rynosさんから戴きました!
ありがとうございます!

「よぉ〜し、順調順調っと」
 花壇に咲き誇る花を見て俺は笑みを浮かべた。
「おうおう、随分とまぁ咲きまくってるな」
 慧も側で汗を拭きながら答えた。

 学校の体育館裏には俺達の手で植えられた魔界の野菜や植物が
 所狭しと育っていた。もちろん無許可で栽培している物だ。

「にしてもこんな日の当たらない場所でよく育つなぁ」
「魔界原産だからなぁ・・・日陰ぐらいなら平気で育つんじゃねぇの?」
 魔灯花を弄りながら俺は返事をした。

「それで、食べ頃の物はありそうか?」
「おう、これが丁度良さそうだぞ」
 俺は虜の果実をもぎ取って慧に渡した。

「お〜し、今日のおやつにけって〜い」
 嬉しそうに慧は笑った。
「お前、また授業中に食べるつもりか?」
「んな事言ったってよぉ、夜麻里の精子は授業中に飲めねぇんだもん」
 膨れっ面で慧は文句を垂れた。

「そんなに食べると太るぞ」
「いいんだよ、夜麻里と運動すればすぐに痩せるから」
 果実を頬張りながら慧は言った。

「それに、最近忙しくて夜麻里と子作りできなくて辛いんだぞ?」
「わかったわかった、今週末はお前んちで一泊するから拗ねるな」
 それを聞いて慧の目が輝いた。

「本当か!? 本当なのか!? 嘘だったら泣くまで舐めるからな!」
「ホントだからそんなに引っ付くな」
 犬の如く尻尾をブン回す慧の頭を撫でながら俺は答えた。

「いよっしゃああああ!」
 雄叫びを上げながら小躍りする慧。
 相変わらず体力が有り余っているようだ。

「さぁて、お味の方はどうかなっと」
 俺は手近な青い果実を一つ食べてみた。
「ん〜・・・ちと早いか・・・」
 中身がまだ硬い。熟しきっていなかったようだ。

「そんじゃ、またここでヤるか?」
 背中から抱きついて慧は耳元で囁いた。
「今からやったら部活に間に合わなくなるだろ」
 犬のように首筋を嘗め回す彼女を引き剥がしつつ俺は諌めた。

「いいんだよ。夜麻里と一緒に居られる時間の方が大事だ」
「なら後で家に来れば良いじゃねえか」
「それだと明日奈達がいるから二人きりになれないから嫌だ!」
 背中の爪まで使って引っ付く慧。こうなると駄々っ子を相手にしてるような気分になるな。

「そんじゃお前が自己ベスト更新したらお祝いでもう一日付きっ切りで寝──」
「Ok。ちょっと部活行って来る」
 彼女は俺が言い終わる前にさっと離れてグラウンドに疾走して行った。

「せっかちな奴だなぁ・・・」
 あっという間に姿を消した友人の姿を見て俺は呟いた。
「さぁて、水遣りすっかな」
 周りを見渡して人気が居ない事を確認してから
 俺は体育館の裏口へ向かった。

「さてと、いつも通りにやるか」
 俺はポケットからCCDカメラを取り出した。
「中に誰もいませんように・・・」
 扉の隙間からカメラを差込んで内部をそっと観察してみるが、
 どうやら中には誰もいないようだ。

「よし、それじゃあ入るか」
 俺はピッキングツールを取り出して錠をこじ開けた。
「おじゃましま〜す」
 裏口から忍び足で館内に入り、そのままシャワー室へと向かった。

「流石にこの時間は誰も居ないか・・・」
 部活も無いこの時間でも用心にするに越した事はない。
「ではお借りしますよっと」
 用具箱からバケツを取り出して水を汲み、外へと運んだ。

「よい・・・しょっと」
 思い切りバケツを振り回し、畑に水をばら撒く事数回。
 荒っぽいが満遍なく水を撒く事ができた。

「ん。こんだけやりゃ良いかな」
 俺は一通り見渡してからバケツを片付けた。
「鍵もよし、目撃者も無し。問題無しっと」
 念入りに確認をしてから俺はその場から離れた。
「さぁて、教室に戻るか」
 日々の日課を終えて俺は次の授業の準備をするのであった。

「・・・・・・」
 そして俺が離れた後、畑に近付く人影が一つあった。
「きっと彼なんだろうな・・・」
 その人影はふらふらと赤い果実に近付き、貪る様にそれを平らげた。

「さて・・・」
 その人影が畑から作物を多数持ち去ると、辺りは静けさに包まれたのであった。











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 翌日、学校のチャイムが鳴り響き、放課後に入ってから俺は再び体育館裏に来ていた。
「さぁ〜て本日の収穫はなんだろな・・・うぉ!?」
 誰かに肩を叩かれた。振り向くと一人の女性が立っていた。

「君ちょっといいかな?」
「え〜・・・どちら様ですか?」
「三年の射裟御縁だ。話があるから少し時間をもらえるかな?」
 口調こそ礼儀正しいが有無を言わせぬ重圧が帯びている。

「え、ええ。構いませんが」
「ありがとう。では付いて来てくれ」
 俺は射裟御さんは俺の手を引っ張って倉庫へと向かった。

「ここなら邪魔も入らないだろうな」
 射裟御さんは倉庫を開け、俺と一緒に中へ入った。
「こんな所に連れ込んで何を話すつもりですか?」
 嫌な汗で腋を湿らせつつ俺は訊ねた。

「何、そう堅くならなくても良い。あの畑の事で話したいだけだ」
 射裟御さんは写真を取り出した。
「この写真に写っているのは君で間違いないかな?」
 写真には俺がバケツで水を撒いている瞬間が写っていた。
 背景には裏口の扉が開いている状態も写っている。

「あ・・・まぁ、そうですが・・・」
「なら君はどうやって裏口の扉を開けたのかな?
 あの時間帯に鍵が貸し出された記録は残っていなかったのだが・・・」
 ヤバイ。俺は冷や汗が背中に吹き出るのを感じた。

「あ〜・・・その事なんですが・・・」
「話せないのかな?」
 目を合わせて彼女は問い詰めた。

(正直に話すのは論外。だけどどう隠せばいいんだ?)
 まさか理梨が作った道具でこっそりピッキングをやってました。
 なんて言える訳が無い。

「・・・・・・」
「話せないならそれでいい。本題はこっちではないからな」
 射裟御さんは意外にもあっさり追及を止めてくれた。

「君はそこの畑の作物について何か知っていると思うのだけれど、
 知っているなら話してくれるかな?」
 顔を近づけて射裟御さんは会話を促した。

「具体的に何が知りたいのか分からないんですが・・・」
「ああ、すまない。そこの畑に関わる噂を調べているんだ。
 君があの畑を管理しているようだから君が一番詳しいと思って呼び止めたんだ」
 彼女は更に俺に近付いた。

「そこの畑の作物を食べると体の調子が良くなるとか、
 やたら異性からもてるようになるとか妙な噂が広がっているんだ」
 どう考えてもサキュバスの魔力の影響だな。

「まぁ単なる噂だと思って調べに来たんだ。実際に食べてみたら
 本当に体の調子が良くなったり色々と効果があったから、本腰を入れて
 調べてみようと思った次第だ。それでここで待ち伏せしていたら君が来たんだ」
 もはや息がかかる程に彼女は近付いている。

「それで、俺に何を聞きたいのですか?」
「うむ。実は最近私の体がおかしくなってきているんだ」
 射裟御さんは服を脱ぎ始めた。

「え? ちょっと、何を・・・」
「まぁそこで見ててくれ」
 上着から靴下まで次々と服を脱ぎ去り一糸纏わぬ姿となると、
 短い毛に覆われた体が露わになった。

「最近流行っているの肌着・・・って訳じゃないですよね」
「もちろん。触ってみれば分かるが、これは体から生えているんだ」
 彼女は俺の手を取って体毛に触らせた。
 人肌の心地よい温かみと滑らかな肌触りが掌に広がる。

「流石にこんな事になるとは思っていなかったから
 君に心当たりが無いかを聞きたいんだ。分かってくれたかな?」
 射裟御さんはこちらに向き直った。

「まぁ話は分かりましたが、にわかには信じられない話なんで信用してもらえるかどうか・・・」
「話せるだけ話してくれればいい。時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり話せばいい」
 射裟御さんは倉庫の中に積まれたマットの上に腰掛けた。

「それじゃあ何から話しましょうかね」
 俺も彼女の隣に座った。
「そうだな・・・なら私の体に起きた変化について説明してもらおうかな」
 しなだれかかるように射裟御さんは俺に体を預けた。

「まず、体から色々と生えてきたのはどうしてかな?」
「それは、体がサキュバスになりかかってるからでしょうね」
「サキュバス? よくファンタジーに出てくる?」
 首を傾げて彼女は聞き返した。

「そうです。物語と違って人を殺す事はありませんが、精を吸いに異性を襲うのは事実です。
 その毛は人間がサキュバスになる時に生える物で、敏感な肌を守るそうです」
「直すにはどうすればいいのかな?」
「そうなったら元通りには出来ません。精を吸ってサキュバスになるしかありません」
 実際、明日奈達の時もそうするしかなかったし、間違いないだろう。

「ふむ・・・となると君が近くにいると妙に甘えたくなるのはそのせいかな?」
「それもありますが、あの畑の作物を食べた事も原因です」
 彼女の髪の毛から甘い香りが漂う。
 胸がざわつくようで、落ち着くような不思議な香りだ。

「どういう事かな?」
「あの畑はサキュバスの故郷・・・魔界原産の作物でして、
 食べ続けるとサキュバスになるんです」
「となると、体に良いと言う噂は間違いなのかな?」
 残念そうに射裟御さんは喋った。

「それは事実です。例えば、キャベツみたいな見た目をした
 まといの野菜は肌に艶が出るようになりますし、桃みたいな虜の果実は
 体臭を良い匂いに変えるといった具合で体に良いのは本当です」
「そうなのか。なら、異性にもてるようになるといった噂も事実なのか?」
 期待に目を輝かせて彼女は訊ねた。

「それはさくらんぼに似ている夫婦の果実の事でしょうね。あれの別名は恋の果実ですから」
「恋の果実か。随分とロマンチックな名前だな」
「効果が気になるなら好きな人に食べさせてみたらどうです?」
 半分ぐらいからかうつもりで俺は言葉を返した。

「それなら早速試してみるとしよう」
 射裟御さんは胸の谷間から夫婦の果実を取り出すと、
 素早く口に含んで俺に口付けを交わした。

「んむっ!?」
 不意を打たれてそのまま押し倒された瞬間、酸っぱさと甘さが混じった唾液が流し込まれた。
「んちゅっ・・・はむっ・・・」
 そのまま舌を絡ませようと吸い付く彼女の表情は恍惚としていた。
「ちゅっ・・・ふふっ、これが精の味か・・・」
 零れた唾液を舐め取り、うっとりとした様子で射裟御さんは呟いた。

「いやいや、効果を俺で試さなくても他の人で試した方が良かったんじゃ・・・・」
「それは無い。何だか体が君以外の精を受け付けたくないみたいなんだ。
 きっと君があの作物を育てたからかもしれないな」
 頬ずりをしながら指を絡める彼女はすっかり恋する乙女のそれになっている。

「あ〜・・・それはあるかもしれませんね」
 俺の精をぶちまけて育てたから、俺の精を好むようになっているのかもしれない。
「いきなり押しかけて済まないが、責任を取ってくれないかな?
 正直に言うと空腹で苦しいんだ。ほら、もうこっちは準備が出来ているんだ」
 射裟御さんは俺の手を取って彼女の秘所に押し付けた。
 愛液が滲み、卑猥な水音が響く。

「いやいや中に出したら妊娠するんじゃ・・・」
「構わないよ。来年には卒業だし、うちの道場を継げば仕事にも困らない。
 むしろ跡継ぎが出来るなら私は大歓迎だ。遠慮なく孕ませてくれ」
 彼女は俺の顔に双乳を押し付けながら囁いた。

「それに、君もその気になってるじゃないか」
 俺の逸物は服の上からでも分かる程すっかりそそり立っている。
「まぁ、射裟御さんみたいな可愛い人に迫られたからつい・・・」
「可愛い? 私が?」
 驚いた様に彼女は言葉を発した。

「そ、そんなに抱き付かれると息が・・・」
「おっと、すまない」
 彼女は俺を抱きしめたまま転がり、俺が上になるように位置を変えた。

「ふぅ・・・いきなりどうしたんですか?」
「いつもは頼りになるとか格好良いとか言われてばかりで
 今までそんな事言われた事が無かったから嬉しくてね」
 俺の頭を抑え付けて胸に埋めようとする射裟御さん。
 思いがけない一面が見られたな。

「そうなんですか? 射裟御さんのような可愛らしい人なら
 男から告白されたりしそうに見えますが」
「生憎浮いた話とは無縁でね。情けない話なんだが
 異性とどう付き合っていけば良いのかさっぱり分からないんだ」
 恥ずかしいのだろうか、彼女は俺を強く抱きしめた。

「性格も喋り方も堅苦しくて真面目な私なんて
 誰だって恋人として付き合いたくないんだろうな」
 言葉に寂しさが滲み出ているように俺は感じた。

「そんな事有りませんって。少なくとも俺は射裟御さんと
 お付き合いしたいと思っていますよ」
 俺は慰めの言葉をかけた。

「それなら証拠を見せてくれないかな?」
 目を潤ませて射裟御さんは続けた。
 見た目はどちらかといえば凛々しいという方が似合っているが、
 こうした仕草を見ていると可愛らしく思えるな。

「分かりました」
 もうここまで来たら後には引けない。
 俺は彼女の手をそっと解き、服を脱いだ。

「では、行きます」
「お手柔らかに頼むよ」
 身を硬くして射裟御さんは答えた。まだ人間としての心が残っているのか、
 処女を失うことを怖がっているらしい。最初は素早く終わらせた方がよさそうだ。

「せ〜・・・のっ!」
 俺は逸物を秘所に宛てがい、一気に奥へと滑り込ませた。
「ぐぅっ・・・あぁっ!」
 オブラートを溶かすように処女膜を貫くと、秘書から鮮血が滴り落ち、
 射裟御さんが苦悶の表情と共に涙を浮かべた。

「動かない方が良いですか?」
「いや、気にせず動いてくれ。このまま中に出してくれれば治るはずだ」
 息を荒げながら彼女は答えた。

「それと、もう私は君のものだ。名前で呼んでくれないかな?
 話し方も君のいつも通りにやってくれ」
「わかり・・・じゃなかった、わかったよ、縁」
 抱きつかれながら逸物を締め上げられる心地良さに抗いながら俺は答えた。

「動くぞ」
 一声かけてから俺は再び動き始めた。
「うっ・・・はぁっ・・・あぁっ・・・っ・・・」
 既に痛みが引き始めているのか、苦悶の声は徐々に嬌声に変わり
 強張った体から力が抜け始めいている。

「ああっ・・・もっと、早くしても、いいぞっ・・・」
 ねっとりと絡みつくような声色で彼女は催促をした。
「こっ、これ以上、早くしたら、出ちまう・・・!」
 焦らされていた上に果実の影響を受けているからか、
 俺の方は早くも限界になっていた。

「なら、出してくれっ・・・私をっ、孕ませてくれっ!」
 歓喜の声を上げて彼女は四肢を俺に絡ませて引き寄せ、
 深々と逸物を飲み込んだ。

「うおぅ!?」
 再び顔をたわわな乳房に押し込められ、気を抜いた瞬間
 彼女の子宮を子種の奔流が埋め尽くした。

「あっ・・・」
 小さく声を上げて彼女は身を震わせた。

 体を覆っていた体毛は溶けるように消え去り、
 隠されていた乳首が顔を覗かせた。
 頭からは小さな角が生え、尻から翼や尻尾が突き出し始め──

「痛っ! うあっ・・・けほっ・・・」
 突如苦しそうに縁は体を抑えた。体の変化が止まっているようだ。

「どうした!?」
「何だか、子宮がおかしい・・・何か挟まれてるみたいでっ!」
 脂汗を浮かべながら彼女は答えた。

(どうなってるんだ?)
 慧や理梨がサキュバスとなった時はこんな事にはならなかった。
 精を吸えば吸う程よりサキュバスの肉体に近付くはずだったのだが・・・

(とりあえず、医者を呼ぶべきか)
 俺は携帯電話を拾おうと一旦逸物を抜こうとして──
「抜いちゃ駄目だ!」
 生えかけた翼と尻尾で縁は俺にしがみついた。

「頼む・・・このままもっと精を注いで欲しい・・・」
 喘ぎながら彼女はおねだりをした。
「いや、そんな状況じゃないだろ」
「大丈夫。何となく分かるんだ。このまま続ければ治るはずだ」
 何か確信があるのだろうか、縁は語気を強めて言い放った。

「無理だけはするんじゃないぞ」
「もちろんだ。続けてくれ」
 彼女の言葉を信じて俺は再び動き始めた。

「あふぅ・・・ひゃんっ・・・はうっ・・・」
 逸物が膣を擦り上げる度に甘い声を上げながら身を捩じらせ、
 俺の動きに合わせて腰を動かす縁。子宮口に逸物が触れては離れ、
 抽送を繰り返し続けて次第に息が合ってくると、俺達は自然と接吻を交わしていた。

「むちゅ、はむっ・・・ぷはぁっ・・・・・・じゅるっ・・・」
 息をする間も惜しい程に今は彼女と繋がっていたい。
 そんな気持ちを表すように口付けのたびに息を継ぐまでの時間は長くなる。

「はぁっ・・・もっと・・・もっと強く抱きしめて」
 縁が溢れた愛液を俺に染み込ませんばかりに抱きつくと、
 徐々に動きを早める彼女の鼓動が俺の胸に響く。

「こうか?」
 俺は縁の背中に手を回して抱き寄せた。
「ああ・・・そのままでいてくれ・・・」
 彼女もまた俺の胴に腕を絡めた。

「うふふ・・・もう少し・・・もう少しで実りそうだぞ?」
 縁は熱に浮かされたように呟き、目を妖しく輝かせた。
「実るって?」
「もちろん、愛の結晶の事だよ・・・やぁっ・・・」
 彼女の言葉に答えるかのように睾丸から焼け付くような熱さが溜まり始めた。
 同時に逸物を締め付ける縁の膣も熱を帯びている。

「・・・わかるのか?」
「ああ。きっと双子だ。卵巣の両方から排卵してるみたいだぞ!」
 狂喜に顔を歪ませながら捲し立てるように彼女は喋った。

「もちろん産みたいよな?」
「当然だ。早く私を孕ませてくれ。そして一緒に子供を育てようじゃないか」
 種付けを催促するかのように子宮口が降りて口を広げた。
 それに答えるように逸物を押し付けると、するりと奥へ飲み込まれていった。

「くぁっ・・・は、入ったな・・・」
 子宮全体が精子を搾り取ろうと蠢く快感に思わず動きが止まる。
「おや? 気持ちよすぎて動けないのかな?」
 悪戯っぽい笑みを浮かべて縁は挑発するように言葉を紡いだ。

「いや、そんな事は・・・」
 俺は強がりを言って動こうとするものの、力が抜けて動けそうに無い。
「・・・ごめん、やっぱ動けそうに無い」
「そうか、なら今度は私が先導するとしようか」
 彼女は俺に跨る様に体勢を変えた。

「体調が悪いのに、騎乗位なんて、大丈夫か?」
「問題無いっ! だから、早く中に出してくれっ!」
 叫ぶように縁は言い放った。

 苦しげに、されど嬉しそうに腰を上下させ、子宮の最奥にまで逸物を咥え込んで
 精子をねだる彼女の妖艶な姿は残った最後の理性を蕩けさせるには十分だった。

「わかったよっ!」
 子宮を引きずり出さんばかりに勢いよく腰を引き──
「イクぞっ!」
 彼女の腰を掴んで深々と逸物を捻じ込んだ。

「「うあああっ!!」」
 絶頂の瞬間、俺も縁も四肢を絡ませて同時に吼えた。
 サキュバスとして生まれ変わりつつある彼女の子宮が逸物を包み込むように締め上げ、
 間欠泉の如く噴き出た精子を誘い込むように吸い上げる。
 
「はぁっ、は、ははっ、もうイッたのか?」
 喘ぎながら嗜虐的な笑みを浮かべて縁は囁いた。
「ああ、気持ち良すぎて、我慢できなかったよ」
 ぐったりともたれかかる彼女を抱きしめて頭を撫でながら俺は言葉を返した。

「まったく、そんなに孕ませたかったのか? こんなになるまで出すなんて・・・」
 彼女の胎に吐き出された欲望の固まりは子宮を押し広げて彼女の腹を膨れ上がらせている。
「もちろん。良い女にせがまれたら、応えなければ示しが付かないんでね」
「なら良い男としてこれからもしっかり喜ばせてくれ」
 彼女は甘えるように優しい接吻を交わした。

「体の方は大丈夫か?」
「多少違和感はあるけれど、さっきよりもずっと楽だよ」
 ぐったりともたれかかる彼女の表情は大分柔らかさを取り戻している。

「しっかし、さっきのは何が原因だったんだ?」
 精を吸ったにも拘らず、急に苦しみだしたさっきとは異なり、
 今回は何事も無く収まった。違いはなんだろうか?
「夜麻里、今なら何となく分かるような気がするよ」
 放心したような様子で縁は語り始めた。

「多分夫婦の果実が受粉する為に私の体を人間に近いままにしたかったんだと思うんだ」
「ん? それはどういう意味だ?」
「ほら、君と私はあの果実を食べただろう? その時に君の精子と私の卵子は
 果実の力を帯びていたんだと思う。でも──」
 彼女は尻尾を巻き付かせて俺達の体を縛った。

「私がサキュバスになったら君の精を吸い尽くしてしまうから受精しにくくなる。
 だから私の体を人間のままでいさせるために体が変わらないようにしてたんじゃないかな?」
「成る程・・・」
 サキュバスは人間よりも妊娠しにくい。だから本能的に変化を妨害したのか?

「そして二回目の種付けで受粉・・・もとい受精したから
 抑え付けを緩めた。こんな所じゃないかな?」
「そっか・・・子供が出来たのか・・・」
 胸の奥に湧き上がる形容し難い高ぶりに思わず涙が溢れる。

「泣くほど嬉しかったのかな?」
「ああそうだ。お互いに、な」
 指でそっと彼女の目を拭うと、小さな雫が指に残った。

「おや、いつの間にか流していたのか」
 彼女は瞬きをして涙を払った。
「ふふっ、これで私もお母さんか・・・子供達の名前はどうしようかな」
 安らいだ様子で縁は呟いた。

「さすがに気が早すぎやしないか?」
「そうだな。今はもう少し雰囲気を楽しむとしようか」
 彼女は目を瞑り、頬を摺り寄せた。

 恋の果実が実る様に心と体を絡め、新たな命を授かった事を確信しながら
 しばしの間俺達は穏やかな一時を過ごすのであった。








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「で、そのまま抜けなくなったの?」
「ああ・・・」
 明日奈は呆れたように溜め息をついた。

「まぁいいじゃないか、それだけ私達が愛し合っている証拠なんだから
 気にする必要は無いだろう? むしろこのままで過ごしたいくらいだ」
 縁はのんびりとした口調で言った。

 あの後果実の力が抜けるまで繋がっていた俺達だったが、
 いざ抜こうとすると逸物が子宮口に引っ掛かって抜けなくなる
 ハプニングに見舞われていた。動くに動けず明日奈に助けを呼ぶ羽目になるとは・・・

「で、どうにかなりそうか?」
「このままだとむずかしいかな・・・
 射裟御さんが完全にサキュバスになったら楽なんだけど・・・」
 明日奈は魔力を送り込もうと縁の肌に触れるが、悉く弾かれている。

「駄目そうか?」
「うん。魔力が鎧みたいに体を守ってるからちょっと厳しいかな」
 渋い表情で明日奈は答えた。

「縁、そんなに俺と離れたくないのか?」
「ああ。君と一緒に居ると無性に甘えたくなるんだ。
 このまま独り占めしたいくらいだよ」
 媚びるような声で縁は答えた。

「独り占めかぁ。俺にそんな魅力は無いと思うんだがなぁ」
「そんな事無いよ。夜麻里君はいつも優しいし、
 ちゃんと気配りが出来るから心置きなく甘えられるんだもん」
 明日奈が俺の呟きに反応した。

「そうだな。性交の最中にも私の事をずっと気遣ってくれたし、
 初めに会った時も礼儀正しかった。つくづく良い男に出会えたと思うよ」
「ですよね〜。サキュバスになっても普通に付き合ってくれるし・・・」
「裸の付き合いがあるから普通とはいえないんじゃないかな?
 まぁサキュバスとしては普通なのかもしれないが・・・」
 二人は意気投合して惚気始めた。

「もしも〜し、二人だけで盛り上がらないでくれ」
 話が脱線しそうなので俺は強引に方向性を戻した。
「それにしてもどうすっかな・・・まといの野菜を丸ごと食べさせても抜けなかったしなぁ・・・」
 肌に艶が出ても子宮の中までスベスベになる訳ではないようだ。

「とろけの野菜でも食べさせてみる?」
「それを食わせたら夫婦の果実の効果が強まるかもしれないから止めておこう。
 下手するともっと外れなくなるかもしれないし」
 俺も明日奈も頭を抱える事となった。

「随分とお困りのようね?」
 どこからか大人びた女性の声が聞こえてきた。
「誰だ!」
 縁は凛とした声で声の主に言い返した。

「そんなに身構えなくても良いわよ」
 淡い光を放ちながら宙に一人の女性が姿を現した。
「あ、師匠でしたか。お久しぶりです」
 明日奈が朗らかに挨拶をした。

「知り合いなのか?」
「ああ。こっちの世界に来た最初のサキュバスだそうだ。
 明日奈を変えた張本人だと聞いている」
 縁の問いかけに答えた後、俺はサキュバスに振り向いた。

「それで、何の用です? まさかまたこっちの飯をたかりに来たとかじゃないでしょうね?」
「失礼ね! 今日はお祝いに来たのよ!」
 頬を膨らませて怒る彼女に俺は疑いの目を向けた。

「そんな事言ってろくでもないものを持ち込んでいませんよね?
 この前触手を植えつけて畑を潰した事は忘れていませんからね」
「もう、そんなに疑う事ないじゃない・・・」
 彼女はいじけてそっぽを向いてしまった。

「・・・なにがあったのか教えてくれるかな?」
「いや、実は彼女が持ってきた触手植物が原因で畑から触手が発生したんだ。
 雨後の筍みたいにボコボコ生えるもんだから証拠隠滅が大変で大変で・・・」
 女の子が襲われるならともかく、野郎の触手プレイなんて誰得だ。
 実に思い出したくない記憶である。

「それは・・・ご愁傷様だったな」
 同情したように縁は言った。
「まぁそれはさておき、今度は何を持ってきたんですか?」
「今回はまともな物だから安心して良いわよ」
 彼女は長方形の箱を差し出した。

「いつもなら魔宝石を送る所だけど、貴方達にはこっちの方が良いでしょうね」
 箱を受け取って開けてみると、中には一振りの剣が収められてあった。
「嫁入り道具の護り刀と言った所かな?」
 収められていた剣は太刀に分類されるであろう大きさだ。
 持ち運ぶには嵩張るだろう。

「中を検めてもよろしいかな?」
「ええ、もちろんいいわよ」
 縁は許可を得ると、するりと鞘から剣を抜いた。
 暗がりの中でも桃色の輝きを怪しく放つ刀身が姿を現す。

「ほぅ・・・美しい」
「こりゃ驚いたな」
「凄い・・・」
 水面のように透き通った輝きを放つ剣の美しさに感嘆の声を上げる俺達だった。

「斬った所を傷つけずに魔力だけを奪う魔界銀製よ。
 護身用からSMプレイまで何にでも使えるから大事にしてね」
「それはどうも・・・ん?」
 縁は何かを凝視した。

「どうした?」
「佩表に銘が切ってあるな」
 縁はふと剣に文字が刻み込まれている事に気が付いた。
 どうやら刀身の根元に小さく漢字が彫られているようだ。

「・・・漢字が読めないな。縁は分かるか?」
「分かるぞ。『ガマズミ』と読むんだ。」
 事も無げに彼女は読み上げた。

「作った人の名前かな?」
「いや、それは花の名前よ。白い花を咲かせ、赤い実を付けるのよ。
 花言葉は二つ。一つは『結合』、もう一つは『無視したら私は死にます』よ」
 ニヤニヤ笑いながらサキュバスが説明した。

「物騒な意味だな・・・」
「でも私にはぴったりだな」
 縁は不敵な笑いを浮かべた。

「・・・何か顔が笑っていないように思えるんだが」
 目が光を帯びていない。彼女の笑みも合わせて物凄く嫌な予感が頭をよぎった。
「心配しなくてもいい。君を傷つける真似はしないよ」
 にっこり笑う彼女が今の俺には末恐ろしく感じた。
 キチ○イに刃物じゃないが、かなり不味い事になったんじゃないだろうか?

「まぁそれは置いておいて、この状況をどうにか出来ませんかね?」
 俺はサキュバスに事情を説明した。
「赤ちゃんが出来なくなるかもしれないし、それはちょっとまずいわね・・・」
「そんなに危ないんですか?」
 心配そうに明日奈が言った。

「繋がって抜けなくなるのは大した事は無いんだけど、
 赤ちゃんが育つ隙間も無いのは流石に見過ごせないわね」
 縁の腹を撫でながらサキュバスは答えた。
「ちょっと待て、抜けなくなるのが大した事じゃないとかおかしいだろ」
 俺はすぐに突っ込んだ。

「魔界じゃ当たり前よ? 子供が出来るまで繋がりっぱなしは当然だし、
 極端な例だと魔王様なんて妊娠しても繋がってるわよ。
 お腹の赤ちゃんにパパのミルクをあげるんだ〜とか公言してるし」
「そいつら一日中何やってんだよ・・・」
 常識が通じねぇと言ってもこんなに差があるとは思って無かったよ・・・

「もちろん。ナニよ。さて、治療に取り掛かりましょうか」
「具体的に何をするのかな?」
「簡単に言えばデトックスね」
 サキュバスは縁に瓶を渡した。中には白い液体が入っている。

「貴方の体はあなた自身の魔力よりも魔界の野菜や果物の魔力が溜まり過ぎているのよ。
 だから溜まった魔力を一度抜き取る作業に取り掛かるわ。
 その後で私達が魔力を流し込めば完全にサキュバスになって解決よ」
「それで、これは何かな? 牛乳みたいに見えるが・・・」
 瓶の中からは甘ったるい匂いが漂っている。

「特濃ホルスタウロスミルクよ。胸のハリとツヤを保つ上に豊胸効果もばっちり。
 飲めば飲むほど濃厚ミルクが溢れ出すわよ」
 どこぞの通販みたいなノリでサキュバスは語り始めた。

「ただ普通に魔力を抜き取るだけなのはもったいないから、
 魔力が母乳になって漏れ出すように体を作り変えるわ。
 子供におっぱいをあげる練習も兼ねて夜麻里君に授乳プレイを仕掛けちゃいなさい」
 ウインクをしてサキュバスは笑顔を作った。

「待て、どうしてそうなる。普通にサキュバスにすればいいだろ」
「だってぇ、それじゃあつまらないじゃない。
 夜の営みも変わった刺激がないと飽きが来るわよ」
「そういう問題じゃねぇ!」
 やっぱりこいつが絡むとろくな事になりやしない。

「それに、お嫁さんは満更でもなさそうよ?」
「え?」
 俺が声を上げるや否や、桃色の剣閃が宙に軌跡を刻んだ。 
 途端に視界が暗転する。瞼が落ちてきたのだ。

「お? おおっ!?」
 右手、左手、右足、左足・・・風を切る音が鳴り響く度に
 次々と体から力が抜けて身動きが出来なくなっていく。
「ふむ、手に馴染む扱いやすい剣だな。今後も有り難く使わせてもらおう」
 満足げな縁の声が聞こえる。表情は見えないがきっと微笑んでいる事だろう。
「で、これを飲めばいいのか」
 キュポンと軽い音と共に蓋を開けて中身を一息に飲み干す縁。

「おお、これは凄いな」
「うわっ・・・こんなに変わるんだ」
「でしょう? それを旦那様に飲ませれば
 どろっどろの濃ぉ〜いミルクをご馳走してもらえるわよ」
 三人は歓声を上げてミルクの効果を目の当たりにしていた。

「おや、夜麻里も気になるのか? 君の息子がまた大きくなったぞ」
 嬉しそうに縁はお腹を撫でて逸物に刺激を与え始めた。
「そんなに凄いのか?」
 物凄く気になる会話だが、生憎目は見えないのだ。生殺し状態でこれはきつい。

「ああ。気になるなら試しに飲んでみろ」
 ずっしりとした重みと共に彼女の艶の有る肌が唇に触れると
 舌に甘みの有る何かが流し込まれた。間違いなく母乳だろう。

「・・・美味いな」
「当然だ。私の愛がたっぷり詰まっているんだ。
 飲みたいだけ飲んでくれ。お代わりはいくらでも有るからな」
 頭を抱き抱えられ、口に乳首を押し込まれる。
 誘われるがままに吸い付くと、先程よりも濃厚な母乳が喉を潤した。

「んっ・・・これはこれで心が満たされるものだな。
 夜麻里はどう・・・いや、言うまでもないか」
 優しい口調で満足げに縁は呟いた。

(恥ずかしいけど、こんなのもアリだなぁ・・・)
 身動きもできず、周りに見られているにも関わらず
 妙な安心感がたまらなく心地よい。

「二人とも気持ち良さそうね。満足していただけたかしら?」
「見ての通りだ」
 俺は返事が出来ないので、軽く頷いて意思を示した。

「はぁ・・・何だか子供が欲しくなってきちゃったなぁ・・・」
 切なそうに明日奈は溜め息を付いた。
「ほんとねぇ。早く私も理想の旦那様に合いたいわ」
 サキュバスも嫉妬混じりに呟いた。

「そんなに落ち込まなくてもすぐに見つかるに違いないさ。
 もし見つかったら遠慮なく言ってくれ。捕まえるのに協力しよう」
 縁は慰めるようにサキュバスに言った。まさか辻斬りまがいな事をするつもりじゃないだろうな?

「さて、ここからは私達の番ね。気持ちを入れ替えなさい、アスタロット」
「はいは〜い」
 明日奈は元気に返事をした。

「それじゃあ行くわよ。まずは体にルーンを刻むわ。
 私は足をやるから、アスタロットは腕を頼むわ・・・」
「待った、ルーンとは何かな?」
 縁は会話に割り込んだ。

「まぁ・・・刺青みたいなものよ。おっぱいが良く出るようにしたり、魔力を溜め込みやすくしたり、
 刻んだ種類に応じて色々な効果が出るわ。一度刻んだら消すのは難しいけど、
 変身して隠せるから気にしなくても平気よ」
 安心させるようにサキュバスは語った。

「は〜い、じっとしててくださいね」
 縁の左腕を掴んで明日奈はルーンを刻み始めた。
 色白の肌に鮮やかな紅い文様が刻まれ始める。

「・・・やけに手馴れていないか?」
 テキパキと作業を進める二人を見て縁は言った。

「慣れればそんなに時間はかからないわよ。
 刺青のように色を細かく変えるならまだしも、
 こっちは単色を決まった形に流し込むだけで終わるもの」
 脚にルーンを刻みながらサキュバスは言った。

「動くと失敗するかもしれないから、ちょっとだけ中断してくれる?」
「わかった」
 縁は俺の口から乳房を離した。

「作業は順調か?」
 口が自由になったので俺は話し掛けてみる事にした。
「ええ。そっちは楽しんでる?」
「満腹で少し眠くなってきたけど、おかげさまで退屈はしてないな」
 剣の影響だろうか、上手い具合に脱力している。
 セックスで疲れている今ならぐっすり眠れそうだ。

「なら腹ごなしに搾り取ってからまた飲ませるとしようか」
「そんなに有り余っているなら風呂にでも入れてくれ」
「母乳風呂か・・・それも楽しそうだな」
 縁は母乳を俺の体に滴らせながら呟いた。

「もうしばらくかかるから寝たかったら寝て良いよ。
 終わったら起こしてあげるから」
 明日奈が言い終わると、何かするりと俺の頭の後ろに柔らかい物が添えられた。

「これは・・・尻尾か?」
「うん。枕の代わりに使って」
「わざわざ悪いな。それじゃ、一眠りさせてもらうよ」
 明日奈と縁の温かみを感じながら俺はまどろみ始めるのだった。









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「ん・・・」
「おはよう。いい夢は見られたかな?」
 ふと気が付くと、真横に縁の顔が見えた。

「上手くいったみたいだな」
 彼女の髪は白銀の輝きを放ち、瞳は琥珀色に変わっている。
 完全にサキュバスの体となったようだ。

「どうかな? 私の生まれ変わったこの体は綺麗かな?」
「うん。とっても綺麗だ」
 白い肌の上で紅玉のように淡く輝くルーンは彼女の持つ欲情の炎を描き出しているようだ。
 翼や尻尾も伸びて黒曜石のような鱗に包まれている。例のミルクの効果だろうか、
 彼女の双乳は二周り以上豊かになり、呼吸の度に弾んでいる。

「気に入ってくれてよかった・・・」
 安堵したように縁は肩の力を抜いた。
「それで、ここはどこだ?」
「私の部屋だ。君が眠っている間に運ばせてもらったよ」
 起き上がって見渡すと、殺風景な部屋が目に入った。

 額縁の中には優勝を讃える賞状が収められ、無地の背景の時計は七時過ぎを示している。
 家具は質素な物ばかりで、装飾と呼べそうな物は見事な草書体で『朴念仁』と書かれた
 掛け軸くらいなものだ。唯一、文机に置かれた兎の縫いぐるみが全力で女の子の部屋である事を
 主張しているが、悲しいまでに浮いてしまっている。
 
「すまないな・・・女の子らしくなくて」
 縁は表情から俺の心を読み取ったのか、しょげた様子で呟いた。
「あ〜・・・気にするな。俺には縁がいれば十分だ」
 気の利いた一言でも言いたかったが、残念ながら何も思いつかない。
 慰めるように俺は話しかけた。

「ありがとう。やっぱり君は優しいな」
 顔を赤らめながら彼女は答えた。
「ところで、何か生傷が出来てないか?」
 彼女の体には真新しい傷が出来ている。いったい何があったんだろうか?

「ああ、この傷は父と真剣で斬り合っただけだから気にするな」
「いやいやいやいや、そんな事を気にせずに入られませんよ。
 どうしてそんな事になったんですか?」
 返事が思わず敬語になってしまった。何があったんだ?

「別に珍しい事じゃないさ。うちの道場は実戦上等の古武術を教えているから、
 真剣で斬り合ったり、闇稽古をするぐらいは当たり前だ」
「何だ、ただの稽古だったのか」
 俺はほっと胸を撫で下ろした。

「まぁ、結婚届けを突き出して君と付き合う事を報告したのが不味かったのだろうな。
 結婚なんてまだ早いと言われて喧嘩になってしまったよ」
 何やってんだ。アンタ。

「いきなりそんな事をしたらそりゃあ揉めるでしょ」
「今まで散々我慢してきたんだ。これからは思い通りに過ごして何が悪い」
 膨れっ面で彼女は答えた。

「それで、結局どうなった?」
「いがみ合いになった後で父が『私に勝ったら交際について考える』
 なんて言い出したから徹底的に叩きのめしたよ。あの悔しそうな顔が見れて良かったなぁ」
 いい笑顔を浮かべながら縁は語った。親相手にそこまでやるか。

「一応聞くけど親父さん、大丈夫だよな?」
「もちろんだ。流石に家族を殺めるような真似はしないさ。
 子供に祖父の顔を見せたいし、君の事を認めさせたいからね」
 お腹を撫でながら彼女は話した。

「とは言っても今俺が顔を合わせても親父さんが認めないだろうし、
 顔合わせは当分先かな?」
「その点については既に対策済みだ。最悪の場合は母をサキュバスに変えてでも
 説得させて見せるから心配は無用だ」
 不適な笑みを縁は浮かべた。

「まぁそれはそれで良いとして・・・改めて君には言っておかなければならない事がある」
 彼女の表情が引き締まり、雰囲気が一変した。思わず俺も佇まいを正してしまった。

「君の妹や友人達も君を慕い、正妻の座を狙っている事は聞いている。
 その事を踏まえた上で君に言っておく。私は君を独り占めにする」
 言葉の端々から滲み出る程に揺ぎ無い信念を込めて縁は言い放った。

「もう言うまでも無い事だが、私は君が好きだ。君と一緒に居られるのなら
 どんな犠牲を払ってでも君の側に居る。邪魔をする輩が現れるのなら
 親であれ友であれ斬り捨ててでも排除して認めさせる。それが例え君の家族であったとしてもだ」
 静かに、されど力強く、言葉を紡ぐ縁の真剣な顔を俺はじっと見つめた。

「もちろん私は生涯君を愛し、尽くす事を誓おう。
 だから・・・私の伴侶として共に人生歩んでくれ!」
 縁は三つ指を突いて頭を下げ──

「ちょおおおっと待ったあああぁぁぁ!!」
 突如障子が開け放たれ、誰かが部屋の中に殴りこんで来た。
「一人だけ抜け駆けしようったってそうはいかねぇぞ!!」
「そうだそうだ! お兄ちゃんを渡すもんか!」
「夜麻里! 私を差し置いてそんな凡骨と結婚するなんて認めないわよ!」
 慧、理梨、佐久耶の三人が突撃してきたのだった。

「うおおおおおっ!? お前らどうしてここにいるんだよ!」
 慌てて飛び退きながら俺は訊ねた。
「匂いで追って来たんだよ!」
「発信機でいつもチェックしてるもん!」
「使い魔で逐一監視してるのよ!」
 三者三様の答えを出す彼女達の目は全く笑っていない。

「ほぅ・・・それは聞き捨てならないな・・・」
 ゆらりと縁が立ち上がった。いつの間にか貰った剣を抜き放ち、正眼の構えに入っている。
「夜麻里、すぐにこのじゃじゃ馬達を片付けるから少し待っていてくれ」
 ──マズイ。こっちもこっちで剥き出しの殺意を放っている。

「そこまでして私の恋路を邪魔するなら容赦はしない。
 全員まとめてかかって来い。力の差と言うものを思い知らせてやろう」
 さっきまでの甘い雰囲気はどこへやら、今は完全に戦場の空気が漂っている。

「上等だ! 叩きのめしてやる!!」
「いくよ〜! 覚悟しろ〜!!」
「私に刃を向けた事を後悔しなさい!!」
 俺に被害が及ばないようにしながら正妻戦争をおっぱじめる四人。
 人様の家で何をやってるんだか・・・

「これから苦労しそうだね〜」
「全くだ・・・・って、明日奈も居たのか」
 いつの間にか俺の側に明日奈が居た。

「三人共頭に血が上って人払いとかしないから、代わりにやっておいたんだよ?」
 尻尾を振りながら明日奈は上目遣いで擦り寄ってきた。
「よしよし、良い子だ」
「えへへ・・・」
 頭を撫でてやると、嬉しそうに明日奈は俺の胸に寄りかかった。

「ところで、何で明日奈は戦わなかったんだ?」
「だって、争う必要なんてないんだもん。夜麻里君が幸せならそれで良いし、
 皆も幸せになって欲しいからこれ以上火に油を注ぐ真似はちょっと・・・」
 爪やら尻尾やらを振り回す四人の姿を見て気まずそうに明日奈は言った。

「お前、本当に良い奴だな」
「ありがと」
 唯一の良識枠を見つけて涙が出そうになる俺だった。

「さて、そろそろ止めに入ろう。これ以上やったら家が壊れかねないしな」
「そうだね。それじゃあ行こうか」
 意を決して俺達は戦いの渦中に飛び込んだ。

 この日を境に正妻の座を巡る争いが激化し、波乱に満ちた日々を送る事になるのだが、
 それはまた別の話である。
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