「・・・10人目。残り4人だ。」
「クラウス・・・これほどだと!?」
蒼い髪の毛の銃を持った青年・・・それとフレイルと呼ばれる武器を持つメイド服姿の茶髪の女性を黒装束の傭兵達が包囲している。
いや、していたと言ったほうが正しい。あっという間に10人近くが致命傷を負い、殺されている。
「偽の依頼を出して包囲するか・・・確かに素人に効くだろうが。生憎俺はミィルの実戦訓練をさせたかっただけでな。最初から見抜いていた。」
「何!?」
「そうでなければどうして隣国の連中が俺にオーダーをかける。確かにウィングルアにヴィッテン家は交易のため出入りしているが、魔物嫌いで有名なはずだ。俺に頼むわけが無いとわかっているが。」
銃使いは銃弾を装填する・・・その隙に傭兵が剣や槍を構え一斉に突撃するが、ミィルと呼ばれたメイドの女性がフレイルを横になぎ払う。
痛烈な一撃は薄い鉄板の鎧を大幅にへこませ、1人を吹き飛ばす・・・クラウスは向かってきた2人を銃剣で切り払い、残り1名に銃を向ける。
「逃げて依頼主に報告しろ。次は貴様だとな。最後まで生き残った幸運に免じて逃がしてやる。」
「・・・!」
灰色の髪の毛に青い瞳・・・この傭兵の中ではまだ若い15歳くらいの少年は槍を持って撤収する。
これほど強い相手など見たことが無い。最初は絶対勝てると思っていたが1分もたたないうちに10人が倒され、残り3人も軽く倒されている。
2名くらい重傷を負い、うめき声を上げているが・・・容赦なくクラウスは銃弾を頭に打ち込んで殺す。
「・・・ご主人様、何故逃すんです?」
「奴はまだ若い・・・何もこの依頼の真意を理解はしていないだろう。それに1人だけ逃して状況を報告させればより連中も手出ししにくくなる。」
「わかりました。意のままに・・・それと、燃料切れました。」
「何?」
最近ご無沙汰だったなとクラウスは思ったが、リムアーズの話だと1ヶ月は持つはずだ。まだ3日程度しか経っていないのにそんなはずはないと。
が、半分意図的なのかミィルはクラウスにしがみつくと一気に押し倒してしまう。
「補給します。」
「ちょっと待て、周囲の安全すら確認できていない!下手なことをするな!」
「こちらも危険です。どうかご理解を。」
「ま、待て・・・!」
抗議を聞くまもなく、ミィルは少々うれしげに行為へと向かう・・・クラウスは押しのける気力も無く、ただ脱がされて身を任せていた。
「あいつ・・・強すぎる・・・!」
彼・・・イーグレットは息を切らせながら森を逃げていく。傭兵をやりだして1年程度だが、そこら辺の武芸者よりは腕前は上だと自分でも思っていた。
が、依頼の暗殺者はそんな小手先の武芸で勝てるような相手でもなかった。包囲したと思ったらあのメイドに殴られて倒され、驚いた隙に銃で次々に倒された。
普通10人程度の傭兵なら1人を倒すくらいなんてことは無いが・・・これではまるで200年前にいた英雄達そっくりじゃないかとイーグレットが思ってしまう。
伝説の傭兵シルフィがいた200年前あたりには、そんな武芸者も数多くいたのだから・・・英雄に数えられるギルバートやミュレンなどの英雄も一騎当千とよばれるだけの力は持っていた。
「・・・追ってこないな?」
後ろを振り向いてイーグレットは何度も確認するが、追ってくる気配は無い。ふぅと一安心して近くの岩に座り込む。
が・・・何かの気配に気づき槍を構えなおす。茂みに誰かいるようだ。
「・・・誰だ!?」
「気配に気づく・・・それ相応の武芸者か。」
疲れ果てているところにまた敵・・・イーグレットは槍を構えなおすが、相手は同じ年齢くらいの武芸者だ。
「尋常に勝負!」
「・・・後にして欲しい。こっちは逃げるのに精一杯なんだ!」
もう勘弁してくれとイーグレットは逃亡する・・・昔から身軽さと脚の速さだけには自身があり、その才能を戦いや依頼に役立ててきた。
強い相手でも真上から強襲して倒すなど、それなりのことはやってきたが・・・逆に魔物についての知識はほとんど無かった。
「逃げるのか!誇りは無いのか!」
「今は誇りより命をとる!」
イーグレットは相手の武芸者に背を向けて逃亡する・・・もっとも、相手がリザードマンでありその習性を知っていれば違う選択肢もあっただろうが。
「・・・というわけで、依頼主に連絡・・・依頼は失敗したと。」
「了解だ。まぁ、依頼主もわかってくれるだろう。」
酒場の一角にある連絡役と呼ばれる依頼仲介人・・・彼にイーグレットが報告を出す。一応依頼主に対して不具合があった場合、彼に連絡するのが常だ。
彼は依頼仲介を請け負っている・・・無論仲介料金を取っているが、結構便利なため数多くの諸侯などが利用している。
「気を落とすな。次があるさ。」
「・・・それくらいはわかっている・・・」
この仲介人・・・名前はラヴィンというが、結構気さくな感じの仲介人であり評判もいい。イーグレットもよく利用している。
「あぁ、ついでに言うがついさっき外で待っている奴を見たぞ。」
「え?」
「どうもお前狙いらしい。可愛いな。」
「は!?俺にそんなの・・・」
入り口を見てイーグレットが目を見開いて驚く・・・あの武芸者だ。槍を持って探しているが、視線が合わさってしまう。
「と、とにかく依頼の件はお願いする!」
「どうしたんだ?」
「・・・何と言うかストーキングされてるとしか言えない。裏口使う!」
イーグレットが裏口から逃げていくが、すぐに思い立つと裏口のゴミ箱の上にのぼり、すぐに屋根へとあがる。
武芸者もしばらくして追いかけてきたが、裏路地にいないのを見てどこかへと走っていく・・・イーグレットはため息をつくばかりだ。
「何なんだ、あいつ・・・」
一回断った程度でここまで執念深くなれるのか、それとも背を向けたことが腹立たしく勝負をつけようとしているのか。
おそらく後者だ。誇りは無いのかとか、そんなことを叫ぶ相手・・・よほどプライドが高いのだろうか。
「大変だな。」
「!?」
ラヴィンがいつの間に後ろに立っている・・・びっくりして振り向くと、相変わらずの調子でイーグレットに話しかける。
「こうなったら、本気で戦うしかなさそうだ。飯を食って、武器を磨いて待つしかなさそうだな。」
「ああ・・・あいつを知ってる?」
「詳細はよくわからんが、リザードマンって種族だ。女性ばかりで何故そんな名前かわからんが、武芸をたしなみ旅に出る連中も多い。」
「その類?」
「連中、武人の誇りを重視するからな。同じ武器を持つフェアな相手を狙い、戦いを挑む。俺が聞いたのはこんなところだ。」
本気で戦わなくてはいけないだろうなとイーグレットは考える。幸い、依頼の前金はそれなりに貰っている。近くの鍛冶屋で武器を鍛えなおすことはできるだろう。
「本気で戦うしかないな、俺も。」
「そうだな。危険な作戦だが見返りは十分に大きいぞ?」
「・・・見返り?」
意味ありげにラヴィンがにやついているが、何も答えようとしない。イーグレットは不順なものを感じたが、まぁいいかと思い屋根から下りる。
「いつものは出来たか?」
「もちろんだ、俺を誰だと思ってる?」
麻袋に入った銃弾をクラウスが確認する・・・リムアーズの鍛冶店では相変わらず常連のクラウスとミィルが銃弾を引き取りに来る。
銃弾の精錬程度はどこでも出来るが、火薬を一緒に詰めたタイプを作れる鍛冶店は少なく、何度も試射を行い一発も不良弾の出なかったここをクラウスが利用している。
「相変わらず手際がいい。」
「旧文明の銃は愛用者も多くてな。使いやすいってことで・・・だから一応大量生産は出来る。こっちはバイトもいるがな。」
旧文明・・・無論英雄達が活躍した時代よりもさらに昔であり、機械の文明が発達していたとされている。
今のウィングルアでは術関連の文明が発展し、機械はせいぜいその補助くらいにしか使用されていない。術が優れている上に民間人も使える。そのためメンテナンスが頻繁に必要な銃火器は愛用者は少ない。
「バイト?」
疑問符を浮かべるクラウスに対し、リムアーズが奥の扉を開ける。そこにはラージマウス・・・3人程度が銃弾に火薬を入れたり組み合わせたりするなどの作業をしている。
「あんまり大きくならない種族だから銃弾内部の洗浄や精錬がやりやすくてな。シェングラスで職にあぶれたからこっちで雇っている。」
「いいのか?お前のところはシェングラス騎士団も愛用しているだろう。」
「そんときは頼むぜ?」
クラウスとミィルを見てリムアーズが笑みを浮かべて言うが、クラウスは相変わらずの無表情だ。
「報酬は安く・・・いや、せいぜい2割引だ。」
「それだけでもうれしいぜ?お得意さん。」
ミィルも微笑みながら見ていると、誰かはいってきたことに気づく。その客は2人を見た途端に表情をこわばらせて固まってしまう。
「お、イーグレットじゃねぇか。何やってんだ?入れよ。」
「そ、そいつらが・・・」
「気にすんな。お客同士での決闘はさせねぇよ。」
恐る恐るイーグレットが入り、槍をリムアーズへと差し出す・・・クラウスが見ている性で緊張しているようだ。
「あの・・・ご主人様は依頼以外で人は殺しませんよ。狙われるか・・・」
「だ、だけど・・・」
「大丈夫です。それに命なんて狙ってるならもっと早く出来ます。」
そう、とイーグレットがうなずく・・・とりあえず何とか槍をリムアーズに渡し、鍛えなおすように言う。
「正規軍用の槍か。まったく、こんな槍を良く扱えるな?」
「10歳から両親に渡されて稽古をつけられた・・・軍に入れるんだと。2年前の反乱軍との戦争で死んでからも使い続けている。いまさら変えようと言う気も無いさ。」
「・・・そうか。じゃあ、きっちり鍛えなおしてやる。悲しい話を言わせてしまったんだ、半額にしとくぜ?」
助かるとイーグレットが言う・・・が、クラウスとは離れた場所に座ってしまう。やはりまだ怖いのだろう。
仕方ないなと思ってクラウスも距離を置くと、また誰かが入ってくる・・・そしてイーグレットを見つける。
「見つけたぞ。2度も逃げるとは・・・!」
「待って!今は武器が無い!」
槍を向けているリザードマン・・・それをみてリムアーズが怒鳴りつける。
「ここは刃傷沙汰禁止だ!てめぇら、やんなら外に出ろ・・・もっともてめぇは丸腰の相手を襲うほど誇りを失ったわけでもねぇだろ!?」
「・・・む、失礼。」
「名前は?そっちはイーグレットって言う奴だ。あんたは?」
仕事を害されて気分悪いのかリムアーズは淡々と槍を研ぎ澄ましていくと、彼女が答える。
「失敬。私はフィーナ。放浪して強者を追い求めている。」
「改めて・・・イーグレットだ。」
観念したようにイーグレットが名乗ると、リムアーズがフィーナに念を押すように言う。
「こいつの武器は精錬中だ。午後まで待って欲しい。」
「いつまでだ?」
リムアーズがイーグレットへと振り向くと、わかったとつぶやきイーグレットがはっきりと答える。
「今夜9時・・・この市街地の中央広場で。逃げも隠れもしない。」
「立会人は俺だ。互いに逃亡したら射殺する。こなかった場合も見つけ出して・・・わかるな。」
クラウスなりに念を押し、イーグレットもうなずく。ここまで言われたら引くわけにもいかないだろう。
それでいいとリムアーズも言うと、それまでに最高の状態に仕上げなければと思い槍を磨き続ける。
「話、何?マスター、見に行きたい。いいか?」
「ん、好きにしろ。勤務時間外だから文句は言わない。」
やったとラージマウスの3人組が喜んでいる・・・独特な言葉の雰囲気だとフィーナとイーグレットが同時に思うと、リムアーズが察したように言う。
「あいつら、人の世界とかかわりを持ってかなり短いんだ。まぁ、ちぃと言語がわかりにくいかもしれねぇけど勘弁な?」
「ああ。」
ほぼ同時に2人が答えて顔を見合わせる・・・イーグレットは素直に好みかもしれないと思ったが、戦う相手なのだから情けはかけたくない。
むしろ、相応の強さはあるだろう。イーグレットは槍が完成するまで待ちフィーナといえば先に出て行き、市外で動物相手にウォームアップするようだ。
「がんばってくださいね?イーグレットさん。」
「・・・そうする。」
ミィルからも励まされ、イーグレットは槍が仕上がるのをじっと待つ。もう逃げるわけにはいかない。
「・・・さて。」
時間調度にイーグレットは中央の広場へと出る・・・人通りはまばらだがどちらも飛び道具は使う気配は無い。
ナーウィシア自治領のクラウベル領内ゆえに魔物が歩いていても問題は無い・・・元から協力的な領主が収めている。
だから中央広場を決闘の場所に使っても特に問題は無い。武器が飛ばない限り通行人へと被害は及ぼさないだろう。
「イーグレット・・・来たぞ。」
「フィーナ・・・」
「この場所を選んでくれたことを感謝しなければな・・・始めるぞ。」
槍をフィーナが構える・・・いや、正確には槍ではなくグレイヴと呼ばれる薙刀のような武装だ。
イーグレットもリムアーズに研ぎなおされた槍を構えなおす・・・広場は術で明るく照らされ、リムアーズの職人やクラウスとミィル、そしてラヴィンも実に来ている。
「・・・始めるか!」
槍を数度振り回したのを合図にし、真っ先にイーグレットが槍を振るいなぎ払うがフィーナはそれを受け止める。
軽い衝撃が来たが、フィーナは受け止めきると倍以上の力でイーグレットの槍を押し返す。
「力はそれほどでもない・・・か!」
フィーナが追撃すると、イーグレットは石畳に槍を突きさし柄を軸にして回転。勢いを利用してフィーナに蹴りを入れる。
グレイヴでフィーナが受け止めるとイーグレットが槍を振り上げて飛び掛る・・・それを横にフィーナが回避、グレイヴを突き出す。
身を伏せてイーグレットが交わし、地面すれすれの低い体勢から槍をなぎ払うもフィーナはグレイヴの刃先をつきたて、受け止める。
「動きが早いようだな。」
「先に言っておくけど・・・俺は早いのさ!」
槍を引いてイーグレットが立ち上がると斜め上に槍を放り投げる・・・フィーナがグレイヴを構えなおすと、空中からイーグレットが槍を投げつける。
すぐにフィーナが回避するとイーグレットが槍を引き抜き、空中で回転しながら槍を振りかざす。
「・・・なんだあのワイヤーアクション張りの動きは・・・」
クラウスがあきれているのか感心しているのかわからない様子でつぶやく・・・フィーナは一撃を受け止め、はじき返す。
力は無いが動きが早く予測不可能。戦う相手がこいつならば殺せる自身こそあったが結構苦戦するとクラウスは思う。この相手は残しておいて正解だったと。
「・・・!」
はじき返された勢いで真上にイーグレットが飛び、槍を振り下ろす・・・その一撃に対応しきれずフィーナが弾き飛ばされる。
すかさずイーグレットは槍を突き出すが、横に転がりフィーナが回避。イーグレットはそのまま石畳に槍を斜めに突き刺す。
そして、槍の上に乗り飛び上がろうとするが・・・石畳が真上にとび、イーグレットが転倒してしまう。
「ちっ・・・!」
「貰った!」
フィーナが切りかかる・・・が、真上に上がった石畳が運悪く頭上から落下、そのまま気絶してしまう。
かなり重い石が直撃して大丈夫かと思い、イーグレットが石をどけてフィーナを揺り起こす。
「だ、大丈夫!?」
「お、おい・・・!」
リムアーズやミィルも不安げに駆けつけてくる・・・そっとミィルが手を当てると、一安心したように言う。
「大丈夫です。怪我は深くないですし骨折の様子も。」
「それはよかった・・・けど、とりあえずどこかに運ぼうか。」
イーグレットが考え込むと、ラヴィンが助け舟を出すかのように言う。
「とりあえずだが、今夜だけ部屋を貸そう。有効に活用してくれ。」
「ありがとう。」
「ま、俺が運んでやるよ。てめぇじゃつらいだろう?」
リムアーズがフィーナを抱え上げ、そのままラヴィンが持っているとされる酒場の2階にある個室へと運んでいく。
「・・・む?」
「起きた・・・わけか。」
運ばれて1時間もするとフィーアが目を覚ます・・・イーグレットは良かったと一安心したようだ。
一応決闘ではあるが、相手の命まで撮るつもりは無かった・・・事故で終わったのだ、それで死んで欲しいはずが無い。
「無事・・・か?フィーナ。」
「不覚を取ったな。私も・・・これでも人相手でも何十人も倒してきたと言うのに・・・あの不意打ちは・・・」
「いや、不意打ちって違うから・・・え?」
いきなり何かと思い、イーグレットがあわてているとフィーアが抱きつきそのままベッドへと引きずり込む。
「いかなる状況をも応用し、その鮮やかな動きと不意を打てる強さ。感服した。」
「だから一体どういう!?」
「はっきり言う、結婚して欲しい。」
びっくりした様子でイーグレットがフィーナを見つける。急激過ぎるプロポーズというか告白に動揺してしまっている。
「何故・・・え!?ラヴィンはそんなこと・・・」
「同種の武器で負けた場合だ。それに・・・何と言うか、気絶した間にまでお前の顔が出てきた。」
「そ、それで!?」
「それに・・・気に入った。」
一方的過ぎるとイーグレットは思ったが・・・知らない自分も悪いような気もした。よくよく考えれば彼女のことは何も知らない。
フィーナはごく当然のことという感じで頬を染めている。イーグレットのことは本心で好きなのだろう。
「いやだから、まだ15・・・」
「十分だ。私はまだ16で初めて・・・ではさっそく誓いを交わそうか。」
「いや・・・って、選択肢なし?」
すでに尻尾で巻き取られ、もうイーグレットは逃げ場の無い状態だ。まさかたった1日でこんな目にあうとは思っても見なかった。
「無論。」
「・・・ならいいよ。身を任せても・・・」
ゆっくりとフィーナが服を脱がせ、イーグレットから尻尾を離すとそのまま馬乗りになる・・・そして深くキスを交わし、舌を絡めあう。
それは次第に激しい息遣いを伴い、最後には喘ぎ声へと変わっていく・・・
「成就したようだな。」
「・・・まさかラヴィン、知らせなかったのか・・・?」
2階での声や物音が激しくなったのを聞き、ラヴィンは意地悪そうに微笑む・・・クラウスは呆然とした様子で見ている。
「魔物の習性くらい知っていて当然だ。向こうの大陸とは違ってここではあの図鑑も出回っている。読む機会はあるからな。」
「・・・リザードマンは倒した相手に結婚を申し込む。ことに同種の武器を持っている相手は狙われやすい、か。」
いくら強いとはいっても武装同士の相性もあり、自分の実力より素直に上と認めた相手にはついていく性質だ。
槍とグレイヴならかなり似た武器・・・ああいう形であれイーグレットに敗北したならついていくのは当然だろう。
「どっちにしてもついてくる羽目になるだろう。」
「あいつにはそれでいいのかもしれないが・・・」
一緒にいれば槍術の技量は相当なものに上がるだろう。素質だけはある・・・クラウスは初対面でそのことははっきりと分かっていた。
「そうだな。解放軍よりになってしまうが、仕方ないな。」
「ラヴィン、お前はそれが狙いか?素質がありそうな傭兵を解放軍側に回すためにわざわざ・・・」
「俺は一回の仲介人だ。それ以上の権限も思想もないさ。」
クラウスとラヴィンは、酒を飲み交わしながら長い夜をすごしていく。
その後、イーグレットはフィーナと共に依頼を受けるようになったが周囲からの評価が上がっていることに気づく。
まだ若いとは言え、リザードマンをつれていると言うことは相当な腕前に違いないと見られ、高額の依頼がかなり多く舞い込むようになったのだ。
実力不相応ということもなく、イーグレットとフィーナは着実に依頼をこなし次第に有名になっていった・・・
おまけ 解放軍の一室にて
「じゃ、また頼むです。」
「シージュ、何をしていた。」
レクシスが先ほどシージュの部屋から出て行った商人風の人物を見てシージュへと訊ねる。浮気相手ということも無いだろうが。
「れ、レクシス!?何でいるんですか・・・?」
「とりあえず報告に来ただけだが・・・今の奴は何だ?」
「行商人ですよ。」
無論そうとしか応えようが無いのでシージュが平然と応えると、レクシスは怖い顔をしてシージュへと近づく。
「何で行商人が仮にも王宮であるこの場所に来た。エンフィス領の邸宅内部に。」
「えーと・・・仕入れです。」
「何のだ。」
さすがにレクシスに隠し事は出来ずシージュが冷や汗を流し、作り笑いを浮かべて応えるがレクシスはさらに追及する。
「・・・卵、ですよ。ローパーの卵。」
「何でそんなもの・・・」
「いや、こういうのって売れるんです!何というかけが人を治すための最終手段として!何というかその・・・解放軍も金に困ってるんですよ・・・」
誰だそんなものを買う奴はとレクシスが毒づく。大体最終手段って言うことは分からなくも無いがいろいろと危険ではないだろうか。
「ナーウィシア王宮の御用達だからってことで箔がつくから来るんです。」
「何だそれは・・・意味が全く分からん。」
半分レクシスの意識がどこかに吹っ飛んでいるらしいが、シージュは構わず笑顔で話し続ける。
「いいじゃないですか。前線に出る意外暇です。だから私も予算を支えないと。」
「・・・いや、もう何から突っ込んでいいか分からない。大体卵って女性にしか出さないものじゃないのか・・・?」
「あぁ、付き添いのメイドさん数名に協力してもらいました。裸で拘束してもらってそれを見て私が・・・」
もう何がなんだか分からない様子でレクシスが頭を抱え、とりあえず用件を満たしたので撤収しようとするといきなり触手に腕を掴まれる。
「というわけで、まだ余韻が残っている間に思いっきり。」
「いや、これから何かと雑務が・・・」
「国家元首の命令です、拒否権なしです。」
「またやってるのか?」
「・・・盛んだなー。うちの司令官とナーウィシアの国王陛下も。」
部下がシージュの部屋をとおり、激しくヤっている声を聞いてにやけながら通り過ぎたのは言うまでも無い。