ストレンジさんから戴きました!
ありがとうございます!

!注意! 本物語に登場する人物、団体、事件などはフィクションであり、実在の人物、
     団体、事件などとは一切何の関係もありません。

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          ☆彼女は淫らな夢の姫君!?☆
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 人が鉄と炎で未開の地を切り開き、その知恵と技術で闇を過去のものへと追いやってか
ら長い時が過ぎた。いつしかこの世は科学という法が支配し、魔や神秘はわずかに書物や
伝承の中でのみ、人々の目に触れるものと化していた。
 だが、それは決して魔の存在が滅びたということではなかった。地上に人の営みが作り
出す光が星々よりも明るく瞬き、コンクリートの大樹が林立するこの時代にも、人々の与
り知らないところで科学とは別の技法を使いこなし、人間とは異なり、我々を恐れさせる
存在――魔物と呼ばれる者たちは密かに、だが確かに存在していたのだ。

 そう、私たちのすぐ身近にも……

 家々の灯りが大地に銀河を描く。人々の営みの証、その姿を眼下に見渡せる、街一番の
高層ビルの屋上。強い風が吹き渡る中に、突如ばさりと翼がはためく音が響く。直後、屋
上に設えられた給水塔の真ん中に、一つの影が舞い降りる。
「ふう、何とか上手くこっちの世界に『渡れた』みたいね。ここは……どうやら街、みた
いだけど。なんだか私のいたところとは、随分印象が違うわね」
 不可思議な言葉を紡ぐ若い女性は、その背から生えた黒い皮膜の翼をもう一度、ばさり
とはためかせる。ビルの上を渡る強風が深いブルーの髪を乱すのに手をやって押さえつけ
る、その手の隙間からは、硬質な角が覗いていた。
 彼女の紅く光る瞳が興味深げに眼下の街並みを見下ろす。もう夜の帳がすっかり下りて
いるというのに、地上ではたくさんの人間がせわしなく街を行き交っていた。
 思ったよりも大きな街だ、これからすることへの期待の現われか、無意識のうちに逆と
げのついた尻尾がゆらゆらと揺れた。
「うふ、おいしそうな子がいっぱいね。でも、まずは『お仕事』をすませなくちゃ」
その言葉と共に、彼女は地を蹴って空に飛び出す。背の羽が大きく張り出し、夜空を滑る
ように飛ぶ。だが、まるで悪魔そのものの彼女の姿を見たものは、一人もいなかった。

――――――――――――――

 じりりりりりり……!
けたたましい音が、俺の聴覚を、そして頭を揺さぶる。安らかな眠りが破られ、平穏な時
間が終わりを告げたことを少々残念に思いながらも、重たいまぶたをゆっくりと開いてい
く。朝とはいえ、カーテンを閉めているせいで室内は薄暗いが、見慣れた天井がその視界
に映った。続いて首を左に向ける。漫画と小説などの本、そして参考書が詰め込まれた本
棚と、その隣の机が見えた。代わり映えもしない、いつもの自室の風景だ。そうして今日
もまた、いつもの一日が始まるのだろう。
 ふと、いつの間にか目覚まし時計の音が止まっていることに気付いた。無意識のうちに
自分で止めたのだろうか? いや、それにしては手にその感触が無い。
 まだ寝惚けているのか、しゃきっとしないといけないな、とぼんやりと考えをめぐらせ
ていたその時、不意に布団の中の下半身を異様な感触が襲った。
「!?」
 朝っぱらから変な声を出すことは何とか堪えたものの、その感覚はいまだに続いている。
いや、むしろそれを認識したせいで、寝ぼけていた先ほどよりもはっきりと感じられるよ
うになっていた。
 足の肌に直接触れる、柔らかな感触。何かが下半身にまとわりついているようだ。やわ
らかく、暖かいというよりは熱いものが肌を這い回る感覚が、奇妙な快感を脳に送り込む。
「……んっ……ふぅ……ぢゅ……ぢゅる」
気のせいか、妙な音も聞こえてきた。というか、この水音……。そして、さっきから快感
を感じる場所が下半身のあそこと来れば、いくら鈍いといわれる俺でもわかる。
「はぁ……。さわやかな目覚め、ってのはもう俺には来ないのかね……」
溜息を一つ吐き出すと、俺は観念して勢いよく掛け布団をめくる。布団の中の温かさに慣
れきった身体に、冷たい外気が触れ、意識を覚醒させる。それだけなら、極普通の目覚め
の朝なのだろうが、俺のささやかな望みを裏切って、やっぱりそうは行かなかった。
 寝ている間にやられたのだろうか。俺の下半身は寝巻きのズボンはおろか、下着まで脱
がされ、素っ裸になっていた。そして、むき出しになった男性器をしゃぶる影が一つ。
「んん……んっ……ちゅ……」

 薄紫色のセミロングの髪に、すべすべの肌と柔らかな肉づきの身体。少女と女性、その
どちらでもありどちらでもない年代の娘が持つ、どこかアンバランスな魅力を放つ姿。
可愛らしい顔は今は桜色に染まり、一心不乱に固く立ち上がった肉の棒をほおばり、なめ、
すすっている。
 その淫靡な姿は、ただでさえ現実とは思えないものだった。そして、眼前でその行為を
続ける彼女の姿はさらに現実離れしていた。
 その身体に纏った、まるでゲームのキャラクターが着るような、あちこちにリボンがつ
いた服はまだいいとしても。つややかな髪からはぴんと尖った耳と節のついた黒く硬質な
角が二本、生えていた。背後が大胆にあいたデザインの服の切れ目からは、まるでこうも
りのような漆黒の皮膜の羽がその存在を主張し、腰の辺りからは先端にやじりのような返
しのついた尻尾が伸びている。はっきり言って、とても人間の姿ではない。
 その姿は、まさしく物語に登場する淫らな悪魔――サキュバスそのものであった。

「んぢゅ、ちゅ……ふぇ?」
 布団がのけられ、突然視界が明るくなったことにようやく気付き、ぽかんとした表情を
浮かべるサキュバス。だが、それでもまだ、しゃぶるのはやめないらしい。どう返してく
るのか答えは薄々分かっていながらも、このままでは埒があかないので俺はしぶしぶ問い
かける。
「……おい。いつも通り一応聞いておくが、何してる?」
「あ、おふぁひょうふぇんふぉ。ふぁにって、あふぁふぇらふぁよ?」
(あ、おはよう健悟。何って朝フェラだよ?)
 その瞳に、嬉しそうな笑みを浮かべ、彼女は再び舌を動かし始める。弱点を突いてくる
的確な動きに背筋を電気が流れるようであったが、どうにか堪えた。
「くっ……とりあえず、口を離せ」
「え〜……。もうひょっと、いいふぇしょ? そっひも、いひそうひゃない?」
「……いいから。逝かせなくていいから」
 確かに気持ちいいのだが、このままではいろいろとまずい。いきなり朝から幼馴染の口
内にほとばしらせるのをやっちまうほど俺はけだものじゃない……と思いたいが、いろい
ろな意味でこいつ相手だと残念ながら断言できそうにないし。
 そんな俺の内心を知りもせず、しぶしぶ頷きようやく俺のモノから顔を離した彼女は、
名残惜しそうに指をくわえたまま、いまだ露出されっぱなしの俺のあれを見つめる。その
様子に俺は慌てて下着を穿き、もう一度、大きな溜息をついた。
「……はぁ。……明日奈、いつも言ってるが起こすならもう少し健全でマシな方法にして
くれ。いきなり無断でそういう行為に走るんじゃない」
「はぁい……。健悟、これ喜ぶと思ったのに……」
 そう、朝っぱらからフェラとかしてくれやがった目の前のサキュバス。彼女が俺の幼馴
染、夢宮明日奈(ゆめみや・あすな)である。幼馴染の名のとおり、同じ病院で生まれて
から、家が隣同士ということもあって、高校生となった今までずっと一緒に育ってきた女
の子だ。断っておくが、元は彼女もちゃんとした人間……だった。
 そんな彼女が、何でこんな魔物と呼ばれる存在になってしまったかについては、話せば
長くなるのだが……
 まあかいつまんで言うと、「この世界に別の世界から淫魔が侵略しにやってきて」
で、「俺にはそいつらにとって厄介な力がある」とか何とかで、「そんな俺を仲間に引き
入れるべく、手始めに一番身近な彼女を魔物に変えてしまった」のだとか何とか。
 いや、説明してて俺もばかばかしいと思うんだが、流石に目の前にその動かぬ証拠がい
るとなると信じざるを得ない。
「ねえ? どうしたの? あ、やっぱりあれだけじゃしたりない? 続きしようか?」
「ん? ちょ! まて、どうしてそうなる!? あ、おい、やめ……!!」
 説明モノローグを展開していた俺が、明日奈を放置プレイしたのをどう勘違いしたのか。
このサキュバスは嬉しそうに尻尾を振ると俺に飛びつき明るく押し倒してきやがった。
ベッドに俺の身体を押し付けると、華奢な身体からは信じられないほどの力で組み伏せて
くる。変身中のややつりあがった目が爛々と輝いてるのといい、正直、怖いんですけど。
「どうしよっか? 好きなやり方でいいよ? やっぱり騎乗位? それとも正常位?
あ、もちろんバックでもいいよ? ね?」
「ちが……ま……んぶっ!?」
 否定の言葉を発する間もなく。明日奈が唇を押し付け俺の口をふさぐ。俺の抵抗も空し
くすぐさま下着が剥ぎ取られると一物が彼女の肉に包まれ、今日もまたそのまま一発、
抜かれてしまうのだった。

 これは、そんな明るく元気に淫らな生活を送る少年、黒須健悟(くろす・けんご)と、
彼を取り巻く淫魔の少女たちの日々の記録である。

――――――――――――――

「ああ……今日も朝からヤってしまった……」
 あのあといろいろな意味で必要が生じたため、無駄に寝巻きの着替えをすることになっ
た俺は自己嫌悪に苛まれながら階段を降りる。その隣にはつやつやした顔満面に嬉しそう
な色を浮かべた明日奈がぴったりと寄り添っている。こいつは幸せそうなのだから、それ
でいいのかも知れないが。健全な少年として、こんな爛れた生活どうよ?
「いいじゃない。気持ちよかったんでしょ?」
「それは、否定できないのが辛い……」
 どんよりと沈む声で呟く俺の顔を覗き込むと、明日奈はちょっと真面目な顔になった。
「わたしは、健悟と毎日できるの嬉しいよ? ……健悟は、イヤ?」
小さく呟くと、俺の顔をまるで捨てられた子犬のように、上目遣いで見つめてくる。
 うう、そんな目で見るのは反則だろう。これでイヤって言ったら、俺鬼畜じゃねーか。
くそう、小悪魔め。
「そんな……ことは……ない」
 自分でも頬が赤くなっているのがわかる。頬の赤みをごまかしきれるとは思えなかった
が、そっぽを向いて途切れ途切れにそれだけは伝えた。
 そもそも、彼女がサキュバスにされてしまったのは俺の(あるかわからん退魔の力とか
いうものの)せいなのだ。それに以前、明日奈自身から聞いた話によると、快楽に正直に
なるのはサキュバスという種族の性質というか本能のようだし、さらにはいつも断れない
俺が一方的に責めるわけにもいくまい。
 それに、恋愛感情なのかはまだよく分からないが――彼女のことは大切に思っているし。
そうした相手とすることが出来るのは、まあ悪い気分はしない。その……例の行為が気持
ちいいのも、否定できないし。
「よかった……」
 なんだかんだでこいつも不安な所はあったのだろう。俺のその言葉を聞くと、こわばっ
ていた身体からふっと力が抜けた。人とは違うモノにされてしまったとはいえ、その心は
俺がずっと一緒に育ってきた幼馴染の女の子、明日奈となんら変わりは無いのだ。彼女の
横顔を見て、それに改めて気付かされた俺は、そっと彼女の手を取る。
「心配すんな。少なくともそんなことぐらいで俺はお前を嫌ったりしねーよ」
 突然手を握られたことに驚く彼女に、俺は前を向いたまま言葉を発する。
「……うん」
 彼女もまた、ようやく聞き取れるくらいの小さな声で言葉を返すと、俺の手を握り返す
のだった。

 洗顔と制服への着替えを済ました俺は、いつの間にかサキュバスのコスチュームから、
学校の制服に着替えて(というより、変身した?)待っていた明日奈ともに食卓へと続く
扉をくぐる。鼻に料理のいい臭いが届いてくるのと同時に、最早聞きなれた女性の声が耳
に響いた。
「おはよう二人とも。うん、朝から仲いいわね〜? お姉さん、妬けちゃうな〜」
「出たな諸悪の根源」
 声の方に振り向くと、エプロンを纏った深いブルーのロングヘアの女性がこちらを見な
がらにこにこと微笑んでいる。単に美人というよりは、その豊満でいてバランスの取れた
肢体は妖艶とすら言っていい。そんな危険な魅力をにじませる外見は、俺や明日奈よりも
年上、20代前半位に思える。
 だが、そんな見た目は何の役にも立たないのだ。さっき俺が言ったとおり、こいつこそ
が諸悪の根源。今は人に擬態しているが、その真の姿を現せば、先ほどの明日奈と同じ、
角と羽、尻尾が露になった悪魔の姿に変わる。そう、こいつの正体はこの世界を侵略しに
やってきた魔王の尖兵であり、俺の幼馴染をはじめ、何人もの人々を魔物に変えてしまっ
た淫らな悪魔、サキュバスなのである。一応「サキ」と名乗っているが、どうせ偽名にち
がいない。
 明日奈を襲い、自らと同じサキュバスに変えてから何度か俺を自分達の味方に引き入れ
ようとしてきたが、その努力はご覧の通りまったく実を結んでいない。最近では俺と明日
奈の両親が家を空けているのをいいことに、いつの間にかすっかりこの家に住み着いてい
た。俺としては、隙あらば性的に襲い掛かり俺をインキュバスに変えようとするこいつら
のせいで、ここのところ全く心の休まる暇が無い、という状況に陥っている。
「ひどい言われようね〜。私は別に世界を破滅させようとか言うんじゃないわ。
ただちょっと皆が素直に、気持ちよくなれる世界にしたいだけ。
あなただって、さっきしたみたいなことをいつでもどこでも出来るようになったら素敵と
か思わない? あなたが「うん」って言えば、すぐにインキュバスにしてあげるわよ?」
「少なくとも毎日朝から晩まで幼馴染やクラスメイトが性的な意味で襲い掛かってくるよ
うな世界は、ごめんこうむる」
「ええ〜?」
俺の言葉と視線に、目の前のサキュバスはわざとらしく悲しそうな顔を作る。だが俺のじ
とりとした視線が変わらないのを見ると、隣の明日奈に助けを求めた。
「アスタロットちゃんは思うわよね? 健悟ちゃんとエッチできるようになって幸せだも
んね? お姉さんは二人のキューピッドだもんね? 皆を幸せにする仕事、手伝ってくれ
るよわね? 健悟ちゃんをインキュバスにしちゃおうね?」
 あ、ちなみに「アスタロット」っていうのは明日奈がサキュバスになった時の名前らし
い。俺は彼女が変身していようといまいと、明日奈と呼んでいるが。
「あ、えっと、サキさん、えっと……」
 当の明日奈は矢継ぎ早に同意を求められ。思考が追いついていないようだ。なんだか不
穏な発言もあったことだし、ここははっきりさせておこう。
「待った! 今の発言は誘導尋問であります!」
「異議あり! これはサキュバス同士の会話です! 部外者は口を出さないでもらいたい
わ!」
「やかましい! 俺の幼馴染を悪の道に引きずり込むな! 大体毎朝毎晩明日奈をベッド
にもぐりこませるのも、お前の差し金だろうが!」
「あらあら、どこに証拠があってそんな言いがかりを? それに、いつもそのままエッチ
までしちゃう子が言えた義理かしら〜?」
 うぐ、それは事実だけに痛いところだ。何だかんだいって、明日奈は大切だし潤んだ瞳
で「しよ?」とか言われるとイヤといえないんだよな。まったく流石は悪魔、卑怯すぎる
と思う。それにサキ、こいつには口では勝てそうも無い。
「う、うるさいうるさい! 明日奈たちはなんとしてでも人間に戻して、お前はこの世界
から絶対に追い出してやるからな!!」
 もうどう考えても捨て台詞でしかない言葉を逆切れ気味に残し、俺は鞄を引っつかむと
玄関に向かう。その背後から、慌てたような明日奈の声が掛かった。
「け、健悟〜、朝ごはんは〜!?」
「いらねー! 途中のロッテリアンヌででも何か買って食う!
こいつが作った飯なんぞ、どんな薬が入れてあるかわかったもんじゃねー!」
 半ばあてつけ代わりにそう言ってみたが、小さく「ちっ……ばれたか」とかいう声が聞
こえた気がした。幻聴であって欲しいが、ちらりと振り返るとそっぽを向いて口笛を吹く
サキュバスが見えた。いや、ごまかせていないからそれ。そもそも口笛吹けてもいないし。
最早これ以上突っ込むのも疲れたので、俺は投げやり気味にドアを開けて表へ飛び出した。
「まってよ、けんご〜!」
 背中に慌てて靴を履く明日奈の気配を感じる。家から少し離れた所で、ぱたぱたと足音
を立て俺の後を追う明日奈が追いつくよう、俺は足を止めた。彼女が隣に並ぶのを待って、
俺は学校へと続く通学路を再び歩き出した。

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 住宅街から商店街へと足を進め、途中のファーストフード店でハンバーガーを一個買う
と、俺たちは再び通学路を進む。
 まだ登校には早い時間なせいか、道を歩く人々の中に同じ制服を着た姿はそれほど多く
ない。もうちょっと、さっきの店でゆっくりしても良かったかなと思いながら、俺はハン
バーガーを平らげた。
「そんなの一個で、お腹すかない? お昼までもつの?」
 ちょっと心配そうに、隣の明日奈が問いかける。それに手をひらひらと振って平気と答
えた俺は、むしろ明日奈が何も食べていないということに気付いた。
「ていうか、むしろ明日奈は腹大丈夫か? 悪いな、俺のせいで飯、食いそびれただろ?」
 なんならさっきの店戻るか、という俺の言葉に、彼女は不意に頬を染めると蚊のなくよ
うな小さな声で答える。
「……あ、えっと。わたしは、大丈夫。ほら、さっきお腹いっぱい食べちゃったから」
「さっき? 店では何も買わなかっただろ?」
「ううん、その前。ほら、ベッドの上で……ほら、あれ」
「ベッド……? ……あ」
 そこまで言われてようやく俺も彼女の言わんとすることに思い当たった。
 彼女たちサキュバスは、古くから伝説で語られるとおり、人間の精気――大抵は男性の
精液だが――を吸うことでエネルギーを得るのだそうだ。もちろん普通の食事も出来なく
はないのだが、人間の精気、とくに好きな若い男のそれは彼女たちにとって極上のごちそ
うだとかなんとか。俺にはよく分からない感覚だが、いつもエッチの時に彼女たちが至福
の表情をその顔に浮かべているのを見る限り、嘘ではないんだろう。
 つまり、そのサキュバスである明日奈もさっきのアレを通じて、文字通り「お腹いっぱ
い」の栄養を得たというわけだ。
 考えをめぐらせているうちに、朝の光景が脳裏に浮かび上がる。いつもの明るく元気な
彼女とは違った、淫らで妖しい印象の明日奈。一糸纏わぬ身体を惜しげもなく俺の目に晒
し、心から嬉しそうに奉仕をしてきて……。
 いかん、思い出してしまった。折角忘れかけていたのに。何とか心を鎮め、馬鹿な息子
が立ち上がろうとするのだけは阻止する。ただでさえあいつらのせいであること無いこと
噂になっているのだ。こんなことでまた新しいニュースを提供する気はない。
「どうしたの? 具合悪いなら、ちょっと休んでいく?」
 難しい顔でうんうん唸っている俺を心配そうに見つめ、明日奈が腕を取る。その心遣い
は誠にありがたいが、だからといってありのままを話すわけには行かない。男のプライド
として。それに、今のこいつは「休憩」といいつつ、襲い掛かってこないとも限らんし。
「へ、平気平気。なんでもねーって」
「そう? なら、いいけど……」
 いまだに訝しげにこちらに目をやる彼女をごまかすように、俺はわざとらしく腕を振っ
て歩く。やがて彼女もそれ以上聞いても無駄と悟ったのか、俺の手を握ったのはそのまま
で、視線を前に向けた。
 そうしてしばし歩き続ける俺たちの背に、少女の声がかけられる。
「おっはよ〜! 黒須君、明日奈〜!」
 その声に足を止め振り返った俺たちの視界に、片手を振りながらこちらに駆けてくる少
女の姿が見えた。俺達と同じ学校の制服を纏い、ロングの髪が駆けるのにあわせてなびい
ている。俺たちの前までくると、片手を軽く上げ、可愛らしくウィンクをして挨拶をする。
「もいちどおはよ! 二人とも、早いね〜」
「おはよう結城。ま、いろいろあってな」
「りむちゃん、おはよ〜」
 彼女は結城莉夢(ゆうき・りむ)。俺達と同じ学校に通うクラスメイトだ。高校に入っ
てからの付き合いなのだが俺や明日奈とはあっという間に打ち解け、今ではお互いにずっ
と昔からの親友のように感じている。
「いろいろね〜? 大方、またサキさんと喧嘩したんでしょ? ダメだよ黒須君、
レディーには優しくしないと。あ、でもあたしは、激しい黒須君も好きだけどね?」
「ちょっと待て、けんかじゃねーし。大体朝からそーゆー話はやめろ。
そもそもあいつの何処がレディーだ。口を開くと半分は放送禁止用語、半分は怪しい企み
だぞ」
「え〜? いいじゃない別に。だってあたし達にとって、そっちの話題はテレビの下手な
芸能ニュースよりも面白いんだよ? ね、ところで明日奈、今朝も……したの?」
「あ、うん」
 頬を染めながらも頷く明日奈。おい、出会いがしらに何を聞いてる。明日奈も答えるん
じゃない。
「あ〜やっぱりー! そんな感じはしてたんだけど、いいなーいいなー!」
「あ、なら今度はりむちゃんも一緒にしよ? ね、いいよね健悟?」
 きゃいきゃいと騒ぐ姿はその辺の極普通の少女なのだが、いかんせん会話の中身が年頃
の女の子がするにはやばすぎる。俺は、莉夢に鞄を持っていたほうの腕に組み付かれなが
ら、最早奥ゆかしい大和撫子は絶滅したのだろうかと切ない気持ちになった。
 ああ、こいつら……サキュバスだからそもそも大和撫子でもないか。

 そう、結城もまた、サキュバスにされてしまった被害者の一人である。しかも加害者は
誰あろう俺の幼馴染、夢宮明日奈。
 何でそんなことをしたのかと問い詰めた結果彼女から聞けた理由が、「りむちゃんも健
悟のこと好きだっていうし、健悟のためのハーレムを作ったら喜ぶと思ったから」という
斜め上どころか大気圏を突破できそうなものだったときには、流石の俺も言葉を失った。
 っていうか、それって間接的に俺のせいじゃねえかと気付いた時には、いっそ吊ろうか
と思ったくらいである。唯一の救いは、莉夢自身がサキュバスになったこと(と、その結
果俺とエッチ出来たこと)を喜んでいることだが、こっちとしては正直複雑だ。手放しで
喜べんというか、何というか。

 そんなこんなで歩道の真ん中で立ち止まっていた俺たちに、また新たな人影が近づく。
「少しは待てよ莉夢ー。っと、健悟たちも一緒か」
「おはようございます、皆さん」
「なんだ、蓮司に宗像さんまで。結城と一緒だったのか」
「おはよう〜須藤君、宗像さん」
「はい、おはようございます、明日奈さん」
 先ほどまでの俺達と同じように、並んでやってきた一組の男女。ややツリ目がちな顔立
ちと一見無愛想な表情がキツイ印象を与える少年の方が、須藤蓮司(すどう・れんじ)。
おっとりとした雰囲気といかにもお嬢様といった優雅な振る舞い、腰まで伸びる烏の濡れ
羽色の長髪が人目を引く少女が、宗像理奈(むなかた・りな)。やはり二人とも俺たちの
クラスメイトだ。
「しっかし、君たち朝っぱらから仲いいね〜。そんなだからラブラブカップルとか、ハー
レムだとか噂になるんだよ。登校中から両手に花とか、もちっと自重したらどうかね?」
 いまだ左右の腕に少女が組み付いた俺を見ながら、蓮司が肩をすくめる。
「うっさいな! 何で俺ばっかりそんなこと言われるんだよ!
大体お前らだって十分ラブラブ〜とか言われそうなことしてるじゃねーか!」
「ふっ……俺たちは、その辺り抜かりないからな。な、理奈?」
「あ、はい。情報操作は、家のものがしてくれますので」
「くっ……ブルジョワジーめ……!」
 須藤は極普通の家の子だが、その彼女の理奈はこの辺りでは有数の名家のお嬢様だ。正
直この組み合わせがいつどうして出来上がったのか、今でもよくわからん。
 彼女のセリフからは何となく不穏なモノを感じるが、あれだけ愛し合っていて全く噂に
も、やっかみの被害にもあわないのを見ると正直うらやましい。
 ちなみに、何となく気付いた方もいるかとも思うが、彼らカップルもまた、人外である。
明日奈や莉夢と同じく、理奈はサキュバス。蓮司は男版淫魔というべき、インキュバスと
いう魔物だ。もちろん元は人間である。
 彼らが魔物になったのは、「城攻めは外堀から」とかいうサキの策略……あーそーです
よ! 要は俺のせいですよ! ちくしょー!
「何いきなりきれてんだよ」
「そうだよ? こんなかわいい女の子を二人も連れて、何が不満なの?」
「うっせー! 心を読むな!」
「読んでないよ? 顔に書いてあるよ「不機嫌です」って」
「あらあら、朝からそんなではいけませんわ」
「じゃあ気分転換に、どこかであたしがしてあげよっか?」
「ああー! りむちゃんずるいよ! ぬけがけはなしー!」
「いいねえ、こんな可愛い子がしてあげるだってさ。うらやましいねえ。健悟、折角だし
お言葉に甘えたらいいんじゃね?」
「そうそう」
「あらあらうふふ」
 淫魔軍団が俺を取り囲む。あるものは期待に目を輝かせ、あるものは意味ありげな笑み
を浮かべ、またあるものは面白そうに俺を見つめている。いかん、このままではまずい。
このままではまた学校新聞に面白おかしいネタを提供しかねないどころか、俺の評判が地
に落ちてしまう。どうしたものか。

「……う、うう。……わーん! いじめかっこわるいー!!」
 いい考えも浮かばず、ついに場の空気に耐えかねた俺は、片腕で目元を抑えるとその場
から逃げ出した。
「あら、走っていってしまわれましたね」
「ちょっとからかいすぎたかな。しかし打たれ弱いねー」
「うう、折角のチャンスが。うん、ならばあたしは学校でしてもらおーっと」
「りむちゃん、だからぬけがけはだめだって。夜のお楽しみなんだから」
 背後で俺の友人であり、そして人類の敵たちの会話が俺の耳に届く。聞こえてるんだよ!
っていうか明日奈に莉夢、街中でそういうことは言うなとあれほど。くそう、朝っぱらか
ら何だこの仕打ち。ああ、神よ。何故あなたは俺にこのような試練をお与えになるのです?
俺が何かしましたか?
 そう問いかけるも、当然のことながら答えはなかった。

――――――――――――――

 きーんこーんかーんこーん……
 授業終了の鐘の音が響き渡り、教師の合図で礼をすると生徒にとっての憩いの時間、昼
休みが始まる。生徒達は思い思いにその貴重な時間を使うべく、あるものは机に弁当を広
げ、またあるものたちはばらばらと教室から出て行く。
 俺もまた、机に教科書とノートをしまうと固まった身体をほぐすように、大きく背を伸
ばした。最近は授業中だけが誰にも邪魔されない時間となっているせいか、授業が良く分
かるようになってきたというのは皮肉な話だ。まあ、両脇が明日奈と莉夢の席なため、左
右をむくと熱視線が飛んでくるので前しか見れないんだが。
 とにかく昼休みだ。朝はああいったものの、やはり育ち盛りの男子の朝飯としてハンバ
ーガー一個では足りなかったようだ。既に何度か、腹の虫も鳴っている。
「健悟、お昼ご飯はどうするの?」
 いつの間にか、俺の目の前には明日奈が立っていた。俺はイスから立ち上がりながら、
考えをめぐらす。自分では持ってきてないし、どっかで買うしかないだろう。
「ん〜……特に何も考えてないな。購買でも行ってなんか買うよ」
 そう言って俺はポケットの中の財布を取り出し、中身を確かめる。
「あ、なら一緒に食べない? 朝言うの忘れてたんだけど、二人分おべんと作ってきたの」
 明日奈は俺の目の前に小さな巾着袋を二つ取り出す。可愛らしい絵柄に包まれたそれが、
明日奈お手製の弁当なのだろう。彼女の料理の腕はそこらのレストランのシェフも裸足で
逃げ出すくらいなので、その提案は正直魅力的だ。さて、どうするか。

 明日奈と二人っきりの食事というものの魅力も捨てがたかったが、やはりこういうもの
は大人数で楽しんだ方がいいだろう。
 そう考えた俺は、同じく昼食を取ろうとしていた莉夢や蓮司、理奈を誘い一緒に中庭へ
と向かった。
 今日は天気もいいせいか、中庭の芝生には俺たち以外に何人かの生徒の姿を見ることが
出来る。とはいっても、5人位が座る場所が取れるぐらいの余裕は十分にあった。
 適当な所を見繕い、明日奈が用意していたシートを広げると俺たちはその上に座る。明
日奈も靴を脱いでシートに上がると、巾着から弁当箱を一つ取り出し、俺に渡してくれた。
「はい、健悟の分」
「おお、サンキュ」
「上手くできてるか心配なんだけど」
 ちょっと不安そうな明日奈。とはいえ、こいつの料理の腕はよく知っている。まず失敗
ということは無いだろう。俺は彼女に見つめられながら、ふたを開ける。
「心配性だなあ……。……おお、すげえじゃん。そこらの店の弁当よりうまそうだ」
「そう? よかった!」
 弁当箱の中身は半分がご飯、半分がおかずだった。卵焼きやから揚げ、ポテトサラダな
どオーソドックスなものではあるが、どれも彼女の手作りであり、豊かな彩が食欲をそそ
る。
「わ、すごい。これだけのもの作るの、結構大変じゃない?」
 隣から弁当を覗き込んだ莉夢もまた、感嘆の声を上げる。明日奈はそれに照れくさそう
にしながらも、自分の弁当を広げた。
「ううん、そんなことは無いよ? それに、お弁当って一人分作るのも二人分作るのもそ
んなに手間は変わらないから」
「とはいっても、朝の忙しい時間に手作り弁当を作るって大変だよな。まったく、夢宮に
感謝しろよ、健悟」
「そういうお前も、宗像さんにご飯貰ってばかりじゃねーか」
「いいんですよ、私一人じゃ食べ切れませんから」
 そうして話しながら、莉夢や理奈も同じようにバッグから弁当の包みを取り出し、ちょ
っとしたレジャー気分での昼食が始まった。
「それじゃ、いただきまーす」



「はーくったくった。やっぱ上手い飯ってのは生きるものにとって必要だね〜」
「ぷっ、須藤君、おじさん臭いよ〜?」
「あたしは、そういって料理を褒めてもらえるのは嬉しいけどな〜」
「結城の料理もへたじゃあないんだけどな。明日奈と宗像さんが相手だからねえ……」
「べ、別にそんなすごくないよ、わたし」
「うう、ライバルが強すぎるよぉ……」
「あらあら、そんなこと無いですよ。結城さんのおかずも、おいしかったですわ」
「ありがとー、りなちゃん」
 空になった弁当箱をしまい、各自身体を楽にしてしばしの食休みを取る。そうしてしば
らくすると蓮司と理奈は顔を見合わせ、立ち上がった。
「んじゃ、そろそろ行くか」
「はい、蓮司さん」
「ん? まだ昼休みの時間はあるぞ? 何処行くんだ?」
 当然の疑問を浮かべ、問いかけた俺に蓮司はにやりと微笑む。やめろ、その種の笑みの
後はここ最近ろくな目に遭ってないせいで、トラウマ気味なんだ。
「なに、理奈にばっかご馳走になるわけにはいかないんでな。ちょっとお返しをして来る
んだ」
「なんだ? デザートかなんか食うのか? なら別にここでも……」
 俺は言いかけて、理奈が妙に頬を染めているのに気付いた。期待と恥ずかしさが混じっ
たような表情に、どこか妖しげな色を灯す瞳。ああ、分かってしまった。だってこの手の
表情、俺はあいつらのせいで毎日見てるし。
「そういうこと、流石にいくらなんでもここではじめる気は無いんでね」
「それでは皆さん、失礼しますね」
 俺が察したことに気付いた蓮司は、そう言って片手をひらひらと振り、理奈も軽く頭を
下げると並んで歩いていった。あいつらの行く方向にあるのは、えっと……倉庫とかだっ
け? うわ、それなんてエロゲー?
 そんなこんなで俺が二人の行動に呆れているうちに、自分の片づけを済ませた明日奈と
莉夢は、歩み去る二人の背中をうらやましげに見つめていた。やがてどこかぽおっとした
表情のまま、二人がこちらにゆっくりと顔を向ける。姿こそまだ人間のものだが、その目
はもうすっかりサキュバスのものになってしまっている。
 い、いかん。この流れだとどうなるか分かる気がする。っていうか予知能力も無いのに
眼前に嫌な未来が見えてしまっているし。どうしよう。選択肢を一つ選ぶしかない。

@かっこいい俺は突如回避のアイディアを思いつく。
A誰かがやってきて助けてくれる。
B逃げられない。現実は無情である。

 俺はこの後自分の身に降りかかるであろう災難を何とかして回避しようと思考をフル回
転させるが、脳内には「答えB、B、B! 回避できない。現実は無情である」という文
字しか浮かばなかった。
 そうしているうちに左右の腕を明日奈と莉夢にしっかりと掴まれる。し、しまった。俺
としたことが。うかつ。
「健悟、わたしもデザート欲しいよぉ……。ね、いいでしょ? ちょうだぁい?」
「明日奈ばっかりずるいよぉ。ねえ、黒須君、あたしもまだおなかいっぱいになってない
のぉ……。黒須君の食べさせてほしいよぉ……」
 蟲惑的な表情を浮かべながら、腕に身体を擦り付けてくる少女達。抑えきれない興奮の
せいか、スカートからは黒く細い尻尾が伸びだしている。ってそれはダメだろ!
「ま、まて、待つんだ二人とも! しっぽ見えてる! スカートから出てるから! 時に
落ち着け! いくらなんでもここではまずいだろ!」
 発情した彼女らは下手すると真昼間だろうと人目があろうといきなり事を始めかねない
ため、何とか説得をしようと俺は必死で声を張り上げる。
 俺の言葉を聞いて二人は顔を見合わせ、身体を離す。なんとかなったか、と安堵の息を
つく間もなく、明日奈と莉夢はとんでもないことを言い出した。
「なら、ここじゃない場所ならいい?」
「うん、人目の無い場所ならいいよね?」
「ちがう、そういう意味じゃない!」
 日本語って難しいね、と改めて感じる俺をよそに、二人のサキュバスは再び俺の腕を掴
み、ずるずるとどこかへ引きずっていく。か細い少女の腕はまるで万力かなにかの如くし
っかりと俺の腕を固定し、拘束は外れるどころかびくともしない。だから何この力の強さ、
キミ達アーム強化スキルでもつかってるんですか?
 まるで処刑台に連行される罪人のような気分になりながら歩かされる俺の耳に、無情に
も昼休み終了の鐘の音が響く。だが左右の魔物娘は全く気にする様子も無く、このままや
るらしい。
「ああ……終わった。これはせんせーの説教確定だな……」
 絶望にがっくりとうなだれながら、俺は魔物に何処かへと連れ去られていった。

 当然、その後二人の淫魔にたっぷりやられたことは、説明するまでも無いだろう。
心と身体が休まるはずの昼休みが、どうしてこんなことに……。

――――――――――――――

 そんなこんなで、今日一日の終わりを告げるチャイムが学校に響き渡る。授業という束
縛から解き放たれた生徒達は放課後の自由な時間を満喫するべく、各教室からせっかちな
ものは我先にと廊下へ飛び出していき、たちまち学校は喧騒に包まれる。グラウンドから
は運動部の元気のいい掛け声が聞こえ、いくつかの教室では残った生徒達が雑談に花を咲
かせている。
 本来なら俺も彼らと同じようにこの時間を有意義に使っているのだろうが、今は職員室
の一角、担任の先生を前に直立不動でじっと説教を聞かされていた。
 そう、その理由は言うまでも無い。昼休みから午後の授業中ずっと明日奈たちに捕まっ
ていたせいである。当然無断でサボった俺は、その後担任からの呼び出しを受け、こうし
てずっと怒られているわけだ。というか、なんで俺だけなんだろう。明日奈や莉夢も一緒
にサボったはずだが。あれか、サキュバスの魔法かなんかか。なら俺の分も誤魔化してく
れてもいいだろうに。
「……おい、黒須? 聞いているのか?」
 不意に聞こえた声が、考えにふける俺を現実に引き戻す。はっとして顔を上げると目の
前には俺の顔を訝しげに覗きこむ担任、樹里先生の顔があった。まずい、これ以上お小言
の元を増やすのはごめんだ。俺は慌てて頷く。
「も、もちろんです先生! 聞いてます、聞いてます!」
 首をぶんぶんと振る俺をじろりと見つめると、樹里先生はやれやれ、と溜息をつく。教
師といっても若手である彼女は俺たちの姉のような印象で、ざっくばらんな性格ともあい
まって生徒達からの人気は高い。
「まあいい。ここにやってきた時のうなだれたお前の顔を見れば反省していることは十分
に分かったしな。次からはこんなことの無いように。よし、説教は終わりだ。帰ってよし」
 先生はそれだけを言うと、くるりと椅子を回し机に向かう。俺に対する話はもうおしま
いとばかりに積まれた書類に取り掛かる先生に、失礼しましたとだけ言うと彼女は机に向
かったまま、こちらも見ずに左手を挙げ、ひらひらさせた。
 職員室の戸を閉め、無意識のうちに長い溜息がもれ出る。正直担任が樹里先生でよかっ
た。あの人はなんだかんだいっても、いい先生なのだ。生徒を一人の人間として尊重して
くれ、言いたくないことまでは無理に聞き出そうとはせず、自分から話し出すのを待って
くれる。
 まあ、だからといって「幼馴染とクラスメイトが魔物になって、性的に襲われていたせ
いでサボりました」とは言えるはずもないし。そんなこと言ったら言ったで病院に連れて
行かれるだろう、主に頭と精神の方面の。
 つうか結局の所、この問題に関して相談が出来る相手っていないんだよな。元凶のサキ
も、まだあんまり自分の存在を世に知られたくないのか、下手に他人に話すと秘密保持の
ためとかいって相手をサキュバス化させるから被害が増える一方だし。ん? っていうか、
莉夢とか蓮司って俺がそういう話に巻き込んだ結果、あいつに魔物にされちまったともい
えるのか?
待てよ、つまりそれだとこれからも俺は淫魔相手にたった一人孤軍奮闘せざるを得ないの
か? え、あれ、じゃあ俺ってもしかして既に四面楚歌じゃね? これ、人類っていうか
俺、勝てるのか?

 嫌な想像が浮かんできたのを首を振って追いやると、いつの間にか教室にまで戻ってき
ていた。莉夢や蓮司は用事があるとか言ってたし、先に帰ってしまったはずなので、一人
寂しく下校しますか。
 なんとなくセンチメンタルになりながらも、鞄を持って教室を出、昇降口で靴を履き替
える。そこで、柱の一つに背を預けて佇んでいた明日奈の姿が目に映った。顔を上げた彼
女もまた、こちらの存在に気がついたようで、どこか寂しそうなその顔が一転、ぱあっと
明るくなる。
「あ、健悟。先生のお説教はもう終わったのね?」
「ああ、まあな。というか明日奈、もしかしてずっと待ってたのか? 先に帰ってくれて
ても良かったのに」
 そういう俺に、明日奈は首を振る。
「ううん、別に気にしないで。わたしが勝手に待ってただけなんだから」
 そうして二人並んで歩き出し、グラウンドを部活動の生徒が駆け回るのをなんとなく見
やりながら、校門を通り過ぎる。まだ空は明るいものの、少しずつ傾きかけた太陽が俺た
ちの影を長く道路に伸ばしていた。
 たまたまそんな時間なのか、普段は人通りの多い通学路を歩くのは俺たち二人だけで、
ほかの人も、車も通らない。まるで世界に自分達だけのようだとくだらない幻想をぼんや
りと頭に浮かべながら、並んだままてくてくと歩く。
 後一つ角を曲がればもうすぐ俺の家が見えてくるというところまできたとき、それまで
ずっと何かを考え込んでいる様子で黙り込んで隣を歩く明日奈が、不意に口を開いた。
「ねえ、健悟。今日のこと、迷惑だった?」
「迷惑?」
 突然のことでいまいち言わんとする事が把握できなかった俺は、鸚鵡返しに聞き返す。
「うん。その……朝起こしに来たこととか、お昼ご飯のこととか、放課後待ってたことと
か。イヤ……かなって」
「急にどうしたんだよ?」
「うん、ちょっとね。わたしがいつもいつも健悟にべったりだと、うっとおしいと思って
たりしないかな、って。」
 いつもの元気な彼女らしくない不安に沈んだ表情をちら、と横目で見る。別にそうした
ことを迷惑と思ったことは無い。弁当やらなにやらはむしろ、大いに助かっているのだし。
 彼女が何を気にしているのかは知らないが、思えば幼馴染ということに甘えて、ちゃん
とそういうことを話したことは無かった気もする。うん、やっぱり感謝の念はきちんと伝
えてあげた方がいいだろう。
「別にそんなこと思ったりはしねーよ。むしろ朝起こしてくれたり、今日みたいに弁当も
らったりして助かってるんだし。気にしないでいつも通りでいればいいって」
「……本当?」
 それでもまだ不安そうにこちらを見つめる彼女に、俺も顔を向けて頷く。
「ああ、本当だって。いつも感謝してるよ。ああ、でも今日の昼みたいに、顔合わせるた
びに毎回発情するのは勘弁な?」
 冗談めかして言った俺の言葉に、明日奈は顔を紅に染める。
「あ、あれはたまたまだよ! 宗像さんたちがするっていうから、つい羨ましくなっちゃ
って……」
 彼女がうつむくと共に尻すぼみになっていく言葉を耳にしながら、俺はやれやれと天を
仰ぐ。まあ、これでもまだサキュバスになりたてのころよりは制御できるようになった方
だからな。明日奈も莉夢もサキュバスにされた直後は性欲と快感に対する身体の感度が異
常に高められてしまったらしく、その感覚と飢餓感に理性がもたずに欲望のままに俺に襲
い掛かってきたし。明日奈のときも、莉夢の時も落ち着くまで、ほぼ一日中俺の部屋でや
るハメになったっけ。よく枯れなかったな、俺。これが若さか。
 かつての天国のような、しかし現実にはある意味地獄の光景を思い出し、俺はどこか遠
くを見つめる。そんな俺をよそに、明日奈は誰に言うとでもなくぽつりと呟いた。
「……それに健悟、もてるんだもの。狙ってる子多いし、負けてられないよ……」
「ん? ごめん聞き取れなかった。何か言ったか?」
 耳に届いた小さな声に俺は顔を向け直す。だが、彼女は小さく首を振るとにこりと微笑
みを返した。
「ううん、なんでもない。ほら、もう家に着くよ。わたしも鞄を置いて着替えたら、夕飯
作りに行くからね」
「あ、ああ。助かるよ」
 いまいち何か誤魔化されたような気がしたが、あえて聞き返すのもな、と思った俺は曖
昧に呟く。まあ、明日奈のことだから本当に俺に伝えるべきことならいつか必ず話してく
れるだろう。いちいち確かめることでもあるまい。
 そう考えながら俺は自宅の庭に入る。明日奈も隣の門を抜け、玄関のドアに手をかけた
のを見届けると俺もドアを開け、家の中へと入っていった。

「ただいまー」
「おかえりあなたぁ〜。ご飯にする? お風呂にする? それともぉ、わ・た・し?」
「帰れ」
 まあ当然のように俺を誘惑しようとするサキュバス、サキが待っていた訳だが。
はあ、家に帰ってきて即疲れるとは……。

――――――――――――――

「ふ〜、流石は明日奈の手料理、うまかったな。それに珍しくサキのヤツがいなかったか
ら、久方ぶりに穏やかな夕食と風呂を堪能できたぜ」
 夕食と風呂を済ませ、自室に戻ってきた俺はそう呟くとベッドに大の字に横たわる。今
日も食卓が性的な意味での戦場と化すことを覚悟していただけに、あの淫魔がいなかった
のは正直拍子抜けだった。それに妙に明日奈もおとなしかったし。ああ、こんなに落ち着
いた夕飯をとることが出来たのはいつ以来だろうか。もっとも、サキのヤツのことだから、
姿が見えないと逆に何か良からぬことをたくらんでいるように思えて不安にもなるが。ま
あ、いい。今はこの静かな時間を大事にしよう。
 特に何をするでもなく、布団にぐてーっと身体を沈め、俺はそのやわらかさを堪能する。
ああ、至福のひと時。というかこれくらいのことで感動できるというのは、逆に今の日常
がどれだけ異常か如実に示しているともいえるな。

 このまま朝まで惰眠を貪ってもよかったのだが、俺は軽く気合を入れなおしてベッドか
ら身を起こすと、つかつかと窓に歩み寄る。一瞬の溜めの後、両手で思い切りよくカーテ
ンを開ける。
「は、はう!」
 そこには夜空の下、ベランダでおろおろしているサキュバスの姿があった。朝と同じ、
リボンのたくさんついた不思議な衣装に着替えた彼女は、不意に開いた窓にびっくりした
様子のまま、こちらに気まずそうな顔を向ける。
「明日奈、入るならさっさと入って来い。あと、次は出来ればちゃんとドアからな。ベラ
ンダで妙にうろうろされると、気になってしょうがない」
「だ、だって健悟すごく幸せそうにしてたから、お邪魔かなって思ったし。それに入るタ
イミング外しちゃうと、何だか恥ずかしいんだもの……」
 そういって彼女は背の羽をぱたぱたと羽ばたかせる。
「何をいまさら。もう散々入ってるじゃねーか。ほら、さっさと入る入る。開けっ放しだ
と虫が入るし、寒いんだよ」
 俺はふう、と息を一つ吐き出すと固まり立ち尽くしたままの彼女の手を取り、部屋に引
き入れた。向こうからの誘いを断る理由も無く、彼女の方も俺に手を引かれるがまま室内
に足を踏み入れる。きょろきょろと部屋を見回す彼女に、べつに見慣れたもんだろという
と、明日奈もまた、そうだねといって笑った。
「ねえ、ほんとに邪魔じゃなかった?」
 ベッドの端に腰掛けた明日奈がこちらを見上げながら、訊ねてくる。
「全然邪魔なんかじゃないから気にするなって。だいたいお前のそのかっこといい、我慢
できなくなって、最初から「する」つもりで来たんだろ? もう毎度のことなんだし、今
更になって何を遠慮してるんだよ」
 まあわざわざサキュバスに変身した状態で来るくらいだから、最初に予想はついている。
今日はなまじ朝も昼もエッチしてしまったせいで、彼女のサキュバスとしての本能、欲望
が高まって抑えきれなくなってしまったのだろう。で、サキュバスの癖に俺のことを気持
ちよくするのが第一とか考えてる明日奈は、自分の快楽のために無理やりするのをためら
っていたに違いない。
「だって、今朝もお昼もしちゃったから……健悟に無理させちゃうかなって……」
 不安そうに言葉を途切れさせる明日奈。まったく、こいつはサキュバスにされてもこう
いうとこはちっとも変わっていないんだからな。安心するやらなにやらで複雑だ。
「そいつは心外だな。たかだかそれくらいで倒れるほどやわじゃねーよ。健全な男子学生
をなめてもらっちゃ困るぜ」
 彼女に心配をかけさせないため、俺はわざと冗談めかして笑う。というか、言ってから
気付いたけどこのセリフ恥ずかしすぎるだろ。
「……うん、ありがとう」
 そういって明日奈もかすかに微笑む。だからそういう反応やめろ。俺が恥ずかしくて消
えたくなるだろ。

「あー、もういい。ほれ、ベッドに寝かすぞ」
 自分でも顔が真っ赤になっているのを自覚しながら、明日奈の柔らかな身体をゆっくり
とベッドに押し倒していく。その身体は女の子らしく華奢ではあるが、胸やお尻は肉付き
よく、普段の彼女の印象どおり健康的な魅力を持っていた。
「んっ……」
 ぎし、とベッドのばねが軋む音の中に、小さな明日奈の声が混じる。その頬は先ほどか
ら既に期待と興奮で桜色に染まっており、薄く開かれた口からはかすかな吐息が聞こえた。
「明日奈、羽、大丈夫か?」
 ベッドの上に仰向けに横たわった彼女は、俺のその言葉にこくんと頷く。それを証明す
るかのように布団の上で皮膜の羽がかすかに動いた。
「……脱がすぞ」
「うん、お願い……」
 明日奈にそう囁くと、俺は彼女が纏った不思議なコスチュームを脱がしていく。初めて
のときは戸惑ったものだが、今となってはもうお互いに慣れたものだ。べつに威張れるよ
うなすごいことじゃないけど。
「よ……っと」
 おっぱいの谷間の下、へその上当たりの所にある留め金を外し、上着を左右にはだける。
「やん……」
 ふくよかな二つの双丘が露になると、明日奈はどこか嬉しそうな声を漏らした。
「けんごぉ、きすぅ、キスほしいよぉ……」
「ハイハイ、甘えん坊だな明日奈は」
 甘えた声で呟く彼女の潤んだ目がこちらを見つめる。俺は明日奈の胸に手を添えながら、
可愛らしい唇にそっと自分の唇を触れさせる。
「ん……ちゅ……ちゅぅ……」
 魔物ののものとなった瞳を細め、明日奈が舌を伸ばし、動かして唇を貪る。俺もまた舌
を絡めてそれに応えながら、彼女の下半身部分の衣装を脱がせにかかった。
「ぷぁ……相変わらず妙な服だよな」
「や……ん……。そうかな? 健悟はこの服嫌い?」
顔を離した明日奈が、こちらの顔を覗き込みながら訊いてくる。間近にある彼女の顔にち
ょっとどきどきしながらも、俺は平静を装い応える。
「いや、いいんじゃね? まあ今のそのかっこには似合ってるとは思うし。かわいいとは
思うぜ」
「えへへ……よかった」
 にこりと笑う明日奈。俺はその間に腰の左右にあるリボンを掴み、するりと解く。腕の
カフスとオーバーニーソックス以外を脱がされた明日奈は先ほどよりも紅く顔を染め、こ
ちらをじっと見つめる。そのうるんだ瞳は、既に欲望を抑えきれないように見えた。
「……どう? あんまりじっと見られるのは、ちょっと恥ずかしいけど……」
「うん、綺麗だよ」
 白いシーツに横たわる彼女は、お世辞でもなんでもなく美しかった。その顔はいつも見
慣れた幼馴染のまま、黒い角、尖った耳、皮膜の羽と細い尻尾を持ったサキュバスとなっ
た彼女が見せる、どこか妖しさすら漂う姿。まさしくそれは人を堕落させる淫魔、サキュ
バスそのものであった。だが彼女の顔に浮かぶ表情は、心からこちらに悦んでもらいたい
というもので、それが男の支配欲や優越感をこれ以上なく刺激する。
 既にこれまでで俺の性欲も激しく燃え上がっていた。いそいそと服を脱ぐと、はちきれ
んばかりにふくらみ固くなったモノが姿を現す。
「わ……。もう、こんなに。うれし、わたしでこんなになってくれたんだね……」
「まあ、な」
 嬉しそうな彼女の言葉に、俺はそっぽを向いたまま返す。いや、目の前に裸の女の子が
いれば、これは男として当然の生理現象だし、大切な彼女の前でこうなってくれなければ
むしろ困るのだが、指摘されるとやはり恥ずかしい。
 そんな俺の複雑な内心に構わず、明日奈はゆっくりと足を開き、既にしっとりと濡れた
秘所に自らの指を当てて開く。
「……ね、分かる? あなたと一つになれると思っただけで、もう、こんななの……。
あなたはわたしに何をしてもいいの。わたしはあなたに悦んでもらえるだけでいいの。
だから……けんごのを、いっぱい、ください……」
 羞恥と興奮に頬を染め、明日奈がねだる。俺は無意識につばを飲み込むと、すでに待ち
きれないとでも言うかのように固くなった肉棒をそっと彼女の割れ目にあてがった。
 敏感な肉同士が触れ合う感触に、二人とも同じように身体を震わせる。だが、それも一
瞬のことで、俺はすぐに自身を彼女に埋めていく。
「や、ぁっ……」
「く……ぅ……」
 肉が擦れもたらされる快感に口から声を漏らしながらも、ゆっくりと肉棒は彼女の中に
飲み込まれていった。
「あつぃ……あなたのとってもあついょぉ……」
「明日奈の中も、あつくて、ぬるぬるで……まるでとろけるみたいで、きもちいいよ」
 そうしてしばし彼女の中の感覚を堪能すると、俺は腰を動かし始める。ずっ、ずっ、と
肉同士が擦れ、ぶつかり合う音、そして二人の口から漏れる嬌声が部屋の中に淫らに響い
た。器用に俺の腕に巻きついた尻尾をそっと撫でると、彼女のからだがびくりと跳ね
た。
「きゃぅ、尻尾きもちいぃ、触られると、感じちゃうの……」
「俺には良く分からん感覚だが、いいならもっと触るか?」
「うん、もっとしてぇ……。あっ、そう、やさしくぅ……」
 片手ですべすべとした尻尾を撫でると、それにあわせて明日奈のの口から短い嬌声が漏
れ出た。それが何となく面白くて、俺はをそっと尻尾に這わせる。
「けんごぉ……すきぃ、好きだよぉ……。いっぱい、なかにいっぱいほしいよぉ……」
 明日奈は、彼女の上に覆いかぶさるようにしながら腰を動かす俺を抱きしめ、耳元で甘
く囁く。俺はその声に頷くと、動きをさらに加速させた。
「やぁあん、はぁっ、あぁん! きもちいい、いいよぉ!
もっとぉ、もっとはげしくしてぇ!!」
 俺はその声に応え、彼女もまた、自ら腰を動かす。
「うっく……、くぁ……!」
まるで絡みつくかのようにまとわりつく明日奈の肉の感触に、俺の限界が近づいてきた。
歯を食いしばって耐え、明日奈の顔を見ると、彼女の方もまた、俺とそうは変わらないよ
うだ。
「く……あすな、いくぞ……!」
最後に一際力強く打ち込んだ瞬間、彼女がぎゅっと締め付けてきた。それが止めとなって、
俺のものから熱い液がほとばしる。
「ああん! あついよぉ!! どくどくってぇ、はいってきちゃうょぉ……!
だめぇ……! ああああっ、イク、いっちゃうよぉ!!」
 びゅくびゅくと噴出す液体が流れ込む感触に涙をこぼしながら、明日奈も限界を迎え、
その身体がびくびくと激しく震え、彼女の身体から力がぬけた。
「全部、膣内にだしたよ……」
「うん、うれしい……奥まで、いっぱいになっちゃったよ……」
 しばらくの間、俺たちはつながったままで快感の余韻に浸っていた。やがてどちらから
とも無く口付けを交わすと、お互いにふふ、とかすかな笑みを浮かべた。
「……気持ちよかった?」
「ああ、すげえ気持ちよかった。……ありがとな、明日奈」
 照れくさくはあったが、そういって寝転んだままの明日奈にもう一度口付ける。そして
彼女から身体を離し、簡単に後始末をする。濡れタオルでいまだ裸の明日奈の身体を拭い
てやると、彼女は目を閉じて気持ちよさそうにうっとりとした表情を浮かべた。

「……明日奈? 寝ちまったか」
後始末を終え、タオルを片付けて部屋に戻ると明日奈は静かな寝息を立てていた。いまだ
サキュバスの姿のままの彼女だが、その寝顔は天使のように優しげだ。
 俺は彼女を起こさないようにそっとベッドの端に腰掛けると、薄紫のつややかな髪をそ
っと梳いてやる。
「……巻き込んじまってごめんな。俺がきっと人間に戻してやるから。それにもし、人間
に戻れなくても、ずっと側にいてやるから」
 自分自身に決意を聞かせるように、俺は静かに言葉を発する。

「う〜ん、いいわね〜若いって。やっぱり愛よね、愛」
「出たな元凶」
 不意に響いた声に顔を上げると、そこには愉快そうにこちらを見つめるサキの姿があっ
た。俺は彼女に鋭い視線を向けるが、まるで感じる所のないようにくすくすと笑みを浮か
べる。
「ふふ、二人とも幸せよね。好きな人とこうして愛を確かめ合えるんだから。ねえ、そう
思うでしょ?」
「…………」
「もう、強情ね。でもまあいいわ。そうやってサキュバスの子とエッチするたびに、あな
た自身も魔物に変わっていくんだから。
……実を言うと本当ならもう、インキュバスに変わっててもいいくらいなんだけどね。今
のところはあんまり変化は無いみたい。それも退魔の力のせいかしら?」
 完全に面白がっている調子の言葉に、俺は渋面を作る。確かにこのまま明日奈たちとこ
うしたことを続けていけば、そう遠くないうちに俺もインキュバスになってしまうのかも
しれない。だが、俺にも少なからず原因がある以上、性欲が増大してしまっている今の明
日奈たちを放っておくわけには行くまい。いろんな意味で。
 それに、おれ自身最近ではこのまま明日奈や莉夢たちと一緒に魔物になってずっと暮ら
すのも悪くないんじゃ……とかすかに思い始めている。っと、いかんいかん、これじゃ相
手の思う壺だ。
「しるか。っていうかいい加減出てけ。俺も寝るんだよ」
「あら残念。お姉さんもあなたと楽しみたかったんだけどな。まあ、アスタロットちゃん
に怒られそうだし、それはまたの機会にしておくわ」
「黙れ色魔」
 手近なところにあった枕を掴んでこちらをからかうサキュバスに投げつけるが、当たる
直前でサキの姿が薄れ、枕は空しく壁に当たってぼふんという音を立てた。
「あらあら、ものは大切にね。それじゃ、おやすみなさい」
「ちっ……まったく」
 思わず口から漏れたのは誰に対する悪態か、自分でも良く分からないまま俺は床に転が
った枕を拾い上げると、ベッドに戻る。明日奈は先ほどと同じく羽や尻尾を出したままで、
すやすやと眠っていた。その幸せそうな明日奈の寝顔を見つめ、観念した俺はそっと彼女
の隣にもぐりこんだ。せめて夢の中くらいは平穏無事に過ごしたいと思いながら、そっと
目を閉じる。
「おやすみ……」
 
 直後思いっきり明日奈に抱きつかれて少々びっくりしたのは秘密だ。そんなこんなで、
黒須家の夜は更けていくのだった。

―― 『彼女は淫らな夢の姫君!?』 ??日目 終わり ――

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