ストレンジさんから戴きました!
ありがとうございます!

 教室の壁に備え付けられたスピーカーから、今日の授業が全て終了したことを告げる鐘の
音が響く。その途端に教室内の空気が緩み、教科書やノートを片付ける音があちこちで起こ
った。
「それでは今日はここまで、ここはテストに出やすいからちゃんと復習して置くように」
 年配の教師が授業終わりの挨拶を促すと、日直の生徒が声を出す。それに生徒達はそろっ
て立ち上がり、ばらばらと軽く頭を下げる。
 教師が戸を開け教室から出て行くのと入れ替わりにやってきた担任が、二言三言注意や連
絡を伝え、ホームルーム終了の言葉を口にすると、すぐに室内は生徒たちが作り出す喧騒に
包まれた。
「あ〜、終わったおわったぁ〜」
 椅子に座ったまま、教師の言葉を聞き続け延々と黒板の文字をノートに写すという退屈な
作業から解放された俺、御奈方悠樹(みなかた・ゆうき)は背筋を伸ばす。固まった身体を
軽くほぐすと、なにをするでもなくぼんやりと椅子の背もたれに身体を預ける。
「と、アイツはどうしたかな……?」
 教室に残り雑談に花を咲かせる女子たちのグループをちらりと見、それから窓際のとある
席に視線を移す。既に空になった室内の多くの席と同じように、そこには席の主の姿は無い。
どうやら俺が気付く前に既に教室を出てしまっていたらしい。
「あれ、いねえや」
 一つ息をつくと、俺は鞄に教科書やノートやらを詰め込み、立ち上がる。
「仕方ないな、俺も帰るか」
 仲の良い友達と、あるいは一人で教室を出て行くクラスメイトたちの姿をちらりと見、い
つまでも無駄に残っていても仕方ないと思った俺も鞄をつかむと教室を出る。放課後の廊下
には楽しそうに歩く生徒達の姿があり、みな解放感に満ちた表情で友人と会話したり、さっ
さと帰宅すべく下駄箱へと急ぎ足で向かっていた。
 そんな彼らと同じように、放課後の解放感にかすかに胸を躍らせながら廊下を歩いていた
俺の背に、大きな声がかけられる。
「おーっす! 悠樹!」
「ぐあっち!」
 声が耳に届くとほとんど同時に、背に衝撃。背中を思いっきりぶったたかれ、俺は危うく
転びそうになった。何とか踏みとどまって振り返ると、そこにはワイルドさを漂わせるショ
ートカットの黒髪に、いつもどおりに制服をラフに着崩した、一人の女子生徒の姿があった。
「ったく、ひっでーな。あたしをおいて一人で帰るんじゃねーよ」
 ツリ目気味の瞳で俺を睨み、頬を膨らませて抗議する彼女は、戌井慧(いぬい・けい)。
俺のクラスメイトで、2年生ながら女子陸上部のエースという逸材だ。野生の獣を連想させ
るような、しなやかですらりとした身体つきを見れば、彼女を知らないものでも風のように
トラックを駆けるその姿を十分にイメージできるだろう。
「鞄がねえから先に帰ったと思ったんだよ。つうか少しは加減しろよ慧。おお痛え……」
 腕を回して背中をさすりながら、俺は彼女に声を返す。そんな俺の姿に慧は呆れたように
鼻を鳴らした。
「なにいってんだよ、だらしねーな。ちょっとしたスキンシップじゃねーか」
「お前は軽くやったつもりかもしれないけどな。今の勢い、下手したら怪我するぞおい」
 じと目で睨んでやるものの、慧の顔には反省した様子はない。俺はこれ以上の抗議を続け
ることの無意味さを早々に悟ると、溜息を一つ吐いた。
「で、わざわざ呼び止めてどうしたんだよ」
 俺の言葉に、慧はわざとらしく悲しそうな表情を作る。
「あ、そんなこというのかよー。せっかく可愛い彼女が薄情な彼氏を健気にも追いかけてき
たって言うのにさー」
「は、言ってろ」
 呆れた声を出す俺に彼女はへへへと笑い、肩に腕を回す。
「な、どうせ今日もお前は放課後暇だろ? 部室に寄ってけよ」
 慧は俺に顔を近づけ、耳元で囁く。言葉遣いこそいつもの粗雑なものだったが、その声に
は普段とは違う、妙にねっとりとした響きがあった。
 俺に絡みついたまま、彼女は続ける。
「な? いいだろ? あいつらもお前が来るの楽しみにしてるんだしよ。それにあたしもさ、
今こうして……お前の匂いかいでるだけで……」
 慧の声の調子がさらに変わり、熱っぽい吐息が俺にかかる。ぎょっとして彼女のほうを見
ると、瞳は薄く緑がかり、頬の上には紅いラインが浮かび上がってきていた。さらには彼女
のショートカットの髪をかき分けて、まるで獣の耳のような形をした硬質な角が二つ、姿を
現そうとしている。
「ばっ、おま、こんなとこで変身なんかすんなよ!? 人に見られるだろーが!」
 慌てて(小声で)叫ぶが、慧の口から漏れる呼吸は発情したように荒くなっていく一方だ
った。それに伴い興奮も高まっているのか、彼女の頬が赤く染まり、妖しげな光を灯す目も
潤んでいく。
「だってよぉ……悠樹のこの匂い……すげえ好きなんだもんよ……」
 首筋に顔を埋め、慧はすんすんと鼻を鳴らす。そのたびに彼女の身体はどんどん変化を進
めていった。俺の肩に回された腕、その指の爪が鋭く、長く伸びだしていく。
「くぅん……な、いいだろ……? あたし、お前のものなんだしさぁ……してくれよぉ……」
 媚びるような声と目で、慧は俺にすがりつく。
「だから落ち着けって、おい!」
 必死で説得しようとするが、既に俺の言葉は彼女の耳に届いていないようだった。
 周囲を見回せば、放課後とはいえ校内、しかも廊下のど真ん中で男子生徒に女子生徒が抱
きついているという光景に、生徒たちの好奇心もあらわな視線が集まりはじめている。いかん、
この状況は非常にまずい。
「やばっ! ああもう!!」
 慧のスカートの裾から毛に覆われた長い尻尾が飛び出しそうになったところで、俺は彼女
の身体を引き剥がすと、その手を引っ張り全速力で駆け出す。
「ひゃわっ!」
 突然手を掴まれ、慧の口から驚いた声が飛び出るのにも構わず、俺は彼女の手を握ったま
ま教室前の廊下を駆け抜け階段を駆け下りる。俺たちは生徒たちの声で賑わう昇降口を横目
に、渡り廊下を通って放課後となり生徒の姿も無い特別教室棟に向かった。
 特別教室棟にたどり着くと、教師に見つからないように注意しながら適当な部屋を探す。
 俺は手近な空き教室見つけると覗き込み、中に誰もいないことを確かめる。慧の様子から
場所を選り好みする暇もない状況であることを悟った俺は、まだかろうじて変身しきってい
ない彼女を室内へと押し込み、間髪いれずに飛び込んだ。
「はあっ、はぁっ……こ、ここなら……」
 息を整えることも忘れ、俺は後ろ手に戸を閉め、鍵をかける。鞄を床に放るように置き、
辺りを見回すと、どうやらここは物置代わりに使われている予備教室のようだと分かった。
壁際に机や椅子が山と積まれている他は特に目を引くものも無く、室内はがらんとしている。
「ほら、慧! ここでなら変身してもいいから!」
 握っていた手を放すと、慧はよろよろと数歩進み、床に蹲る。
「は、あぁ……」
 荒い呼吸のまま、俺が見ていることにも構わず彼女はもどかしげに服を脱いでいく。下着
すらも躊躇せず脱ぎ捨てて生まれたままの格好になると、彼女は床に手を着いて四つんばい
になった。
「うぅぅ……」
 じっと見守る俺の前で慧の身体がぶるぶると震える。肌は綺麗な桃に色づき、その上には
珠の汗が浮いている。お尻はこちらに見せ付けるように突き出され、足の付け根、股間から
は抑えきれない興奮が愛液となって垂れ、太ももを伝った。
「あぁ……ん……。あるじぃ……あたし、が、変わるの……ちゃんと、はぁ……見てて……
くれよぉ?」
 発情した目でこちらを見つめる慧が、俺に言う。
「わかってるって」
 それに頷くとほぼ同時に、俺の目の前で荒い呼吸を繰り返す慧の姿が、人とは別のものへ
と変わりはじめた。
 興奮に染まる彼女の瞳、その瞳孔が縦に細く長い、まるで肉食獣を連想させるようなもの
へと変わっていき、ツリ目の黒い瞳がエメラルドの輝きを帯び、妖しく煌く。
 髪の色は黒からやや明るいグレーへと薄まり、その中からまるで獣の耳のような形をした
二本の角がぴょこんと飛び出した。
「あふ……、これ……っ、うぅ、変わんの……すげぇ、きもち、いぃ……」
 身体の変化のもたらす快楽に溺れる慧の声が、彼女の変身を見守る俺の耳にも届く。
 俺の視線の先で、床についた彼女の手の爪が長く、鋭く伸びたかと思うとひじの辺りまで
を獣の毛が覆う。膨らんだ双丘も同じように茶色がかった毛で覆われ、爪のようにも骨のよ
うにも見える乳当てが生まれて胸を掴んだ。
「ふぅぅ……きゅぅぅん……」
 慧は身体を震わし、太ももをもじもじと擦り合わせる。開かれた口からは舌がだらしなく
垂れ、犬歯が伸びて鋭い牙のようになる。露出した肩や、頬には紅いラインが数本浮かび上
がった。
 俺は、目の前で人以外のモノへと変身する慧の淫らな姿に思わずつばを飲み込む。耳ざと
くそれを聞いた彼女は快感に蕩ける表情に嬉しそうな色を浮かべ、こちらに振り向いた。
「あはぁ……あるじも、ふぁ……っ、興奮、してんのか……? いいよ、あたしに、いっぱ
い……くぅん、欲情してくれよぉ……」 
 俺に向けて突き出したお尻を振る彼女から、腕と同じような獣毛に覆われた長い尻尾が飛
び出す。尻尾は飼い主に甘える犬のようにぱたぱたと左右に振られ、風を起こした。
 さらに、尻尾の付け根よりやや上、背中と腰の境目あたりが盛り上がり、爪のついた腕の
ような、不思議な形をした羽が伸びだす。
「あ……うぅ……わぅ……ぅ、わおぉぉぉぉんん!!」
 完全に身体が変化し、まさに獣のような姿となった慧はおたけびを上げる。ゆっくりと立
ち上がった彼女、その姿は獣人とでも言えばいいのだろうか、可愛らしい少女とイヌ科の獣
が混ぜ合わされたような異様なものであった。
 それもそのはず。俺の目の前に立つ少女、戌井慧の正体はサキュバスと呼ばれる魔物なの
である。元は彼女も正真正銘の人間の女の子だったのだが、とある事件に巻き込まれた結果、
今のような魔物の姿に変えられてしまったのだ。
 ちなみに、本来サキュバスは角・蝙蝠のような羽・細く先の尖った尻尾を持った、いわゆ
る悪魔と人に呼ばれ、イメージされるような姿であるという。獣人のような姿をした慧はそ
の基本の姿とはかなり異なっているが、なんでも個人の資質やら特性やらなにやらがサキュ
バス化の際に作用した結果、こんな奇妙な格好になったらしい。
 と、そんなことをぼんやりと考えていた俺に、すっかり淫魔の姿になった慧が自らの身体
を見せ付けるように立ち、淫らな視線を向ける。下着もつけず、露になった股間はすでにぐ
っしょりと濡れており、垂れた愛液が太ももを汚していた。
「へへ……どうだ? あたしの身体に興奮したか? 欲情したか? ヤりたくなったか?」
 挑発的に言いながら近づいてきた彼女は、俺に自らの身体を擦り付ける。ふかふかの毛に
覆われた胸が腕に押し付けられ、獣の手と、腰から生える腕のような羽が俺の身体をしっか
りと抱きしめた。
「あー……まぁ、その、なんだ」
 曖昧に答えつつも、彼女の感触に身体は否応無しに反応し、震える。我慢する間もなく一
物は大きさと硬さを増し、ズボンの布地を持ち上げた。
「おっ、おっきくなったな? うんうん、やっぱり雄はこうじゃなきゃな」
 俺の下半身に気付いた慧が、楽しそうな声を上げる。彼女に見られること自体は別に初め
てでもないのだが、サキュバスとはいえ、女の子に自分の勃起している所を見られるという
ことになんとなく居心地の悪いものを感じて、俺は言葉を詰まらせた。
「うぅ……あんまり見んなよ。なんか恥ずかしいだろ」
「いいじゃんか。あたしは気にしないぜ? それにあるじがあたしで興奮してくれたっての
がわかって、嬉しいしさ」
 慧はそう言い、尻尾を振りながら顔を近づけ、キスをねだる。俺はそちらに首を傾け、要
求に応えてやると、彼女が唇を押し付けてきた。
「んむぅっ……!」
 むしゃぶりつくような激しい口付けに、思わず目を見開く。慧は構わず俺の口をこじ開け
ると、舌を伸ばし、口内を舐めまわした。
「んっ……ちゅ、ちゅぅ……、ぢゅ、れろ……れろ……」
 慧の熱い舌が俺の舌と絡み合う。口内を征服しようとする荒々しい口付けに俺の興奮も高
まり、いつの間にか俺の方からも彼女を貪るように舌を伸ばしていた。
 息を荒らげ、顔を染めながら、俺たちはお互いに唾液を交換し合う。
「んむぅ……っ! ぷぁ、あるじぃっ! もっと、もっとくれよぉ!」
 一旦口を離した慧が、目の端に涙を浮かべておねだりする。その言葉に応え、俺はさらに
激しく彼女の口を吸ってやった。
「んんぅっ!?」
 かすかに驚きつつも、嬉しそうな表情を浮かべる慧。キスの最中も彼女の翼腕は俺の身体
をがっしりと掴み、獣毛に覆われた手はズボンの上から俺の股間を撫で回し、さらに快感を
与えてくる。
 快感を味わいながら俺はちらりと視線を外し、彼女の胸を見る。爪骨のような乳当てと茶
色い毛に覆われているものの、その丸みを帯びたラインは紛れもない女性のものであった。
 時折身体に押し当てられ、形を変える胸に目を奪われていると、その様子に気付いた慧が
俺の手を取り、そこへと導く。
「えへへ……ちらちら見てんのよりも、こうした方がいいだろ?」
 その言葉と手に伝わる柔らかな感触に心臓の鼓動が早まるのを感じながら、俺はキスを続
ける。口付けをしながら、俺は慧の胸をつかんだ手をそっと動かし、優しく揉んでやった。
「……んぅっ! ん、ちゅ……ちゅぱ……」
 その瞬間、慧の身体が小さく跳ねた。俺の手が動くたびに、キスで口をふさがれ声を上げ
られない彼女は目をつぶり、身体を震わせながら互いの身体がもたらす快感を味わう。
 だが、やがてそれだけでは足りなくなった俺たちはどちらからともなく顔を離す。二人の
口の間には唾液が糸を引いて橋をかけ、切れる。その光景にお互い笑い合うと、口の端に付
いた涎をぬぐった。
「はぁ……っ。これはこれで気持ちいいんだけど……、なんだ、物足りないよな」
「だよな。それじゃ……最後までしようぜ。な、あるじぃ……。いいだろ? 今日もあたし
がいっぱい気持ちよくしてやるからさぁ……」
 そう言う慧は返事も待たず、俺の身体を床に押し倒していく。背に硬いフローリングの感
触を感じたのもつかの間、慧が俺に跨ってきた。
「それじゃ、邪魔な服はさっさと脱がすからな」
 楽しそうな表情で彼女は俺のシャツをはだけさせ、ズボンのベルトを外す。ズボンと共に
下着も下ろされ、既に大きくなっていた俺のものが外気に晒された。
「へへへ。もうこんなになってるのか。雄だもんな、雌の裸見たらこうなんのも当たり前か。
んじゃ、さっそく挿入れちまうね……」
 待ちきれないのは慧も同じようで、俺のものを目にした途端、肉欲の炎が瞳の中で一段と
大きくなる。彼女は指で自らの秘所を開くと、位置を合わせ俺の上に躊躇いもせず腰を落と
した。
「くふぅぅぅん!!」
 ほとんど一気に肉棒の根元までを埋めた慧の口から歓喜の叫びが迸る。俺もまた、一物が
彼女に呑み込まれ、竿が肉壁に擦れ包まれる感触に喘ぎ声を漏らした。
「はぁ……っ、どうだ? あたしの膣内、気持ちいい?」
「ああ、気持ちいい」
「だろ? えへ……あたしもさ、あるじのがいっぱいで気持ちいいよ。……じゃ、あるじの
ことも、もっと気持ちよくしてあげるからな?」
 俺の言葉に満足げな表情を浮かべると、慧は翼腕で俺の身体を抱いたまま、腰を動かし始
める。その動きはすぐに野生の獣のような荒々しく激しいものとなり、結合部からぐちゅぐ
ちゅという水音と共に飛沫が飛び散った。
「はっ「あぅ……っ! あぁん、んっ……きゅぅん!」
 嬌声を上げ、肌に汗を浮かべながら慧は腰を振り続ける。彼女が動くたびに俺のものはき
つく締め付けられ、搾られるような感覚が背に電気を流した。
「くぅ……ぁっ……、はっ、あぁ……っ!」
 彼女の責めに喘ぎながらも、俺はさらなる快感を得ようと下から突き上げるように腰を動
かす。肉同士がぶつかり合う音が激しさを増し、それと共に快感が倍増する。
「あっ、やあっ……はぁっ、あるじ、あるじっ、もっと、はっ、はげしくぅ……っ!」
 犬のようにだらしなく舌を垂らしたサキュバス姿の慧が、恍惚の表情でねだる。それに応
え、俺は渾身の力で肉棒を突き入れた。
「きゃうぅぅん!!」
 先端が子宮の入り口とぶつかるこれまで以上の快楽に、慧は思わず目をつぶって叫ぶ。そ
の快感に無意識のうちに反応したのか、彼女の膣内もいっそう強く俺のものに絡みつき、締
め付けてきた。
 俺は歯を食いしばって射精しそうになるのを堪え、何度も腰を打ち付ける。
「くぅぁぁ……っ!!」
 何度目かの突き入れに、慧が一際強く一物を締め付けた瞬間、ついに堪えきれなくなった
俺は呻くと共に彼女の中に精液をぶちまけた。肉棒がびくびくと震え、吐き出された液体が
慧の中を満たしていく。
「あ、わぅ、わぉぉぉぉぉん……っ!!」
 熱いものが体内に迸る感覚に、慧もまた身体を反らし嬌声を上げて絶頂する。慧の意思と
は関係なく、彼女の肉壁は俺の中から最後の一滴までも搾り取ろうと震え、蠢いた。
「はぁ……ぁ……」
 慧の口から、感極まったような響きを持つ音と、長い息が吐き出される。同時に彼女の身
体からは力が抜け、俺の上に倒れこむように覆いかぶさる。俺はそんな彼女の身体にそっと
腕を回してやった。
「ふぅぅ…………」
 事後の虚脱感を感じながらも、俺は慧の背をそっと撫でてやる。いまだに獣サキュバス姿
の彼女の背からは腕のようにもみえる羽が生えて、俺を抱きしめていた。
 ふと思いついてその付け根に指を這わすように動かすと、慧の身体が小さく跳ねた。
「ん……っ、ぁ……」
「ここ、気持ちいいのか?」
「ん。なんか、むずむずする」
 彼女の反応が面白くて何度も何度も執拗に羽をいじる俺に、慧はくすぐったそうにしなが
らも頷く。お返しとばかりに彼女は俺の胸に舌を這わせ、犬のように舐めまわした。ふかふ
かの手も同じく胸に置かれ、軽く爪を立てつつ表面を撫でる。
「くぅ……それはずりぃぞ……」
「へへっ。ごちゃごちゃ言うなって、あるじっ。いっぱいもらったお礼なんだからさ」
 グラウンドから響く生徒たちの声をどこか遠くのもののように聞きながら、俺と慧はしば
し抱き合ったまま、子どものようにじゃれあっていた。

――――――――――――――

 空き教室での行為から少し後。ようやく理性と落ち着きを取り戻した慧が俺を放してくれ
たので、俺たちは身支度を整えると特別棟の教室を出た。
 既に日はかなり傾いており、部活に入っていない生徒のほとんどは帰宅してしまったよう
だ。人気のなくなった校舎内には影と闇が濃くなっている。
「えへ……まだあるじの精液がおなかの中でたぷたぷいってるみたいだ」
 着なおしたシャツの上からそっと下腹部を撫でた慧が、幸せに満ちた笑みを浮かべる。そ
の表情はいつになく女の子らしかったが、セリフの内容は淫ら以外のなにものでもなかった。
「恥ずかしいからそーゆーこというな」
「いいじゃん、あたし、早く子ども孕ませてもらいたいし」
「孕ませ……ってあのなあ」
 彼女の言葉に、さっきの行為の当事者の一人である俺は顔を赤くする。幸い辺りに人影は
なく、そのセリフを聞いたのは彼女と俺以外には誰もいなかった。
「まったく、まだ俺たち学生なのに気が早すぎるだろ」
「そう? あたしは構わないけど?」
 全然気にした風にない彼女に、俺は溜息をつく。
「俺が構うんだよ。大体だな、人目もある廊下なんかでいきなり発情すんなよ慧。隠れるな
り証拠隠滅なりするにも限度があるし、下手したら学校にいられなくなるかもしれないんだ
からな」
 いつになくきつい調子で言う俺に、彼女がしょげる。
「わ、悪かったよ……けどさ、しょうがないだろ? あたし、雄の匂い嗅いだだけであそこ
が切なくなっちゃうんだよ。その上、お前の……あるじの匂いって、そこらの男なんかのと
比べ物にならないくらいすっごいんだぜ? たまんねえんだよぅ」
「頼むから自重してくれよ……」
「だ、だから教室では我慢してるだろ! で、でも放課後になって、『ああ、今日もあるじ
といっぱいヤれるんだな』って思ったらつい……」
「つい、じゃねーよ! ったく、毎回そんなじゃ『待て』とか出来るようになるまでみっち
りしつけるぞ慧!」
 思考も完全にサキュバス化している慧に頭を抱えた俺は、やけくそ気味に叫ぶ。
 だが、それをどういう意味にとったのか、彼女は嬉しそうに顔を輝かせ俺に顔を近づけた。
「え、何、あるじがあたしのことしつけしてくれんの!? やろうやろう! はやくはやく、
はやくしつけしてくれよぅ!」
「だからそういうこと言うのやめろっての……」
 シャツを掴み、頬を染めてはやくはやくと急かす慧に頭痛を感じた俺は盛大に溜息をつく
しかないのだった。

 サキュバス姿から人間の姿に化けた慧と連れだって、俺は校舎を出る。夕暮れ間近の時間
でもいまだ各部活動は精力的に活動中らしく、部員たちの声が辺りに響いている。
「おー。頑張ってるな」
「だなー」
 そんな彼らの姿に感心の声を上げつつ、俺と慧はグラウンド脇に並ぶ建物、部室棟の一角
にある女子陸上部の部室に向かう。最早俺にとっても通い慣れてしまったここは、元々は旧
校舎だった建物を各部の部室にするため再利用したものだとかで、部室棟といいつつ各室内
はそこそこの広さがある。
「遅くなっちまったなー」
「ああ。しかしお前女子陸上部のエースだろ。それが遅刻とかどうなんだよ」
「だいじょぶだいじょぶ。ほら、この間記録会が終わってさ。しばらく大きな大会もないし、
今は調整期間なんだ。だからここんところは練習って言っても、軽いメニューちょっとやっ
たら終わり」
「ふーん」
 そんな話をしながら廊下を歩いているうちに、いつの間にか俺と慧は女子陸上部と書かれ
た札が取り付けられた一室の前までやってきていた。
 彼女はそのドアに手をかけ、開ける。
「おーっす。遅くなってごめんなー」
 開かれたドアの向こう、慧の肩越しに見える部室内は壁際にロッカーが並び、部屋の隅に
はカラーコーンや筋トレ用の道具入れ、ゴミ箱、落書きまみれの足つき黒板などがごちゃご
ちゃと乱雑に置かれていた。多分、どの部も大体同じような散らかり具合なんだろう。窓を
締め切られた室内の埃っぽい空気には運動部独特のつんと鼻を突く汗のにおいが漂っており、
それが廊下に立つ俺のところにまで届いた。
「おっそーい! 慧、なにやってたのよー!」
「そうですよ! ほとんどの部員は練習終わって帰っちゃいましたよー」
 先に部室内に入った慧を、数人の女の子達の声が迎える。部員たちは皆、慧が来る前に今
日の練習を済ませてしまったらしく、ジャージではなく制服に着替え終わっていた。
「ごめんごめん。ちょっと野暮用でさ。で、なんであんたらは残ってるの?」
「何言ってるんですか! 戌井先輩を待ってたんですよ! ほら、生徒会からの連絡プリン
ト!」
 室内の女子の一人が声を上げる。俺たちの一つ下、一年生の少女は机の上に置かれた一枚
の紙を取り、慧に差し出した。慧はその紙を受け取ると、ざっと目を通す。
「あー、そういえば前に朝練でのグラウンド使用許可の書類配るから書いて提出とか言って
たな……。締め切りいつだったっけ?」
「もう、『締め切りいつだったっけ?』じゃないよー。三年生も引退して私たち二年が部の
中心になってるんだから、慧ちゃんもしっかりしてくれないと〜」
 真面目そうな顔をした同学年の部員の説教に、慧はばつの悪そうな顔を作る。紙を折って
ポケットにしまいこむと、髪を指先でいじりながら、ぺこりと頭を下げた。
「わかってるって。悪かったってば。でもま、悠樹連れてきたからさ。それで勘弁してよ」
 慧は話題を変えようと、廊下に立って彼女らのやり取りを聞いていた俺の手を掴み、室内
に連れ込もうとしてきた。
「おい、引っ張るなよ……」
 いきなりのことに彼女に抗議しようとするも、室内の少女たちの視線が一瞬で自分に向け
られたことに気付いた俺は、なんとなく口をつぐんでそちらに顔を向けた。
「わ、ほんとだ、御奈方先輩だ」
「さっすが慧! でかした!」
 部室内には俺と慧以外に、二年生が2人に一年生が1人、計3人の女子陸上部員が残って
いた。俺の姿を認めた彼女らは、その顔を輝かせる。
 そのうち二年生で真面目そうな子が、宮坂綾(みやさか・あや)さん。もう一人の二年生
で慧と同じくらい活発な印象の子が沖野麻里絵(おきの・まりえ)ちゃん。そしてポニーテ
ールをした一年生の子が稲尾鏡子(いなお・きょうこ)ちゃんだ。
 慧に連れられてここを訪れたり、練習を見学しているうちに部外者だった俺も室内にいる
3人をはじめ、女子陸上部のほとんどの部員とは良く知った仲になっている。そのため、女
の子達は俺を見ると笑顔を浮かべながら歓迎の言葉をかけてくれた。
「ねえ、折角きてくれたんだし、御奈方くんもそんな入り口に突っ立ってないで、中に入っ
てよ」
「あ、ああ。んじゃお邪魔するよ」
「遠慮しないでいいんだって。ほらほら」
 宮坂さんの声に、背後に回った沖野さんが俺の背を押す。促されるまま室内に入ると、椅
子から立ち上がった鏡子ちゃんがぺこりとお辞儀をした。
「こ、こんにちは先輩」
「あ、こんちは。鏡子ちゃんも大変だね。慧みたいなのが先輩だと」
「いえ。そんなことは……」
 たったそれだけの短い会話の間に、彼女は頬を染める。「どういう意味だよー」と背後で
騒ぐ慧を無視し、視線を外して宮坂さんや沖野さんを見ると、やはり彼女らも頬を赤らめ、
熱っぽい視線で俺を見つめていた。
 不意に聞こえた音に後ろを振り向くと、慧がドアを閉めていたところだった。彼女はその
まま鍵をかけ、ぼおっとした様子の部員達を見まわすと、得意げな笑みを浮かべる。
「な? 遅刻の埋め合わせとしては十分だろ?」
 慧の言葉にこくこくと頷く宮坂さんと鏡子ちゃん。だが、沖野さんだけは同意を示さず、
つかつかと慧に近寄ると、顔を近づけ彼女の匂いを嗅いだ。
「……」
「な、何?」
 一、二秒ほど鼻をひくひくさせていた沖野さんだったが、すぐに顔を離すとじと目で慧を
睨む。
「……慧。あんた、ここに来る前にご主人様とヤったでしょ」
「うっ!? ななな、何のことやらさっぱり……」
 ぎくりとして顔をこわばらせる慧。沖野さんの言葉に他の部員達もぴくりと反応した彼女
らは慧を睨みつけ、鋭い視線が冷や汗を垂らす少女を射抜いた。
「ちょっと慧ちゃん!? まさかご主人様とシてたから遅刻したの!?」
「先輩、抜け駆けですか!? ずるいです!」
 宮坂さんが信じられないと言った表情で慧を問い詰める。鏡子ちゃんも顔に羨ましそうな
色を浮かべ、口を開いた。
「ちちち、違うって。なんでもないって、抜け駆けとかじゃない、してないってば!」
 部員から口々に非難の言葉を浴びせられ、慧は必死で弁解する。
「何が『なんでもない』よ。身体からこんなに雄の……ご主人様の匂いさせてて、何も無い
はずないでしょうが」
「うぐ」
 だが沖野さんに言い逃れできない証拠を挙げられ、慧は言葉に詰まる。その間に俺の側ま
で来ていた宮坂さんが、微笑みながら尋ねてきた。 
「慧ちゃんはああ言ってますが、ご主人様、実際はどうだったんですか?」
「襲われました」
「あるじぃーっ!?」
 即答した俺の証言に、慧が悲痛な叫び声を上げる。
 いや、俺だって恋人を庇ってやりたいのはやまやまなんだが、宮坂さんの笑顔の裏にある
迫力が尋常じゃないんだよ。彼女普段は優しい分、怒らすと怖いし。
「へぇ……ご主人様を独り占めしてて遅刻とは、ずいぶんといい身分だな慧」
「ずるいですずるいです! わたしだってご主人様としたいのに!」
「いや、あの、な? ええと……くぅん……ごめん、悪かったってば……」
 なんとかこの場を切り抜けようと弁解をしていた慧だったが、3人から絶対零度の視線を
向けられるとうつむいて縮こまる。弱弱しく鼻を鳴らし、その口からは謝罪の言葉が出るだ
けだった。
 そんな彼女の姿を見てそれなりに溜飲は下がったのか、やがて部員達はふっと顔を緩める。
「やれやれ……。慧のそれはいつものことだし。ま、今回はこれくらいにしといてあげるか」
「ですね」
 笑顔を浮かべた部員たちに慧も安堵の息を吐き出し、身体の力を抜く。
「ほっ……。た、たすかった……」
 だが、そんな彼女に3人は再び鋭い視線を投げかける。宮坂さんはつかつかと慧の目の前
にやってくると、すっと指を彼女に突きつけ、釘をさした。
「『たすかった』じゃなーい! 慧ちゃんはもうちょっと自重すること! そうやってすぐ
ご主人様としようとするから毎回正体バレそうになるんだからね」
「はい、以後気をつけます……」
 宮坂さんの言葉にうなだれる慧。それを見て頷いた彼女は、次に俺の方を向き、指を突き
つける。
「ご主人様も! 恋人の慧ちゃんのことが好きなのはいいんですけど、あんまり甘やかしち
ゃダメですからね。なんだかんだ言って、ご主人様はいつも慧ちゃんのすること許しちゃう
んですから」
「はい……面目ないです」
 叱られしゅんとする俺と慧。
 そんな姿に溜息を吐き出した部員の少女達は、頬を真っ赤にすると先ほど以上に熱のこも
った視線で俺たちを見つめ、口を開いた。
「もう……それに二人とも、私たちをのけ者にするなんてあんまりだよ……。ご主人様のこ
とを好きなのは私たちだって同じなんだから……」
「そうそう、さっきからいい匂いぷんぷんさせてるんだもの。ずっとおあずけされてるよう
なもので待ちくたびれちゃったわ」
 彼女たちは口々に言いながら、ためらいも無く衣服を脱いでいく。衣擦れと服が床に落ち
る音が部室の中に響き、さらに少女たちの荒い呼吸音が混ざった。
「ご主人さまぁ……私、もう我慢、できないですぅ……」
 顔を蕩けさせ、淫らな光を宿した瞳を潤ませた鏡子ちゃんがそういった瞬間、彼女の姿が
変わる。
「ふぁぁ……っ」
 吐息と共に髪の間から獣の耳のような角が飛び出し、手足や胸を獣の毛が覆った。それは
他の二人も同様で、喘ぎ声と共に角が生えていく。
「はぁっ……これ、好きぃ……変身するの、気持ちいい、ですぅ……っ!」
「はふ……ふぁぁっ……すごい、やぁっ、すごいよぉ……!」
 変身のもたらす快楽をより味わおうと、少女達は胸を揉み、秘所に手を伸ばす。その間に、
腰からは手足と同じく獣毛に覆われた長い尻尾と、腕のようにも見える異形の羽が飛び出し
た。
 三人とも同じように身体を震わせながら、獣人の姿をした淫魔へとその姿を変えていく。
「あっ……ああっ……! や、やああああぁぁぁん……っ!!」
 やがて快感が絶頂に達した少女達は嬌声をおたけびとして轟かせ、顔を上げる。俺を見つ
める彼女たちの瞳は獣のような輝きを宿し、みな例外なく淫らに濡れていた。可愛らしいそ
の表情には、俺との行為への期待がありありと浮かんでいる。
「くぅ〜ん……ご主人さまぁ……」
「はぁっ……今日もいっぱい、してください……」
「わぅ……わたしも、ご主人様のほしいよぉ……」
 だらしなく口から舌をたらし、荒い呼吸をおさめようともせずに、サキュバスたちは主で
ある俺の下へとにじり寄ってくる。
「あー、その、みんなちょっと落ち着いて……」
 性欲の炎が燃える目に気圧され、思わず一歩後ずさった俺の背に、誰かがぶつかる。振り
向いた俺の目に、慧の楽しそうな表情が映った。
「ほら、あるじ。みんなあるじとヤリたくて我慢できないみたいだしさ、早く抱いてあげな
よ」
 いつの間にか少女たちと同じように獣サキュバスの姿になっていた慧が背後から俺に抱き
つき、耳元で囁く。
「ね? それにほら、確かにあたしばっかりが楽しんじゃって、みんなに悪かったからさ」
 そう言い、慧はぺろりと舌を出す。いつもは荒っぽく、大雑把な性格が目立つ慧だが、や
はり自分だけ楽しんでしまったことには負い目を感じているらしい。
 彼女はしゃべりながらも、自分以外の三人のサキュバスがしやすいように、後ろから手際
よく俺の服を脱がせていく。
「きゅううぅん、ご主人様ぁ」
 シャツが剥ぎ取られ、俺の身体があらわになると、サキュバスとなった少女達はすぐさま
抱きつき、胸やおなか、太ももを擦りつけてくる。彼女たちの翼腕は、背後から抱きつく慧
の腕と同様に俺をがっちりと抱きとめ、決して離すまいとしていた。腰から生える尻尾は少
女たちの興奮を表し、激しく左右に振られる。
「やっぱりご主人様の身体、素敵……」
「く……、あ……っ」
 うっとりと呟きながら、サキュバスの一人が俺の身体に手を伸ばす。女の子らしい柔らか
で滑らかな肌が擦れ、ふかふかの毛に包まれた手が肌を撫で回す感触に俺は思わず声を漏ら
した。
「あはっ、ご主人様、気持ちよかった?」
 沖野さんがいたずらっぽい笑みを浮かべ、俺の胸に置いた手を動かす。彼女が軽く爪を立
てると、皮膚が引っかかれる感触に思わず俺の身体が跳ねる。宮坂さんと鏡子ちゃんもそれ
に負けじと、いっそう身体を密着させてきた。
 自分のことを慕ってくれる彼女たちの姿に愛しさがこみ上げた俺は、腕を少女達の背に回
してやる。それに淫魔達は幸せそうな顔を浮かべ、目を細めた。
 正面の鏡子ちゃんにキスしてやると、彼女も嬉しそうに唇を押し付け、舌を絡めてくる。
「あっ……いいな……」
 羨ましそうに声をあげ、切なげな瞳を向ける二人に苦笑すると、俺は彼女らの背に回した
手を動かし、羽と尻尾の付け根をいじってやった。
「ふあっ……やっ! ぁう、きゅぅぅん……、あん、ご主人さまぁ、もっと……」
 震えながら、宮坂さんと沖野さんはさらに快感が欲しいとねだる。熱く荒い息が俺の肌に
かかり、間近にある少女たちの朱に染まった顔が俺の興奮を否が応にも高めた。
「あっ、ずるいよぉ……。あるじ、あたしにもぉ!」
 快楽を味わう少女たちの顔を見た慧が、不満げな声を上げる。今回は美味しいところを部
員たちに譲るつもりだったようだが、彼女たちの気持ちよさそうな声を聞いてどうやら我慢
できなくなってきてしまったらしい。
「だめだよぉ……慧はさっきいっぱいしてもらったんだろぉ……」
「そうですよ……、今度は、私達の番ですもの……」
 宮坂さんたちは切なげな顔をする慧に勝ち誇りながら、俺をそっと床に押し倒していく。
 傾きだした俺の体に慧が背から離れ、座る。慧は膝枕をするように俺の頭を足に乗せ、完
全に俺が仰向けになると、宮坂さんが俺の上に跨った。沖野さんと鏡子ちゃんは添い寝をす
るように俺の横に寝転ぶと、腕を伸ばして俺を抱きしめる。
「んっ……ご主人様、気持ちいいですか?」
 豊かな胸を押し付け、二人は俺に尋ねる。身体を揺らすたびに少女たちの胸のふくらみは
ゴムまりのように形を変え、俺の肌と擦れた。
「うん、やわらかくて……すごく気持ちいいよ」
「えへ、よかった。それじゃ、いっぱい気持ちよくなってよね」
「あ……っ、わ、わたしだって頑張りますから!」
 俺の言葉に二人はさらに身体を押し付け、肌を擦り合わせてくる。太ももに鏡子ちゃんの
股間が当たり、ズボンの生地越しにかすかに湿った感触が肌に伝わった。
「ふふ、ご主人様、こういうのはどう?」
 彼女と反対側に抱きついた沖野さんは、俺の手を取ると胸の谷間に挟みこむ。彼女は自ら
の手を乳房にあて、挟みこんだ腕を胸の肉でぐにぐにと揉みながら俺の指を咥え、舌を這わ
せた。胸を覆う毛皮が柔らかく俺の手を包み込み、興奮に高まる少女の鼓動が伝わる。
「んふぅ……、んちゅ……ちゅ……れろ……」
 沖野さんの熱い口内で、指が舌と絡み合う。俺の指を舐め、しゃぶりながら少女が見せる
妖しい微笑には、普段の明るく元気な彼女からは想像できない淫靡な気配が漂っていた。
「ご主人様ぁ……。私……、ん……っ、もう我慢、できそうにありません……。ご主人様の、
あふっ……いれても……いいですか……」
 鏡子ちゃんと沖野さんの行為に既に硬く大きくなっていた物を見つめ、俺の太ももに股間
を擦り付けていた宮坂さんが、真っ赤な顔で懇願する。
「ああ、ごめんね、我慢させちゃって。いいよ、宮坂さんの好きなようにして」
「はい……、あ……っ、きゅぅん……っ、ご主人様、ありがとうございますぅ……」
 宮坂さんは俺の言葉に顔を嬉しそうに緩めると、肉棒に片手を添え、もう一方で愛液を垂
らす割れ目を開き、一物をあてがう。
「んぅ……っ!」
 そのまま一気に腰を沈め、完全に俺のものを奥まで埋める。口からは長い息を吐き出し、
じっと動きを止めて膣内の肉棒の感触を味わっていたのもつかの間、彼女は腰を上げてそれ
を引き抜きだす。
「く……、うぁ……っ!」
 彼女の中で俺のものが肉壁と擦れ、身体を快感が突き抜ける。サキュバス姿の宮坂さんも
それは同じなのか、目をつぶり口から声が漏れるのを押し留めながら、肉棒を自分から抜け
る寸前まで引き抜いていく。
 そして、直後に再び腰を沈め、肉棒を自らの奥まで導く。彼女の膣内の肉はまるで意思を
持っているかのように俺のものに絡みつき、強烈な快楽をもたらした。
 次第に激しさを増す彼女の動きに、俺の身体も大きく揺らされる。その振動に抱きつくサ
キュバスたちも身体を震わせ、快感を感じているようだった。
「んっ、きゃん……あるじが動くと、あたしも……っ、あっ、気持ちいいよ……っ!」
 俺の頭を足に乗せている慧が叫ぶ。既に俺の頭があるのは彼女の太ももではなくその付け
根、股間の部分だった。慧は俺の胸に手を伸ばし、しっかりと抱きしめて頭を自分に密着さ
せる。どうやら俺の身体が動くたびに、敏感な場所にまで振動が伝わるらしい。
「あっ、あ……っ、やっ、んんっ、ふぁ……っ、あぁん!」
 俺に馬乗りになった宮坂さんは、夢中で腰を上下させ続ける。激しい動きに髪が乱れ、汗
が飛び散った。彼女の目は完全に性交の快楽に溺れ、短く息を吐き出し続ける口の端からは
だらしなく涎が垂れている。
 慧や沖野さん、鏡子ちゃんはそんな彼女を羨ましそうに見ながら、俺に身体を密着させる。
抱きつく少女達は自分からも動いて肌を擦りつけ、少しでも快感を得ようとしていた。
「うあ……! く……、すごい……、みんな、気持ち、いいよ……っ!」
 サキュバスたちに抱きつかれる快感を得ながら、俺も腰を振って宮坂さんに打ち付ける。
そのたびに彼女の身体が跳ね、嬌声が上がった。
 やがて肉棒が彼女の中でぴくぴくと動き、俺は限界が近づいたことを悟る。
「あっ、きゃふ……っ! あぁ……ごしゅじんさま、イきそう、ですか……っ? あっ、私
も、もう……、イきそ……ですぅ……っ!」
 繋がった彼女にもそれは分かったようで、微笑むと一気にスパートをかけてきた。
「うく……っ、う、あ……ああああああああっ!!」
 腰が落とされたときに彼女の肉が一物を一際締め付けてきたのがとどめとなり、俺は限界
に達する。肉棒は少女の中に包まれたまま、その奥に大量の精液を吐き出した。
「や、あっ、あぁぁぁぁぁぁぁん!!」
 迸る精液を受け、宮坂さんも達したらしく、口から歓喜の叫びを上げるとその背を反らす。
「ん……ふぁ……きゅぅん……」
 達したせいで敏感になっているのか、彼女は身体を離す際に肌が触れただけでも身体を震
えさせる。肉棒が秘所から引き抜かれると同時に、白い液が彼女の割れ目からどろりと漏れ
た。
「ああ……ん。ごしゅじん、さまの……せいえき、でちゃうよぉ……。ふぁ、ごしゅじんさ
まぁ……すごかった、ですぅ……。あぁ……っ、ありがとう、ございますぅ……」
 快感の残滓に尻尾と羽を振り、いまだ火照ったままの顔で俺を見つめながらサキュバス姿
の宮坂さんは言う。真っ赤な顔と潤んだ瞳、獣のような身体に汗を浮かべた彼女の姿はいつ
もの真面目そうな雰囲気とはまるで違っていたが、とても魅力的だった。
「あぁん、ご主人様ぁ……、つぎ、次は私にぃ……」
 宮坂さんが俺の上からどくと、尻尾を振りながら蕩けた顔で鏡子ちゃんがねだる。
「あっ! ずるいぞ稲尾!」
「あるじ、あたしも! あたしにもちょうだいよぉ!」
「ほらほら、喧嘩すんなよ」
 声をあげ、いれたいいれたいと騒ぐ沖野さんと慧をなだめ、鏡子ちゃんに頷いてやる。彼
女は寝転がる俺の上に嬉しそうに腰をおろし、射精後もいまだ硬さを失わない肉棒を自らの
秘所にためらい無く差し込んだ。
「ふああぁぁん!」
 快感に叫び、涙を零しながらも鏡子ちゃんは根元までそれを呑みこむ。彼女はほとんど間
をおかずに腰を動かし始め、その振動に俺に身体を擦り付けるサキュバスたちも身を震わせ
た。
 こうして、陽が暮れ闇が辺りを覆いだした後も、しばらくの間、部室の中では獣たちの狂
宴が繰り広げられることとなった。

――――――――――――――

「ただいま〜」
 夜麻里家の玄関ドアを開け、俺は帰宅の言葉を口にする。家庭の事情で母方の家に居候さ
せてもらっている身とはいえ、やっぱり自宅は自宅。どこにでもあるようなごく普通の玄関
の光景であっても、学校や他の家とは違う安心感が漂ってくる。
「おかえりなさ〜い!」
 俺の声に、家の奥から妹、理梨の声が応える。リビングから飛び出してきた理梨は、勢い
よく俺に抱きつくと胸に顔を埋め、頬ずりする。先に帰宅していた彼女の服は既に制服では
なく、肌が透けるほど薄い布地のキャミソール一枚であった。頭にはくるりと丸まった一対
の角が生え、尖った耳が左右に張り出している。その背からは皮膜の羽と、ハート型の先端
を持つ尻尾もある。その姿はまさに、悪魔の女の子とでもいうものだった。
 彼女の格好から分かるように、俺の実の妹である夜麻里理梨(よまり・りり)という少女
もその正体は淫魔である。理梨も慧や女子陸上部の子たちと同じく、サキュバスに変えられ
てしまった女の子の一人なのだ。
「っと、ほら理梨。離れてくれないと俺上がれないだろ」
「いや〜」
「あのな」
 妹の身体を押しのけようとするも、彼女は離されまいとさらに力を込めて抱きついてくる。
その力は少女のものではなく、俺は全力で妹を引き離そうとしなければならなかった。とて
も高校生には見えないような幼い姿であっても、魔物と化した理梨の力を振りほどくのは腕
力にはそこそこ自信のある俺でさえ苦労するのだ。
「あははっ! 相変わらずお前のとこ、兄妹の仲いいのな!」
 抱きつく妹を引き剥がそうと激しい攻防を繰り広げる俺の背に、笑い声がかかる。俺はそ
ちらに目を向けると、先ほどから楽しそうに俺たちを観察していた少女に文句を返した。
「うるっさいな! 慧、お前も見てないで手を貸してくれよ!」
「え? 慧お姉ちゃん来てるの?」
 俺の口から出た名前に反応し、抱きついていた理梨は顔をずらし、俺の背後を見る。
「あ、ほんとだ。いらっしゃい、慧お姉ちゃん」
「おっす、妹ちゃん」
 壁にもたれてニヤニヤしながら自分達を見つめている慧に気付くと、理梨はにこりと笑顔
を浮かべた。それに慧は片手を軽く上げて応える。
「ほらほら理梨! 慧も来てるし、遅くなっちまったから急いで夕飯も作らないといけない
し! な、いい子だから離れろって! 慧! お前も飯たかりに来たんならなんか言え!」
 知り合いとはいえ人目を気にせず抱きつく理梨と、すっかり傍観を決め込んでいる慧。そ
の両方に向けて俺は叫ぶ。
 だが、それは無意味な行為でしかなかった。
「ん〜、妹ちゃん幸せそうだし別にいいじゃん? それに兄と妹のスキンシップを邪魔すん
のって、なんか野暮だし」
「さすが慧お姉ちゃん! 話が分かる〜!」
 分かってはいたが、欠片も味方をする気の無い慧の言葉に、俺はがくりと首を折る。学年
も性格もまるっきり違うこの二人だが、慧と妹は何故か最初に会った時に一瞬で打ち解けて
以来、やたらと仲がいいのだ。
「くっそぅ……お前、他の女子には『あたしの悠樹にくっつくんじゃねーよ!』とかいうく
せに……」
「何を今更。妹ちゃんだけは例外なんだってのは、悠樹も知ってるだろ」
 そう。慧は妹と仲がいいせいか、(女子陸上部のサキュバスたち以外の)女の子が俺に近
づいてくるとすぐ怒るくせに、何故か理梨にだけは甘いのである。
「ん〜、でもあれだな。こうやって見てるのも面白いけど、やっぱりそれだけじゃ物足りな
いかな」
 しばし押し合いを続ける俺たちを見ていた慧は、ぽつりと漏らす。それに俺が反応するよ
りも早く、彼女が背後から抱きついてきた。いつの間に変身していたのか、獣の毛に包まれ
た手が俺の胸に回される。
「うん、やっぱこの方がいいや。えへへ、あるじの背中〜」
 うっとりとした声を出しながら、慧も俺の背に頬ずりする。嬉しそうにゆれる尻尾の音が
耳に届き、俺は服越しに彼女の胸が押し付けられるのを感じた。
「ね、こうしてくっついてるだけで気持ちいいよね〜」
「きゅぅん。だな〜」
 慧は理梨の言葉に同意するかのように鼻を鳴らし、翼腕でさらに俺と身体を密着させる。
「はぁ……誰か、助けてくれ……」
 玄関で二人のサキュバスに抱きつかれ、身動きの取れなくなった俺は天を仰いで嘆息する
のだった。



「ごちそうさまー! あぁ、食った食ったぁ〜」
「ごちそうさまでした〜」
 3人での食事を終えた慧が、お腹をさすりながら立ち上がる。それに続いて理梨も立ち上
がり、空の食器を流しに置いた。さっさとリビングに向かった慧を追いかける途中で、妹は
食卓の片づけを始めた俺に向かって言う。
「おにいちゃん、今日もありがとう。とっても美味しかったよ」
「いえいえ、おそまつさまでした。お〜い慧、せめて食器を流しに持ってくくらいの手伝い
はしろよ〜」
 俺は理梨に言葉を返し、リビングのソファーに寝転がりながらテレビを見てくつろいでい
る犬サキュバスの慧に文句を言ってやる。だが彼女はそれに尻尾を一度振ったきりで、すぐ
に注意をテレビの方に戻してしまった。
「ったく。仕方ねーな」
 俺は溜息をつくと、自分と慧の分の食器を重ね、流しに向かう。
「おにいちゃん、手伝おうか?」
「いや、いいよ。とりあえず水につけておくだけだし。先にリビング行ってあのわんこの相
手してやってくれ」
「はーい」
 こちらを気遣い声をかける妹にそう言うと、理梨はリビングへとかけていく。
俺は手に持った食器を流しに置いたたらいの水につけ、残ったおかずにラップをかけて冷蔵
庫へと閉まった。
「ふむ、あとは……テーブルくらい拭いておくか」
 呟くと俺はふきんを手に取り、食卓の上をさっと拭く。拭き終わった布は水道の水で洗っ
て絞り、流しの縁にかけておく。とりあえずの片付けはこれくらいで、皿を洗うのは後でも
いいだろう。
「よし、まあこんなもんでいいか」
 軽く食卓を見回し頷くと、俺も少女達がいるリビングへ向かうことにした。
「おつかれさまー」
「おつー」
 リビングに入ると、寝転がった慧とその脇に座る理梨の声が俺を迎えた。ここが実家であ
る理梨はともかく、慧のくつろぎようはまるで自宅でするようなまるっきり自然なもので、
思わず苦笑が漏れる。
「やれやれ」
「ん? なんだよ?」
「なんでもねーよ」
「ふーん」
 俺の笑い声に首を向けた慧だったが、そう言うと再びテレビの方に顔を戻す。俺も彼女た
ちの視線の先に目を向けると、理梨お気に入りの動物番組をやっていた。ちょうどスタジオ
から画面が切り替わり、可愛らしい熊の子供が大きく映る。
「わ、くまだ。可愛い〜」
 サキュバス姿の理梨が歓声を上げ、羽を動かす。ぬいぐるみだらけの彼女の部屋を見れば
分かるが、俺の妹はこれくらいの女の子が皆そうであるように、可愛いものが大好きなので
ある。
「いいな〜子熊。飼えるなら飼いたいな〜」
 理梨がそんなことを言う。
「おいおい、気持ちは分かるが可愛いのは子どものうちだけだぞ。せめてぬいぐるみで我慢
してくれよ」
「分かってるってば。言ってみただけだよ〜」
 思わず突っ込む俺に、理梨が頬を膨らます。確かに、画面に映された小さな子熊があちこ
ち歩き回る姿には男の俺でも愛らしいものを感じるし、もちろん言ってみただけというのも
分かっているのだが、妹の場合は時々冗談に聞こえないのが怖い。
「そりゃよかった。起きたら家の中に熊とか勘弁して欲しいしな。なぁ、慧?」
「……」
「慧?」
 返事が無いのを訝り、彼女の方に目を向ける。俺の視線の先にはサキュバス姿のままソフ
ァーに寝転がり、画面に映る動物たちを先ほどからじっと見つめている慧の姿があった。一
言もしゃべらずテレビに集中する慧の代わりに、彼女の腰から生えた尻尾だけがぱたぱたと
音を立てている。
「あ〜。そういえば慧ってそういう可愛いのが好きだったっけ」
 彼女の様子を見た俺は思わず呟く。そう、いつもはがさつな慧もまた女の子の例に漏れず、
実は動物と可愛いものが好きなのである。人前ではそういうそぶりをほとんど見せないせい
で、そんな彼女の好みを知っている人物は俺を含めても数えるほどしかいなかったが。
「女の子だもん。可愛いのが好きなのは普通だよ〜」
「ん〜。まあ別にとやかく言うつもりも無いけどな」
 画面に釘付けの慧をよそに、俺と理梨が言う。
「……ん? 悠樹、どうかした?」
 番組が終わると、ようやく自分を見つめる俺の視線に気付いた慧が不思議そうな顔で尋ね
る。それがなんだかおかしくて噴出しそうになるのを堪え、俺は首を振った。
「いや、なんでも」
「ふ〜ん。あ、ほら、お前もずっと立ってないでさ、こっち来て座れよ〜」
「はいはい」
 起き上がった慧はばしばしとソファーを叩き、自分の脇に座るよう勧める。彼女に従って
俺もソファーに腰を下ろすと、初めから狙っていたような動きで慧と理梨が両脇を固めた。
「えへへ」
「うふふ〜」
 二人のサキュバスはにこにこと笑顔を浮かべながら身を寄せ、俺の身体にもたれかかって
くる。どこか媚びるような彼女たちの態度にピンと来た俺は、目を閉じて一つ息を吐き出し
た。
「……で? 何がご希望なんだ?」
 俺の声に顔を見合わせた二人は、頬を染めると耳元で囁く。
「おにいちゃん、あの、ね?」
「あたしたちそろそろデザートが欲しいな〜ってさ」
 慧の言葉に、二人はそろって俺の股間に視線を落とす。ああ、やはりかという思いと共に、
俺は二人の顔を見やった。そこには明らかに発情した少女の表情がある。
 特に慧に関しては、部室であまり構ってやれなかったのでまあこんなことになるだろうと
は家に連れてきた時の表情から薄々覚悟はしていた。理梨も、発情した慧を見ているうちに
気持ちが高まってしまったのだろう。赤らめた顔に淫らな色を浮かべ、俺のことを上目遣い
に見つめてくる。
 半ば諦めの境地に達しつつ、一応俺は言ってみる。
「だめ、って言っても……するだろうな、お前ら」
「うん」
「即答かよ。せめてもうちょっと誤魔化すとかしろよ!」
「まあまあ、細かいことはいいじゃんか」
「ね。おにいちゃんも気持ちよくしてあげるから〜」
 突っ込みを受け流し、慧と理梨は俺の足元にしゃがみこむ。二人の身体から生える羽と尻
尾が内心の期待を反映して動き、顔にはいたずらっぽくも淫らな笑みが浮かんだ。
「それじゃ、さっそくあるじのをいただくな」
 ベルトを緩め、ズボンのチャックをあけて下着の中から俺のモノを取り出した二人は、そ
れに手で優しく触れる。慧の獣の手と、理梨の小さく可愛らしい手という全く違った感触を
与えられた肉棒はあっという間に大きくなった。
「わ、おっきくなった」
「へへ、流石はあるじだな」
 輝かせたままの顔を俺の股間に近づけると、慧は大きく息を吸い込む。
「ん……っ、はぁ。この匂い、たまんねぇ……」
 匂いを嗅いだだけで、まるで酒に酔ったかのように慧の顔が朱に染まった。彼女は顔をさ
らに近づけると、舌を伸ばして竿を舐める。
「く……っ」
 不意打ち気味に襲った熱い舌の感触に、思わず俺は顔を歪め声を出してしまう。
「あはっ、気持ちよかったんだな? もっとしてやるよ」
「あっ、慧お姉ちゃん、わたしも! おにいちゃんのぺろぺろしてあげる!」
 その様子を見て取った慧と理梨は共に股間に顔を埋めると、すぐさま舌での愛撫を始めた。
「んっ……ちゅ、ぴちゃ……ぷぁ……」
「えへ……んちゅ、ぺろ、ぺろ……」
 だらしなく顔を緩め、慧と理梨は俺のものにキスをし、舌を這わせ、唾液をまとわりつか
せてくる。愛しい2人のサキュバスが行う奉仕に俺の興奮も高まり、肉棒はさらに硬さを増
し、先端からは液が滲み出す。
「あはっ、あるじの液がでてきたぁ……あっ、ちゅ……ぺろ……、んふぅ、おいふぃ……」
「れろ、れろ……あっ、わたしもなめたいよぅ……ちゅ、んちゅ……」
 可愛らしい顔を唾液と先走りの液でどろどろに汚しながら、二人は夢中で舌を動かす。既
に瞳からは理性の光は消え去り、興奮に羽と尻尾が激しく振られていた。
 慧と理梨の口と舌での奉仕は、ひたすら俺に強烈な快感を与え続けてくる。腰に力を入れ
て何とか堪えようとするも、俺の弱点を知り尽くした二人の執拗な攻めに俺はあっという間
に達しそうになってしまう。
「ぐぅ……二人とも、わりぃ……おれ、いっちまうかも……」
 ビクビクと小刻みに震え始めた肉棒の感触に、彼女たちは楽しそうに細めた目を輝かせ、
さらに舌を激しく動かす。加えて伸ばされた手が俺の腰や太もも、袋をなで快感を高めよう
としてきた。
「ぺろ……、ん……っいいよ、あるじ、好きなときにイってくれよ」
「そうだよ、ちゅ、おにいちゃん。ちゅぱ……我慢なんてしないでいいから、いっぱいだし
てね」
 彼女たちがそういった直後、慧が鈴口を、理梨が竿の根元を強く吸い上げると、俺は限界
を迎えた。
「うあああああぁぁ……っ!」
「きゃ、あぁぁぁぁん! あつぃよぉ!」
「きゃふぅぅん! あるじのが、いっぱいぃ!」
 悲鳴のような叫び声と共に、俺のものから精液が噴出す。熱い液体は慧と理梨の顔に降り
注ぎ、その可愛らしい顔を白く淫靡に汚した。
「はぁ、はぁ……」
 俺は脱力感を感じながらも、荒い呼吸をなんとか落ち着かせる。
「あはぁ……おにいちゃんのが、こんなに……ちゅぱ……」
「くぅん……あるじの、濃くておいしい……」
 視線をしゃがんだままのサキュバスたちに向けると、慧と理梨は自らの顔を汚した精液を
指でぬぐい、舐め取っていた。その妖しく淫らな姿に、思わず心臓の鼓動が早くなる。
 やがて掛かった精液を綺麗に舐め取った二人は、ソファーに座りなおすと俺にしなだれか
かる。
「ね、おにいちゃん……わたし、まだ足りないよぉ……」
「あるじぃ……この先も、しようよぉ……」
 まだ情欲の炎を灯した目で間近から見つめ、二人はそれぞれ俺の耳元で囁く。彼女たちは
返事も聞かずに体重をかけて俺の身体を押し倒し、抱きついてきた。柔らかな獣の毛に包ま
れた慧の胸と、未成熟な理梨の胸が左右から俺に押し付けられる。
「……せめて加減はしてくれよ……」
 逃げられないことを悟った俺は、無駄なこととは知りつつそう頼む。
「まかせろあるじ! いっぱい気持ちよくしてやるから!」
「それじゃあ、おにいちゃん、するね……?」
 まったく安心できないセリフを発するが早いか、慧が俺の身体を撫で回し、理梨が跨る。
かすかに身体と命の心配をしながら、俺はただ彼女たちに身を任せるのだった。



 慧と理梨との交わりから数時間後。ようやく体力が回復してきた俺は、ベッド代わりに寝
ていたソファーからむくりと身を起こす。
「俺って時々すげーな……」
 まだ多少二人との行為による気だるさが残っているものの、体はずいぶんマシになってき
た感がある。そんな自分の体力と精力に呆れと感心を感じつつ、俺は風呂場に行くと軽くシ
ャワーを浴び、身体を清めた。
「ふぅ……さっぱりした。と、もうこんな時間か」
 着替えを済ませ、リビングに戻ってきた俺が壁の時計を見上げると、既に時刻はかなり遅
くなっていた。クッションの上に座る理梨も、そのまぶたが眠そうに下がりだし、表情もぼ
んやりとしてきている。
「理梨、明日も学校だし眠いならもう寝とけ」
「うん……そうする。おやすみ、おにいちゃん……」
 俺の言葉に頷くと、理梨はのろのろと2階の自室に向かう。それと入れ替わるように、食
堂から慧が姿を現した。
「あ、悠樹起きたんだ。あれ? 妹ちゃんは?」 
 手にジュースの入ったコップを持った慧は、俺の姿を見つけると問いかける。
「眠そうだったから寝かせた。てか慧、お前は疲れてないのか?」
「うん、別に」
 俺に平然と返す彼女に、思わず感心の言葉を漏らす。
「さすが運動部。体力は半端じゃねえな」
「まーね」
 俺の言葉に少しだけ誇らしげな返事を返し、慧は手に持ったジュースを飲み干すと少し考
え込む。
「……う〜ん、かなり遅くなっちまったし、妹ちゃん寝ちゃったならあたしも帰っかな」
「ありゃ、意外だな。てっきり『泊まらせろー』とか言うと思ってた」
 俺がそういうと、慧は苦笑の中に少しだけ残念そうな表情を浮かべる。彼女は空になった
コップをテーブルの上に置き、溜息と共に言った。
「いや、本音言うと泊まっていきたいけど。昼間、部室で宮坂に『自重しろ』って言われた
ばかりだからさ。流石にまた怒らせるとまずいだろうし」
「あ〜、確かにな」
 部室での一件を思い出し、俺は頷く。まあ、俺としても今日はいつも以上にヤってしまっ
たし、体力的な面を考えるとゆっくり休みたいので、慧の申し出はありがたかった。泊まっ
たら絶対寝る前に一回はヤることになっただろうし。
 内心かすかな安堵の息をつく俺に、ためらいがちに慧が切り出す。
「あのさ……その代わりといっちゃなんだけど、途中まででもいいから送っていってくれな
いか?」
「ああ、いいよ」
 夜は遅いといっても、サキュバスのことを襲えるようなヤツがいるとは思えないが、逆に
慧に襲われる人がいやしないか心配であるって事とは関係無しに、俺は即そのお願いを了承
する。
 恥ずかしいのであまり認めたくは無かったが、それはなんだかんだいいつつ恋人の慧と離
れることに一抹の寂しさを感じていた自分にとっても願ってもないことだったのだ。
「じゃ、じゃあすぐ荷物まとめっから!」
 俺が送っていくことが決まり、嬉しそうな笑顔を浮かべた慧は、いそいそと帰り支度を始
める。俺も上着を取りに二階へと向かい、外出の準備を整えるのだった。



「待たせたな、悠樹、悪い」
 上着を羽織り、玄関先に出ていた俺に慧の声がかかる。寄りかかっていた壁から背を離し
てそちらに目を向けると、服の入ったバッグを小脇に抱え持った慧が俺のところへと駆け寄
ってくる姿が見えた。
「あのな、お前外に出るときは人間に化けとけとあれほど……」
 先ほどの行為時から全く変わらない獣サキュバスのままの慧の姿を見、俺は呆れの声を出
す。それに彼女は全く構うこともなく、言葉を返した。
「だーいじょうぶだって、夜も遅いし、こんな時間に出歩いてるのはあたしたちくらいのも
んだよ」
「ったく、知らねえぞ。んじゃ、行くか」
「ああっ、あるじ、ちょっとまって!」
 歩き出した俺の背に、慧が慌てて声をかける。何事かと思って振り返ると、彼女は尻尾を
振りながら自分の首輪に紐をつけているところだった。首輪の金具に紐の一方が音を立てて
くっつくと、慧はリードを俺に向かって差し出す。
「……意味が分からんのだが。何それ」
 戸惑いつつもそれだけをなんとか言うと、慧はさも当然といった調子の声を出す。
「何って、お散歩用のひもだけど」
「いやいやいや。慧、それは流石にないだろ」
 痛む頭を抑えながら、俺は突き出した手を振る。いや、確かに慧のサキュバス姿は犬っぽ
いけど。お散歩、じゃないだろう。百歩譲ってサキュバス姿のまま外に出るのは認めたとし
ても、女の子に首輪つけて紐で繋いで歩くというのは無い。俺の趣味としてもそれは無い。
 というか、どう考えても間違いなく俺が捕まるじゃないか。
「だめか?」
 俺が乗り気でないことに彼女は悲しげに鼻を鳴らし、かすかに涙を浮かべて潤んだ瞳でこ
ちらを見つめる。くそ、なんだってこいつはこういうときに限ってそういう捨てられた子犬
みたいな目をするんだ。
「あ〜……、もう! わかったよ! これでいいんだろ!」
 罪悪感に耐え切れなくなった俺は、やけくそ気味に叫ぶと彼女の手からリードを受け取る。
「えへへっ、やった、お散歩おさんぽ〜」
 それに嬉しそうに笑顔を浮かべ、尻尾を振る獣サキュバスと共に家を出る。途中何度も
「おさんぽ」スタイルをやめてくれるように頼んでみたが効果は無く、結局羞恥プレイでし
かないような状態のまま、慧の家まで行くことになったのだった。
 嬉しそうな慧とは対照的に、誰かに見つからないかと緊張しっぱなしだった俺の寿命が縮
んだのは多分間違いないだろう。

「ただいま〜……っと」
 慧を家まで送り、再び夜麻里家へと戻ってきた俺はそっと玄関の戸を開ける。靴を脱ぎ、
鍵を閉めて家に上がっても俺の立てる足音以外の音は無かった。どうやら理梨はちゃんと寝
ているようだ。
「たまに俺を待ってたりするからな、あいつ」
 兄依存症気味な妹のことをちらりと頭に浮かべ、小さな明かりだけが点いたリビングを覗
き込む。薄暗い部屋の中にはソファーやテーブルの影がぼんやりと浮かぶだけで、人の姿は
なく、静かな闇が満ちていた。
「さて、俺も寝るかな」
 独り言を呟くとリビングの電気を完全に消し、歯磨きを済ませて俺も階上の自室へと向か
う。
 妹を起こさないようにそっと廊下を歩き、自室のドアの前までやってきた俺はドアノブか
ら下げられた小さなビニール袋に気付いた。
「?」
 不思議に思いつつもそれを手に取り、室内に入る。電気をつけてベッドに腰掛け、中身を
取り出すと小さな茶色のガラス瓶が数本転がり出た。ラベルこそ見慣れないものの、その形
や液体の色から察すると、どうやら中身は栄養ドリンクらしい。
「ん、紙も入ってるな。なになに」
 ドリンクと一緒に入っていた紙を見つけた俺は、手にとって開く。そこには見慣れた妹の
字で「おにいちゃん、おつかれさま。これで元気になって、慧お姉ちゃんとがんばってね」
と書いてあった。おそらくさっきの交わりで疲れた俺を見た理梨の差し入れなんだろう。微
妙に文面が気になるが、まあありがたく頂いておくとしよう。
 瓶を机の上に置き、俺は明日の用意をする。なんとか明日使う教科書とノートを鞄につめ
たところで、俺の意識は限界を迎えた。
「あ〜……これ以上はもう無理だな。さっさと寝るか……」
 宿題が無かったことに安堵しつつ、俺は電気を消す。ベッドに横たわり布団に包まると、
昼間からの疲れが出たのか、あっという間に俺の意識は眠りに落ちていった。

――――――――――――――

 翌朝。不思議と朝早く目が覚めてしまった俺は、カーテンを開け、日の光を室内へと差し
込ませる。窓の外には穏やかな青空。何となく心が弾むのを感じつつ、俺は自室を出、階下
へと向かう。
 その際に一応理梨にも声はかけてきたのだが、朝に弱い彼女は「まだ眠いよ〜」とのこと
で、俺の声に起きるどころか、逆にごそごそと布団の中にもぐりこんでしまった。別に時間
に余裕はあるのだし、無理に起こすことも無いだろうと考えた俺はそのままへ一階へと下り
る。
 洗面所で顔を洗い、パンと牛乳、そして昨日のおかずの残りで簡単な朝食を済ます。食べ
終わった後、食卓に妹の分の朝食を用意すると、特にやることもなくなってしまった。
「う〜む、ちょっと早いけど学校でも行くか」
 呟き、俺は自室に戻って制服へと着替える。シャツとズボンを身につけ、着慣れた上着に
腕を通す。鞄と机の上に置かれた瓶を一つ掴んでポケットに入れ、部屋を出た。
「理梨〜、俺先に行くからな〜。飯は用意してあるから〜」
「はぁ〜い……、わかった〜……。いってらっしゃ〜い……」
 眠たげな理梨の声を背に、俺は家を出る。流石に通勤通学の時間には早すぎるのか、道に
は人の姿はなく、行き交う車の数も少ない。
「まあ、たまにはこんなのも悪くないよな」
 朝の涼しい空気を肌に心地よく感じながら、俺は通学路を歩く。明日奈や理梨、慧達と一
緒に通うにぎやかな登校も嫌いではないが、ここのところどたばたしていたのが続いたせい
か、一人で静かに歩くことが出来ることになんとなく贅沢なものを感じたのだった。
「と、もう着いたか。よかった、校門も開いてるな」
 いつの間にか学校に到着していた俺は、敷地内に足を踏み入れる。腕時計を見るといつも
より一時間以上も早く学校にやってきていた。校門が閉まっていないか少しだけ不安だった
が、杞憂に終わったようだ。グラウンドには既に運動部の部員達の姿があり、朝の空気に元
気な声を響かせている。
「そっか、朝練か」
 校門が開いていた理由に納得し、グラウンドを横切る。まっすぐに教室に向かってもよか
ったのだが、何となくこの自由な時間が貴重に思えて、俺は足の向くままふらふらと校内を
散歩することにした。
「……って思ってたんだが、なんかここに来ちゃうんだよな」
 目的も無くうろうろしていたはずが、いつの間にか俺は部室棟の一角、見慣れたドアの前
に立っていた。そんな自分に少しだけ呆れつつ、俺は陸上部部室のドアを開ける。一応は部
外者なのだが、既に毎日入り浸っているせいか、室内に入ってもそれほどの違和感は無かっ
た。それに、仮に部員の誰かがやってきてもいるのが俺だと分かればとがめられることも無
いだろう。
「ふぅ……」
 鞄を床に置き、手近な椅子に腰掛けた俺は息を吐き出す。窓の外に目を向ければ、サッカ
ー部がミニゲームをやっている光景が見えた。
 流石にまだ登校時間のピークは迎えていないため、校門をくぐる生徒の数はほとんど無い
に等しい。
「いくらなんでも早すぎたかな……」
 背もたれに体重をかけ、身体を反らしながら俺は呟く。かすかなのどの渇きにふと思いつ
いてポケットを探ると、昨夜理梨からもらった栄養ドリンクが指先に当たった。
「まあ、今日も騒がしくなりそうだしな」
 一人笑いながら、俺はドリンクのキャップをひねり、口をつける。思ったよりも甘さが抑
えられた液体をのどに流し込み、あっという間に空になった瓶を部屋の隅に置かれたゴミ箱
に投げ込んだ。
 と、その瞬間部室のドアが開き、聞きなれた声が耳に届く。
「あれ? 悠樹、なにやってんの?」
「お、慧か。はええな」
 振り向いた俺の目に、制服を着崩した慧の姿が映る。流石に登校中は人間の姿をしている
らしく、黒い瞳が意外そうに俺の事を見つめていた。
「いやなんか目が覚めちまってさ。家にいてもすることないから学校来ちまった」
「そっか、奇遇だな。あたしも」
 俺の言葉に、慧はにかっと笑う。鞄を床に置いた彼女は俺の隣に椅子をくっつけて座り、
肩に頭を乗せた。そのまましばし、何をするでもなく俺たちはぼんやりと朝の時間を過ごす。
「な〜あるじ。まだ授業まで時間あるし、さ……」
 不意に慧は甘え、媚びるような声を出して俺を誘惑する。
「お前、本当にことあるごとにそれだな」
「いいじゃんかよ〜。雌の幸せは雄に抱いてもらうことなんだからさ〜」
 サキュバスの魔性を宿した翠色の瞳が、俺の目と合う。ここで一発ヤったらこの後疲れて
大変そうだなと少しだけ思ったが、結局は恋人からの申し出を断れるほど、俺は強くは無い
のだった。
「な? してくれよ〜」
 顔に淫らな色を浮かべた慧の姿が、俺の目の前でサキュバスへと変わる。変身で情欲にさ
らなる火がついたのか、彼女は頬を染め、熱い吐息を俺へとかけた。
「わかった、わかった……っ!?」
 もうこれは腹をくくるしかないと思った俺が、そういいながら立ち上がろうとした瞬間。
 突然俺の身体がどくんと跳ねる。同時に身体の中心から燃えるような熱が生まれ、一瞬で
全身へと広がった。
「ぐぅ……!? な、なんだ……?」
「あるじっ!?」
 うめき声を上げ、思わず胸を押さえた俺の姿に慧が慌てて駆け寄る。だがその間にも俺の
熱は激しさを増し、まるで身体を焼くかのような錯覚が襲った。
「う、うぅ……うううぅぅ……!」
 歯を食いしばり、苦痛を堪える俺の口から獣のようなうめき声が漏れる。いつの間にか熱
は引き、頭と腰、そして両手足のむずがゆいような感覚へと変わっていた。まるで身体の中
から何かが飛び出そうとするような感覚に、俺は身体を震るわせ続ける。
「うう、あぁぁぁぁっ!」
 ついに堪えるのも限界に達した俺が叫びを上げた瞬間、頭からは黒い毛に覆われた尖った
耳が飛び出す。同時に腰からはふさふさとした獣の尻尾が生え、ばさりと振られた。
 変化はそれだけに留まらず、手足も獣の毛に包まれていく。靴を脱ぎ捨てると長く鋭く伸
びた爪が、靴下を破ってその姿を現した。
「う、あ……わぉぉぉぉぉーんっ!!」
 最後に一際大きな雄たけびを上げ、俺はがくりと床に膝を着く。
「あ、あるじ……」
 俺が変身していくのをただじっと見つめていた慧が、呆然と呟く。
「だ、大丈夫だ……。はぁ。い、一体どうなって」
 我に返って駆け寄ってきた慧の手を借り、俺はゆっくりと立ち上がる。自分の身体を見下
ろすと、変身後の彼女と同じような獣の毛に包まれた腕と足が見えた。背後に首を回すと、
狼のような尻尾まで生えている。飾りなんかでなく、それが俺の身体から直接生えているこ
とは、腰の辺りに生まれた新たな感覚と、俺の意思を受けて尻尾が動かせることからいやと
いうほど分かった。
 その感覚は頭の上にもあり、俺は自分の姿を確かめようと、壁に据え付けられた鏡の前ま
で移動し、身体を映す。
「あ、やっぱりか……」
 鏡に映ったどこか諦め気味の表情をした俺の頭からは、三角形の獣の耳が飛び出している。
口をあけると、犬歯も鋭く尖り、牙のようになっていた。
「あるじ、ど、どうなってんの?」
 中途半端な狼男のような格好をした俺に、おそるおそる慧が声をかける。
「俺もわからん……。って、いや、まてよ」
 不意に閃くものがあった俺は、壁際のゴミ箱の中から先ほど捨てた栄養ドリンクの瓶を拾
い上げる。さっきは気にも留めなかったが、瓶のラベルには狼をかたどったマークが印刷さ
れており、細かな字で書かれた注意書きには「理梨特製栄養ドリンク。用法用量を守って使
ってね」と記されている。
「しまった……よく考えればこの展開は予想してしかるべきだったのに」
 そう、俺の妹である理梨は時々こうしたとんでもない効果を持つアイテムを作るのだ。も
う何度もそれでひどい目に遭っているにもかかわらず、今回もうっかり使ってしまった自分
のうかつさ加減を後悔していると、背後から同じく事態を察した慧の声がかかる。
「あ〜、何となく分かった。それ、妹ちゃんの薬か何かの効果なわけね」
「ま、そういうこと」
 理理が作るこの手の消耗品は、大抵時間が過ぎるか一回ヤるかで効果が消える。今までの
経験からそれが分かっている俺たちはなんとか落ち着きを取り戻し、床に腰を下ろして安堵
の息をついた。
「はぁ、びっくりした」
「驚かせて悪かったな」
「別にいいよ。それになんだかあたしとおそろいっぽくもあって、そのカッコも悪くないと
思うよ」
「なんか素直に喜べないな、それ」
 慧の言葉に、俺はなんとも言えない微妙な表情を作る。
 が、変身のパニックが落ち着いたことで、忘れかけていた性欲が俺たちの中で再び頭をも
たげてきてしまったらしい。
「ほんと、その姿のあるじ、なんかいいよ……。なぁ、折角だし、そのままやろうよぉ……」
 慧は獣人となった俺の姿を見つめると、先ほど以上に顔を赤く染め、こちらににじり寄っ
てくる。普段ならそうした慧を押し留める役目の俺も薬のせいか、サキュバス姿の彼女がい
つも以上に魅力的に見え、興奮が抑えきれないほど高まってきていた。
「ああ、俺も……慧とヤりたい」
 俺も床から立ち上がり、息を荒くしながら彼女を強く抱きしめる。
「あっ、ちょっと、そんな急に……」
 慧の口から戸惑いの声が漏れるが、俺は構わず彼女の背後に回ると胸に手をあて、揉みし
だく。柔らかな乳房が俺の手が動くのに合わせて形を変え、彼女の口から嬌声が上がる。
「きゅふ、やぁ……んっ、ああぁん……」
「慧……、胸の獣の毛、なくせるか?」
「んふっ……あん……。う、うん……やぁ……っ、こ、こう?」
 快感に身体を跳ねさせながらも、彼女は胸の部分を覆う毛を消しさる。俺の手にすべすべ
とした彼女の肌の感触が伝わると、手のひらを吸い付かせるようにしてそのふくらみを掴み、
撫で回した。
「や、あぁん……あるじの手、くすぐったいよぉ……きゅうん!」
 俺の手を直に感じ、慧は更なる快感に声を上げる。俺は汗でしっとりと湿ったうなじに顔
を埋め、その肌に舌を伸ばすと同時に、すっかりたち上がった彼女の乳首を軽く摘まんだ。
「んっ、あふ……っ、あるじ、だめ……、それ、だめぇ……!」
 慧はびくびくと身を震わせながら、身体をよじって愛撫から逃げようとする。俺はそんな
彼女の身体をいっそう強く抱きしめると、首筋にキスマークをつけるように強く吸い上げる。
「くぅぅぅん! だめ、そんな、すっちゃやだぁ……!」
 いやいやと首を振りながらも、どこか嬉しそうな声を上げる彼女へ俺は愛撫を続ける。
 そうしているうちに、慧がもじもじと太ももを擦り合わせはじめる。それに彼女の準備が
整ったことを察した俺は胸への愛撫を続けながらも、慧の下半身へと手を伸ばした。
「あっ、ん……あるじ……んぅ、うん、いいよ。いっぱい、触って……っ!」
 俺の意図を察した慧が、俺に自らの手を重ねて下半身へと導く。慧の身に纏った衣服はサ
キュバスへの変身時に変化しており、いま彼女の腰周りを覆っているのは制服のスカートで
なく、ワイルドなデザインのショートパンツだった。
 その中へと、俺はゆっくり指先をもぐりこませていく。すぐさま彼女の秘所にたどり着い
た俺が下着越しに割れ目に触れると、びくりと身体が跳ねた。
「ん、ちょっと触れただけでも気持ちよかったか?」
「うん……。なんかぴくってなっちゃった……」
 恥ずかしそうに頬を染め、慧は小さく呟く。既に彼女の下着は湿っていたが、俺はさらに
彼女を感じさせるべく、下着の裾から手を入れ、割れ目に指を潜り込ませた。
「ふあぁぁぁん! あっ、はぁっ、やぁん!」
 俺はためらいもせず、激しく慧のあそこをかきまわす。そのたびに彼女の口からは短い嬌
声が発せられ、強烈な快感が目に涙を浮かばせた。
「ああっ、はぁんっ! あるじっ、もっと、もっとぉ!」
 発情した声を上げながら、慧が更なる快感をねだる。彼女から生える尻尾は快楽に激しく
振られ、俺の身体を叩いた。
「ああ、わかった……」
 俺は彼女のリクエストに応え、指を一本追加するとさらに勢いを増して膣内をかきまわし
てやる。胸も強く揉みしだき、乳首をつねり上げるように摘まんでいじってやった。
「あっ、あっ……ふぁ、やぁん、きもちいい、きもちいいよぉ……!」
 快楽で濁った瞳で、うわごとのように呟きながら慧はひたすら快感を貪る。
「あっ、あぁ……ある、じ、もう……く、きゅぅぅぅぅん……!!」
 やがて彼女は小さく悲鳴を上げ、くたりと俺にもたれかかる。どうやら軽く達したらしい。
はぁはぁと息を荒げながら、うっとりと俺を見つめる。
「今日のあるじ、なんかすごいよぉ……。あたし、ゆびだけでイかされちゃったぁ……」
 羽と尻尾を動かし、慧は俺の身体に抱きつく。だが、まだこれはほんの序の口に過ぎない。
「慧、壁に手をついて、こっちに尻を向けろ……」
 俺は慧の身体を離すと、いつに無く命令口調で言う。
「はぁい……あるじ、たっぷり中に出して、しっかり孕ませてくれよぉ……?」
 それに彼女は気を悪くした様子も無く、むしろ喜んで従った。ショートパンツと下着を脱
ぎ捨てると、いわれたとおりの体勢をとる。
「はやくぅ……あるじ、きてぇ……」
 肩越しに振り返った慧が、媚びるような声音で俺に言う。腰から伸びる尻尾は俺を誘うよ
うに振られ、露になった秘所からは愛液がとろとろと垂れた。
「ああ、いくぞ……っ!」
 目の前の淫らな雌の姿に雄の本能を刺激された俺は、まるで彼女に突進するかのように勢
いよく肉棒を突き刺す。
「うぁぁぁ……っ!」
「きゃううううん!!」
 後ろから激しく一物を突き入れられた慧の口からは犬のような、それでいて歓喜に染まっ
た声が上がる。挿入した俺の方も、彼女の肉が一物を締め付けてくるのにくぐもった声を出
した。
 挿入の余韻に浸る間もなく、俺は彼女の腰を掴むと、荒々しく肉棒を引き抜く。そして先
端が彼女から抜ける寸前、またも一気に奥まで突き入れた。
「ふぁああぁん!!」
 激しい挿入に、慧は涙を零し、舌をだらしなく垂らしながら至福の表情を浮かべる。既に
理性を失った俺はそんな彼女に対して激しく腰を振り、獣のように快感を味わった。
「けい、けいぃ……っ!」
「あっ、はぁ、やっ、ぁ……、あるじ、あるじっ!!」
 しばし、朝の部室の中にお互いの名を呼ぶ二匹の獣の声と、肉を打ち付けあう音が響く。
 やがて慧は身体を小刻みに震えさせ、俺に向かって泣き出しそうな声で言った。
「あるじ……あっ、くぅん! はぁっ、あたし……、も、いっちゃう……っ!」
「ああ……おれも、もう……っ!」
 同じく絶頂を近くに感じていた俺も、彼女に頷き返す。最後のスパートをかけるべくさら
に腰の動きを加速させると、慧もまたそれに合わせて腰を激しく動かした。そのたびに彼女
の膣内の締りが強まり、俺の射精感を高めていく。
 限界を迎える瞬間、俺は一際強く腰を打ちつけ、最奥にものを届かせる。
「くぁ、う、うあぁぁぁぁ……!」
「やぁ、でてる……っ、あ、あついよぉ、あっ、あぁぁぁぁんっ!」
 鈴口が子宮にぶつかったと感じた瞬間、堰を切ったように俺のものから精液が迸った。体
内に流し込まれる熱いものを感じた慧もまた、歓喜の叫びと共に達する。
 しばし俺は慧の腰を掴み、肉棒を埋めたままぶるぶると身体を震わし射精の快感に浸る。
最後の一滴まで彼女の膣内に出し切ると、長い息を吐き出し、ゆっくりと肉棒を引き抜いた。
「あ、くふぅ……っ」
 絶頂後の身体を震わせ、慧もまた息を吐く。俺の肉棒が完全に引き抜かれると精液やらな
にやらでどろどろになった彼女の秘所から白い液体がこぽりと溢れ、床に垂れた。
「あは……狼のあるじ、すごい……。あたし、おかしくなっちゃうかと思った……」
 目の端に涙を浮かべ、真っ赤なままの顔で慧が俺に言う。その顔には満足そうな笑顔を浮
かべており、そんな彼女に俺は言いようの無い愛しさを感じた。
 だが、たった一回ヤっただけでは、ワーウルフとなった俺の性欲はまだ満たされていなか
った。引き抜いた肉棒はまだ十分な硬さと大きさを保っており、まだまだ足りないといわん
ばかりの姿を俺に見せている。
「わるい、慧……。おれ、まだヤり足りない」
「え?」
 ぼそりと呟いた俺の言葉に、慧が聞き返すよりも早く。俺は再び彼女の割れ目に肉棒を突
き入れていた。
「きゃううん! あるじ、そんなっ、いきなりぃ……!」
 不意打ち気味な挿入に慧の口から悲鳴が上がる。俺はそんな彼女に構わず、ひたすら腰を
動かした。
 それから俺が正気を取り戻すまでしばらくの間、部室では狼と淫魔のまぐわいが続いたの
であった。



「……も、だめ……。あたし、だめぇ……」
 ぐったりと床に横になった慧が、力なく呟く。サキュバス姿のままの彼女は全身精液まみ
れで、可愛らしい顔も汗やら涙やらでぐちゃぐちゃに汚れていた。
「わ、わるい……まじごめん……。途中から完全に理性飛んじまった……」
 同じく床に大の字になった俺は、荒い呼吸のままなんとか謝罪の言葉を出す。それに慧は
弱弱しく首を振ると、口を開いた。
「いい、気に……しなくて……。ほら、たまには……こういうのも、わるく、ないしさ」
 強がる慧に、俺は寝転がったままぷっと小さく吹き出す。
「わ、笑うなよぉ……」
「いや、ごめんごめん。なんつうか、めちゃめちゃしちまったんで怒られると思ったからさ。
なんか安心したら、つい笑っちまった」
 そういう俺に、慧もふっと顔を緩める。
「別にいいよ、そういうことはさ。お前はあたしたちの群れの主で、あたしにとって唯一の
ご主人様なんだ。だから、怒るどころか嬉しいよ。だって……あたしの幸せはあるじといっ
しょにいることなんだからさ」
「慧……」
 彼女の口からこぼれた想いに、不意に俺も胸が熱くなる。そんな俺の顔を見て自分がとん
でもなく恥ずかしいことを口走ったと気付いた彼女は、顔を真っ赤にさせて慌てて手を振っ
た。
「あっ! 今のなし! 誰にも言っちゃだめ! っていうか忘れろ!」
「いやいや、忘れられないなあ。そっかそっか、『あたしの幸せはあるじといっしょにいる
ことなんだからさ』かあ。ああ、俺って愛されてるなあ〜」
 にやにやと笑いながらそう言ってやると、彼女は顔をさらに真っ赤にする。
「ばっ、おま、わざわざ繰り返すなよ! ああ、その、ううぅぅ……」
「ごめんごめん、なんか嬉しくてさ」
 恥ずかしさの余りプルプルと震え、涙目になった彼女の方に腕を伸ばすと、俺はそっとそ
の頭をなでてやった。
「あ……」
 俺の手が触れる感触に一瞬ぴくんとしたものの、すぐに慧は嬉しそうな表情で目を細める。
そんな彼女の髪を梳いてやりながら、俺も本音を口にした。
「ありがとな、慧。俺もお前といっしょにいられるのが、一番の幸せだよ。これからもよろ
しくな」
 その言葉に、慧は顔を輝かせて頷く。
「もちろん! あるじ、これからもずっといっしょだからな!」
 寝転がる俺に抱きついてきた慧を抱きしめ返し、俺たちはしばし、愛するものと一緒にい
られる幸せをかみ締めるのだった。



「ところであるじ。一発どころか何回もやったのに、まだ薬の効果切れないね。ほら、狼の
まんま」
「……げ、マジだ。やべえ、どうしよう」
「いいんじゃない? 元に戻るまでここでサボっちゃえばさ。どうせ今日は放課後の練習も
ないし、部室には誰も来ないよ」
「そっか、それはラッキーだったな。ただでさえこんな姿、誰かに見られたら終わるし。思
いっきり言い逃れできねえ状況だし」
「あたしは別に構わないけどね。その格好のあるじもカッコよくて好きだし、仮に誰か来た
ら、あるじとあたしのラブラブなとこ、見せ付けてやるのも面白そうだし〜」
「……勘弁してくれ」
「えへへ」

 ――結局、薬の効果が切れて俺がワーウルフの姿から元に戻れたのは夕方になってからだ
った。それまでの間に「折角さぼったんだからいっぱい楽しもうよ〜」といわれて慧と何度
もヤったりしてたのは誰にもいえない二人だけの秘密である。

―― EXシナリオ 慧編『サキュバスと獣のダンス』  終わり ――

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