パピヨン
・パピヨン属 ・昆虫型
○生息地…平原、森林
○気性……献身的、温厚
○食糧……花の蜜
豊かな色彩の美しい翅を持つ蝶の魔物で、「グリーンワーム」が成長した姿である。
可憐な乙女の姿を持ち、空を舞えば陽の光を受けて輝く翅が見る者の眼を奪い、それだけで男性の心を魅了してしまうという。
春を象徴する存在であるとされ、彼女達の頭の中はそれを体現するかの様に暖かな幸せに満ちている。
その温厚な性格から誰に対しても優しく親切に接する姿は「春の陽気」がそうである様に、彼女達と触れ合った者の心をも穏やかな気持ちにさせる事だろう。
蛹から共に羽化した自身の夫に対しては、蛹の中で幾度となく身体を重ね、精を与えられた恩を返すかの様に、暖かな愛情と献身を向ける。
淫猥な色香よりも、可憐で華やかな魅力を纏う彼女達は、人間の男性を襲ったり直接的な誘惑を行う事は無い。
夫が交わる事を望まないのであれば、夫の傍で過ごすだけでも幸せそうな様子を見せ、夫がより良い生活を送れる様に、ただただ尽くそうとする事だろう。
しかし、成体であるパピヨンは、子を残す事を目的とした「生殖」に特化した形態である。
蛹の中での幾度とない交わりの中、夫から向けられる視線や触れられた箇所を覚えながら成体へと育った身体は、夫の欲望を刺激する事に特化されたものとなり、幼生体の頃は触覚からのみ放たれていたオスを誘う匂いが、より夫好みのものに調合された甘い芳香を全身に纏っている。
加えて、彼女達の夫は蛹の中での交わりを経た事で、夫に対してより大きな快楽をもたらし、より多くの精を搾り、より子を孕みやすいものへと変化していく彼女達の肉体を、その身をもって知ってしまっている。
即ち、彼女達はただ存在するだけで、夫の生殖欲を昂らせ、交わりを求めさせる。
それ故に、彼女達はいつでも夫を受け入れられる様に、常に夫の隣でただ美しく献身的に在るのだ。
「食事」に特化した幼生体はいつでもお腹を空かせていたが、「生殖」に特化した成体にも同じ事がいえる。
「春」と称される彼女達の頭の中は、交わらずとも夫と過ごすだけで幸せに満たされ、一見してその「腹ぺこ」な様子を見せる事はないが、内心ではもっと欲しいと涎を垂らし、夫を美味しく食べて幸せを上乗せしようと、貪欲に交尾を求めているのだ。
なお、正しい意味での食事は少量の花の蜜を吸うだけで事足りるが、大量のご馳走を目の前にすれば、衰えを見せない食欲で幸せそうに食べる姿を見せる事だろう。
パピヨンには稀に男性を得られないまま蛹となって成体へと至った個体も存在し、通常の個体とは性質が異なっている。
本来ならば、蛹の中で男性へと与えられるはずだった栄養に満ちた分泌液が、全て体内に保有されたまま成体の身体が作られた事で、その肉体はより妖艶で豊満な、見るからに性の魅力に満ちたものとなる傾向があり、近づくオスに剥き出しの色香をまき散らす様になる。
人間の男性を襲わず、直接的な誘惑を行わないのは変わらないものの、この様に、とにかく夫を手に入れる事に特化した生態が現れるのである。
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