『fire
workers』 『絡繰祭』の名物、それは何も品評会だけではない。また、時折呼ぶサーカスだけでもない。 電球等がない世界とはいえ、夜にも楽しむべき出し物があるのだ。 それを考案した人物は、ジパングに立ち寄った際に河童と『夜桜』を飲み比べしながら、ふと眺めた夜空に見えたそれをいたく気に入り、大陸に伝える際にアレンジを施したという。 あえて火薬を使わずに行う、夜空を彩る華――。 ―――――――――――――― クオルン='フレイムブラスト'=キャルフの朝は、大概がクラフトマン=ジョン作(レプリカ)の目覚ましを、鳴る直前で止める事から始まる。レプリカとはいえ、ここ三年間時間がずれた試しがない。長針は十二を差し、短針はそこから右へ百五十度ほど回転した場所にある。――農家の起床標準時刻よりも早い朝五時。当然外は暗い。 「……うし。いっちょ起きっか」 左右に軽く体を捻り、ストレッチをしてから布団から飛び起き、シーツを外して外に干す。枕も同じように干す。ベッドでない理由は『そこにジパングがあるから』だそうな。 寝間着から作業着……ではなく運動用の軽装に着替えて、家に鍵をして外に出る。歩幅はやがて広がり……徐々に両足が地に着かない時間も出てくる。 毎朝恒例のランニング。経路もいつもの通り。職業柄体力も必要ではあるとはいえ、毎日続けているところからすると、恐らく習慣と化しているのだろう。 朝露に濡れた土の香りが風にのって流れていく。どことなく冬の気配も混じるが、空気は依然として辺りの風景が持つ香りを違和感なく混ぜ、クオルンに幽かに明けてきた世界を如実に伝えてくる。 ジョイレイン地方の町外れ……人々の努力で多少は是正されたとはいえ、大地は相変わらず荒れている場所が多い。砂漠化こそしてはいないとはいえ、このまま放置しておけばそれも免れない。しかし、風の中に含まれる、幽かな植物の香りが、まだ懸命に生きる存在がその場にいることを伝えてくる。 この大地は、まだ生きているんだ、と。 「……」 クオルンがランニングを終えて家に辿り着くとき、大体時計は長針が六、短針が左へ十五度程の位置にある。最初の方は七時であったことを考えると、格段に成長をしていると言えるだろう。 とまぁ肉体の成長はさておき、クオルンはそのまま終了のストレッチを一通り行い、厨房の方に向かった。保存してある食料を取り出し、市で前日に買った野菜を洗い、保存食料を軽く油を用いて調理する。ジュウジュウと香ばしい音が響き、肉の焼ける香りが鼻を刺激する。 作り終えたそれをバリードは大皿に盛る。比率としては肉:野菜=1:5の割合だ。ただ――一人で食べるにしてはやや量が多い。 その皿を、厨房に隣接したリビング的な場所に置いてある、小家族用テーブルの中央に置くと、四つ角辺りに皿とスプーンとフォークを一式、マナーの手法通りに置いておく。そして自身はそれのうち一つが目の前に置いてある座席に座ると――? 「――ナック!ウェイ!ピード!朝飯だ!出てきな!」 「……ふぁ……」 ひょこっ、と、クオルンの寝室のドアの隙間から、可愛らしい丸い耳が覗く。少しして、顔。身長は1m40台中盤といったところ。くりくりとした瞳が可愛らしい少女だが、その瞳は寝起きのせいか、光がぼやけている。 両腕の肘から先を覆う灰色の毛は、そのままプチ熊手のようになった掌まで繋がっている。足も膝から下が同様の様相を見せている。 裸の時は胸元を覆う毛も目にすることが出来るのだが、流石にこの場所の『ルール』に則って、上には簡易な布製服を、下には太股辺りがほんの少し膨らんだズボンを身に付けている。本来はチーズっぽい外観を持つズボンを履いてはいるのだが、この場所では'危険'だと言うことで履かない事になっているのだ。 それは兎も角。ズボンの後ろから飛び出た尻尾も眠そうに左右に揺らす彼女に、クオルンは頭を掻きながら面倒そうに喋った。 「何でぇ、ピードだけか。他の二人はどうしたよ」 ピードと呼ばれた少女は、目を尻尾でこしこしと擦りながら、ゆるゆる席についてぼそっ、と答えた。 「……'死者の目覚め'が必要な世界に、二人して」 「よし分かった飯を食わず耳塞いで待ってろ」 最後まで言わさずとも、クオルンには二人の状況が十分理解できた。故に――彼の左手にはお玉が。右手には中華鍋が。そして寝室に入ってすぐ右に――熟睡した二人の……ラージマウスが、一人にもう一人がのし掛かるような姿勢で寝転がっていた。表情こそ違えど、二人とも現実世界には当分戻ってこなさそうである。 故に――クオルンは武闘家のごときオーラを漂わせながら、両手を大上段に上げ、構えた。 そして――! 「引 っ 越 ぉ し っ ! 引 っ 越 ぉ し っ ! さ ぁ 〜 っ さ ぁ と ぉ 引 っ 越 (ry)」 「「みぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」」 轟音に次ぐ轟音。ガムラン奏者が三日ほどガムランを演奏したくなくなるほどの大音量で鉄製の鍋が鳴り響き、その不規則なリズムに合わせて野太い声が反響する。そしてラージマウスの耳は集音性が高い。以上の条件により、この一発で二人の目が覚めたことは……。 「ぽえーん……」 「死ぬかと思ったぁ……有り難う御座いますぅ……」 「……」 一人は思いきり気絶している。のし掛かっていた方だ。のし掛かられていた方は、涙をほろほろと流しながらクオルンに頭を下げている。 「ナック、おめぇは手を洗って食卓に行きな。俺ぁこいつを椅子に持っていく。それまでに食事を等分してくれや」 「はいぃ……あぁ……空気が美味しいですぅ……」 感涙しまくりな、ピードよりも一回り小さな、ただし腕はやや太めのラージマウスが、とたたたたと井戸の方に走っていく。それを見届けると――。 「……ったく、毎度毎度こいつぁ……」 腹立たしげに目の前で気絶しているラージマウスを眺める。 こちらは逆に、ピードよりも一回り大きい。腹あたりを押すとぷにぷにしそうだ。と言うよりも寧ろしている。 「しえぴーちえあーえじぇえしけー……」 謎の寝言を漏らしながら、幸せそうな寝顔を浮かべる――ウェイ。クオルンはそんな彼女の腹部にチェストしてやりたい衝動に駆られたが、そこは理性で何とか抑えた。 「……そいやっ」 ラージマウス平均より重ためな彼女を、一本背負いの要領で持ち上げると、そのままリビングに運び、椅子の一つに座らせ……いや、置いたのだった。 「やけに騒がしかったね、今日は」 取り分けられた野菜にチーズを乗せるピードが、クオルンに他人事のように話し掛ける。涙目が治らないナックは何か苦情を言いたそうにぱくぱくと口を動かすが、完全にピードに黙殺されている。あぁ悲しきはヒエラルキー。 クオルンはそんなピードから素早くチーズを奪い取ると、自分のに軽く振りかけてからナックに手渡した。涙目ながらも喜色満面で受け取り、サラダにチーズをかけていくナック。 「ま、宴は今宵でしょ?仕方ないよね、流石に」 続けて聞いた彼女の言葉に、クオルンは頷きながら、水菜をうまそうに頂く。シャキシャキとした歯応えが、何とも小気味いい。 「そうなんですよぉ……だからもうウェイが『もう我慢できないのぉぉぉっ!ナック!アンタでもいいからかませてぇぇぇっ!』って乗しかかってきてぇ……ぁぅぅ」 「不可抗力ね」 「冷たっ!ピード冷たっ!少しは『御愁傷様』とか労ってよぉ!」 「ごしゅーしょーさま」 「うわぁぁぁぁぁぁぁん……!」 二人の漫談ともとれる会話を尻目に、クオルンは自らの皿に取り分けられた分の料理を平らげ、厨房の方に片付けにかかる。皿を置き終わり、席に戻る辺りで、ようやくウェイが目覚めの時を迎えたのだった。 「んむ……ふん……んあぁ……なず?」 ……相変わらず謎の言語を話す。と言うか何の夢を見ていたんだ。 しばらくは呆けたような顔を浮かべていたウェイだったが、目の前の料理を確認するが早いか、手の前に置かれていたフォークを掴んでガツガツと食い始めた。 「わ」 「あ」 流石に残り二人も不味いだろう事は気付いたようで、急いで残りの皿上の物を口に入れ始めた。放っておいたら、確実にウェイに食われるだろうからである。 毎朝の風景。だが今日は少し、勝手が違う。 「……で、本日の夜間の天気ぁどうだ?」 「雲一つない、絶好の日和です!親方!」 「風ぁ?」 「微風。特に周辺でも乱気流が起こってるわけでもないから心配ないわ」 「魔力ぁ?」 「親方ぁ……溜まりに溜まっちゃって……ねぇ、ちょっと……ちょっとで良いから噛んで良いかしら……噛ませて……噛ませてぇっ!」 「「てい」」 「ぶはぁっ!」 「……全く学習せんのか、この鼠ぁ……」 ―――――――――――――― 気絶させたウェイを三人がかりで運びながら、クオルン一行が家を出たのが九時頃。魔力を溜めたラージマウスは落ち着きがなくなるのは有名な話だが、ここまで落ち着きがないのはウェイくらいらしい。 ピード曰く、 「彼女は堪え性が無いから仕方ないでしょ。私達は加減するわよ?勿論」 ナック曰く、 「'あれ'の時ですら、よく理性を無くしますからね……私だって堪えているのに、堪える気は無いんですかねぇ……」 クオルンとしても、ウェイの堪え性の問題は正直、死活問題であった。どんなに『作品』を形成しようとしても、当人が耐えきれなくなったら襲いに来るのだ。例えそれが昼間でさえ。 その度に気絶させているのだが、正直気絶させてから運ぶのが骨なのだ。何せ――重い。他の二人と比べても、格段に重い。その上半端な位置で目覚められたら、そのまま押さえ込まれて交わる羽目になってしまう。それこそ――彼女の気がすむまで。そして終了後、彼女の体を布団にして眠ることになるのは言うまでもない。残り二名が、待っていると言うのに……。 そう言うわけで、イベントの度に、ウェイを気絶させているクオルン一行。『昏睡(レム)』と『覚醒(アウェイク)』の呪文を使えば事足りるのかもしれないが、流石に'イベント'以外で魔力を使う気は、クオルンには無い。少なくとも本来ならば、彼女が堪えればいいだけの話なのだから。 ともあれ、一行が街道上を歩いて目指すのは、ジョイレイン地方を象徴する屋敷、ジョイレイン邸だ。 「今年は何がもらえるのかしらねぇ……去年はステリア・チーズ……」 「ジパング産の瑪瑙の首飾りも良かったですよねぇ……」 はぁ……と思い出に更けるピードとナック。それを尻目に、荒野に走る街道を、ウェイを担いで歩くクオルン。その片手には何やら、設計図らしきものを幾つか付着された木の棒が握られていた。そして握る方の腕には――歯形らしきものが幾つか付いていた。 「……バショウも短期間で見知らん細道を行脚してんだ。この道を散々見知った俺がこの程度でへこたれてどうすんよ」 人間では踏破は難しいペースで各地を行脚した、ジパングの芸術家を心に留め、クオルン一行は館の裏口へと歩いていった……。 ―――――――――――――― 「お待ちしておりましたヨ、にはは〜」 一行を出迎えたのは……何と言うか、ちぐはぐな人間だった。 まず服装。左腕の袖と、右足のズボンが長く、右腕と左足が短い。ボタンの位置が右左ちぐはぐである。 靴は一見同じもののように見えて、実は左右で靴の形が違っている。しかも右足はどこか底上げされていたりするのだ。 耳のついたローブ。その耳はまるで兎のように長かった。人間の耳は顔の横にしっかりとあるというのに、何故かピコピコと動いている。 何より――顔立ちは幼い少年のようなのに、胴体から下は、貴方ボディビルダー目指してますか?ア〇ンとサム〇ン目指してますか?といわんばかりに引き締まった、隆起筋肉が服の上からでも目立つ。首から上と肩から下をコラージュしたんじゃないのか?と思わせる外見をしていた。 言動……は現時点では分からないだろうが、少なくともまともではない事は、この男と五年近く付き合いのあるクオルンには十分理解できている。性別以外全面的な信頼を置けないこの男は……。 「企画纏め及び現場設営ご苦労さんよ、'護士官'レイキン=ドランクン魔導師。俺はあれ以上望めねぇよ」 「響きがいいから」と言う理由で'護士官(ゴシカン)'という役職を名乗っているレイキン。ジョイレイン家に仕える魔導師の一人だ。因みに彼には兄がいる。マジュールと一緒にトラップを作っているラッピン=ドランクンである。 早々に市販されているゴーダチーズ数切れを前金代わりに彼女らに渡すと、レイキンは深々と頭を下げた。 「お褒め言葉、預かり至極感謝にございますヨ」 にはは、と独特の笑いを上げながら、『スタッフ』と書かれたタグを渡すレイキン。それを受け取ったクオルンは、ふと、思い出したように尋ねてきた。 「そういや、ブロックスの奴から言伝てはねぇか?'仕事は確実に'がモットーなアイツの事だ。何か連絡の一つでもあンだろ?」 起きていた二人のラージマウスは、与えられたチーズを美味しそうに食べている。それを横目に、レイキンは意味ありげな笑みを崩さずに、ブロックスから伝えられたであろう言伝てを話し始めていた。 「『今晩のサーカス関係の仕事があり、合流できません。荷物は既にレイキン氏に受け渡し済みです。開始予定時刻は恐らく'ティルナ・ノーグ'の前になると思われますので、団長さんと予定を確認してください』……だそうヨ。因みに、荷物は毎年恒例のこれヨ」 レイキンが自らのポケットから取り出したものは、密着型の軍手が一対だった。材質は不明だが、魔法的な加工が施されている。 それを何も言わず受け取り、クオルンは穴が開いていないか調べて――。 「――確かに、受け取ったぜ。サーカスは広場の辺りだな」 自らのポケットに入れ、そのまま一礼した。レイキンはそうですよ、と一言。互いに一礼。 「おら、おめぇら!サーカス団長に会いに行くぜ!」 「「了解!親方!」」 威勢のいい声と共に、クオルン一行は、サーカステントに向けて、再び石畳を歩き始めた。 ひらひらと手を振るレイキンは、そのまま何気なく時計を眺めた。時は十一時。そろそろ屋台が賑わい始める時間だ。 「――さて、楽しみますヨ〜♪」 周りに誰もいないことを然り気無く確認して、レイキンは街に出ようと前に一歩踏み出し――。 「仕事、有りますよねぇ?レイキン……くすすっ♪」 ――そのまま引き戻された。明らかに忍の格好をした何かに。 「あ……兄上、どうしてこちらにいらしたのヨ?」 いつの間にかレイキンの足元が台車のようになり、さらに言うと足が台車と同化していた。その上、上半身以外がいつの間にか固定されると言うおまけ付きで。 「そりゃ……ねぇ。まぁ予想通りなわけだけど?けららっ♪」 ひきつった笑みを浮かべるレイキンに、ラッピンは心底愉快そうな声で、当人にとって非情な命令を下した。 「にゃっははははっ♪仕事終わるまで外出禁止〜ぃ♪」 「そ、そんな殺生なのヨぉぉぉぉぉぉぉっ!」 レイキンの悲痛な叫び声が、ジョイレイン地方の片隅に響き渡った。 ―――――――――――――― 祭りの真っ只中とも言える領内では、様々な屋台が土の地面の上に組み立てられ、様々な種族の売り子が客の呼び込みを行っている。中にはキャッチセールスじみた誘い方がなされている物もあったが、次の瞬間には、 「はうぅぅぅぅぅんっ♪」 という気持ち悪い叫びと共に前に突っ伏して気絶している。出店契約書に呪いが掛けられていたらしい。 「はいはい、回収するよ〜」 手慣れたものと言わんばかりに、祭の警備員達が男を契約書を持つ店の前へと連れ去っていく。一回目は気絶だが、二回目以降はまた別の呪いがかかるという。なおそれでもしつこくセールスを行う人物及び店は――情報がないので分からないが、ろくな運命ではないだろう。 「ハニーキャロットをたぁっぷり使った、特製キャロットケーキ!」 「一片いかがですか〜♪ホールでの販売もやってまぁ〜す♪」 あちらの屋台では、ワーラビットの姉妹が、人参を手に屋台の中からフリフリ手を振っている。試食もあるらしく、ベルゼブブらしき魔物が侍らしき人物から爪楊枝らしきものを貰って口に含んでいた。その直後、 「このケーキ、ホールで三個ちょうだい!」 ベルゼブブ側からしたら加減はしたらしいが、流石にホール三個を注文された姉妹は当然ながら仰天していた事は言うまでもない。 「はぃや寄ってらっしゃい見てらっしゃい!当たるも当たらぬも運次第!外れはないよ!引き籤だぁ!」 向こうの屋台では、様々な玩具やお土産(絡繰祭入賞作品の模型が大半)に紐をつけられていた。その紐は天井近くで纏められ、まるで暖簾のように下に吊るされていた。 「ママー、一回いい〜?」 「あら、あれがやりたいの?……一回ならいいわよ」 「わぁいっ!やったぁっ!」 微笑ましい会話を交わしながら、引き籤の前に現れたのは、人間の男の子に手を引かれたラミアであった。 「ねぇねぇそこのア・ナ・タ……♪」 「アタシ達と楽しい一時を――!」 「「いあはぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ♪」」 ……十字路付近では、無許可で男性を誘っていた二人のサキュバスが、恒例の呪いによって気絶させられていた。誘われた男性は、「(今年は俺か……)」と言わんばかりの、ある種毎年恒例の行事に溜め息を吐いた。 「あらあら……。ここは『デルフィニウム』ではございませんのに……ね」 警備員に連れていかれる二人のサキュバスを、微笑ましい、しかしどこか呆れたような目線で見つめていたのは、女郎蜘蛛の花魁。 「お土産は何が宜しいでしょうか……。ハンス様やラン様には……あ、この様な素朴なものも喜ばれるかもしれませんね」 そう手に取ったのは麩菓子と、奇しくもランの故郷の銘菓であるカシオレクッキーであった。 ……間違ってもカシスオレンジではない。カシオレという植物の実を砕いて記事に練り込んだクッキーだ。 彼女はそれを買いに、高い白帽をかぶった店主の元に足を進めていったのだった。 百者百様の人間模様を見せる祭りの現場を、クオルン達は歩きながら眺めていた。ウェイも覚醒していたが……。 「……(もぐもぐ)お、旨ぇなこのケーキ」 「カシオレクッキーも美味しいですぅ♪」 「あ、あのソーセージ……何なの!?」 「ん〜?あれはスィーバオベ豚を使った腸詰めだから、あれくらいでかくて当たり前なの〜」 ……全員祭りを満喫していた。少なくともウェイは食べている間は発作が起こらないという何とも御都合主義な特性がある。 まぁでかいものを買わないと、財布の中の金が滑り落ちるように消えていくのは目に見えているのだが。 「……ソース煎餅、チョコ味で頼む」 「へい兄ちゃん、なんならサイコロ振りな。運がよけりゃ、枚数が(カラコロン)増える……ぜ?」 サイコロで見事一を三つ、同時に出したバリードは、そのまま煎餅二百枚とチョコソースを頂くと、テントの方に向けて歩きを進めていった。この時、時刻はおおよそ一時。かれこれ二時間近く、遊びに歩き回っていたのである。 ―――――――――――――― 「さって、大通りにいつも通り集客デス!っと」 人の波に従い、時おり逆らいながらテントの近くに行くと、丁度道化師らしき人物が沢山の風船と共にテントの外に現れた。表情の解らない厚化粧は、見ているものの笑いを誘うかのよう。 「わーピエロさんですぅ!」 早々にピエロに突進するナック。道化師の目の前に立って、風船に目を輝かせるその姿は、サーカスを待ち望む人間の子供と何ら変わりがない。 早速風船をもらっているナックの背中を眺めながら、ピードは呆れたような、どこか嫉妬の色が混じった溜め息を吐く。 「全く……ナックはお子様なんだから」 「おめぇも混ざって良いんだぜ?俺らの仕事は夜だ。風船をねだる時間的余裕くらいはあンだぜ?」 「べっ……別に欲しくなんか……」 口ではそう言うピードだが、その顔はどこか羞恥で赤く、その耳は恐ろしく忙しなく動いている。噛みつく直前レベルにまで、ピクピクピクピクと微振動を行っているのだ。 「じゃあ命令するぜ。ピエロんとこに行けや。ずっとそわそわされちゃ仕事にもなりゃしねぇよ」 「!……そ、そうよね!親方の命令なら仕方ないわよね!そう!これは仕方ないのよ!」 やたら自分に言い聞かせるように呟きながら、ピードもピエロの元に風と共にレッツゴーしていた。 ちなみに……ウェイはスィーバオベ豚を使った腸詰めをはむはむと一人で食べている。酷く大食いなやつだ、とクオルンとしては思わずにはいられない。 「……さて」 頃合いを見計らい、クオルンは、サーカスの関係者に団長の話を聞くのが手っ取り早いと言うことで、二人が退いた後で、そのピエロに話を伺うことにした。 「あぁと、俺はクオルン=キャルフ。祭りに参加することになっているものだ。あんたんとこの団長に、ちょいと出し物について相談があんだが――団長の場所を知らねぇか?」 クオルンの敬語の欠片もない質問は、しかし特に咎められる事もなく返答を頂くことになった。 「団長はァ、今別の場所にて先にビラを蒔いてェおりマス」 返ってきたものは、クオルンにとって意外な答えではあったが。 「なんと……いつ帰ってくっか分かっか?」 首を横に振るピエロ。思うようにならねぇな、とばかりにクオルンはがっくりと肩を落とす。せめて副団長の位置くらいは確認しておこうと、再び声をかけた。 「んなら……副団長はどこにいンだ?」 「私ですゼイ」 「なんと!」 まさか道化師が副団長をやっているなどとは思いもよらず、思わず顔を驚愕に歪めるクオルンの前で、大袈裟な身ぶり手振りを加えて道化師は自己紹介を始めた。 「団長のマーク=レラツに代わりましてェ、副団長のわァたくしィ、エイジェイ=ブラックが相談を受けまショウ」 ……何故か彼の背後で、トランペットの音が盛大に鳴り響いたがそれはさておき。まぁ考えてみれば、時として他の出演者の演技に乱入する道化役は、他の演技や演技者の特性を知る必要がある以上、副団長には最適ではあるのだが。 「済まねぇ。失礼な顔を浮かべちまった。この通りだ」 直ぐ様頭を下げるクオルンに、エイジェイは表情を特に変えずに、すっと言った。 「イエイエ、慣れてますカラ。見に来てくれたら許しマス♪」 中々に強かな男である。 「考えておくぜ……開始時間は何時だ?」 「ハイ、旧来の予定通り二十時でゴザイ」 となると開始は一時間前。クオルン一行の準備までには十分時間がある。――今年も上手く行きそうだ。 「ありがとよ!じゃ、そっちの合図で始めっからよろしく!」 「ええ、こちらからもヨロシク」 テント前、三人のラージマウスに見守られながら、男二人は握手を交わし、クオルンは現場に向けて立ち去っていった……。 「……不安は表に出さない、どんなときでも笑う、それが道化なのでィす。団長……」 一行が過ぎた後、誰にも聞こえないようなか細い声で、自嘲気味の笑みを浮かべながらエイジェイは呟くのだった。 呟いた時の時刻は、おおよそ二時であった。 ―――――――――――――― 「……蓄魔機……マーク3……だと?」 つくづく妙な名前だ、とクオルンは思う。だがこれこそが彼がブロックスに協力することで毎年使わせてもらっている'絡繰'だったりする。 「新型……みたいですねぇ……」 さながらミルクを運ぶ金属の巨大な容器のような、銀光りするその物体には、目盛付きのメーターらしきものが付属していた。どうやら内部の魔力量を映し出すらしい。 「確か去年がぁ……蓄魔機・改だったわよねぇ〜……」 去年よりも、格段に目盛の数字が増えている辺り、領内の技師が本格的実用化に向けて頑張っているらしい。 本来は魔導師勢の、戦闘時の魔力の枯渇を防ぐための道具として開発されたものであった。未使用の魔力を貯めておける点、それが減少せず保つ点は評価されたが、一番のネックはその重さ。重戦士が持ち運ぶような重さである。少なくとも、軽戦士にすら筋力で劣る魔導師が持ち運べる筈がない。 しかし、重さを減らせばそれだけ充填できる魔力量が減少する上、破壊による魔力の暴走の発生率も増える。 魔導師自体の持つ魔力が誘爆してしまう可能性もあり、迂闊にその重さを変えることが出来ないのであった。 軽さか、充填量と安全か。悩む技師にマトシケィジ公爵子息は、こう告げたという。 『材料にも寄るが、二種類発展させりゃァ良いんじゃねェか?そこまで数ァ作らねェんだろ?』 魔術師ラッピンはそれを耳にして、弟のレイキンに、こう呟いたらしい。 『全く、ケィジらしいといえばらしいよ……くすすっ♪』 ともあれ、公爵子息の鶴の一声で始まった開発は、結果として単純なサイズの大小による調整の限界を発見し、尚且つ互いの妥協点に気付くことで、ある程度の軽さと充填量を兼ね備えた蓄魔機・改が完成したのである。 「前回のあれを……改良したのよね……」 前回の時点でも、相当使い勝手は良かった。初期のものよりも持ち運びやすさを追究し、それでいて充填量を増加させた蓄魔機・改。これにより作業中のクオルンの負担が減少するのみならず、より効率的に作業することが出来るようにもなった。恐らく材質と、内部の術式を組み替えたのが大きいのだろうが。 これを改良した今回の蓄魔機マーク3。果たしてどれ程のものなのか……と考えるより前に、まずやらなければならない事があった。 「……ナック、ピード、ウェイ。限界か?」 既に徐々に息が荒くなっているラージマウス三人衆。ある程度の理性で抑制していたとはいえ、ここ一ヶ月は噛み付かせてはいない。 「……そりゃ……そうよ」 「……まだ……何とか……でも……」 「……煎餅……あと五枚……」 相当魔力が貯まっているのが、第三者の目から見ても分かる。耳は常に忙しなく動き、身ぶりも明らかにそわそわしている。ウェイの煎餅の消費スピードも上昇傾向だ。 「……あと一分……起動まであと一分。そしたらナック、ウェイ、ピードの順で、この絡繰に注ぎ込んでくれや。ただしウェイは二分ぐらい残すよう加減しな」 蓄魔機のセットアップをしながら、クオルンは「すまねぇ」という呟きを混ぜて命令した。ラージマウス三人衆は、三者三様の返事をし、何とか体の疼きを抑えようと気を張った。 その間にもクオルンは次々とテンポ良く絡繰をセットアップしていき――中の魔力ランプが全て緑に点灯した。 それを目視で確認したクオルンは、『in』と書かれた取っ手を手袋をした手で握り、左手を――歯形のついた左腕をピードに向けて伸ばし――叫んだ! 「待たせたなぁ!ナック!ウェイ!ピード!思う存分、俺に魔力を流し込みやがれっ!」 右手の手袋、それは魔力を集中させ、放出する術式が組み込まれている。元来魔力はそこまで保持していないクオルンだったが、それ故に魔力のコントロールに長けていた。 彼女達の歯から、クオルンの体内に流し込まれた魔力。それのみをクオルンは右手の手袋から体内に流し込んでいく。 「は……はいぃぃぃっ!親方ぁぁぁぁぁぁっ!」 何とか理性で抑えていたらしいラージマウス達の心の箍が、ここで一気に外れることになった!既に発情を抑えられなくなったナックが、ふらふらしていた直前の挙動からは想像できないような速度でクオルンの左腕に迫ると、歯形に歯を合わせ――思いきり噛みついた! 「――〜〜っ!」 筋肉に針が押し当てられるような痛みに顔をしかめるクオルンの横で、ナックは瞳に涙を浮かべ、解放感に笑みを浮かべながら、歯をクオルンの皮膚の奥へと差し込むように突き立てていく! 「――〜〜ぅぉらあああああああああああああっ!」 その間にクオルンは魔力の流れ道を左から右腕――そして右手袋に繋ぐと、『in』の取っ手をさらに強く握りしめた! じり……じり……と、メーターの目盛は上昇していき……大よそ一割五分のところで止まった。昨年度の蓄魔機・改では三割であったので、容量は倍近く上昇しているようだ。 「……ふぁ……ふぁぁ……」 体内に貯まっていた余分な魔力を放出し終えたナックは、脱力したように地面にへたり込んだ。その顔は、どこまでも喜びに満ち満ちている。 「つぎはぁ……あたしぃ……よねぇ……っ?」 煎餅の食べかすとチョコソースの残りを舌先で弄びながら、ウェイがふらふらと近付いてくる。その前歯は、先程大量のものを口に入れたというのに、その滓一つ見つからない。いつの間に磨いたのか、それとも全て舐め取ったのか。 「――っ。あぁ、ウェイ。噛み方は加減しやがれよ?」 大量の魔力を体に馴染ませながら伝導させる行為は、当然体力を相応に使うことになる。故にクオルンはトレーニングを欠かさないのだ。それは――この生業を伝授した師からの教えでもある。当時より技術も格段に進歩したとはいえ、重要であることには変わりがない。 「分かったわぁ……ふふ……限界を越えるとぉ……こんなにも落ち着くものなのねぇ……ふふっ……」 既に視線が定まってないかもしれない彼女は、しかしクオルンの場所を目指して正確に歩みを進め、歯形が深くなった腕に体重をかけた。 「おいウェイ!テメェせめて膝立ちになれ!腕が折れる!」 地面に引きずり落とすように一気に全身の体重をかければ、残りの二人は兎も角ウェイの場合は筋断裂くらいは覚悟しなければならない。 声に反応してか、ウェイは咄嗟に姿勢を立て直し、膝立ちをした。関節が逆に曲がる心配がなくなり、痛みに顔をしかめながらもクオルンは安堵の溜め息を吐く。 「あぁ……親方ぁ……ごめぇんなさぁい……」 どこかふわふわした喋り方のまま、ウェイはクオルンの左腕にある歯形に前歯の先端を合わせて――。 「んふふぅ……一気に注ぎ込むわぁっ!」 ――歯を軽く当て、魔力を腕の方に流し込んだ! 「――〜〜っ!くあぁぁぁぁあああああああっ!」 腕の痛みはない。むしろ先程よりも随分と軽減はされている。だが――問題はその魔力だ。 ウェイは他のラージマウスに比べ、段違いに魔力の蓄積量が多い。それこそ、最大でナックの六倍は溜められるという。そしてその上限は、今も上昇している。 その大量の魔力を、一気に左腕に受けているのだ。クオルンによる処理能力の限界を超えかねない量の魔力である。フェロモンのような効果は兎も角、魔力自体の持つ引力に、人間の精神が引き摺られかねないのだ。 それを、絶叫することで精神を保つクオルン。それはさながら、酸欠による転倒を防ぐために、投擲後に絶叫するハンマー投げの選手のような姿であった。 「あああぁあああぁああああっ!」 「んむんんんんむんふんんんっ!」 通常であれば針がさらに三割、あるいは四割(改はウェイ一匹で残り七割埋め、さらに魔力が残っていた)ばかり目盛が埋まればいいところを、メーターの針が六割を越えてもその勢いは収まらなかった。必死で魔力を蓄魔機に送る。ウェイは貯めた魔力を懸命に送り続けている。 一人の少女が受ければ身も心も完全にラージマウスへと変化してしまうだろう量の魔力を、恐らくは四・五人分受けてるクオルン。その額や背中には汗が珠のようになって流れていく。ウェイも、何とか正気を保とうと、脚に力を入れ直す。 全てを満たすまで終わることがないと思われたその行為は……。 「――っはぁっ……はぁっ……ウェイ……おめぇ……っ、八割にしろ……っつったろ……」 「……ひゅぅ……ひゅぅ……はぅ……ひゅう……」 現在の目盛、九割五分。ほぼ、生存に必要な量を除いて注ぎ込んだ結果が八割である。……ある意味間違ってはいないか。 「……最後は……私だけど……親方……体力は……ある?」 腕からずり落ちるように地面に倒れたウェイを越えるように移動し、クオルンの目の前に移動したピード。彼を心底心配しているその瞳には、まだ理性の色がありありと見える。 「……バッキャロー。俺様を誰だと思ってんでぇ。伊達に毎朝10kmもマラソンしてねぇぜ……ただ、加減はしやがれよ……」 一方のクオルンは口ではそう告げてはいるものの、既に限界ギリギリの状態だ。瞳の中の光が、既に薄れかけている。 魔力を自らの体に一時的に浸透させ、作業前に『馴らす』行為ではあるのだが、当然『馴らす』以上身体的影響は避けられない。 引力を振り払うことに精神力を費やしてきた分、媚薬効果の効果を真っ当に受けてしまうのだ。今は理性が何とか勝っているが……? 「……分かった……というより……私も限界なの……っ!」 ピードの瞳の理性が、揺らぐ。腕をしっかりと手で握ると――幽かな理性を働かせ、他の二人よりも優しく噛み締めた。 「――っ!っく……」 ゆっくりと、少しずつクオルンが御しやすいように流されていく魔力。ともすれば意思を本能が捩じ伏せて動きかねない体を、クオルンは強靭な意思と気力で支配下に置き、右腕に力を込めて魔力を蓄魔機に充填していく……九割六分……七分……八分……九分……! 「――おし!止めろ!」 「!!っはぁっ!」 ――十割。丁度満タンまで貯めた辺りで、ピードは己の歯を離した。彼の腕に、今まで以上にくっきりと残った歯形。その腕をハンケチで優しく拭き取るその姿は、どこか甲斐甲斐しい女房を思わせた。 「……っはぁ……っはぁ……毎年の事とはいえ……体は順応しねぇな……」 「……っはぁ……仕方ないでしょ……魔物の体が……どう進化してると……思ってるのよ……っはぁ……」 お互いに満身創痍のように見える呼吸をしている。だが実際……疲れ以上の要素が二人を支配している。 「……いつも済まねぇな……仕事ん時は……おめぇばっかり相手して……よ」 クオルンが、ピードの正面に回り、肩を押して地面に押し倒す。その瞳は……既に光が濁っている。 「……別に……気にならないわ……魔物だもの……それより……親方もそうだけど……私も限界よ……!」 ピードは自らのズボンを下ろしつつ、クオルンのズボンのベルトを外し、下着ごとずり下ろした。 びゅいん、と音がしそうなほど勢い良く、彼の股間から反り立った物体がある。赤々しく腫れ上がり、雄々しく、固く、太く膨れ上がった、先端に穴の空いたつくしんぼ。それが瑞々しく拡がる、薔薇を思わせる肉の花弁の前に無防備に晒された。いや、それが男の持つ武器である以上、防備する必要もないのだが……。 「……さぁ……挿れて……挿れてよ……早くっ!」 もう耐えられなくなったのか、絶叫しながら自身の秘部を大きく拡張するピード。桃色の肉の花弁は、目の前の凶器を誘い込むかのように、細かく震えている。 必死に叫ぶピードの声に、咄嗟に反応したかのように応える――クオルン。 ずぼぉぉっ! 「!!!!んぐんぁああっ!」 「……っぐっっ!」 クオルンの持つ狂暴な逸物は、クオルンより一回りも二回りも小さい少女の膣の中に、難なく挿入された。本来はキツキツの筈の膣が、魔物だからだろうか、逸物に絡み付くようにぐねぐねと蠢き、精を搾り取ろうとする。 ラージマウスの魔力が馴染んだ体は、魔力に含まれる催淫効果を盛大に体へと巡らせ、クオルンの体を盛大につき動かす! 「んっ!んはぁ!んはっ!あはぁっ!」 「うっ!うんんっ!くっ!んぐっ!」 ぱつんっ、ぱつんっ!腰を盛大に打ち鳴らす度に、二人の吐息は同調し、それがさらに二人の感情を昂らせていく。身長及び体格差のせいで、ピードの吐息はクオルンの胸に当たるが、それが明確な発情香を皮膚から吸収させていく行為となっている。――クオルンの体を巡る淫気が、その多くを逸物に収斂させてきた! 「――っくぅっ!ピード!いくぞっ!いくぞぉぉっ!」 「はぅあっ!お、おやかっ!親方ぁっ!いいよぉっ!きてっ!きてぇぇっ!」 クオルンの逸物が、射精直前のわななきを繰り返し始めた。交わりの終了が近いと感じた二人は、お互いに激しく腰を動かし始めた!クオルンが腰を引けば、ピードも腰を引き、クオルンが腰をぶつければ、ピードも腰を打ち付ける。 子宮を穿つ程に硬化した、強大な質量を持つそれが、相対的に最高速度で打ち込まれた時――! 「――く、あああぁぁぁぁぁああああああああああっっっ!」 「い、いっくぅぅぅぅぁぁああああああああああっっっっ!」 びゅるっ!びゅるるるるるるるるるるぅ〜っ!どくん……どくん……。 淫気が変化したかと思うほどに大量のスペルマが、両者に絶大な破壊力を誇る絶頂の快感を伴いながら、ピードの子宮に叩き込まれた! それは三十秒にも満たない時間だったかもしれない。だが――少なくともこの二人の中では、永遠に等しい時間、それが持続しているように思えた。 永遠にも近い快楽を、脳に叩き込まれた二人は――繋がったまま……果てた。 時刻は、四時。仕事開始まで、あと三時間であった……。 ―――――――――――――― 「……ん。んん……っ」 クオルンが目を醒ました時、視線上の夕日が山に沈みかけていた。そろそろ時間は五時のようだ。時計を見ようとして――、 「……お……」 いつの間にやらクオルンとの交わりに残りの二人も混ざり合っていたらしい。そう言えば、妙に体が重いと彼は感じていた。恐らくは……ピードを引き剥がして身を重ねたのだろう。甘い香りがすることから、唾液も飲まされたに違いない。あと、所々余分な歯形が付いているところから、恐らく甘噛みもされたか……。 「……」 地面は兎も角、ふよふよしたウェイの腹枕や、一肌より幽かに暖かいピードとナックの体布団が、心地よくクオルンを包み込んでいた。再び眠りを誘いかねないその甘美な誘惑を――。 「……そぉいっ!」 ――気合いで抜け出すクオルン。左腕に絡み付いているナックを払い除け、横腹筋をフル稼働させて起き上がり、ゆっくりと――挿入された砲台を抜いた。 ずるり……と鈍い音を立て、ピードの愛液にまみれたそれが、多少固さを保ったまま現れてくる。つくづく貪欲な奴だ、と自分に呆れながらも、クオルンは手袋を取り、飲用の水で濡らしたハンケチで、ベトベトになったそれを軽く拭くと、準備を始めるために、まずは下着とズボンを身に付けることにした……。 ―――――――――――――― 「……うっし。いい空だ。飛ばすにはうってつけじゃねぇか」 「風も良好よ、親方」 「あ、エイジェイさんから連絡来ましたよぉ〜!『通常通り、そちらは七時からお願いしマス』だそうですぅ」 「で……何を飛ばすかのリストも、こちらにあるわぁ。読み上げていくわねぇ」 「――おっしゃ!'ブラストファイア'玉鍵隊の炎戯、見事魅せてやろうか!せーの……」 「「「「『今年も夜空に花咲かせましょ!』」」」」 ―――――――――――――― 「初手、赤大玉一発!」 ウェイの叫びに、『out』と書かれた蓄魔機の取っ手を、クオルンは手袋をした左手で強く握る。左手袋は、蓄魔機の魔力を吸収し、体内に浸透させる術式が組み込まれている。 「応よぉっ!」 軽く吸収した魔力を、腕を伝導体にし右手に握る杖に注ぎ込む。すると――杖の先に、何やら火の玉が現れ始めた!従来よりも赤みが強い炎球が、杖の先端で徐々に巨大化していく! 「上空には何もないですよぉ」 オペラグラスらしきもので空を眺めながら、空中に不純物がないかを確認するナック。その声に応えるかのように、クオルンは高らかに叫んだ! 「おし!本日の第一発!盛大に尾を引け――『天翔(バックファイア)』!」 どひゅるるるる〜〜ぅっ! 空気が炎に焼かれ、引きずられるかのような音が、祭場に、いやジョイレインの領地全体に響く!夜は静けさを運ぶが、それ故に、音は盛大に辺りに反響するのだ! 尾を引いて、天へと昇る火の玉。それはさながら雲を目指す火竜のようにも見てとれた。その尾が段々と小さくなり……! 「五・四・三・二・一!」 「――『爆破(ブラスト)』ォォォォっ!」 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォ…………ン 巨人が大太鼓を叩いたような轟音が、夜空から地面へと空気の振動を盛大に伝える。身を震わす、衝撃とも言える重低音とは対称的な華やかな光の花が、星々に代わって夜空を照らす光となる。 「次、枝下五に牡丹三!」 「おいしゃっ!『天翔(バックファイア)』ッ!――『拡散(スプ レッド)』ォ!そして『爆破(ブラスト)』ォ!」 リボンのごとく垂れ下がる、黄色の炎の上で、橙や緑の花がドンドンドンと咲き乱れていく。色とりどりの花が、空に咲いては枯れていく。一時に咲く巨大な花、その輝かしさと儚さを、恐らくジパングの民は愛したのだろう。 「次、大達磨一鳳仙花十!」 そうクオルンの師は、そのまた師匠に教えられたらしい。その師もそのまた師匠に教えられ――大元の、ジパングから花火を伝えた魔術師、グラバンマ=バッギーグに繋がっていく。 そしてクオルンもまた、師にそう教わった身だ。加えて、花火を打ち出すうちに、自らもそれが真理であると改めて理解した。 生とは宛ら花火の如し。故に――! 「おうよぉっ!華やかに行くぜぇぇっ!」 ――派手にやろうじゃないか。 '花火魔術師'クオルン。彼の花火は、火薬を全く使わない。だが、彼の心にはいつも、熱意の炎が宿っているのだ。 さながら、華やかに空に咲く花火のように……。 fin. ―――――――――――――― おまけ1〜動力〜 「そう言えば館長?」 「何だい?」 「うちの博物館のトラップの魔力って、どこを供給源にしてるんですか?」 「ん?そもそも罠の維持自体には魔力は殆んど使わないから、この辺り周辺に群れを作ったラージマウスに蓄魔機を」 「あーはい良く分かりました」 「あちらからしたら魔力の処理にうってつけだし、こちらからすれば住民のマウス化が防げる。そして魔力が有効に使える!一石三鳥ではないか!」 「……まぁ確かに」 おまけ2〜ミミックの型番の決め方〜 「どうも、ここは俺が説明するぜ。 説明に当たってはムクの型番を例にしよう」 269339 「これがムクの型番だ。そのうち……。 『2』 頭に付いたこれが性別を表す。昔は『1』もあったらしい。 『69』 この部分は完全に乱数だ。数字のみならずA〜Zまで入る。そして……。 『339』 ミミックの当て字らしい。……このまま行くとそのうち型番ダブるんじゃねーのか?」 「心配ないですよ、ご主人様。その説明だと一つ間違いがありますから」 「ん?」 「最初の『2』も含めて乱数ですよ?」 「いきなり設定変えやがったな作者!?」 「……まぁいい。あと型番の前に付く英字の話だ……ムク」 「はい、ご主人様。 えぇとですね。これが特化された技術を表すのは前に説明した通りなのですが、それが付加されるのは、 ・ミミックの子供(になった)場合はランダムに、 ・相手がミミックになりたかった場合はその望みに一番近い英字が、 それぞれ付加されます」 「能力の遺伝はねーのか?」 「エッチな方向でのそれならば」 「それは種族的に元々だろうが!……うちの娘は何になってるのやら……」
fin(笑)
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