「ラヴィーネ2番隊戦記」シリーズ
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「・・・無事か!?」

「落ち着いてください、副隊長。」

焼け残った陣屋にシュナイダーが入ると、治療役であるレクシスの部下シィレスが術をかけてレクシスの火傷などを治している。

青い光が焼け爛れた部分を元の色へと戻していく・・・すうると、シィレスがふぅと一息ついて座り込む。

「とりあえず・・・傷の具合は少々酷かったものの何とかな。」

「・・・あぁ。」

レクシスがいきなり起き上がろうとするが、部下がそれを押しとどめる。まだ怪我が酷いらしい。

「・・・ちっ。この程度とはな。俺もずいぶん腕が落ちたものだ。」

「レクシス・・・大丈夫なのか?」

シュナイダーが不安げに話しかけるが、レクシスは大丈夫だと応える。治癒唱術である程度は回復させたが、まだ体内の傷は残っている状態だ。

「明日までの安静が必要です。下手に動くわけにも・・・」

シィレスが動かすわけには行かないというとシュナイダーも止むを得ないなとうなずく。するとレクシスがシュナイダーに言う。

「・・・支援は出来ないが、追撃するか?」

「何?」

「そろそろ雨が降る・・・馬車の動きは鈍るだろう。ハーピーで速攻を仕掛ければ何とかなる。もっとも部隊は貸せないが・・・な。」

追撃するかどうか・・・シュナイダーは少しだけ選択肢を考え直す。追撃すれば今すぐに奪還できる可能性もある。

もっとも深追いするのはかなり危険なことでもある。指揮官が負傷し、動かせない状況では難しいものがある。

「・・・どうする?」

レクシスの言うとおり雨が降り始める・・・それも豪雨。一気に道がぬかるみ敵の進軍が遅れるだろう。

シュナイダーはグレイヴをとり、すぐに外にいるハーピーのリファに話をつける。

「行くつもりか・・・気をつけろ。怪我が治り次第追撃する。連中の目標は中央だ。その城内での戦闘にもなりかねんな。」

「ああ・・・!ラヴィーネの兵に弱卒はいない、俺だってそうだ。ここで退くような奴は俺達の部隊にいない!」

グレイヴをシュナイダーが掲げると、陣屋にいた兵員も一斉に歓声を上げる。気持ちは十分伝わったため、シュナイダーはグレイヴをリファにつかませる。

「行って来る。後詰は頼むからな!?」

「任せろ。」

「じゃあ、行きます!」

リファが元気よく返事をして飛び立つ。蒼い髪の毛に翼は白。ハーピー用に空力特性と重量に気を使った軽い鎧をまとっている。

羽に固定された剣もあるため接近戦も可能・・・人と友好的な種族ゆえに専用の武装なども正規軍では数が揃っている。

雨粒があたるのも気にせず、一気にリファは駆け抜けていく・・・相当なスピードが出ているようだ。おそらくレシプロの戦闘機など軽く超えているだろう。

 

「だ、大丈夫なんだろうな!奪還になど来ないだろうな!」

ぬかるんだ林道をゆっくりとした速度で進みながら馬車の中で隊長が周囲の兵士に尋ねている。

「おそらくは。この雨でぬかるんで行軍が難しいのは敵も同じ。馬車のほうがある程度早く進めます。じりじりと引き離せるでしょう。」

兵士が隊長にまっとうな意見を述べ、隊長も安心する・・・確かにまっとうな軍勢なら行軍に時間がかかるだろう。

が、この兵士は相手がナーウィシア解放軍と言うことを失念している。人ならばそれくらいの時間はかかるのだが・・・・

「な!?」

天井に何か音がして、いきなり真上からグレイヴが突き出され兵士の1人の脚をそのまま貫く。

兵士が絶叫しているところにナーウィシア解放軍の将校とハーピーが乱入すると迅速にグレイヴや剣を兵員に突きつける。

「な!?」

「応戦する間は与えないのでな・・・!お前達、フェルアから預かった囚人は何処だ!」

味方を人質にとられ、手出しが出来ないシェングラス兵はシュナイダーとリファに対して抵抗できるはずも無かった。

剣を首元に突きつけられ、あっさりと隊長が白状してしまう。

「こ、この車両は囮だ!本物は別ルートで運んでいる!本国ではなく自治領のブレウィス領だ!」

「た、隊長・・・そこまで吐いて・・・」

兵士が隊長に忠告するが、すでに情報は言い終わった後だ。シュナイダーはしっかりとメモを取っている。

「悪いな。リファ、ブレウィス領まで飛んでくれ。」

「卑怯な・・・ハーピーを使ったのか!」

兵士の1人が大声を上げるがシュナイダーは半分受け流すと軽く応える。

「悔しかったらお前達も真似してみれば良いんじゃないのか?」

「く・・・」

シェングラスの軍という体面上ハーピーなどを使うことは出来ない・・・シェングラスの兵士が悔しい思いをするとシュナイダーはリファの脚につかまる。

「まぁ、ここなら夜盗も出ないだろう。代わりに魔物は出るらしいがな?」

「ちょっと待て!それでは・・・」

「命をとられるかどうかはお前達次第だな。じゃあ、行くぞ?」

シュナイダーはそのまま屋根に開いた穴から飛び立っていく・・・のこされた兵士達はおろおろするばかりだ。

無論魔物が恐ろしいと聞かされているからだ・・・2名くらいの兵士はにやけた顔をしているが、彼らは夜のほうも百戦錬磨なのだろうか?

 

 

「ブレウィス領・・・裏切ったというの?」

「裏切ったのか?本当に。」

リファが彼らの報告を聞いて驚かざるを得なかった・・・ブレウィス領はイーゲル領北にある自治領。シェングラスとの外交宥和政策派であり穏健な態度をとっている。

彼らが裏切るはずはない、シュナイダーはそう思うとリファをたしなめるように言う。

「奴らとブレウィス伯、どちらが信用できる?」

「え?」

「敵の語る言葉に嘘が混じっているかもしれない。それにシェングラス軍のフェルアは謀略の達人だ。あの隊長が嘘をついていなくても、フェルアが味方すら欺くことも考えられないか?」

それもそうねとリファがうなずく。こういうときはたいてい味方に気を配りながらも信頼するべきだ。

「切り崩すためと時間稼ぎの両方?」

「そうだな。俺はブレウィスで降りて情報を探る。リファ、お前は本隊から部下を呼んできてくれ。一応ブレウィス伯を調べる・・・それと、潜入用の装備を調達してきてくれ。」

「はっ。」

リファはそれだけ言うと市街地近くでシュナイダーを投下し、そのまま飛び去る。まだシュナイダーはブレウィス伯が裏切ったとは信じられないし、それが事実かどうかすら分からなかった。

一体何があったのだろうか。とりあえずはフェルアの動きを探るためにブレウィス領市街地へと入る。

「・・・相変わらずか。」

活気付く市街地にシュナイダーは特に異変というのも感じられず情報収集をすることにする。やはり馬車やその系列が通ったかどうかというのが欲しい。

 

「姉さん、ここにいた?」

ブレウィス領、その地下に広がる古代文明の都市・・・翼の民が作ったとされる広大な空中都市の残骸の一角に水色のショートヘアー、緑色の瞳に白衣を着た少女が来る。

「リシス?お久しぶりです。またどうせ実験材料を探しているとでも?」

「あたり。」

リシスと呼ばれた少女は笑顔で答える。フェルアははぁとため息をついてリシスに早く立ち去るように言う。

「どうしてさ?フェルア姉さん。」

「今作戦中ですよ・・・尾行されてたらどうするんです?」

「それなら記憶を消して、その辺に放り出せばいいじゃない。」

確かにとフェルアがうなずくと、リシスは牢獄に入っている面々を見つける。部下が護衛して労に厳重な鍵を施し、術を上掛けして出られないようにしている。

「フェルア姉さん、実験に1人だけ貸してくれない?ちゃんと元通りにして返すから。」

「ダメです。人質なんですよ?貴方の実験のために・・・」

実験の内容がかなり恐ろしいゆえにフェルアは首を振っている。彼女の実験は明らかにシェングラスへの反逆行為であり彼女を危険にさらす・・・まして自分も罪に問われかねない。

シェングラス本国の異端審問官をこの手で何度葬って妹を助けたかも分からない。連中は聖職者でありながら公正な判断すら出来ず権力に手を貸す。だから殺しても問題は全くない。

「いいじゃない、姉妹でしょ?」

「・・・リシュアの方がマシですね、妹でも。とにかくお断りです。返すときに傷物とか、そういうことになっていると困るんです。」

「え?」

「彼らにはやることがあるんです。貴方にも私達にも危険です。もしそれほど欲しいならこれから来るナーウィシア軍の人を使えば良いでしょう。」

「ナーウィシア?」

リシスがちょっと困ったような顔をする。魔物ではこの実験は成り立たない。あくまでも精強な人間でなければ困る。

「屈強な人間ですよ?シュナイダーとか言う・・・すでに別働隊に引っかかりましたが、ハーピーで移動してここまで来たようです。」

「ま、どっちでもいいけど?でもなぁ、ガチの勝負で捕まえるの無理だし・・・」

「弱ってからで良いじゃないですか。とりあえず、ボロボロにして捕まえたら貴方にあげますよ。瀕死でもいいのでしょう?」

「まぁ瀕死だとやりやすいの否定しないし。違うデータも取れて一石二鳥・・・ありがとね?」

リシスが笑みを見せ、フェルアはもうこれっきりにしてくださいよという。何処でどう狂ったのか分からないが、役立つこともしてくれるし何よりも可愛い妹だ。

だからあえて止める真似はしていない。彼女は危険だが「実験で使った者は望まなければ最低でも8割は元に戻す」という信条だけは貫いている。

シェングラス側でも魔物の生態などを調べられる数少ない科学者だ。独自に図鑑もまとめて絵やキャプションまでつけて大量に売りさばいたという。

「じゃあ、とりあえず連絡してね?」

「分かりました。」

リシスはあっさりと透過「インビジブル」で消失してしまう。ケープなしでの消失はかなり高度な術が必要だ。

元気そうでフェルアは安心したが、実験の内容を見てこれは本当に大丈夫なのかと恐れてもいるようだが。

 

「・・・本当なんだな?」

「ああ、間違いは無い。シェングラスの一団がこの市街地にある地下遺跡の入り口に向かったのを見た。馬車も引き連れてだ。」

分かったとシュナイダーがうなずくと、情報提供者であるリザードマンの傭兵にわずかな金を渡して立ち去る。相変わらずの豪雨で夜が明けたかどうかすらも分からない。

とりあえずブレウィス伯には何の動きも無く、ただシェングラスの軍勢がここに逃げ込んできただけらしい。杞憂で助かったとシュナイダーが胸をなでおろす。

するとリファが息を切らせながら飛んでくる。どうやら解放軍本営までかなりのスピードで飛んできたらしい。

「はぁ・・・伝えてきたわ。シュナイダー・・・」

「ご苦労。さて・・・こちらも場所は分かった。地下遺跡に向かうぞ。」

「え!?」

いきなり敵本拠地に突撃する・・・リファはびっくりして無謀な考えを改めるようにシュナイダーへと進言する。

「相手はフェルアよ!そんなところに突撃するなんて自殺行為じゃない!」

「連中は奥深くに陣取っている。状況偵察程度だ。突撃は本隊合流を待ってからにする。リファは連中が進撃したら強行軍を編成するように伝令を頼む。」

「・・・・シュナイダーは?」

「俺は何とか時間を稼ぐ。」

すると、いきなりリファがシュナイダーに羽で平手打ちを喰らわせる・・・一体何故殴られたのか分からない様子でいるシュナイダーにリファが怒鳴りつける。

「1人で突っ走って無茶しないでよ!帰りを待ってる人だっているし、レクシス司令だって貴方のことを気にかけてる!」

「だが、こうするしか・・!」

「そんな無茶させない、どうしても死地に赴くなら私も一緒!」

リファがシュナイダーへと泣きつくと、シュナイダーは仕方ないなと抱き留め返す。解放軍入隊当初からの付き合いであり、結構仲がいい、

解放軍はここ最近激戦が続いている。だからこそリファはシュナイダーだけは失いたくないようだ。

「・・・分かった。」

「本当?二度と突っ走ったりしない?」

「ああ!リファ・・・俺達で何とかしよう!」

軽くリファもうなずくと、2人は直ちに町外れの地下遺跡入り口へと向かう。町から出てそう時間がかからない位置にある。

早速泥が跳ねるのも気にせず町外れへと走り、平地に突き出たダクトへと入っていく。

「・・・鉄の通路?」

リファがそんなことを呟く。明らかにウィングルアの文明ではなく機械文明と言った風情の通路だ。

均等に楕円形で、何処までも続いている・・・少し疑問に思ったのか、リファがシュナイダーに訊ねる。

「この文明、いつの?」

「ウィングルアの古代文明・・・翼の民と呼ばれた人達が作ったらしい。翼の民・・・まぁ翼人だな。天使とかそんな外見の連中だ。」

リファがふーんとうなずいてみせる。翼の民はつい最近までウィングルアにも住んでいた・・・が、シェングラスがナーウィシアとの戦争を始めたときシェングラス側が皆殺しにしたとされる。

「私たちそっくりね?」

「まぁ、飛べるという点ではな・・・ただ連中が最初の魔王という噂もあるくらいだ。」

「え?嘘・・・」

「数が少ない上に高度な文明も持っていたという話だ。周辺各国が狙って侵略する可能性もある。だから身を守るためと注意をそらすために魔物を作ったとか・・・どっかの学者が言っていた。嘘だろうけどな?」

怪しいねとリファもうなずく。確かに筋は通っているがそんな真似をするのはどうなんだろうとも考えてしまう。

実際にこの仮説は証明できていない。翼の民の国家は今、魔物の巣窟であり調査に行って誰も帰ってきたものはいない。

ためしにナーウィシアがハーピーで航空偵察を行ったこともあるが防衛機構のレーザーで羽を焼かれたという。彼女の証言によると「まるで東○だった・・・」というほどで、それから二度と偵察は行われなかった。

「でも、こんな場所通ったの?逃げ場も少ないのに・・・」

「別の出入り口があるんだろう。おそらく入ったのはシェングラスの兵員・・・ここか。」

2人が開けた空間に出て驚く・・・そこはブレウィスの市街地すら越えるほどの広大な空間が広がっている。

崩壊した摩天楼、均一に整備された道、馬車にも似た乗り物・・・全てが彼らの想像外にある代物ばかりであり斜めに傾いていながら原型を保った都市はかつての反映を思い起こさせる。

「・・・何これ・・・」

「翼の民って奴が作った・・・文明だろうな。」

とりあえずダクトから外に出る・・・床が30度ほど斜めに傾いていて注意しないと滑り落ちてしまいそうでもある。

グレイヴを床に突き刺し、シュナイダーは慎重に進む・・・リファは空中を浮いているためそれほど不便さは感じていないようだ。

「ねぇ、運ぼうか?」

「遠慮する。それだといざというとき2人で戦えないだろう?ましてこの閉鎖空間ではな。あれを仕掛ける可能性もある。」

「あれ・・・あ、確かに。」

空属性術であるスラストライン・・・それが空中に張り巡らされているのがリファにはようやく感じ取れた。

薄い糸のような術だが強度は抜群であり、翼の民やハーピーなど空を飛ぶ敵に特に効く術だ。糸に触れれば切り裂かれるが術の大半で破壊は出来る。武器でも触れれば崩壊するし鎧や武器を切り裂くには密度を上げる必要がある。

が、今術を使って全部破壊するのは骨が折れる。進行ルートにあるものだけを破壊すれば十分だろう。飛ばなければ触れることも無い。

「・・・やはりあったか。さて・・・」

シュナイダーはスルースコープを覗いてどこに人質がいるか確認する。視界妨害「ブラインド」はかけられていないためよく見通せる。

シェングラスのフェルア直轄兵が下の方を警備している・・・・人質はかつて酒場として使ったであろう建物の一室に監禁されているようだ。

「見つけた・・・行くぞ!」

「あ、うん!」

低空をリファが飛翔し、シュナイダーは勢いに任せて滑り降りていく。シェングラス兵はそれに気づくがシュナイダーに突き飛ばされ転がり落ちていく。

「て、敵だ!」

「何!?」

転がり落ちながらもシェングラス兵が立派に職務を果たし、他の人員が集まってくるがリファに突き飛ばされ同じように落ちていく。

シュナイダーは目的の場所でグレイヴを突き刺して止めるが、シェングラス兵が大型のフレイルをなぎ払う!

「っ!?」

シュナイダーがバランスを崩し転倒しそうになるが、すぐにリファが後ろから支えて何とか持ち直す。

すかさずリファがフレイルを持ったシェングラス兵を一閃。そのまま血を流しシェングラス兵は倒れこむ。

「・・・悪いな。行くぞ!」

「もちろん!」

放棄された酒場へと2人が突撃する。奥深くに人質がいるはずだと思い室内を洗いざらい調べ始める。

 

「・・・そうか。」

イーゲル領のナーウィシア軍陣営・・・そこで傷もある程度いえたレクシスが報告を読んでいる。

リファからの報告ではブレウィス領地下遺跡に逃げ込んだという。フェルアの姿も見かけほぼ間違いはなさそうだ。

「ええ。ブレウィス領に進撃しますか?」

ケンタウロスであり・・・ラヴィーネ第4部隊隊長のティリスが進言するがレクシスは首を振る。何かがまだ引っかかっている。

「何を今更・・・シュナイダーが危険ですよ?」

「いや、まだ報告があと1つ欠けている。クラウスの動きはどうだ?」

「クラウス?」

「会議に参加して戦死報告も捕らえられた目撃情報も無い。奴なら・・・」

そんなことをレクシスが言っていると、伝令のハーピーがレクシスの陣営へと戻ってきて報告を告げる。

「報告!クラウスおよびミィルをシェングラス王都で発見・・・馬車の情報も!」

「何?」

「すでに王城へと運び込まれた模様!シェングラス中央でさらし者として運んでいました・・・顔も全員確認しました!」

罠だ。ブレウィスに向かったのはフェルアの罠・・・レクシスはすぐに直感すると直ちに指示を出す。

「シージュの部隊はブレウィスの救援に向かわせろ。腕利きの刺客を集め俺と数部隊は王城に潜入する。」

「隊長、傷がまだ・・・」

「動ける程度に回復している。シージュの本隊はシュナイダー救出後中央に隣接しているレーヴェ領に向かうように命令だ。潜入にむいた連中を集めろ。向いてない奴は王都で民間人に偽装して脱出時の支援を。」

了解と命令を受け取り、ティリスや伝令のハーピーが各方面に散っていく。レクシスはシュナイダーに生き延びてくれと思うことしか出来なかった。

相手はシェングラスでは最強の武勇と知略を誇る名将フェルア・・・ナーウィシア軍との戦争で一番の手柄を立てた人物だ。一介の軍人が相手できる範囲を超えている。

 

「・・・こっちか?」

「いない・・・人の気配も無いよ。一体どうして?」

リファとシュナイダーが手分けして探しているが、スルースコープで確認してもこの建物内部にいるらしい。

残りは地下室・・・人もつい最近きた形跡がある地下室への階段を2人が下りていく・・・といっても傾いているため階段がほぼ水平状態になっている。

地下室にはワインセラーらしい扉がある・・・シュナイダーはまず開けて内部を確かめる。

「暗いな・・・ちっ。凍てつく光「フリーズトーチ」。」

氷属性の術で周囲を照らす・・・が、スルースコープで見た部屋はここなのに人の気配は無い。

だいたいこの家に入ってからシェングラス兵がいないことが怪しい。外れではないのだが、何故人がいないのか?

「ねぇ、何かあった?」

「あった・・・リファ、離れろ!」

「え!?」

リファも入ろうとしたとたん、唐突にワインセラーの扉が鋼鉄製の扉で閉鎖されけたたましい音が鳴り響く。

警報機が作動したらしい。すぐにリファが扉を開けようとするが硬く閉ざされていて開く気配が無い。

「ど、どうしたの!?シュナイダー!」

「連中、囮の人形を置いてやがった!罠だ、リファ!」

「罠!?」

「人形に連中から取った髪の毛を埋め込み、特殊な術を仕掛けて遠距離や術越しでの視覚を妨害する奴だ!離れろ、リファ!」

それでもリファは離れずに扉へとすがりつく。まだどうにかできるんじゃないかと思って扉を押したり退いたりしても動く気配が無い。

「シュナイダー!術でぶち破ってよ!」

「まずい・・・絡繰か!?時計が動いている。あと少しで・・・とにかく離れろ!リファ、巻き込まれるぞ!建物から出ろ!」

リファは直ちに階段を上がっていくと地下室からすさまじいほどの轟音が聞こえとたんに床がめくれ上がっていく。

床板が1枚ずつめくれあがっていくのがスローモーションで見え、リファは立ち尽くすしかなかった。もう間に合わないと分かっていたからだろう。

自分の真下の床板もめくれ上がり、そのまま斜めに高く吹き飛ばされる・・・ハーピーでもこの爆風の制御は出来ず、隣の高い建物に強く身体を打ち付ける。

「しゅ・・・シュナイダー・・・・・」

それが彼女が意識を手放す前にはなった言葉であり、リファはゆっくりと硬い石畳にも似た床にたたきつけられる。

羽の辺りが熱い、おそらく大量の血が流れているのだろうが・・・彼女はシュナイダーの事しか考えられなかった。

 

 

この日、ナーウィシア解放軍「ラヴィーネ」2番隊隊長シュナイダーは死んだ。


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