた。だが胸を揉み喘ぐ度に明らかに彼女の息が荒くなり、そして直後の奉仕に積極性が増した。加えて、メイドスライムが激しく感じるそぶりを見せると、女王スライムの陰茎に対する締め付けが強まった……この事から、彼女達に性感が芽生えたことを確信するようになったのだが、もう一つ確信したこともある。
 それは彼女達が結局は一人だ、ということ。メイドが感じると女王も反応する……つまり性感を二人は共有していることになる。彼女達の糧である精子は女王が、唾液はメイドが摂取しているが、この糧も共有しているのだろう。私はこの事実が嬉しくて、メイドスライムの胸を何度も揉み、何度も舐め、何度も顔を埋めたっけ……お互いに気持ち良くなれると言うことがこんなにも心地好いのか……この喜びは、彼女達が話せるようになった頃以来の感激だった。

 ただそれから……私に一つの疑心が生まれた。
 彼女達に性感が芽生えたのは、「必要性」を感じた事による本能の目覚め……ああ頭の悪い私では上手く言葉が見つからないが、なんというか……私が求めるからそれに応じる形で芽生えた性感なんだろう……という事。たぶんこの考えは正しい。正しいからこそ……少し寂しかった。
 私はあくまで、捕食される人間……スライム達の糧に過ぎない。捕食すべき人間から質の良い糧を得るために必要なこととして、性感に芽生えた……そんな本能が働いたのだろう。あれから今日まで随分と月日は流れたが……この事を思うと胸が締め付けられる思いがする。
 そしてもっと心を悩ませたのは……三人目のスライムが生まれ始めた頃になって、彼女達が「愛している」と言い始めたことだ。
 それよりも前、彼女達に性感が芽生えたことが本当に嬉しかった私は、愛を語り始めていた。出会った頃に芽生えた恋。彼女の笑顔に見惚れてしまった私の中で育まれた恋が愛に変わり、それを確信し始めたのもこの頃だったのだろう……好きだよ、愛していると何度も彼女達に言い始めたのを覚えている。そして彼女達からも愛していると言って貰えたときの喜びは……天に昇る気持ちとはまさにあの時の感情だろう。射精するときの高揚とはまた違う、感情の極み……幸せの絶頂で、しかし……疑心を大きくする一言でもあった。
 愛を語るのは、私が愛を求めたからではないだろうか? つまり彼女達の本能が愛を口にさせているだけで、本当に愛しているわけではない……捕食のために用いた言葉に過ぎないのではないか? そんな疑心が私を悩ませ続けている。
 そもそも、彼女達に「心」があるのだろうか? 愛するこの気持ちを、彼女達は理解しているのだろうか? スライムに……魔物に、人間を愛する心があるのだろうか?
 私の疑心は大きくなるが、それで状況が変わることはない。私は囚われの身であり、そんな私のために彼女達は食事を用意し、そして私から食事を得る。出会った頃と変わらない関係はずっと続いている。四人目のスライムが生まれても、胸だけでなくお尻や太股も形成するようになって私を楽しませてくれるようになっても、ずっと同じ関係は続いていた。

 変わらないと言えば……私の「肉体」はずっと維持され続けている。これも変わらないことの一つだ。スライムが私を「同化」させないのは私が糧そのもので、糧をとり続けるために必要だからなのだが、それだけではなく、彼女達は私の肉体を「維持」する努力も密に行っていたのだ。
 その事に気付くまで疑問にも思わなかったのだが……人間の身体は、動かなければ鈍っていく。兵士として肉体作りに励んでいたことから、そちらの医学知識は多少あるのだが……人間の筋肉は使わなければ衰えていくものなのだそうな。それは剣を振るう力が無くなるとか、そういうことも当たり前なのだが、歩行をしないでずっと寝たままでいれば……歩くための筋力が衰え歩けなくなるらしい。私はスライム達に包まれ、ずっと歩かない生活を続けているが……筋力が落ちた自覚もないし、そんな様子もない。どうやらそれは、スライム達が私の筋肉を「動かしていた」からのようだ。
 健康的な身体を維持する……それは健康的な精子を量産するのに必要なこと。そこでスライム達は私を包みながらその身体で私の筋肉を刺激し続け、さも筋肉を使っているかのように鍛え続けていたようだ。この事に気付いた時直接本人に尋ねて聞き出したのだから間違いない。

 そうそう、この事実に気付いたとき……私は久しぶりに自力で立ったんだよ。それを私が望み女王がそれを許したからだ。
 立ったとは言っても私の拘束が緩む訳じゃない。まあ緩んだとしてももう私は彼女達から逃げる気など無いが……あの頃はもう六人目が生まれていただろうか? 私はお尻や太股まで形成するようになったスライム達に新たな性欲が芽生えていた……お尻に入れてみたい。バックから攻めてみたい。立ちフェラをされてみたい。パイズリをして欲しい……様々な性欲を叶えるためには、私自身が起ち上がる必要があった。良くも悪くも、彼女達は私の欲求には答えてくれる……感情論は別にして……だから私の願いを女王は受け入れた。
 あまり身体を動かさない女王が、初めて私に背中を見せた。私は背中から女王に抱きつき、豊満な胸を何度も揉んだっけ。女王の口からはあまり聞かれない喘ぎ声に興奮して、私はお尻の位置も確かめずに腰を振ったっけ……元々不定形の彼女は、当てずっぽうで差し込まれた肉棒の位置に合わせてお尻を移動させ、そして気持ちいい、ステキと喘いでくれた。メイド達の一人が私の背中に回り、私に後ろから抱きつくとプルプルとした胸を私の背中に押しつけやはり喘いでいた。オッパイ気持ち良い、背中に擦るの気持ち良いと……私の性欲性癖の全てを理解している彼女達だ、彼女達の性欲性癖も私に合わされ、変態じみた快楽に酔いしれてくれる。私のお尻を舐めながら美味しいと連呼するメイドもいたし、私の耳たぶをペロペロ舐めながら微笑むメイドもいたな。あの時の乱交は気持ち良かった……もっとも同じような乱交は今でもよくやっているが。
 重要なのは、私が立ったということだよ。重要とは言っても、その事実に気付くのはそれからだいぶ経ってからだったっけ……。

 十一人目も生まれるようになった頃から、「女王」と「メイド」以外も役割を演じるスライムが増えた。私を「お兄ちゃん」と呼び甘える妹役のスライムや、逆に私を甘やかそうとする姉役のスライム。わざと興味のない振りをしてからデレる同世代役……全ては同一のスライムなのに、多種多様に私を楽しませてくれた。まるでハーレムだ……私は一人のスライムに包まれたハーレム生活を満喫しているのだ。
 だがこの役割分担は私を性的に満足させるためだけではなかった。私に食べ物を与えるために果物を取ってくるスライム。渡り鳥を捕獲するために少し離れた場所でじっと水たまりを演じ続けているスライム。さらには……ちぎれそうなほど細い身体でどうにか繋がりを保ちながらも、沖にまで出て魚介類を捕獲する役目を担ったスライムまでいた。そう、全ては……生きるため。彼女達に心があるかどうかはさておき、本能は生き続け成長し続けるために行動し続けていた。

 そして私の疑問の半数以上を解決する出来事が起きた……遠征役のスライムが、あの宝箱……私と共に流れ着いた調査隊の書類が入ったあの宝箱を持ち帰ってきた時だ。
 資料にはあの時調査予定だったスキュラについての資料の他に、重要なことが三つ書かれていた。
 一つは、ここ最近の魔物について。魔物に女性型が増えたのは知っていたが、その多くは現在の魔王がサキュバス族である影響からか、男を捕食し精液を糧とする者ばかりらしい……しかも昔の魔物とは違い、捕食対象と共存したりするケースも多いとのこと……つまり私とこのスライム達との関係は特別なのではなく、似たような例が他にいくつもあるということだ。ただこの事が一般に知れ渡ると色々と問題……男達が魔物との共存を望み結婚や出産に影響が出るとか、その他色々とあるらしく、資料自体が門外不出とされていた。それを持ち出していたのかあの男……まあ今の私にはどうでも良い話だが。
 二つめは、私が調査隊の護衛に任命された本当の理由……私は元々「囮役」だったようだ。スキュラが現れたとき、彼女を調査しやすいようまず私達護衛が彼女達に「捕食」されるようしむけ、そして私達を持ち帰ったらしめたもの……私達に支給された「皮鎧」にあらかじめ仕込んでいた探知用の魔法道具を伝ってスキュラの根城を調査するつもりだったようだ……ところが結果、司令官がアレでは……色々と物事を甘く見すぎていたな。
 重要なのは、私が囮役だったという事実ではない。囮として私が着ていた皮鎧に探知用魔法道具が埋め込まれているということ……三つめのポイントはそれ。もしかしたらあの皮鎧を追って誰かがこの無人島に来るかも知れない……目当てが何であれ、この島に人が、私以外の人が来る……その可能性に、私はしばし悩まされた。
 今更もう、私は元の生活に戻りたいなど考えもしていなかった。女王をはじめとしたこの数多の女性達、一人のスライムを愛しているから。それでも外から人間が来れば、この静かな暮らしに終止符が打たれてしまうだろう……私達の生死はともかく、皮鎧を辿ってくる人間は間違いなく王宮魔物対策本部の人間。研究のために私達は引き離されてしまうだろう。それは嫌だ。今更元の生活なんて……もう私から彼女達を引き離して欲しくはない。そんな危機感を彼女達は察したのか、あるいはあの調査書を読んで学習したのか……新しく兵士役のスライムが生まれるようになった。来るかも知れない危機に備えて。

 最初のうちは、私達が引き離されることを心配した。しかし時が経つにつれ徐々に私の心配は違う事へシフトしていった。彼女達は……新しく人間が、男が来たときに、どうするつもりなのだろうか?
 彼女達にとって、人間の男は糧だ。来るかも知れない男達は島の外から来る危険であると同時に、新たな糧でもある。肥大し続ける彼女にしてみれば、ただ一人の男から摂取し続けるよりも多くの男達から糧を得られた方が良いに決まっている。それが生命の、生きるための本能だろう……本能のままに言葉を覚え、性感を得て、一人で数多の役割を担うようになったスライムが、新たな糧を放って置くはずがない。
 私は……嫉妬していた。まだ見ぬ、来てもいない男達に。彼女は、彼女達は、私が愛するたった一人の、沢山の恋人だ。生活を共にする夫婦であり家族であり……二人だけの集落だ。そんな私達に、私ではない男達が加わるなんて……私は彼女を、彼女達を愛している。愛しているから……独占したい。束縛されながら、私は強く強く、彼女達を束縛し続けたい衝動に駆られていた。
 だが悲しいことか……私は束縛されている側。決定権は彼女にある。彼女の本能がどんな答えを出すのか怯えながら、私は彼女に、彼女達に、何度も愛を囁き快楽を与え、そして快楽を得て愛を語ってもらった……その言葉が本心なのか、語る心があるのかに、疑問を抱きながら……。

 幸か不幸か……その時がやってきた。
 そして、私が知らぬ間に……その時は終わっていた。
 私が外からの来訪者があったのに気付いたのは、精根尽き疲れ果てて眠り始めてから目が醒めたとき、悲しげな表情で女王が私にゴメンナサイと謝罪してきた時だった。
 彼女は私が寝ている間にこの島で起きた事件を説明してくれた。
 大きな船の到来を、見張り役のスライムを通じて知った彼女達は、私を起こさぬよう来訪者を出迎える準備を整えていた。船はその大きさからこの島へそのまま着岸できなかったようで、ある程度の距離で停泊した後に小型船に乗った三人の人間を島へ向かわせた。上陸した三人に対して、待ち伏せていたスライム達は直ぐさま彼らを捕獲。そしてすぐに……「捕食した」らしい。
 その時の様子を、女王は涙ながらに語った……浮気をしてゴメンナサイと謝りながら。
 スライム達は三人の男達を捕食した。しかしその捕食は私に対するそれ……性交とは違い、渡り鳥を補食するのと同じ……全てを吸い尽くし生命を奪う捕食。流石に人肉を私に食べさせるつもりはなかったらしく、残った肉片は海へ捨てたらしいが、それでも女王は、彼女達は皆、泣きながら謝罪する。理由はどうであれ、私以外の男と交わったことを。
 この時私は……嬉しかった。人を三人殺害した事実に引っかかるものはあるが、それよりも、私は彼女達に「心」がある事を確信できたことが嬉しかった。私を愛し、他の男との性交に罪悪感を感じ、そしてその罪悪感に涙しながら私に謝罪する……そんな心が彼女達にあったのだ。
 もしかしたら……やはり本能は多くの男を私と同じように捕獲し捕食し続けるつもりだったのかもしれない。だから訪れた男達を直ぐさま襲い捕食し始めた……だが捕食しながら、彼女の「心」が男達を拒み始めた。彼女の感情が本能とせめぎ合い、そしてその結果が……この時の謝罪へと繋がったのだろう。恥ずかしい言い方をするならば、彼女の中で芽生えた私への愛が本能に勝ったと……しまった、本当に恥ずかしいことを考えてしまった。今自分の頬が熱くなっているのを実感している。
 それはともかく……あの時私は、女王の頭を撫でながら言った。大丈夫だよ、愛しているよと……彼女は泣きながら私に抱きつき、号泣していた。そしてしばらく泣きついた後で……再び語り始めたのだ。
 二人の将来について。

 あれから……スライム達は「外交」を覚えた。
 戻ってこない三人の調査員を心配し別の人間達が島へ上陸してきたとき、スライム達は再び人間達を捕まえた。だが今度は捕食することなく、「交渉」を始めたらしい。その具体的な内容を一応聞いたんだが……難しくてよく判らなかった。彼女達は身体の大きさに比例して、知恵も知識もどんどん蓄えているらしく……「自分達」の身を守るためにどうすれば良いのか、明確なビジョンをシッカリと思い描いていたらしい。その為か、巧みな話術も合わせ調査員を翻弄し交渉を上手く成立させていた。出会ったときには話せなかったスライムが交渉か……凄い成長ぶりだよ。
 まず彼女が要求したのは、農具と農業の知識。私への食事を十分に確保する為でもあり、次の交渉に役立てるためでもあった。彼女達は得た農具と知識で畑を耕し、私の食料と、そして交渉する際に必要となる貴重な薬草などを栽培した。通常なら難しい栽培も、スライムの身体を用いれば色々と調整が出来るとか……ここも難しくて私は理解し切れていないが、なんでも「保湿」がどうとか「温度調整」がどうとか……ともかく、彼女達ならば人間では難しい栽培も可能らしい。
 そして栽培した薬草から、一部は交渉用に、一部は私の健康……主に性欲増強などのために用いられる。そして交渉で新たな知識や材料を手に入れ、スライム達は「自分達」の為に島の環境をどんどん整えていった。
 今ではもう、島は一つの王国……スライムの王国と化していた。たった二人の王国……私は女王に包まれながら愛し合う王になっていた。
 外交のために訪れる人間達は、この島の場所が難所に位置するらしくてそう滅多には訪れなかった。仮に訪れたとしても……私は会う機会が全く無い。どうやら会わせたくないらしい……会わせると私を連れて行ってしまうのではないかと心配しているらしい。また島に上陸する人間は男性に限定すると交渉もしていたらしい……どうやら彼女も嫉妬をしているようだ。私と同じ事を想っていたと知ったときには、思わず笑ってしまったよ。そしてその日はいつもより少し激しい「日常」を送ったかな……。

 幸か不幸か……私はあれから、変わらない「日常」を送っている。
 幸せに「包まれる」日々。だが外界からは遮断された、堕落した日々。
 魔物に囚われ続け、糧を搾り取られるだけの生活……それを幸福と呼ぶのか不幸と呼ぶのか、私の中にその判断基準はない。そして判断基準を聞く機会もない。
 スライム達と交わる以外に、すべきことのない私は……意味のない考察を繰り返して時間を潰すことがある。今がちょうど、その時だ。
 幸か不幸か……考察の時間はそろそろ終わりにしなければならないらしい。女王が寂しそうにこちらを見ているから。
 同じ事を繰り返すだけの日々……それでも私は繰り返す。
 愛しているよ……いつまでも。この身が朽ち果てるまで。
 愛している……この身がどんなに増えても、その分だけ更に愛してる……彼女の返答もいつも通りだ。
 私の身体が老衰しきるのが先か、彼女の身体が島全体を覆ってしまうのが先か……どこかで終わりはあるかもしれない。だがその時まで、私は彼女を、彼女達を、沢山いる一人の女性を愛し続ける。
 幸か不幸か、私にはそれしかするべき事がないから。

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