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ご存じの方はご存じ「思い出の香炉」
人間と魔物の夫婦が寝室に置いて愉しむこの魔法道具は、焚いた香の煙に巻かれた夫婦の記憶を「お互いはじめて出会った瞬間」
過去へと呼び戻します


とはいえ、魔物から夫の記憶を奪う事はいかなる手段をもってしても不可能
この効果は暗示の一種に過ぎず、精神や肉体、魂に刻み込まれ
魂を構成する核にすらなっている夫との愛欲と快楽の記憶は決して消える事はありません


そうなると、魔物娘は初めてみたその瞬間から本能と子宮が反応しまくる眼の前の男性(夫)を即座に襲うわけで
即ちこれは「なれそめえっち」を愉しむためのものなのです!


暗示は一晩愉しんだり、部屋を出たり、第三者が部屋に入る等ですぐ解けてしまいます


ですが、実験中の事故やわるい魔法使いの企みでこの「仮想記憶喪失状態」が長引いてしまうという事件もありました
そんな時どうなってしまうのか? 実際にあったエピソードを交えいくつかお話させて頂きます


【CASE-1】
被害者:魔王軍開発室勤務の研究者メドゥーサ、および夫である護衛の男性兵士


概要:魔界勇者ウィルマリナから依頼を受け
「わるい魔王(あなた)に一か月かけて快楽調教され魔界勇者に堕とされる聖勇者ウィルマリナ」プレイに使用する持続時間一か月の思い出の香炉開発中の誤作動


結果:煙に巻かれたメドゥーサが一ヵ月間記憶喪失に
職務中、喧嘩が絶えない(その後二人で個室に向かう)事が有名な夫婦だったが期間中は夫に対する対応が大きく変化
「一目惚れ」と称し人目を憚らず腕や蛇体を絡める
甘ったるい声で愛を囁く等の行動が増加
性生活は平常時と同様に行っていた


事故後の後遺症として、喧嘩後の個室での交わりの際
ひとしきり愉しんだ後に記憶喪失時の様な甘ったるい態度となり、更にセックスをねだる様に
また、その状態から戻った後、極度の羞恥と恐慌状態に陥り夫を犯す事件が多発
結果、夫婦での交わりの回数が以前の3倍強まで上昇したとの報告


【CASE-2】
被害者:ポローヴェで暮らすホルスタウロスと夫であるパン職人


概要:パン配達中のホルスタウロスが馬車の前に飛び出した人間の子供を庇い馬車と衝突
馬車が壊れたのみで彼女、子供、御者共々外傷無し
ただし馬車は研究室に危険薬品を運搬するもので
運悪く彼女がある薬液を被ってしまう


結果:薬品はとある魔術師により開発された「心を喪失させる魔法薬」
ポローヴェの研究室で対策と無力化のための研究を行う予定だったもの
名称通り、ホルスタウロスは心を失いからっぽの人形の様に


……見えたが、検査後、研究室を抜け出し夫の待つパン屋へ直帰
研究室に呼び出され慌てて身支度をしていた夫と遭遇
夫の呼びかけに映ろな目で反応しないホルスタウロスだったが
しかし直後に豹変、無表情のまま夫を押し倒し騎乗位での交わりを始める


三日ほど店から出てこなかった後、被害者は無事心を取り戻すも重篤な後遺症が発覚
のんびりと穏やかな人柄だった被害者だが、「私が従うべき幸せはここに……♥」等の意味深な言葉を呟きながら自らの下腹部を撫でるといった言動の変化が見られる


また、パン屋の常連によると、彼女の仕草、言動共に妖艶さが増し、挑発的になったとされ、
パン職人の夫をしきりに誘惑する様な行動が増加
服装の好みも煽情的なものを好む様になり、夫婦が様々なシチュエーションで交わるために利用するいかがわしい店舗に夫を連れ込む姿もよく目撃される様に


また、味自慢で地元から愛されるパン屋であったため、
事件後に定休日が増えた事を嘆かれる一方、近頃第一子が誕生するという事で大いに祝福されている様だ


補足:類似の効果を持つ魔術・薬品がそうである様に
薬品が本来想定していたであろう効果は発揮されなかった
夫のいない研究主任スピリカ女史が試飲したところ、一切の効果を発揮しなかったため
試験者の伴侶の有無、また欲望により効果が左右されるのではと目下研究中、また夫婦生活への転用を模索中


なお、人間の女性に用いた場合は漂う魔物の魔力、もしくは試験者の体内の魔力が影響を及ぼすのか
魔物が飲む場合と同様の効果と魔物化の付与が確認された


【CASE-3】
被害者:魔界騎士のリザードマン、夫である従騎士の男性


概要:ポローヴェの協力要請によりレスカティエから派兵、ある魔術師のアジトを襲撃
魔術師は近隣の村々から人間を攫っており無事救出が完了したが
その中に混ざっていた魔術師に不意をつかれリザードマンの魔界騎士が魔法を受ける


結果:魔法はおそらく「洗脳」に類するもの
共にいた魔界騎士の仲間の目撃証言によると、魔術師が鈴の様なものを鳴らし「仲間と夫を殺す様に」とリザードマンに命令


しかしリザードマンは仲間には目もくれず、アジトの外で軍幕を張る作業に従事していた夫の従騎士の元へ直行
追いかけた仲間が遅れて辿り着いた軍幕の中で見た光景は
何故か夫を殺す様に命令されたリザードマンが、遥かに戦闘力で劣るはずの当の夫に組み伏せられ犯されている姿だった


直後に正気に戻った彼女に聴取したところ「なんだか血が上って夫のとこにいった」
「顔を見た途端にカラダから力が抜けてへたり込んだ」
「男性器を突き付けられた、嬉しかった」「夫に犯された、幸せだった♥」等と供述


その後しばらく後遺症は見られなかったが、数週間後に重篤な後遺症が発覚
特定の波長の鈴の音に反応しリザードマンが虚ろな精神状態となり、彼女の夫が突然凶暴化して彼女を犯すというもの
また事件後に夫の膂力、魔力、男性器の大きさ、射精量等々が劇的に強化され、魔界勇者並の戦闘力を得るに至った


考察:
同僚により「夫を殺せ」と言われた瞬間、リザードマンが夫の元へと向かう前に魔術師の顔面をぶん殴る様子が目撃されており
やはり類型魔術と同様に正しい効果が発揮されていない
これまでの研究結果は魔法薬や魔術の効果が当人の欲望の望む結果に改変されている事を示している


今回の被害者は自身に勝った者を伴侶にするというリザードマンの習性に反し、その可能性も無い遥かに戦闘力に劣る男性を伴侶にしており
いつか夫が自分と並び立つ様にと日々訓練をつけていたという
そのため、魔術の効果が彼女の望みを叶える形で発揮されたと推察される


一方で、魔術の影響下にないはずの彼女の夫にも凶暴化・戦闘力の強化という不可解な現象が発生している
これは魔術によりリザードマンが覚醒、「夫の凶暴化と進化を促す」誘惑・魔術を身に着けたものと推察される
様々な魔術がより良い夫婦生活のための魔物の進化の切欠となるのではないかと目下研究中


なお、今回の検証により、これまでありえない発想とされてきた
「そもそも魔術は何一つ効果を発揮しておらず
えっちするのに都合がいいため、被験者本人が効果が出たと自己暗示をかけている」
という学説の信憑性が強まっており、検証中


補足:殴られて気絶した魔術師だが騎士が目を離した瞬間に突如消失
彼のいた場所には「真夜中のサーカス団」と書かれた使用済みの半券が残され
またアジトに残された日記には自らを愛さなかった両親への恨み、世に存在する幸せな夫婦や親子に対して「あいつらばかりズルい」という憎しみが綴られていた


村々から人を攫い、魔法薬や魔術をかけた後に村へ返すという行動を繰り返していた様だが
追跡調査により、村に返された女性たちは皆魔物化し伴侶や恋人と共に退廃的で爛れた性活を送っており
魔術師の被害を受けた村は揃って小規模な魔界となっていた事が判明した
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