「そろそろ・・・ですわね。」
ウィングルアから「大陸」への船旅を終え、ライムはふぅと一息つく。解放軍とシェングラス軍の小競り合いが頻繁に発生し、観光や商売に来てた人も戦争の気配を察知して大陸へ戻るのだろう。
解放軍はシージュを盟主に加えてから頻繁に軍事行動を取っている。シェングラスやそれに組する領主の輸送部隊をことごとく襲撃し、旧ナーウィシアの領土を着実に陥落させている。
いずれ大規模な会戦が一度起きて、そこで趨勢が決するはず。現在国境がある解放軍グリレ領とシェングラス軍イーゲル領の住民はすでに国境から撤収しているという話だ。
一応ライムは修道院に立ち寄り彼女たちに報告しイーゲル領と南にあるジラーニ領の山中に潜伏させた・・・後は戦争で生き残ることを祈るのみだが、小規模な部隊なら追い返せるだろう。
「・・・まぁ、大丈夫ですわね。」
「大陸」西部の港。共存派領主が治める土地でありナーウィシアとの玄関口でもある。大規模な帆船が何隻も停泊し大砲を搭載したウィングルアの軍艦もその中に混ざっている。
船内の客席には魔物も偽装せずに堂々と座っている・・・無論だ。解放軍領内から共存派領主の港、安全だと思っているのだろう。
が・・・この状況を予測できたものはほんの数名しか居なかっただろう。ライムもそうでなければ眠ろうなどとしなかった。
船が停泊した瞬間、いきなり甲板が騒がしくなった・・・そして出入り口から共存派でもナーウィシア軍でもない服の連中が入ってくる。
「これより船内を捜索する・・・魔物を捕らえろ!」
思いっきりライムは今の声で目が覚めた。うっとうしい、それも無粋すぎる上に時間も食う、最悪の連中だ。
あわてて稲荷の親子が妖術で娘を転送させるが、すぐに捕まえていく・・・無粋極まりない。ライムは立ち上がると後ろから剣を突き刺す。
黒い刀身に白銀の文字が入った剣が突き刺さると、役人は軽いうめき声を上げて倒れこむ。それを他の役人が見ていたようだ。
「な・・・!?」
「無粋ですわね。他者の領内で勝手に権力を振るうことは禁止されてますわ。」
突然の行動に乗客や役人も一瞬凍りついたが、役人は剣を構えるとライムに突きつける。
「貴様、俺達が誰か知ってるのか!?」
「ええ、知ってますわね・・・わたくしに害をなそうという不届きな連中でしょう?この領内では魔物といえど不当に拘束する権利は無いはずですわね。」
「・・・ちっ!甲板に出ろ!お前を片付けてからじっくりとやってやる!」
はいはいとライムがうなずくと、すぐに甲板に向かう・・・その後を役人が総出で追いかけて剣を構えるが・・・そこに立っていたのはライムではない。
紺色の髪の毛の青年、年齢は19歳ほど・・・先ほどライムが持っていた黒い刀身の剣を持っているが一回り大きくなっている。白い鎧とマントを羽織った剣客風の青年だ。
「・・・何!?」
「ライムを相手にしようとした奴は誰だ・・・?依頼で雇われたのでな。俺が相手になろう。」
驚愕の色を役人は見せるが、さほどの実力も無いだろうと判断したのかいっせいに剣を構えて切りかかる。
が・・・真っ先に切りかかった役人が脇腹を一閃され倒れこむ。続いてもう1里が剣を振り下ろすが彼は膝蹴りで役人を気絶させるととどめに剣を突き刺す。
「ひ・・・お、お前!頼む、命だけは・・・!」
「そうか。」
彼は役人の喉をつかむと、そのまま持ち上げて武器などをすべて甲板に置いていく。
「・・・領主に伝えろ。ふざけた真似をすると、貴様等も貴様の仲間も全員地上から消えうせるとな・・・」
「た、頼む・・・た、助けてくれ・・・」
「そうだったな・・・生きていればいいだろう。」
そのまま彼は手すりに近づくと、役人を放り投げ海に叩き込む。残る2名は倒れこんでいるが、血は流れていない。
「・・・魂を砕いたが・・・喰らうべきだったか?それとも・・・」
彼の姿が一瞬で縮まり、14歳ほどの少女であるライムに戻るとまた船室に戻る・・・突然のことに人々は驚いているようだ。
「さっさと降りなさい・・・新手が来てからでは遅いですわ!」
ライムが叫ぶと電撃に打たれたかのように反応した乗客が1人降りていく・・・それを手始めに大量の乗客が客船から降りていく。
が、2人だけが残りライムを見ている・・・片方は金髪のストレートに朱色の瞳の女性。もう片方は茶髪に黒い瞳、年齢は30歳くらいだろうか・・・髭も生えている。
「・・・助かった。面倒ごとをつぶしてくれてな。」
「な、何ですの?別に貴方達のためではありませんわ。わたくしの眠りを妨げることが許せなかっただけですの。」
「そうか・・・だが礼を言わせてもらおう。俺はラーシュ・ステイリェス。隣は妻のマレーヌだ。」
「宜しく。」
ライムは一体何がなんだかわからない様子でラーシュとマレーヌを見比べている・・・マレーヌの方は一目見ただけでは気づかなかったが偽装している。
「ラミアあたりかしら・・・人魚にも似てるけど、陸上は慣れてるようですわね。」
「ご名答・・・まぁ、事を荒立てるのは好まない身分でな。それはそうと、ウィングルア出身か。」
一瞬で見抜いた・・・ライムは感心しながらもその理由を尋ねる。このラーシュという人物、曲者らしい。
「どうしてですの?何故。」
「ウィングルアでは剣を突きつけられたらそれが交戦の意志とみなす。戦争の大陸で極度の緊張状態が続いた故にな・・・お前が真っ先にそうした。」
「な、なるほど・・・ま、まぁ当然ですわね。それくらい読めてるのは。」
ツンデレというものだろうか、ラーシュとマレーヌが微笑んで見せるとライムはそっぽを向いて見せる。
「それで・・・何ですの!?」
「行き先はどこだ?ウィングルアからここまで来たということは、戦乱続きで向こうの連中が出来ないことではないか?それを素直に言えば同行するし道案内もする。」
むぅ、とライムが考え込む表情をする。道案内は確かにおいしい話であり地図だけではわからないことも多数あるだろう。
このラーシュとマレーヌという夫婦がどこまで信頼できるかわからないが、頼りになることは間違いない・・・どちらも身分相応の服装だ。
「人は多いほうがいいですわね・・・構いませんわよ?」
「感謝する。マレーヌ・・・行こう。」
「ええ、」
マレーヌは人の姿に偽装したまま立ち上がり、慣れた様子で船から出て行く・・・ライムもその後を追う。
傍目から見れば親子にも見えるだろう。だがそんな扱いをされるのはごめんなので後ろからついていく。
「で、目的は?」
「戦乱大陸ウィングルア・・・そこの鍛冶職人は有名な人ともなれば予約は2年待ちも珍しくありませんの。だからわたくしも剣を打ち直したくて。」
「剣、か・・・」
ラーシュが抜き身のままベルトにさしている剣を見ているが、マレーヌが変わりにライムにたずねる。
「役人たち、殺さなかったわね。どうして?」
「え?」
「剣でしょうけど、それは術で生成したものでしょう?それも相当悪質・・・相手の魂を砕き割る、そんなものね?」
さすがに術に長けたラミアには見抜かれるか・・・ライムはため息をつくと、ちょっと疲れた様子でうなずく。
「ええ、だから相手に刺し傷は残っていませんわね。命を奪う相手というわけでもなくてよ、あんなの。」
「で、どれほど重度に砕いたのかしら?」
「起き上がったら何をしに来たのかすら忘れてるはずですわ。彼らの役職も忘れて・・・まぁ、せいぜい傭兵で鍛えなおせと言いたいですわね。」
さりげなく酷いことをライムはあっさりと言ってのける。命があるだけ感謝しなさいと言うような口調にラーシュは顔をしかめる。
「酷いな。さすがにそれは・・・」
「武器を取るならそれくらいの覚悟はしておけ、ですわね。命があるだけまだマシですわ・・・まして、相手は法すら勝手に破る連中ですわよ?」
「まーな。だが捕まえて法の裁きを受けさせるべきだ。連中は過去にも数度このような不法臨検を行い魔物を捕まえてきた・・・が、連中にも言い分はあるだろう。」
ライムはやれやれ、とため息をつく。腕前はありそうだがお人よし過ぎるのではないだろうか。というより頑固だろうか?
「石頭は相変わらずね。けど、だからこそ好きなのよ。」
「ふ・・・」
マレーヌがいきなりラーシュに抱きつく・・・ライムは顔を真っ赤にしてそっぽを向くと大声で怒鳴る。
「き、気分悪いですわ!早く行きますわよ!」
「行くってどこに?」
「中央ですわよ!いい鍛冶職人に打ち直してもらいますわ!」
どこの貴族令嬢に物騒な術と剣術を教えたらああなるのだろうか。ラーシュは面白くなりそうだと期待しながらマレーヌを連れて行く。
「・・・で、どう行くか知ってるのか?」
「知らないから聞こうと思ってたら貴方達が着ましたの。さ、教えてくださるわね?」
苦笑しながらラーシュはうなずく・・・最初の約束どおり道案内してやるべきだろう。それほど危なっかしい目的でもない。
ウィングルアでは一般の鍛冶職人ですらかなり予約がたまっている。それだけ武器の損耗が多くまっとうに使える武装は貴重品でもある。
だから殺された相手の武器を奪うなど日常茶飯事でもあり一般の決闘でも身包み剥がすということすら起こっている。
だからウィングルアの腕のいい職人は手が空いていないためこっちの大陸に来て剣を打ち直したいというライムの話には筋が通っているように感じたのだ。
「いいだろう。」
「私もご一緒させてもらうわね。浮気しないか不安だもの?」
はいはいとライムがうなずく。大体人も魔物も好きになる性質でもなく損な心配は無用だとはっきり言いたかったが面倒なのでやめておく。
「で、中央に行くのか?」
「当たり前、ですわ・・・それと先ほど魂を砕いた役人の領主にも一泡吹かせたくなりましたけど。」
「いいわね、それ。ラーシュ、連中は何処の領主かわかる?」
びくっとしてラーシュが振り向く・・・さすがに問題を起こしたくは無いと思っているのだろうが2人はすでに報復する気満々だ。
「い、いや・・・法に背くことは無理だろう、さすがに・・・」
「でも、仕掛けたのは向こうですわ。それに何か仕掛けなければ、犠牲者がどれだけ増えると思ってますの?」
「だけどな・・・」
ラーシュが少し考え込むような顔をすると、最後の一押しといわんばかりにマレーヌがおねだりするような口調で頼み込む。
「私達の仲間を助けると思って・・・お願い。」
「・・・しかし・・・いや、もうこれ以上言うべきことでもないか。」
わかったとラーシュがうなずき、マレーヌとライムが手を握り締めて喜びを分かち合う。
「だが気をつけるんだ。先の役人は隣町にあるハースン領からの奴だ。あまり勢力は大きくないが中央の教会を熱烈に信仰している。マレーヌは偽装を絶対に解かないでな?いくらなんでも真っ向から相手にするのは・・・」
死者が多いのは好まない。撃退できても少なからず傷は追う。最悪捕まって殺される可能性がある。
ライムはウィングルアの人間だろうから問題は無いが、マレーヌまで戦いに巻き込みたくないとラーシュは考えてしまう。
「敵が多いのは望むところでしてよ?けど・・・できるなら無用な争いは避けたいわね。」
「そうあってくれ、ライム。」
「解ってますわよ、その程度。万一の時はわたくしを見捨てて逃げなさいな。」
うむ、とラーシュがうなずきライムもいいですわよという。彼女なりの気遣いにラーシュはうなずくが、少々複雑でもあった。
「さて、先の役人は一体何処の所属ですの?」
「ハースン領・・・中央付近の小領主だ。」
そこまで言ってラーシュは言葉をとめる。この3人でやるには難しい問題ではないかと危惧し始めたのだ。
が、言うといったからには言う必要がある。ラーシュは覚悟を決めて口を開く。
「中央とのつながりは深く、他国の領土で魔物狩りも平然と行う・・・軍勢はそれほど強くは無いが中央も巻き込むぞ。」
「敵は多いほうが結構ですわね。」
意に介さないようにライムが答え、何故かマレーヌも乗り気らしく笑顔でライムの提案にうなずいている。
厄介だが、いずれハースンは調べておきたかった場所。ラーシュはそれでいいなと念を押すと2人がうなずいてみせる。
「では・・・日持ちする食料と移動手段を探すぞ。食料は出来るだけ軍用の長期滞在にも耐えられるもの。1週間分は欲しいな。移動手段は輸送用の馬車が欲しい。南部のライントードから運河が通っている、直通かそちらの馬車を探してくれ。」
「わかりましたわ。」 「了解。」
2人が同時に返事をすると、すぐに馬車や食料の調達を始める。マレーヌはこの手の事に関しては得意でありライムもウィングルア出身でおそらく剣客か傭兵の類、大丈夫だろうと判断したのだ。
ハースン領下町
「・・・隊長。」
「どうした?」
ハースンの軍服である城の装飾的な軍服を着ている複数の集団がいる。一目見ればハースンの軍人と間違えるだろう。
が、隊長と呼ばれた服のサイズが明らかにつりあっていない。胸のためだろうか多少小さめに見える。女性らしいが、言葉にはそんな様子がひとかけらも見えない。
「服、変えましょうか・・・?怪しまれますよ。」
「構わん・・・それより馬車はまだか?」
「えっと・・・」
兵士が言葉に詰まると、人目を避けるようにハースンの軍服を着た翼の民が降り、そして着地すると手足を鳥本来のものへと変える。
「隊長、今さっき連絡があったけど傭兵を乗せるって。どうするの?」
「下手に怪しまれるのもあれだ。乗せろ・・・どうせ中身は火薬だ。それをハースンを通過させ箱だけをジョンレインまで運ばせる。」
「了解。じゃあ連絡してくる。」
空中にハーピーが飛ぶと、遠隔通話の術でそのまま会話する。一応市街地でも使用可能だが空中から連絡したほうが良く通じるということだ。
「予定通り作業を始める。ハースン領主の命令でこの区画を閉鎖すると伝えておけ。傭兵は閉鎖区画手前でおろせ。」
「事情を知られてたら?」
「言うわけ無いだろう。御者はもっとも信頼を置いている奴だ。おしゃべりなハーピーだが、軍務はしっかりこなす奴だ。」
「そうでしたね、仮にも副官でしたから。失礼を・・・」
部下が失礼しましたと言うと、構わんよと隊長は言ってすぐに「作業」をし始める。空家の地下室を勝手に掘り進めているらしい。
「こっちの大陸、今すごく危なっかしい噂で持ちきりなの。何でもナーウィシア解放軍の快進撃にシェングラス側が救援を求めて、魔物排斥派の諸侯が応じる構えを見せてるってさ。具体的に物資や、兵員や傭兵まで送るつもりですわね。」
「そうですの。きな臭くなりそうですわね、道理で携行食糧などの値段も相応に跳ね上がっていたのですわね。」
ハースン行き馬車でライムは御者と長らく話している。マレーヌもちょくちょく会話に参加しているがラーシュは考え込んでばかりだ。
「ところで貴方のお名前は何ですの?」
「リファって言うの。傭兵が嫌で荷馬車の依頼についてるの。輸送部隊だって結構重要なんだから。」
「わたくしはライム、宜しく願いますわね。こっちがマレーヌで後ろの考え込んでるのがラーシュですわ。」
「宜しく。」
リファが笑顔でよろしくという。馬車は割りと早いペースで進み、爆薬などが爆発するかしないか程度の速さで進んでいる。
ここで攻撃でも受ければ、爆発しそうなものだが・・・そういうときに限って嫌な予感が的中してしまうのも事実ではあった。
真っ先に気づいたのはラーシュであり、手に持っていた杖にも見えなくも無い細身の槍を構える。スタッフランスと俗に呼ばれる接近戦、ウィングルアではCQCとも呼ばれている近接戦闘用の杖で術も阻害しない。
「敵だ。数名くらい近づいている。」
「夜盗ですわね。まぁ、どうせ賞金首扱いでもありますし殺しても文句はありませんわね。」
少々嬉しげにライムが答え、マレーヌも準備運動程度になるだろうと偽装を解き、そのままボウガンを構える。
「ちょうどいいわね。身包み剥ぎ取って宿代の足しにしようかしらね?」
「私に分け前半分よこしてよ。戦うから。」
リファも偽装を解き、ハーピー本来の姿を見せると両翼に剣を固定する。ラーシュはやれやれとつぶやいてしまう。
「身包み剥ぎ取るとか殺すとか、素直にギルドとかに渡すということは思いつかないのか?」
「「「全く持って。」」」
3人の返答にラーシュはため息をついてしまう。突っ込みどころの多い返答がありすぎる。まず若い女性3名が強盗相手に撃退しようなどと言う発想が出てくること。
しかも身包み剥いでしまうとか殺すとか物騒なことを平然と口にする。もっともライムは不明としてもマレーヌとリファは魔物ゆえに躊躇する気は無いのだろうか。
「うわ、飛びついてきた!」
「全く。」
結構なスピードで走っている馬車に盗賊が無理やり取り付いてくるがマレーヌがボウガンでそのまま殴り倒す。
「残り、15人ですわね。あ、つまずいて4名巻き添え。11名ほど。」
「何故解る?」
「わたくし、魂関連の術を扱いますの。」
以前魂を砕いた事もありラーシュは納得すると、スタッフランスを真上に掲げる。
「屋根の上には1人ほどですわね。」
「解った。さて。裁きを受ける前の恐怖におののき、その姿を衆目にさらすがいい・・・はっ!」
ラーシュが真上にスタッフランスを掲げると屋根の上に蒼い紋章が浮かび上がり屋根の上に上がった盗賊をそのままの姿で停止させる。
拘束術をさらに発展させたものらしいが、ライムにはそれ以上はわからない。それよりも両側から来る騎兵に警戒している。
「弓矢持ちですわね。マレーヌ、反対側にもいるでしょうから射落としてくださいな。わたくしは・・・」
ライムはそのまま馬車の屋根に上がる。盗賊はこちら側に4人、逆にも4人いる。騎兵らしく後ろに弓兵が乗っている。乗員を殺して荷物だけ奪おうというのだろう。
手加減する道理は無い。ライムは術で金色の針を作り出すとそのまま盗賊に投げつける。
「うぐっ・・・!?」
「お、おい!どうしたんだ!?」
心臓を押さえて針の刺さった相手が後ろに倒れこんで苦しんでいる。以前ライムが作った剣ほどの威力は無いが、精神に甚大なダメージを与えられるモノだ。
「貴方も、魂を砕かれる痛みにもだえ苦しみなさい?」
ライムが放ったh李は馬を操っていた盗賊の頭に当たり、彼もまた後ろに放り出される。無人の騎馬はそのまま盗賊の本拠地へと戻っていく。
殺すほどの相手でもない。というより加減する余裕もあるし離れていては殺しても無意味であり気力の無駄。ライムは金色の針を投げつけ1人ずつ確実に魂に痛烈な一撃を入れていく。
「お強いのね、ライムさん。」
「貴方こそ手加減してるのではなくて?」
マレーヌはといえば術をこめた矢をボウガンで発射し、相手を凍らせたり感電させて射落としている。無論致命傷のはずは無い。
言葉無く剣を向ける者に、死は当然の罰。それはあくまでもウィングルアのルールだ。この大陸では出来る限り無用な殺傷は避けることが多い。
「おっけー、敵殲滅。」
リファは軽く一息つく。何人か倒してきたらしいがさほど疲れた様子も見せず馬車をいつもどおりのペースで運行させる。
「ウィングルアの人間か?リファ。」
「何故?」
唐突にラーシュがたずねるが、リファは場違いな質問に首をかしげている。ラーシュはならばいいんだと答えそのまま木箱に座る。
「何か怪しいことでもあって?」
「いや・・・どうもリファという奴の話が引っかかる。」
「悪人には見えなくてよ?」
むぅ、とラーシュもライムの言葉にうなずくしかなかった。確かに悪人かと聞かれればそんな様子も無く、騙す気配もなしにハースン領に向かっている。
「隠し事は触れないほうがいいわね。あまりしつこいと身分をばらす結果にもなってしまうわよ?」
「そうだな、マレーヌ。」
ラーシュは妻の言葉にうなずくが、どうも奇妙に思っている。あの様子だとリファは数名の盗賊をいともたやすく切り裂いてきたとしか見えない。
輸送部隊志願になったなら護衛に身を任せるくらいはする。少なくともハーピー用の剣であれほど戦えるなら傭兵でもやっていけるはずだ。
「考えすぎだ、な。」
「夕方にはハースンの中央市外に着くからね?」
リファが報告し、マレーヌとラーシュはこのくらいのスピードなら確かにと納得する。
ライムはわかりましたわとうなずき、疲れたのか馬車内部の木箱に寄りかかり寝てしまう。
「疲れたのだろうな。全く。」
「でも、案外頼りになりそうね。」
マレーヌは微笑むと、また人の姿に偽装して寄りかかる。ハースンにたどり着けば魔物の姿でいることはかなり危うい。
下手をすれば殺される。それくらいの覚悟をしなければならない敵が目の前にいるのは間違いなかった。
「彼らは上手くやってくれるですか?」
「さてな。だが信頼するほか無いだろう。ご丁寧にシェングラス第一軍がすぐにわかる手段だが裏の取れた情報を送ってきた。何故か知らんがな。」
「怪しいです。あのフェルアとか言う司令官の軍、信用できないです。」
「が、わざわざ隣の大陸にシェングラスに協力する領主がいると知らせるとは何故だろうな。利用価値が消えたのか?」
「解らないです。とりあえず、ラヴィーネ第二部隊の無事を祈るです。」
「そうだな。」
To be contenued....