サルピンクス
・天使属 ・天使型

○生息地…魔界
○気性……温厚、控えめ、好色
○食糧……人間の男性の精

○かつては天界に暮らす神のしもべだったが、自ら魔物となる事を選んだという天使の一族。
 彼女達が奏でる神秘の楽器は「終焉のラッパ」と呼ばれ、その音色は人類に終焉をもたらす大いなる災厄の訪れを知らせるものとして神話に伝えられている。
 だが、平時のサルピンクスは音楽を愛するただの堕天使であり、その演奏は災厄の知らせどころか、人々に小さな幸運と心の安寧をもたらすという。
 それ故、彼女達にまつわる神話は疑わしいものであるとされているが、各地に伝わるいくつかの災厄の記録は神話が事実である事を示している。

 ある王国では突如として大地がひび割れ、裂け目から噴き出した瘴気が国中を覆った。
この瘴気は目に見える程に濃密となった魔物の魔力であり、瘴気を吸って生きる事となった全ての人々は恋人と愛欲のままに過ごす様になり、王国は陶酔と恍惚を日常とする爛れた楽園となった。 
 ある大陸では天より血の色の火が降り注ぎ、木々も獣も人々をも炎に包んだ。炎は木々を灰とする代わりに魔界の植物へと変え、獣や女性を炎の中で魔物として生まれ変わらせた。
 大陸を支配した性愛に飢えたケダモノ達は、今でも愛する男性を蹂躙し続けている。
 多くの村や街へと流れる大水源である湖には空から巨大な塊が落下し、水に溶け込んだそれは、水源から流れる水を飲んだ女性の間で不可思議な熱病を蔓延させた。
病に侵された女性は熱に浮かされた様子で男性と交わり、身体を重ねた男性を人ならざる異形の姿に変貌させ、自らもまた美貌の異形へと姿を変えた。つがいである異形の雌雄は常に繋がり一つとして生きる様になり、人々は深淵の怪物になり果てた。
 そして、これらの災厄の舞台全てで、その光景と不釣り合いな美しい音色が響き、ラッパを奏でるサルピンクスの姿が目撃されている。
 
 堕天使らしい精神性を持つ彼女達にとって災厄がもたらす淫らな光景は、その心に安寧をもたらすものであり、魔に堕ちた人々の嬌声を背に伴侶と身体を重ねる事を何よりの悦びとする。
 この様に、彼女達自身も男性を求める魔物であるわけだが、災厄の中で自ら姿を現すことは無く、例え遭遇してしまっても彼女達から男性を襲う事は無い。
 にもかかわらず「彼女達の存在に気づいてしまった」男性は、必ず彼女達と身体を重ね、夫となる末路を辿る。
 災厄により人々が魔の快楽に耽る中、その光景を散々目にし、充満する魔力に当てられ続け、それでも他の魔物と結ばれる事無くサルピンクスの元へと辿り着いた。
 そして辿り着いた先には、自分と交わるために美しい天使が待っていた。そうなれば、この結果は必然ともいえる。

 魔界化をもたらす事から、世界の全てを魔界に変える事を目論む「過激派」に属するとされ、彼女達の一族は過激派の悪魔達と密接な交流を持っている。
 災厄の力は強大で、彼女達が世界中でラッパを吹き鳴らすだけで、世界の全てが魔界へと変わり、過激派の悲願が叶う事となるだろう。
 しかし、現状そうなってはいない。何故ならば、彼女達は「災厄を引き起こす力」など持っていないからだ。
 彼女達の力を正しく言葉にすると「災厄を予見する力」と「災厄に魔力による介入と侵蝕を行う力」である。つまり、彼女達は別の要因で発生している災厄を察知し、災厄の性質とそれがもたらす結果を捻じ曲げているに過ぎない。
 彼女達は天使であった頃より、人々が災難や不幸に見舞われる事を何よりも恐れる心優しい性格である。それこそが彼女達が災厄の舞台でラッパを吹き続け、災厄がもたらす光景に安堵する理由なのだ。
 つまるところ、災厄が無ければ彼女達の奏でるラッパの音色は、ただの美しい演奏に過ぎないという事だ。
 だが、彼女達の演奏を聴いた多くの人や魔物が、その音色が小さな幸運をもたらしてくれたと口にしている。
 優れた演奏により聴いた者の心が豊かになったが故にそう感じている者も多いのだろうが、もしかすると元は小さな不運、小さな災厄が性質を変えた結果なのかもしれない。



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