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                  「……さて、どうするか」 
                  いきなりこう書かれたとして、何の事か見当がつく人間はいないだろう。だが、これが今の自分の心情をまとめて述べたものだ。そして……。 
                   
                  「きゅう〜」 
                   
                  俺の目の前で目を回している人間の女性――人間じゃないか。人形の獣。耳と、太ももから先と肘から先が狼のそれで、口から覗く鋭い牙、尾てい骨から生えるふさふさの尻尾。 
                  ワーウルフ、と呼ばれる種族だ……と思う。と言うのも、俺自身名前しか知らず、どんな姿をしているか、簡単に書かれた資料しか知らなかったのだ。 
                  そのワーウルフが目の前で寝ている原因……それは完全に俺にある。 
                  彼女は出会い頭に俺に飛びかかってきた。それがあまりに突然の事だったので、俺は思わず正拳突きを顎に対して繰り出してしまったのだ。結果として――一発KO。 
                  偶然とはいえ、一撃で女性である魔物を伸してしまい、これからの対応に困っている。もし起きたらきっと俺を襲い返すだろう。かといって、このまま放置するのも気が引けるが……。 
                  「………」 
                  優柔不断な自分が憎い。 
                  ともあれ、このままじっとしているわけにもいくまい。そう思い、後ろ髪が引かれる思いのまま帰路につこうとした……その時だった。 
                  「ちょっと待ってよ!ご主人様っ!」 
                  やけに可愛らしい声が響く。振り向いたら敗けだ、頭の奥底の声は肉体反応の速度に負けていた。 
                  振り向いた俺の目に映ったもの。それは金色の瞳で俺を見つめながら、四つん這いで起き上がる件のワーウルフだった。 
                  「へ……?」 
                  つか、今、ご主人様って――。 
                  「あたしを置いていくなんて何て非情なの!?どうにか言ってよご主人様!」 
                  俺は辺りを見渡して――それらしき人物が辺りにいないことを確認した上で……彼女に聞いた。 
                  「えっと……ご主人様って俺の事か?」 
                  「ご主人様以外に誰があたしを倒したのよ!?あたし達ワーウルフは倒した人をご主人様とするものなのよ!?」 
                  いや、キレられても困るし。 
                  「兎に角っ!一緒に帰るわよ!ご主人様!」 
                  彼女に引かれるままに俺は家と逆方向に……ってちょい待った! 
                  「何処に帰るつもりだい!」 
                  「あたしの巣よ!」 
                  「やめてくれ!」 
                  はた、と手を離す彼女。ある意味難儀な性分じゃないか、ワーウルフ。 
                  「どうしてよご主人様!せっかくあたしの巣にご招待しようとしてるのに!」 
                  高圧的なのか下手に出てるのか分からない喋り方だ。多分本人も混乱しているだろう。 
                  だが、流石にこればかりは認める事ができない。 
                  「悪いが、俺の家には妹がいる。病弱でな、あまり一人に置いておくことは出来んのだ」 
                  自分が今日のように狩人として働きに出ているときはいざ知らず、それ以外の時はなるべく一緒にいてやりたい。俺に出来ることは、それくらいしかないのだから。 
                  「そっか……妹思いの良いご主人様なのか……」 
                  隣のワーウルフは分かったのか分からないのか、かなり自己解釈の混じった相づちを打つと、手をぽん、と叩き、 
                  「そうと分かればすぐ行こう!」 
                  と俺の腕を引っ張って村の方向へ――って痛い痛い! 
                  「ちょっと待てお前俺の家――」 
                  分かるのか、と言う俺の問いをこいつは途中で遮って、 
                  「ニオイで分かるから心配ないよご主人様!とっとと家に連れてってあげるから!」 
                  腕を引いて人間には出せない速度で走っ――て痛い痛い痛いギャアアアアアッ! 
                   
                  「加減……してくれ……いつつっ」 
                  「え……あ……あはは……ごめんなさいご主人様」 
                  絶対俺の事主人だとか思ってね〜だろ、と言う不審な目線をまともに受けて、若干萎縮するワーウルフ。成る程……扱いやすいのか辛いのかよく分からんな。 
                  ともあれ……。 
                  「本当に到着するとはな」 
                  腕を強引に引かれ地面に何度か軟着陸しながら辿り着いた家は、紛れもなく俺の家だった。 
                  「でしょ〜♪」 
                  あ、回復早っ。この分だと妹をどうするか分からねぇからな。一応言っておくか。 
                  「……一先ず、妹を襲うなよ?」 
                  その時、このワーウルフは確かにこう言ったのを俺は覚えている。 
                  「心配しないで。ご主人様の家族親類恋人友人仲間は、あたしは襲わないから」 
                  それを聞いて安心はした。だから俺は気づかなかった。奴が何か企むような笑顔を陰で浮かべていたことに。 
                   
                  今でもこの時に、俺がワーウルフの特性を正確に知っていれば、あんな事にはならなかったのにと、やや後悔はしている……。 
                   
                  「ただいま、ノア」 
                  いつものようにドアを開く俺に、妹のノアは無理をして駆けて俺の胸に飛び込んできた。 
                  「おいおい……無理すんなよ?」 
                  「だって……お兄ちゃん、無事に帰ってきてくれたから……」 
                  狩人は命と命のやり取りをすることが多い。だから妹に心配を掛けることが多いが、そうでもしないと俺達二人は暮らしていけない。そこまで俺達に金があるわけじゃないからな。 
                  土地もない、金もない、親は既に亡い、都会の空気は妹に合わない以上は、田舎で細々と二人で暮らすしかなかった。とは言っても、何だかんだ言って俺がこの暮らしに愛着を持っているのは事実だったし、ノアも――病状は小康状態だ。 
                  「ごめんね……私が、体が弱いから……」 
                  「おいおい。それはノアは気にすることじゃないぞ」 
                  どうも最近ノアは、自分がいるから俺が自由に行動できないんじゃないかと思い始めているらしい。そんなことは無いと言う俺の一言すら、無理をしているんじゃないかと勘ぐられてしまうほどだ。 
                  ……っと、これ以上の放置プレイはマズイ。 
                  「ノア、急で済まないが――」 
                   
                  「あ……こんにちわ……」 
                   
                  俺の腕越しに、ノアは玄関で完全放置プレイを食らっているワーウルフに挨拶をしていた。 
                  「あ、こんにちわ〜♪」 
                  頬をピクピクさせていた先程までの態度はどこへやら。ノアに合わせるように手をひらひらと振るワーウルフ。続けざまぬけぬけとこう口にした。 
                  「あたしはヴァン。今日からこの家にお世話になることにしたから、よろしく〜♪」 
                  凄まじく嬉しそうな顔をしているのが色々と気になるが――。 
                  「よろしく……♪」 
                  ん!?ノア?何でお前が嬉しそうなんだ? 
                  ……まぁ深く詮索することでも無いだろうし、あの大人しくて人懐っこい性格だ。話し相手が出来たと喜んでいるのかもしれない。 
                  兎に角、家族が一人増えたようなものとして、捉えてくれているようで、ある意味安心した。 
                   
                  夕食は、ヴァンに出会う前に捕った獲物を調理して食べた……のだが、ヴァンの食べ方は……汚い。狼の手は箸やスプーンを持つのに適さず、それ以前にマナーもへったくれも無いわけだが。……まぁそれでも、後でどうにか教えていけば何とかなるレベルか……。 
                  「ふふふっ……」 
                  ノアが――笑顔。そう言えば、二人以上で飯を食うのも、随分久しぶりだよな……。 
                  ――随分淋しがらせていたか。仕方ないとはいえ、罪悪感を覚えるな。だが……どうしようもないのも事実だ。 
                  せめて、この団欒の一時は、ノアと一緒にいよう。そう改めて思い直した。 
                   
                  流石に男と女が一緒の部屋に寝るわけにはいかない。 
                  「お休み」 
                  「お休みなさい……お兄ちゃん」 
                  例え兄と妹であったとしても、流石にそういう年でもない。ノアもその辺りは分かっているらしく、俺の申し出をすんなりと受け入れてくれて、それが今まで継続している。防犯上の問題から、俺と隣の部屋で寝てはいるが。 
                  で、ヴァンは……。 
                  「ノア、お前の部屋でいいか?」 
                  「……うん」 
                  俺の事をご主人様と呼んでいるヴァン。元より俺の言うことには絶対服従(あまりこの言葉は好きではないが)であるらしいから、ノアを襲うこともないだろう。護衛役としても、あの身体能力を考えれば最適だ。 
                  「と言うことだ。ヴァン、ノアの護衛をよろしく」 
                  「まっかせといて!」 
                  「もう……お兄ちゃんは大袈裟なんだから……」 
                  俺の言い方に、ノアは少し弱々しく苦笑いを漏らしたが、ヴァンは元気一杯に返事した。こいつの、ある意味希望通りだったのかもしれない。兎に角、問題は起こらないだろう。 
                  ふぁ……、今日は流石に疲れたな……。 
                   
                  ――――ヴァンの視点―――― 
                   
                  「でさ、あのお兄ちゃんの事、どう思ってるわけ〜?」 
                  ご主人様がいなくなった後、あたしはノアちゃんと二人、ご主人様について話をしていた。 
                  「ガラお兄ちゃんのこと……?」 
                  ぼそぼそと喋るノアちゃん。その口から幽かに香るのは……多分血の香りかな? 
                  ノアちゃんは喋り始めた。 
                  「お兄ちゃんは……お父さんとお母さんが死んじゃった後も……わたしと一緒にいてくれたの……」 
                  あら、いきなり地雷? 
                  「へ……へぇ……」 
                  「それでね……お金も無かったから、お兄ちゃん……早くに起きてね……街に行って働いてたの。でも……」 
                  そこでノアちゃんは軽く咳き込んだ……軽くないよ、この咳きは。こんなに吐息に血の香りが混じるなんて……。 
                  「……こほっ、ごめんね……話の途中なのに」 
                  へっ? 
                  「え、ああ、うん!大丈夫だから。気にしてないから」 
                  あぶね〜あぶねー、顔が完全にシリアスになっちゃってた。 
                  でも多分、この子――。 
                  「……こんな体だから、街の空気が合わなくて……結局仕事を辞めちゃって……」 
                  「そうなんだ……」 
                  ――ノアちゃんの病気は、多分人間には直す事が出来ない類いのもの……。あたし達なら生まれつきの自然治癒で何とかなるかもしれないけど、でも人間では完治は無理かな。 
                  にしても……。 
                  「……まさかご主人様にそんな過去がねぇ……(ぼそっ)」 
                  「ご主人様?」 
                  あ、ヤバッ!あたし口に出してた!? 
                  「ん?あたし、何か言った?」 
                  背中に冷や汗をだらだらかきながら、あたしは素の顔に戻して何とか誤魔化すことに成功した……と思う。 
                  ノアちゃんは少し疑わしいような目線を向けると、そのまま何もなかったかのように顔を前に向けた。 
                  「………」 
                  沈黙が気まずい。何か言った方が良いかな、と思ってあたしが彼女の顔を覗き込むと――。 
                   
                  「……」 
                   
                  そこにあったのは、色々背負っちゃってるだろう少女の、どこか押し潰されそうな顔だった。 
                  「……お兄ちゃんが私の事を……気に掛けてくれてるのは分かる……分かるけど……」 
                  咳。喉をずたずたに切り裂くようなそれは、ノアちゃんの声を少しずつ濁らせていく。 
                  「……私が元気だったら……お兄ちゃんに……まり心配かけずに済んだ……かもしれない……私は……お兄ちゃんに……『自分の望んだこと』を……私に縛られずにやって欲しいの」 
                  でも、とノアちゃんは目を伏せる。彼女もきっと分かっているのだ。自分の体が、兄であるご主人様にそれを許さないんだって。そして、自分がもうすぐ動けなくなるかもしれない事を。 
                  「……」 
                  ふっふっふっ……あるじゃないさ。解決策が一つ。今の話を聞いて、あたしの中にあるのは、完全に打算と逃げ道。少なくともあたしの目的は達成できるわけで、ねぇ? 
                   
                  「……ねぇ、体が元気になるおまじない、かけてあげよっか?」 
                   
                  あたしは何気なくノアちゃんのベッドに乗ると、そのまま彼女に馬乗りになった。 
                  「……そんなの……」 
                  「ない、って言い切れる?」 
                  そのまま自信満々に言い切り、ノアちゃんに顔を近づける。こうすると大体の人間は何も言えなくなるんだよね。自分の心の縄張りだっけ?か何かが制圧されちゃうから。 
                  「……え……あ……」 
                  状況の主導権はあたしが握った。ノアはもうしどろもどろにしか返事できてないし、あと一押しでどうにかなる……! 
                  「言い切れないでしょ?ねぇ、大丈夫。おまじないって言っても大したことする訳じゃないからさ、ね、いいでしょ?」 
                  一気に言葉で畳み掛ければ――。 
                  「……え……あ……うん……」 
                  ほらこの通り。ちょろいもんよ。 
                  後はあれを何するだけで……ふふふっ♪ 
                   
                  「別に大したことはしないから、寝ちゃっててもいいよ。むしろ寝ちゃってくれた方がやり易かったりするけどね……」 
                   
                  ――――再びガラ視点―――― 
                   
                  「……?」 
                  深く寝ていた筈の俺は、突然の異様な気配に思わず目を醒ました。時間は……まだ夜の月が空に見える時刻。本来なら誰も起きる筈のない時間だが――。 
                  「……まさか」 
                  嫌な予感がした俺はドアを開け――飛び退き様に裏拳を繰り出した。 
                  「はきゃっ!」 
                  今回も見事に顎に命中したらしい。俺の部屋に飛び込んで来た狼藉者は、壁に頭をぶつけて、 
                   
                  「きゅう〜」 
                   
                  倒れている。 
                  にしても、こうも同じ台詞を吐くなんて……まさかヴァンか?まぁいい……一先ずこの狼藉者の顔を拝んでやるとするか……と、部屋のランプを点けた瞬間――!? 
                   
                  俺の時は驚愕のあまり停止した。 
                   
                  あまり日の光を浴びていない白くて綺麗な肌に、亡くなった母に似て整った顔立ち。発育のやや悪い小柄な体がノアであることを証明してはいた。だが――髪の間からひょっこり生えた二本の耳、尾てい骨から生えたふさふさな尻尾。肘や膝から先を被うように、髪の色に合わせたような体毛が生え、足に至っては、もう完全に狼の形をしていた。 
                  「………」 
                  どういう起結でこうなったのか、ヴァンに問い質そうか。 
                   
                  「ふみゅ……ご主人様どうした――はぐっ!?」 
                  ノアの部屋で呑気に寝ていたヴァンを叩き起こし、首に手をかけながら俺はニコヤカに言葉を絞り出した。 
                  「なぁ……どうしてノアがお前と同じ姿になってやがる?答え次第じゃただじゃ済まさんぞ」 
                  既に若干ガクブル状態のヴァンだが、次の答えには正直……俺は自分を呪った。 
                  「ワーウルフに噛まれた女性は、同じワーウルフになる。知らなかったの?ご主人様」 
                  「……何てこったい」 
                  つまりあの部屋割りでこいつが喜んだのは、最初からノアを同族にする気満々だったわけか……迂闊。そしてその部屋割りにした俺も迂闊……。 
                  思わず俺は、ヴァンの拘束を緩めてしまい、そこから抜け出されてしまう。さらに迂闊……。 
                  「でもさ〜」 
                  そんな俺の様子を気にする気配もなく、ヴァンは俺に――信じられないことを告げた。 
                   
                  「ノアちゃん、あたしが噛まないと多分手遅れだったよ?」 
                   
                  「……は!?」 
                  何を言ってるんだ、この狼娘は。まるで自分の行いを正当化しているような――。 
                  「信用無いとは思うけど、聞いて、ご主人様。まさかあたしの鼻まで信用しない、なんて事はないよねぇ?」 
                  家まで嗅ぎ付けた、あの以上によく利く鼻。流石にそれまでは否定はできない。経験した身としては。 
                  「……それはない」 
                  その答えを聞いて、ヴァンは――顔から陽気さを消した。 
                  「なら、あたしがこれから言うことも、本当だって信用してよ。『ノアの息に、血の香りがかなり混じってた』……この意味が分かる?」 
                   
                  「!!!!!!」 
                   
                  ノアの呼吸に……血?そんな……。 
                  「ノアちゃんの話を聞いたよ。多分、ご主人様はノアちゃんの病気を治そうとして、その薬を買うために、必死で狩人稼業をしていたんでしょ?」 
                  「………」 
                  その通りだった。俺が狩人をやっているのは、いかに妹の病気を治すか、あるいはその進行を遅らせるか、考えた上での結論だ。 
                  「確かに最良の選択よね……ノアちゃんの病気の進行度合いを考えても、その選択しかない筈だしね」 
                  「………お前に俺の何が分かる」 
                  正直、こいつの言葉が腹立たしかった。すべてこいつに見透かされているようで苛立たしかった。 
                  「俺がどれだけ悩み考え動いてきたか、その苦労を分かるのか!」 
                  両親に先立たれ、頼れる親戚も知らず、生まれつきの病気で体の弱かった妹を養い守るために、ひたすらに働いて、過ごして……。 
                  それはそれで幸せだったのかもしれない。だが、今のような平穏を得るためにした苦労、今の平穏すらすぐに消え去ると知ったときの衝撃を、こいつにあっさり理解される謂れはない! 
                  そんな俺の思いを――。 
                   
                  「じゃあアンタはノアちゃんが何を思ってんのか分かってんの!?」ヴァンは鋭い声で一喝した。そのまま叫び続ける。 
                  「ノアちゃんはアンタを自分が縛ってんじゃないかって気に病んでんだよ!ノアちゃんは……アンタはアンタの幸せを考えて欲しいって常に考えてんだよ!?それがどうして分かんないのさ!」 
                   
                  「!!!!!!!!」 
                  衝撃だった。俺がノアのためにとやっていた行為は、逆にノアを苦しめていたのか……と。 
                  そんな俺に、ヴァンは溜め息をついた。 
                  「……っはぁ。ノアもアンタも似てるんだって。人のため、相手のためなら自分を犠牲にするって考えがね。ただアンタは動けて、ノアちゃんは動けなかった。それが違いだったんだよ。だからあたしは、ノアちゃんの病気を治してあげた。ついでに動けるようにしてあげた。彼女に軽く噛みついて……ね」 
                  「………」 
                  俺はしばらく呆然としていた。そんな俺に囁きかけるように、ヴァンは俺の耳元で呟く。 
                  「ご主人様に不利益になるような事は、あたし達はしないんだ。そこをどうか……分かって?」 
                  「……」 
                  不利益。 
                  この場合の俺にとっての一番の不利益は……ノアが死ぬこと。 
                  「……なぁ」 
                  「何?ご主人様?」 
                  第二の不利益は……。 
                  「ワーウルフになっても、ノアはノア、なのか?」 
                  ヴァンは即座に頷いた。 
                  「うん。ちょっと活動的になるけど、基本的にはノアちゃんはノアちゃんよ」 
                  ノアがノアじゃなくなる、その心配はないらしい。 
                  今のところ、俺にそれを越える不利益はない。となると……。感謝しなきゃいけないか。 
                  「……一応言っておこうか」 
                  「ん?……わふっ!」 
                  俺はヴァンの頭をくしゃっと掴み、ぐりぐりと撫でながら……ぼそっと呟いた。 
                  「……ありがとな」 
                   
                  ――――ヴァンの視点―――― 
                   
                  わわっ!いきなり何しやがるのさっ!あぁあぁ頭撫でぐりしないで毛並みが乱れるって毛並みが―― 
                   
                  「ありがとな」 
                   
                  ……っておりょ?感謝されちゃった。普通それでも何だかんだ怒るもんなんだけどな〜。 
                  まさかこの撫でぐり、照れ隠し?案外可愛いんだな〜ご主人様。 
                  ま〜でも、あたしだってあまり波風立てたくないわけよ。一匹狼やって倒されちゃった以上、力ずくは限度あるし、流石にご主人様の言葉に逆らうわけにもいかないし、かといって本能に逆らうのもどうかだし。 
                  なら双方の同意が得られる状況なら良いかな?とか思ったら、あるじゃない!ま〜これは渡りに船、って具合に。 
                  取り敢えずは結果オーライ、かな。ご主人様に伸されちゃったからノアちゃんも逆らわないだろうし……ね。 
                   
                  ――――再びガラ視点―――― 
                   
                  そんなわけで、今俺の家には二人のワーウルフがいる。 
                  家ではヴァンのマナーをノアが教え、外ではノアの体の使い方をヴァンが教えるといった役割分担の中で、いつしか本物の姉妹のような関係になっていた。 
                  ……まぁ、ノアの体はもう完全に俺の妹ではなく、ヴァンの妹になっちまってるらしいが。 
                  で、最近の狩猟に関してだが――狩猟と言うより、自警団と言うか、バウンディハンター紛いの事をしている、というのが正しい。 
                  その原因は……やはりワーウルフ二人の運動能力は、狩猟では満たしきれなかった、と言うのが大きいが、それだけじゃない。 
                  「年に一回来るあの時期に備えて、ご主人様には健康でいてもらいたいからっ!」 
                  とヴァンは言っていたし、ノアの奴もそれを聞いて少し体をふるふるさせていた。その為には良いものを食べて貰いたいらしく、それを買うための大金を得るには、賞金首を狙う方が楽だ、と結論に至らされた。 
                  正直に言うなら、二人に押しきられた……と言うべきだな。 
                  俺の二つ名が『狼を従える鬼人』、『人狼を超えし者』etc.いろいろと囁かれるようになるまで、そう時間はかからなかった。 
                  そして………。 
                   
                  「ハッ!ハッ!ハゥッ!ハゥッ!」 
                  「おしっ!突くぞっ!良いなっ!」 
                  「きゅーんっ!ガラお兄ちゃん!私も入れてよっ!」 
                  ……この3Pも恒例になったわけで。 
                  兎に角激しいの何の。発情期に入った二人は、朝も昼も夜も兎に角俺を求めてくる。幸い俺は元々精力も強かったらしいのと、腰も鍛えてある上に、事前にヴァンとノアによって精のつく料理をたらふく食べさせられたお陰で、二年目以降は耐えられているが。 
                  「お兄ちゃん!いっくよー!」 
                  元気一杯に俺に飛び込んで来るノアを見ると……若干の罪悪感は湧く。ヴァン曰く、「体は殆んど別物だから孕ませOKだよ♪」らしいが、正直、妹を孕ませるのは……心情的に複雑だ。 
                  「お兄ちゃんの子供なら、私、大歓迎だよ……」 
                  ワーウルフの考えからしたら当然だろう事を本気で、艶やかな笑みを浮かべながら言う妹をどうしたものかと見つめながら、俺は今年も、ヴァンとノアに対して腰を振り続けるのだった………。 
                   
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