ストレンジさんから戴きました!
ありがとうございます!


!注意! 本物語に登場する人物、団体、事件などはフィクションであり、実在の人物、
     団体、事件などとは一切何の関係もありません。
     また、主人公の名前など、一部設定は本物語のために作者ストレンジが設定
     したものであり、原作者のクロスさんの設定とは異なる場合があることをお
     断りしておきます。

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   ☆ EXシナリオ 明日奈編『不器用な者達の、恋の駆け引き』 ☆
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「ただいまー」
 玄関のドアを開け、俺――朝比奈望(あさひな・のぞむ)は暗闇に包まれた我が家、夜麻
里(よまり)家の中に帰宅の声を響かせる。が、返事を返すものはなく、家の中は静まりか
えっていた。
「あれ……? 理梨はまだ帰ってないのか?」
 いつもならば、俺が玄関を開けたと同時に飛びついてくる妹の声も姿も無い。条件反射的
に身構えていたのが無駄になり、少しばかり拍子抜けする。
 ま、冷静に考えれば電気が点いていない時点で家に誰もいないことは察してしかるべきだ
ったのだが。
「あいつ、こんな遅くまで何やってんだ」
 俺は兄として、保護者として妹の遅い帰宅に眉をしかめる。窓の外を見れば、家々の屋根
の向こうへと夕日が沈む間際であった。日没直前の空は既に深い紫に色を濃くしており、深
い闇が立ち込める室内には不気味ともいえるような静けさが漂っている。
 心なしか、見慣れた家が広く感じられた。
「まあ、寄り道してた俺が言えた義理じゃねーけど」
 暗闇から感じる本能的な何かを紛らわせるように、俺はぼそりと呟く。
 その拍子に、そういえば朝食の時に妹が週末は友達の家に泊まるだとか言っていたことを
思い出した。
「あー……そうだ、あいつ週末は留守にするとかなんとか言ってたか」
 足元を見れば、妹の通学用のローファーがある代わりに、スニーカーがなくなっている。
おそらく、俺がゲーセンなんぞに寄り道している間に理梨は学校から真っ直ぐ帰り、着替え
てすぐに出かけたのだろう。
 母も今週は仕事の関係上、週末はまともに家に帰ってはこれないだろうと言っていたはず
だし、金曜日の今日と明日明後日はこの家には俺一人だけということになる。
 つまり、何をするのも自由である。今の俺は名実共にこの夜麻里家の主なのだ。
 ただ、その自由の反面、すべてがセルフサービス。
「夕飯どうするかな……」
 ぼりぼりと頭をかきながら俺は靴を脱ぐ。別に料理をすること自体は嫌いではないのだが、
一人分だけを作るというのは張り合いもないし、材料も無駄になりがちなのだ。片付けも面
倒だし。
「ふーむ」
 ゲーセンで散財してしまった男子高校生にはきついものがあるが、今日は外にラーメンで
も食いにいくなり、コンビニで買ってくるなりするかと考える。
 とりあえず着替えることにして俺は自室に向かうべく二階への階段を上がる。鞄を持つの
と反対の手で手すりを掴みながら、暗い階段を昇っていった。
 階段を一段一段踏むたびに、足元からぎしぎしと音が響く。
 無言のまま階段を昇り終え、既に日が落ちて闇に染まる廊下を歩く。数歩も歩かないうち
に妹の部屋を過ぎればその隣は自分の部屋だ。
「あ〜、ようやく一週間終わったぜ。理梨もいないし、週末どうするかなー」
 腕を上げて背筋を伸ばし、俺は独り言を呟く。
 週末の予定をあれこれ思い浮かべながら俺はドアの取っ手を握った。鍵なんて贅沢なもの
など付いていない扉は、俺がノブを軽く回すとあっさりと開く。オーク材の扉が内側に開き、
古くなった金具が軋んで耳障りな音を立てる。



 俺の目に映ったドアの向こう、自室の様子は朝に出て行った時から変わっていないように
思えた。とはいえ、窓から差し込む夕日は最後の輝きをわずかに残すのみで、室内はほとん
ど真っ暗といっていい状態だった。仮に誰か(例えば理梨)が弄っていたとしても、わから
なかっただろうが。
 だが如何に暗くてわかりづらかろうとそこは勝手知ったる自分の部屋。俺は躊躇い無く室
内に足を踏み入れ、後ろ手にドアを閉め、電灯を点けようと壁際にあるスイッチを手探りで
探す。
「明かり、明かり……と。……ん?」
 指先に硬いスイッチが触れるよりも先に、俺は自分以外の気配が室内にあることを感じた。
まさかとは思うが、泥棒だろうか。そんな考えが一瞬脳裏に浮かぶ。
 しかしその疑問が形となって口から出る前に、室内にいた何者かの声が俺に掛かった。
「おかえりなさい、望くん」
「……っ!?」
 思わず変な声が出そうになるのを、俺はなんとか押し留める。
 響いた声は俺と同じくらい、十四、五歳の少女のもの。鈴の音のような、心地よい高音だ。
 学校でならともかく、我が家で名前を(それも同年代の女の子に)呼ばれるという、その
呼ばれ方に何となく新鮮なものを感じる。妹、理梨と一緒に暮らしているとはいえ、今のあ
いつは俺のことを「お兄ちゃん」と呼ぶため、家の中で「名前」で呼ばれることはほとんど
無いに等しいのだ。
 まあそれはともかく。それよりも俺を驚かせたのはかけられた声、その音自体にであった。
 なぜならその少女の声は、俺のよく聞き知ったものだったからだ。いや、よく聞き知った、
というよりは毎日聞いていて耳に馴染んでいる、という方がより適切な表現なくらいである。
 声をかけられた瞬間こそびっくりはしたものの。相手の正体が分かるとその安堵と共に、
警戒のために無意識のうちに緊張していた身体から力が抜ける。俺は脱力して肩にかかる鞄
にすら重さを感じながら、声を出した。
「はぁ、脅かすなよ。寿命が無駄に縮むぜ」
 鞄を床に置いて顔を上げ、声の主である少女の姿を探す。
「ふふ、ごめんごめん。ちょっと、びっくりさせちゃおっかな〜って」
「おいおい……」
 そんな俺の様子を見てか、おかしそうに笑う少女の声が俺に届く。声のした方に顔を向け
ると、俺は見慣れた少女の姿を見つけることができた。
 黄昏の光を映す窓を背後に、俺の幼馴染の少女が窓辺に腰掛けている。セミロングの髪に、
美人というよりは可愛らしいといった印象の顔立ち。俺より頭半分ほど低い背丈。その姿は
見間違えようも無い。
 彼女は夢宮明日奈(ゆめみや・あすな)。俺とは家が隣同士、さらには同い年という関係
で、幼い頃から一緒に育ってきた女の子だ。
 その明日奈が身に纏うのは、濃い赤色を金で縁取りをし、胸元に緑色のリボンが付いたブ
レザー。下半身は濃緑色のスカートに、白いハイソックスといういでたちだった。どこから
どう見ても、全国津々浦々で見られるいかにもな高校の制服スタイルだ。
 女子と男子の違いはあれど、その胸に付けられた校章は俺の制服に付いたそれと同じ、西
純高校のもの。毎日嫌というほど学校で見ている、おなじみの格好である。
「……」
 明日奈の装いはそんなありふれた服装であったにもかかわらず、俺は一瞬言葉を失う。そ
れくらい、目の前の幼馴染の姿は魅力を放っていたのだ。それは単にかわいいとか綺麗とい
うよりは、どこか現実離れしているような気さえした。魅力、の前に「魔性」のという言葉
を付けてもいいかもしれない。
「……? どうかした?」
 いきなりフリーズした俺に、きょとんとした明日奈が声をかける。彼女の声で我に返った
俺は、内心の動揺を誤魔化そうと、適当な言葉を探した。
「いや……明日奈、制服のままかよとか思って」
「ん、まあちょっとね。そういう望くんは寄り道? 今日は随分遅かったね。待ちくたびれ
ちゃったよ」
 窓辺から腰をあげ、わざとらしく疲れた声で、彼女は言う。
「待つって、今日は特に約束もしてなかったと思うけど」
「あ、え〜とその、ほら、今日って望くんの家誰もいないんでしょ? 私の家も今日は皆い
ないし、折角だから何かご馳走してあげようかな〜って」
 明日奈の何かを妙に含むような言葉と態度にわずかに引っかかるものを感じつつも、俺は
言葉を返す。
「そりゃありがたいけど……。別に家は隣同士なんだし、わざわざ俺の部屋で待つ必要ない
だろ?」
「あ〜、分かってないな〜。女の子を待たせてその台詞じゃ、嫌われちゃうよ?」
 俺の言葉を聞き、彼女はわざとふくれたような声を出す。かと思うと、すぐにくすくすと
笑った。そんな幼馴染に、俺はほっといてくれとばかりに肩をすくめる。何で帰宅早々、幼
馴染に非難されねばならないのだろうか。
「いや別に……。というか待つとか待たせるとか以前にそもそもお前、何で人の部屋に勝手
に入ってんだよ」
 せめてもの抵抗と、ぼやき声で文句を言う。まあ、俺と彼女は一緒に育ってきたせいもあ
って、お互いの部屋を行き来することに最早抵抗もなくなっているような状態である。そん
なものだから、口では文句をいいつつもそれほど気にはしていないのだが。
「いいじゃない。ね……?」
 明日奈もそう考えていたのだろう、口元に笑みを浮かべながら片目を瞑る。
「まあそうだけどさ」
 苦笑で答えた俺に、彼女は独り言のように囁く。
「……だって、待ちきれなかったんだもの」
「え……?」
 聞きなれた幼馴染の声は、その中にどこか絡みつくような響きを含んでいた。彼女の言葉
に俺は反射的に顔を上げ、明日奈の方に向ける。
 見慣れた自室を逢魔が時の色が染め上げ、昼と夜の合い間にだけ現れるオレンジとブルー
の空を背景に明日奈がこちらを見つめている。
 非現実的な空の色のせいなのだろうか? 今の明日奈は、いつもと違う。上手く言い表せ
ないが、彼女の姿には妙な存在感があるような気がした。
(なんだ、なんか……)
 何故だか一瞬、目の前にいるのがいつも見慣れた幼馴染とは違う存在に思える。そんな、
自分でも良く分からない感覚を抱いたまま、俺は半ば無意識のうちに彼女の名前を呟いてい
た。
「明日奈……?」
「うん、そうだよ?」
 俺に名前を呼ばれた少女――夢宮明日奈はにこりと微笑み、こちらへと足を一歩踏み出す。
 その声も、仕草も、ふわりとした印象の桃色がかった髪も、高校に入ってからどんどん女
性らしさを増していた身体も、俺の記憶の中の幼馴染の少女と違いは無い。どこにも妙な所
は無い……はず。そう思う。
 いつも通りの、見慣れた、いつも俺の隣にいる少女――そして俺の恋人――夢宮明日奈、
そのはずだ。
 なのに。優しげな笑顔を浮かべる目の前の少女は俺の彼女、俺とずっと一緒に育ってきた
幼馴染、お隣の女の子……のはずなのに。
(なんか……へんだ……)
 心のどこかに生まれた、彼女に対する違和感が消えない。
 それは何気に真面目な彼女が勝手に俺の部屋に入っていたとか、携帯に連絡もせず電気も
点けずに俺の帰りを待っていたとか、そういう次元の疑問とは全く違うもので、漠然とはし
ていつつも無視することの出来ない確かさを持ち、どんどんと大きくなっていた。
「どうしたの? ぼーっとしちゃって」
 突然耳元で響いた明日奈の声に、俺は我に返る。気付けば、不思議そうに小首をかしげた
明日奈の顔が目の前にあった。我ながら随分と馬鹿な考えに没頭してしまっていたらしい。
「ねえ? 大丈夫?」
 彼女は琥珀色をした大きな瞳にわずかに心配そうな色を滲ませ、俺の顔を覗き込む。
「あ、ああ。わりぃ、ちょっとさっきまでいたゲーセンでやってたゲームのこととか考えて
てさ。あとちょっとのとこでゲームオーバーになっちまったからどう攻略するかって」
「本当〜? なんかあやしいなあ〜」
 自分の頭に浮かんだ馬鹿な考えのことなど言えるはずが無く、誤魔化そうとする俺に明日
奈はさらに顔を近づけてきた。
 どちらかがほんの少し動いただけで、肌が触れ合ってしまいそうなくらいの至近距離に彼
女の顔がある。間近に迫った彼女から香水か何かのような、嗅いだことの無いそれでいてい
い匂いがかすかに漂い、鼻腔を刺激した。
「う……」
 思わず言葉に詰まる。幼馴染の身体から漂う不思議な香りと、目と鼻の先にある年頃の女
の子の顔に、妙にドキドキしてしまう。
 、密かに西高の男子の間では人気の高い明日奈だが、こうして見るとそれも当然だな、な
んていう馬鹿な考えまでもが混乱のあまり浮かんでしまった。
「ほ、ほんとになんでもないって」
 この間合いはヤバイ。何故だか本能的にそう感じた俺は、慌てて後ずさり彼女から離れよ
うとする。
 だが明日奈は俺の心を読んだかのようにシャツを掴むと、あろうことか自ら身体を密着さ
せてきた。
「お、おい……? 明日奈?」
「……だめ。逃げちゃやだよ……」
 可愛らしい口から発せられた言葉の通り、俺を逃がすまいと明日奈は両腕を背に回す。
「ずっと待ってたんだから……。それなのに逃げるなんてひどいよ……?」
 明日奈は俺の胸元に顔を埋め、頬を摺り寄せる。そのまま彼女が漏らした呟きは、じっと
りとした熱を含んだ切なげな響きを持っていた。
「う……」
 明日奈の言葉が耳へと届き、俺の顔を熱くさせる。
 さらに、抱きついたせいで彼女の持つ二つのふくらみが俺の身体に押し付けられる。その
形が変わるのは、互いの制服越しでもはっきりと感じられた。
 そんな明日奈の温かさと、柔らかな身体の感触とが俺の胸の鼓動を否応無しに加速させる。
「明日奈、これはまずいって! この体勢はやばいって!」
 冷静な思考など吹き飛び、俺はパニクリかけた声で、完全に俺を抱き枕状態にしている明
日奈に声をかける。その声に顔を上げた彼女は上目遣いで俺の顔を覗き込み、朱に染まった
頬のままいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「いや? 望くんは気持ちよくないの?」
「う、うぅ……そういうわけじゃないんだが、まずいだろこれ……」
「何が、まずいの?」
「なにって……そりゃあ……」
 楽しげに俺の顔を覗き込む明日奈を見返し、ようやく俺は先ほどから目の前の少女に感じ
ていた違和感の正体に気づいた。
 目だ。明日奈の琥珀色の瞳が、闇の中で不自然なほど爛々と輝いている。そしてその瞳の
中には、どこか奇妙な期待の色が――
「あ、あすな――――」
 思わず上げかけた声が、口を塞がれて消える。抵抗する間もなく押し付けられた女の子の
唇の感触を脳が理解するよりも早く、ねじ込まれた彼女の熱い舌が口内で蠢き、俺の舌と触
れ合った。
 その先端がほんのわずかに触れただけで、強烈な快感が背筋を突き抜ける。一瞬目の前が
真っ白になり、脳細胞がショートしたのかとでも思うほどだった。
 それは彼女も同じだったようで、身体がぴくりと震えた。直後、目を細めると積極的に舌
を絡み合わせてくる。
「ん、んん……っ!?」
 驚愕に目を見開く俺とは対照的に、明日奈はうっとりとした表情で俺の唇を吸い、唾液を
舐め上げる。彼女の舌が俺に触れるたびに脳髄に電気が走り、抵抗する気力が奪われていっ
た。
 俺の身体から力が抜けていくのを感じ、明日奈はやさしく俺を床に押し倒していく。
 俺は夢うつつのような状態で彼女に導かれるまま仰向けになる。思考には薄いカーテンが
かかり、背中に感じるフローリングの床の固さも、どこか遠い。
 理性は最早溶け、ほとんど残っていないような状態だった。俺はいつの間にか自ら舌を伸
ばして彼女の舌に触れ合わせていた。それに明日奈は嬉しそうな表情を浮かべると、俺を抱
きしめる腕に力を入れていっそう身体を密着させ、より激しく唇を吸う。
「んちゅ……んっ……ちゅ、ぷ、……ん……」
 彼女と触れ合う唇に感じる柔らかさと熱、そして絡み合う舌が奏でる音が俺の興奮を高め
ていく。あっという間に最後の理性も消え、何も考えられなくなった俺は、ただひたすら彼
女との触れ合いから得られる快感を求めて唇を貪った。
 しばし、暗闇が包む室内には二人がキスを続ける音だけが響く。
 やがて、明日奈はゆっくりと俺から顔を離す。名残を惜しむように二人の間に唾液が橋を
かけた。
「ふふ……いっぱいキス、したね。それじゃ、次は……」
 囁きながら自分の唇を指で拭う彼女の表情はどこか妖しく、美しくて俺は目を離すことが
出来なかった。脳はいまだ快感の刺激に眩んだままで、身体の操縦も出来そうに無い。
 俺は床に寝そべったまま、自分の身体に跨る幼馴染をぼんやりと見つめる。
 かろうじて出た声が彼女に疑問を投げかける。
「あ……明日奈……、何を……」
「くす、わかってるくせに。もっと気持ちいいこと、だよ」
 うわごとのように呟いた俺に、明日奈はくすくすと笑う。その表情、そして瞳には、先ほ
どよりもはっきりとわかる淫らな色が浮かんでいた。
「ふふ……そうだ。折角だから、私が『変わる』ところ……ちゃんと、見ててね?」
 妖しく呟いた瞬間、明日奈の琥珀色の瞳が輝きを増した。直後、彼女の華奢な身体がぶる
ぶると震える。
 明日奈は俺に跨ったまま、両腕で自分の身体をかき抱き、何かを堪えるように瞳を閉じた。
「はふ……ふぁぁっ……あ、やぁっ、ああぁん……っ!」
 切なげに吐息を漏らす明日奈。だがその顔は苦悶ではなく、期待と興奮、そして強い快感
に彩られていた。
 そして、言葉もなく見守る俺の目の前で、幼馴染の姿が変わっていく。
 快感に耐えられなくなったのか。俺に抱きつき、丸められたその背が不自然なまでに膨ら
んだかと思うと、次の瞬間に蝙蝠のような薄い、皮膜の羽が二枚飛び出す。濃い紫色のそれ
は関節の部分に鋭く尖った爪を持ち、大きくばさりとはためいた。
 それとほぼ同時、彼女のスカートのすそからは同じ濃紫色の細く長い尻尾が伸びだす。先
端がハートのような形になった尻尾はどこか妖しく、くねくねと揺れた。
 その現象に俺が何かを言う暇もなく、明日奈の変身は続く。
「ん、んぅ……ふあぁぁぁぁ……っ!」
 明日奈が嬌声を上げて大きく背を仰け反らせると、頭からは捻れ尖った角が二本伸び出し
姿を現した。いつもは隠れている耳もピンと尖り、桃色がかった髪をかき分けて左右に飛び
出す。
「ああぁぁぁん……!」
 最後に一際高い声を上げると、彼女が身に着けた西純高校の制服が淡い光に包まれる。一
瞬の後、雪のように儚く虚空に溶け去った制服の代わりに、明日奈の身体は奇妙な衣装を纏
っていた。
 胸元やお腹、腰などを大きく露出させた大胆な衣装。布地の部分は肌にぴったりと密着し、
女性の持つ曲線的な身体のラインをはっきりと浮かび上がらせている。
 腕や足はエナメルのような光沢を持つ紫紺の布に覆われ、妖しげな光沢が全体的に扇情的
な雰囲気をかもし出していた。
 その一方で胸元や腰、背中に付いた大きな赤いリボンやハート型の意匠が可愛らしい印象
をも与えている。妖艶さと可愛さがマッチしたその服は、お世辞抜きに、変身した明日奈の
姿によく似合っていた。その衣装は男を誘う妖艶さとセクシーさ、そして人目をひきつける
を可愛らしさを絶妙なまでのバランスで演出していた。
 だが、何よりも目を惹くのは今の彼女に現れた、いくつかのパーツだ。
 角、羽、尻尾。人間が決して持つことの無いそれらを備えた彼女の姿は一言で言い表すな
ら「悪魔」というべきものそのものだった。それは本来、人が恐れ、忌み嫌う存在のはずだ
ったが、俺はその姿から目を逸らすことはしなかった。
 魅入られるというのは、こういうことを言うんだろうとぼんやり思う。
「ふぅ……」
 明日奈が息をつく。悪魔の姿になった幼馴染はにこりと微笑むと、俺に顔を近づけやさし
く唇を触れ合わせた。そのまま肩に顎を乗せて、耳元に囁く。
「どう? 似合ってるかな?」
 その言葉に俺は半ば無意識のうちに頷いていた。
「あ、ああ……」
「ふふ、ありがと。それじゃあ、続きをしましょ……?」
 俺の答えに頬を染めた明日奈は、俺の手を取ると自分の胸へと導いていく。
「胸、触って……」
 恥ずかしそうに目を伏せたその姿とは裏腹に俺の手を導く彼女の腕にはためらいは無かっ
た。すぐに、彼女の胸に俺の指先、そして手のひらが触れる。彼女の胸を覆う布地のすべす
べとした感触が手に心地いい。
「ほら、いっぱい、いじって……好きなようにしていいからね……」
 俺の手の上に明日奈は自分の手を重ね、手の甲を撫でる。その許しを得て、俺は彼女の乳
房をつかむ手にそっと力を込めた。
「あ、ん……っ」
 手の中の胸が形を変え、生み出された刺激に明日奈は声を漏らす。加速する興奮に任せ、
俺は彼女の胸を揉みしだいた。その度に明日奈は身体を震わせ、与えられた快感に彼女の羽
根と尻尾が妖しく動く。
「ん、あっ……! ちょっと、まってね……これで」
 やがて布越しの愛撫では物足りなくなったのか、明日奈は自ら胸を覆う布をずらした。
 たわわな乳房が目の前にさらけ出される。乳首は既にツンとたちあがっており、上気した
肌は汗でしっとりと濡れていた。
 俺はつばを飲み込むと、再度明日奈の胸に手を当てる。今度は直接、そして先ほどよりも
激しく、彼女の胸を揉みしだいた。それに彼女は体を震わせ、声を上げる。
 俺の手の動きに合わせ、ゴム鞠のように明日奈の乳房がぐにぐにと形を変える。それだけ
ではなく、時には乳首を指の間に挟んで弄ってやった。
「んっ……。あ、やぁっ……! そこ、もっとぉ……!」
 敏感な乳首に与えられる刺激に、明日奈は目に涙と共に歓喜を浮かべて嬌声を上げる。そ
の声と姿に嗜虐心をそそられた俺は、もっとその姿を見たいと彼女を攻め立て続けた。俺の
攻めに、彼女の体は面白いように反応を返してくる。淫らな少女の姿は、抗いがたい力を持
って俺のことをその行為に没頭させていった。
 一際強く乳首を摘まんだ瞬間、悦びの叫びと共に明日奈は背を仰け反らせる。どうやら軽
く達したらしい。
「……っ、ふぅ。すごかったよ、一瞬あたまがまっしろになっちゃった」
 少しの間をおいて、息をついた明日奈は淫魔そのものの表情で言う。
「それじゃ、今度は私の番だね」
 そういうと明日奈は俺の股間に手をあてる。彼女が見つめる俺のそこは先ほどの行為の最
中から既に硬くなり、ズボンの布地を高く持ち上げていた。
「ふふ、これじゃあズボンの上からでも分かるよ。望くんのここも、さっきからもうかちか
ちだもんね」
 瞳にどこまでも淫らな期待を浮かべて笑うと明日奈は俺のベルトを外し、ズボンのジッパ
ーを下げていく。
 ズボン、そしてトランクスがずり下ろされるとはちきれんばかりに大きくなった肉の棒が
姿を現した。
「おっきいね。うふふ、私でこんなに大きくしてくれたんだ。嬉しいな」
 言葉の通り、嬉しそうな表情を浮かべた彼女は俺の一物にそっと手を添える。
「さっきのお礼に、たっぷり気持ちよくしてあげるね……?」
 妖しげに目を細めた明日奈が、ぺろりと唇を舐めた。それと同時に、肉棒に当てられた手
が上下に動き出す。細い指が絡みつき、竿を刺激する。
 リズミカルな動きに俺の一物はさらに硬さを増し、びくびくと震えた。
「くぅ……っ!」
 気を抜けば一瞬で射精してしまいそうな強烈な快感に、俺は歯を食いしばって耐える。
 俺の様子を優越感に満ちた目で見つめ、明日奈は微笑を浮かべて言った。
「我慢しないでいいからね。好きなときに、好きなだけ出しちゃってね」
 そして、彼女は手の動きを早めていく。それと共に、彼女の羽根は楽しげにぱたぱたと動
いた。喜悦を浮かべた悪魔姿の幼馴染が俺のモノを扱いているという非現実的な光景に、背
徳感と興奮が脳を狂わせていく。
「う、くあ……っ!」
 明日奈が俺のモノを扱く手の動きが早まるのに比例して、射精感は高まっていく。
 俺が限界を迎えたのはそれからすぐだった。肉棒から勢いよく精液が迸り、明日奈の手を
白く汚していく。
「あ、あぁ…………はぁ……はぁ……」
「気持ちよかった? いっぱいでたもの、気持ちよかったよね」
 荒く息を吐きだし、射精後の虚脱感でぼうっとした俺を、明日奈は満足げな笑みを浮かべ
て見つめる。
 精液にまみれた指を擦り合わせると、サキュバスになった明日奈は淫靡な声で囁いた。
「ふふ。私の手、どろどろにされちゃったぁ……」
 細い指からとろりと垂れる白い液体を、彼女はぺろりと舐める。
「んっ、やっぱり美味しい。でもこれじゃ物足りないかな」
 至高の甘味を口にしたような、幸せそうな表情を浮かべたのも一瞬。明日奈はねだるよう
な目でこちらに視線を向ける。
「望くんだって、これだけじゃ物足りないでしょ? だから、ね……?」
 言いながら明日奈は手を自らの下半身、そのある部分へと動かしていく。彼女の衣装、そ
の股間に付いたジッパーを指がつまみ、ゆっくりと下げていく。
 ジッパーを完全に降ろした明日奈は、ためらいも無くその布を取り払う。彼女の秘所が俺
の目の前にさらされ、さらに見せ付けるように、指が秘唇を押し広げる。
 汗と女性の体臭が交じり合った淫らな匂いが俺の鼻をくすぐった。
 瞬きもせずにそこを見つめる俺に、彼女は媚びるような声音で囁く。
「ね、今度はこっちにたっぷりちょうだぁい……?」
 男を淫らに貪る悪魔、サキュバス。淫魔そのままの姿の幼馴染の顔を、俺は無言で見つめ
る。こちらに向けられた琥珀色の瞳は完全に魔物のものとなり、お尻から伸びるリボンの付
いた尻尾が蟲惑的にくねる。
 たっぷり数秒。俺と明日奈、どちらも一言も発さず、視線が絡み合う。妙な緊張感が室内
に張り詰めていく。
 その静寂を破ったのは、俺の方だった。
「……っ」
 思わず漏れた小さな声を聞き逃さず、明日奈が首をかしげる。
「……? どうかしたの?」
 わずかに疑問を浮かべつつも、妖艶な表情を保ったままこちらをのぞきこんで来る明日奈。
「…………っ!」
 それに対し、俺は顔を背けて必死で声をかみ殺そうとした。が、堪えきれない声が口から
漏れ、押さえつけようにも身体が小刻みに震えてしまう。
 そんな俺の態度をいぶかしみ、さらに明日奈が声をかけてくる。
「ねえ? 望くんってばぁ……どうしたのってきいてるのよぉ……」
「い、いや……。くっ……くく……ぷ、く……」
 否定の言葉を口にし、必死で平静を装おうするが無駄だった。身体の震えは最早発作の如
くに激しいものとなっており、口から漏れる声ははっきりと俺の内心に存在するある感情を
吐露している。
「ねえってば……。こっち、みてよぉ……」
 不満そうな言葉に、俺は思わず明日奈の顔を正面から見てしまう。困惑しながらもなんと
か妖艶さを保とうとする明日奈の表情、それがトドメだった。
「ぷっ、くくくく……も、もーダメだ! あっはははははは!!」
 限界を超え、俺は激しく噴出す。あっけに取られる明日奈に跨られたまま、手で床をバン
バンと叩き、俺は腹筋の激痛と戦いながらひたすら笑い続けた。
 最初、いきなり噴出した俺にきょとんとしていた明日奈だったが、自分が笑われていると
気付くと顔を真っ赤にして仰向けのままの俺に詰め寄る。
「な、ななな……なによお〜〜〜!! なんで笑うのよぉ!」
 怒りのためか羞恥のためか、目の端に涙を浮かべて眉をしかめるその様子に俺はさらにツ
ボを刺激され、笑い転げる。彼女はシャツをつかんで俺を揺さぶるが、そんなものでこの爆
笑は止まりはしなかった。
「の、望むくんってばひどい! 折角頑張ってサキュバスらしくしようとしてたのにぃ! 
笑うなんてひどいよぉ!」
 明日奈の抗議の声も俺の笑いをひどくするだけだった。
 それからしばらくの間、俺は明日奈を載せたまま、腹がねじ切れるのではないかと思うほ
ど笑い続けるハメになった。



 しばらくして、ようやく息を整えた俺は、涙目でこちらをにらむサキュバス姿の明日奈に
声をかけた。
「あ〜、は、はらいてぇ。あ、明日奈、くっく……サキュバスらしくって……何、らしくな
いことしてんだよ」
「ふんだ。私のこと笑う人になんて教えませんよーだ」
 俺の声に、彼女はぷいと顔を背ける。どうやらへそを曲げてしまったようだ。
「ごめん、悪かったって。いやほら、なんつーか、今日はいつもの明日奈らしくもない態度
だったからさ」
「どーいう意味よ〜。言っておくけど私だって正真正銘のサキュバスなんだから! 男の子
を誘惑するのは当たり前なんだよ?」
「あたりまえ、ねえ」
「当たり前なの! 望くんには分からないかもしれないけど、本当はサキュバスの妖しい魅
力に人間は絶対勝てないんだから!」
「いやさ。あーいう誘惑は、どっちかっていうと佐久耶のスタイルだろ?」
 明日奈と同じ、サキュバスになったクラスメイトの姿を思い浮かべ、俺は言う。サキュバ
スとしての明日奈がダメというわけではないが、正直なところ男を誘惑することにかけては
あちらに軍配が上がるだろう。サキュバスになってから数日で男女の別なく取り巻きを引き
連れるあの女王様っぷりをみれば、そう思うのは当然である。
 が、明日奈は俺が佐久耶の名を口にした瞬間、急に勢いをなくしてうつむいた。あまりに
突然の変化に、俺はどう声をかけようかと迷う。
 俺が口を開くより先に、彼女はぽつりと呟いた。
「……やっぱり、佐久耶さんの方がいいの?」
「は? いや、どうしてそういう話になる?」
 話の流れがつかめず、慌てて聞き返す俺に明日奈は今にも泣き出しそうな声で答える。
「だって、私がエッチしよって誘惑してもいっつも望くんはぐらかしてばっかりなんだもの。
私達、恋人同士なのに。さっきはようやくその気になってくれたかなって思ったら、いきな
り笑われるし。望くん、本当は私とエッチするの嫌なのかなって……」
 みるみるうちに、サキュバスとなった明日奈の瞳に涙がたまり、溢れそうになる。今にも
泣き出しそうな幼馴染の姿に、押しつぶされそうなほどの罪悪感を感じた俺は、必死になっ
て弁解を始めた。
「いやいやいや、そういうつもりじゃなかったんだって。ただあんまりにもいつもの明日奈
とギャップがありすぎて、それで吹いたというかなんというか」
「でも、それって結局似合ってなかったってことでしょ。どうせ私なんて、サキュバスにな
っても魅力ないんでしょ」
「そ、そんなことないぞ」
「それに、最近じゃ佐久耶さんだけじゃなく、理梨ちゃんや慧ちゃんや縁さんも望くんのこ
と気にしてるみたいだし……。本当は私なんかよりそっちがいいんでしょ」
 なんだか今日の明日奈は妙に自虐モードだ。
 いや、彼女らが最近俺を誘惑しまくるのは、貴女が彼女ら(佐久耶のぞく)をサキュバス
にしちゃったせいなんですけどね。と思いつつも、場の空気を読んだ俺はなんとか突っ込む
のを堪える。
 しかしまあ、今回のことはどう考えても全面的に俺が悪かったみたいだ。
 正直な話、俺が明日奈のことがキライなわけがない。むしろ好きだ。恥ずかしくて死ねる
からめったに口には出さないが、愛してる。
 エッチな事だって、率直に言えばむしろ、彼女としたいと思っていた。まあそういうのは
段階を踏んで、それからと思っていたのはあるし、恋人同士になってからも幼馴染だという
ことで妙な気恥ずかしさがあったのは確かだ。
 そんなこともあって明日奈がサキュバスになったことで積極的にアプローチしてきても、
いざという時になるとなんだかんだで誤魔化してしまっていたのは、俺に非があるのだろう。
 でも、いつまでもそうしているわけにはいかない。そうして誤魔化してきたツケが積もり
積もって彼女を不安にさせ、あまつさえこうして傷つけてしまったのだから。
 俺は自分の頬を叩く。努めて真面目な顔を作ると、精一杯の誠意を込めて、明日奈に声を
かけた。
「ごめん。本当にごめん。そうだよな、そういえば告白してもらって、オッケーして恋人同
士になったのに、思えばちゃんと恋人らしいことして無かったよな」
「……」
 明日奈は無言でうつむいたまま。だが、その尖った耳がぴくりと動いたのを見、俺は言葉
を続ける。
「俺、甘えてた。いつも明日奈が側にいてくれるっての、当たり前だと思ってた。明日奈が
俺のことで不安になってるなんて、考えもしなかった。本当、ひどいよな。ごめん。ごめん
な」
「……」
「今日は逃げないで、ふざけないで真面目に言うよ。明日奈。……聞いてくれるか?」
「……うん」
「俺、明日奈のことが好きだ。ずっと前から、サキュバスになっても好きだ。愛してる。だ
から……明日奈を抱きたい」
 偽り無い想いを込めて、真摯な響きをもたせ、誓いの如く言葉を彼女に投げかける。
 永遠とも思える間、じっと動かずにいた明日奈が、やがてうつむいたままポツリと漏らし
た。
「本当……?」
 その言葉に、俺は力強く頷く。
「ああ。そうじゃなければ、女の子と……明日奈とさっきみたいなこと、しないよ」
「や、やだ……。思い出させないでよぉ……」
 俺の言葉で先ほどの行為を思い出したらしく、サキュバスの癖に羞恥に顔を染めた明日奈
が呟く。その姿が可愛らしくて、俺は彼女の腕を引いて身体を引き倒した。
「きゃ……」
 突然のことに驚きの声を上げる明日奈の身体を、両手で抱きしめる。一瞬驚いた明日奈も
すぐに嬉しそうな笑顔を浮かべ、俺の身体に腕を回した。
「私、ずっとずっと前から望くんのこと大好きなんだからね。だから、意地悪しちゃいやだ
よ」
「分かった、悪かった。もう意地悪しないから。ちゃんとするから」
 耳元で囁く明日奈に返し、その背を撫でる。嬉しそうに明日奈の羽根が動き、尻尾がゆれ
てお返しとばかりに俺の脚をくすぐった。
 二人はしばし、うっとりとした表情でお互いの身体を触れ合わせることを楽しむ。そして
十分に明日奈の温かさと柔らかさを堪能した俺は、彼女の髪を梳きながら欲望を口にした。
「なあ……折角だから、さっきの続きしようぜ……?」
「う、うん……」
 彼女も先ほどの行為では不完全燃焼だったのだろう。羞恥に頬を染めながらも、その言葉
を待ち望んでいたように、即座に頷いた。
「それじゃ、私が上になっていい?」
「ああ、頼む」
 身体を起こした明日奈が俺の上に跨る。先ほど射精したにもかかわらず、サキュバスのコ
スチュームを半脱ぎ状態になった明日奈の姿を見、彼女が俺のモノに手を触れた途端、一物
はあっという間に先ほど以上の硬さを取り戻した。
「わ、すごい……」
 明日奈の驚きの声に、性欲まみれみたいな自分がなんとなく恥ずかしくなる。しかし当の
幼馴染サキュバスは性欲まみれの俺に呆れるどころか、むしろそんな俺のモノに喜んでいる
ようだった。
「んっ、私のここも、もうぐしょぐしょだよ……」
 明日奈は頬を染め、自らの秘所に肉棒をあてがう。敏感な場所同士がわずかに触れ合った
だけで快感が電気となって二人に流れ、俺たちはその背を振るわせた。
「挿入れるね……」
「ああ……」
 俺が頷き、明日奈の腰に手を当てる。彼女は手にした俺の一物と自らの割れ目の位置を合
わせ、ゆっくりと俺の上に腰を落としていく。俺たちの目の前で既にぐっしょりと濡れそ
ぼった明日奈のあそこへと俺のモノが突き入れられ、飲み込まれていった。
「んく……っ、あ、あふっ……」
 小さな水音が響き、明日奈の声が漏れる。狭い肉の割れ目に擦られる感触。きつい明日奈
の中に入っていくだけで、俺は達しそうになってしまう。
「ふぁ、あぁぁ……っ、ど、どう……?」
「ああ、全部……入ったよ。……辛く無いか?」
「うん、大丈夫……」
 根元まで俺のモノを咥え込んだ明日奈は、大きく息をつく。しばしのあいだ二人とも無言
で繋がった感触を味わっていた。
「それじゃ、動くからね。いっぱい、気持ちよくしてあげるから」
「ああ、ありがとな。ただ、無理しちゃダメだぞ」
 俺の言葉に笑顔で応え、明日奈はゆっくりと身体を動かし始める。彼女の膣内は俺へと絡
みつき、すぐにでも射精させようと締め付けてきた。
 俺は歯を食いしばって強烈な快感に耐え、彼女の腰をしっかりと抱きとめる。
「あっ……! ん、あぁん……はぁっ……やっ、ああ……っ!」
 彼女の体が揺れるたび、桃色の髪が舞い上がり汗が飛び散る。快感に羽ばたく悪魔の羽根
が風を起こし、俺のシャツをはためかせた。
 無意識のうちに俺も自ら腰を振り、彼女に肉棒を突き入れていた。完全に理性が飛び、獣
となった二人はただひたすらお互いの身体を求め、快感を貪り続ける。最早、二人ともどち
らが淫魔なのかわからなくなっていた。
 それも次第に終わりが見えてきた。高まる射精感は最早限界に達し、今すぐにでも解き放
ってしまいたくなる。しかし明日奈との交わりを終わらせたくないという思いが、俺に射精
を拒ませ続けていた。快感に眩む目で明日奈を見れば、彼女も同じような想いを抱いている
のが分かる。
 快感を堪えようとした俺の手が、不意に触れた彼女の尻尾を思わず握り締めた瞬間。明日
奈が声を上げる。
 その声が耳に届くとほぼ同時、彼女の膣内が強烈に俺のモノを締め付けた。
「うあぁああああぁぁっぁぁぁぁ……っ!!」
 抗うことなどできず、俺は絶叫を上げると明日奈の膣内に全てを出し切る。体内に熱い迸
りを感じた彼女もまた同時に絶頂へと達し、俺の身体に倒れこむと肩を抱いたままびくびく
と震えた。
 脱力したまま重なり合った俺たちは、力ない声で囁きあう。
「すごかったね……」
「ああ、すごかった……。それに、気持ちよくて、なんか幸せだったな」
「うん。私もおんなじ気持ち……」
 明日奈が幸せそうに微笑む。口づけする彼女に俺も笑顔で応え、その肌に指を滑らせた。
 恋人同士の二人はしばし、夜の闇に包まれた真っ暗な部屋の中で重なり合っていた。



 情事の後。気だるい疲労感が全身の包んでいる。
 今は、俺と明日奈は先ほどまでの床ではなく、俺のベッドに二人並んで寝そべっていた。
元々は一人用のベッドなので、二人が寝ようとすると必然的に身体は密着する。
 そんな状態で二人とも我慢ができるわけが無く。実を言うと、さっきまでは俺が上にな
ってもう一回戦していた。今は丁度それを終えた後だったりするのだった。
 隣を見れば、角を生やし尖った耳を髪からのぞかせる淫魔姿の明日奈の顔が見える。いま
だ上気した紅い顔は、淫靡な光を灯した瞳と共にとても魅力的だった。
 人間姿の明日奈とサキュバス姿の明日奈。そのどちらもが甲乙つけられないほど愛しい。
 明日奈の身体に腕を回して抱きしめ、俺は呟く。
「幸せだよな〜」
「何? いきなり?」
 俺の言葉にまばたきし、きょとんとした顔で明日奈が聞き返す。
「いやさ、大好きな人が隣にいて、そのあったかさをこうして感じられるってのはすげー贅
沢で、幸せなことだと思ってさ」
「そうだね。欲を言えば、望くんがもっと早くにこうしてほしかったけど」
 珍しく皮肉を言う明日奈の言葉が、ちくりと胸を刺す。
「悪かったって」
「ふふ、冗談。それに、これからはもっと私とエッチしてくれるでしょ?」
「……ん、まあな」
 サキュバスらしいストレートな物言いに、俺は少しばかり恥ずかしくなって曖昧に答える。
それに明日奈は身体を起こすと、俺の上に覆いかぶさって顔を覗き込み、眉を吊り上げた。
「もう、やっぱり分かってないよ〜! そこははっきり答えてくれなくちゃ!」
「え〜……恥ずかしいんだよ、いいだろニュアンス的なものでわかるし……」
「だめ〜! たとえ恋人同士になっても、サキュバスになってもね、女の子はいつも不安な
の! 男の子はそんな女の子を守ってリードしなきゃダメなの!」
 鬼気迫る迫力で顔を近づける明日奈に気圧され、俺は反射的にこくこくと頷く。
「分かったって、ちゃんとするって! はい! 明日奈のこと大事にします! エッチなこ
ともちゃんとします!」
 こういうときは男に勝ち目はない。周囲の女性陣(ほぼ全員サキュバスだが)との付き合
いでそれを学んでいた俺は、早々に白旗をあげる。
 俺の宣誓に明日奈は満足げに頷く。
「うん! それじゃ、さっそくえっち、しようね!」
 裸のまま抱きつき、手をとって秘所に導こうとするサキュバスのなすがままになり、俺は
内心で溜息を付くのだった。
(やれやれ……。これもまた、一つのハッピーエンド、なのかな……)





「でも、まさか練習に練習を重ね、覚悟を決めて臨んだ『誘惑作戦』が笑われるとは思わな
かったな……」
「いや〜。悪くは無かったんだが、やっぱ向き不向きはあるって、うん」
「の割には、途中までノリノリだったくせに」
「そこはほら、据え膳食わぬは男の恥というか、レアな明日奈とシチュエーションを無駄に
したくなかったというか」
「なにそれ……よくわかんないよ」
「ああ、まあ男の浪漫だからな。ドリームといってもいい。だからさ、たまにはサキュバス
っぽく迫ってもらうのも悪くないかな〜とか思ったりして」
「も、もう……。調子いいんだから……。じゃ、じゃあ気が向いたらね」
「お、おう。期待してるよ」

―― EXシナリオ 明日奈編『不器用な者達の、恋の駆け引き』終わり ――

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