「このクソ兄! わたしの部屋には入らないでって言ったでしょ!」
わたし、夜麻里理梨は叫ぶなり、兄に手近にあった枕を思い切り投げつける。枕は過た
ずドアを開けたままの格好の兄の顔面を直撃し、彼の口からは「ぶへ」とかいう間抜けな
音が響いた。
直後、ぼふんと地面に落ちた枕の向こうから、見慣れたわたしの兄の顔が現れる。
「ってぇ……。いくらなんでもこりゃあんまりだろ理梨。明日奈が来たからお前も一緒に
遊ばないかって、わざわざ声かけてやったのにさ」
わたしは鼻の頭をさすりながら呻くように言う彼を睨みつけると、感情の高ぶるままに
声を出す。
「誰がそんなこと頼んだのよ! いいから、さっさと出て行ってよ!」
「はいはい。言われなくてもさっさと出てくよ」
兄は呆れたような声を出し、くるりとわたしに背を向ける。わたしはベッドの上に座っ
たまま、歩き去る彼の背を見つめていた。
数秒もしないうちに、その姿がドアの向こうに消える。代わりに、わたしとも幼馴染の
少女、お隣の明日奈お姉ちゃんが兄と二言三言話す声がドア越しに聞こえてきた。
わずかの間のあと、彼女はわたしにためらいがちに声をかける。
「……理梨ちゃん、折角だし一緒に遊ばない?」
少し控えめの明日奈お姉ちゃんの声。いつもならわたしと仲のいい彼女からのお誘いに
はすぐさま応じるところだけど、今日はそんな気分になれなかった。
「……ごめんなさい、ちょっと課題をやらなくちゃいけなくて」
だからわたしはありもしない宿題を言い訳にして、その誘いを断る。
「あ、そうなんだ……。じゃあ、もし終わったら一緒に遊ぼうね。じゃましちゃってごめ
んね」
申し訳なさそうに言う明日奈お姉ちゃんの声に、嘘をついたわたしは罪悪感を感じてし
まう。素直にうんと言えばいいのに、いや、それよりも最初に兄が声をかけてくれたとき
に応じていればよかったのにと、わたしの中では後悔ばかりが膨らんでいく。
そこに、兄が明日奈お姉ちゃんをフォローするように発した言葉が聞こえてきた。
「悪いな明日奈。おい理梨、別に課題なんて後でもいいだろ?」
「うるさい! バカ兄には関係ないでしょ! わたしの予定にいちいち口出さないでよ!」
その言葉に、ついわたしはとげとげしく声を返してしまう。反射的にいつもの罵声を兄
に浴びせた後、彼に対しての憎まれ口を明日奈お姉ちゃんにも聞かれたと気付いたわたし
は、更なる自己嫌悪に陥った。
気持ちが沈んで壁に背を預け、わたしは目を閉じる。そうしていると、沈む一方のわた
しの内心には気付きもせずに部屋の前で話す二人の声が聞こえてきた。
「ったく、なんなんだよあいつ。久しぶりに昔みたいに一緒に遊ぼうと思ったのにさ」
「い、いいよ。理梨ちゃんも忙しいみたいだし」
盗み聞きなんて、みっともなく卑怯な行為だと思いつつも、兄と明日奈お姉ちゃんの声
に、わたしはいつの間にか聞き耳を立てていた。
「……はぁ。しかし俺も嫌われたもんだなあ」
溜息と共にもれた兄の言葉に、私の身体がぴくりと跳ねる。
「そんなことは無いと思うけど……。ほ、ほら! 10年以上も離れ離れだったんだもの。
ちょっとぎくしゃくしちゃうのは仕方ないよ」
「そんなもんかねえ。ま、しかたねえな、下行くか」
そんな会話の後、兄と彼女は階下に下りていったみたいだ。兄達が階段を踏むたびに鳴
る木のきしむ音が、部屋の中、一人ベッドに座るわたしには無性に大きく聞こえた。
やがて階段から響いていた音が消え、わたしは静寂に包まれる。無性に寂しさを感じた
わたしは、やっぱり一緒に遊べばよかったかなとちょっとだけ思う。
「……でも」
そう、それでも。わたしは兄と私以外の他の女の子が仲良く遊んでいる姿を見たくは無
かった。例えそれがわたしととても仲のいい、明日奈お姉ちゃんであっても。そして、そ
んな醜い想いを持っていることを、誰にも知られたくなかった。
「ばぁか……」
ベッドのシーツを掴み、くしゃりと握る。小さく呟いた自分の言葉は誰に向けられたも
のなのか、わたしにも分からなかった。
・
・
・
「……ん」
自らの口から漏れた音に、わたしのまぶたが上がる。視界がはっきりしてくると、見慣
れた自室の光景が映った。どうやらあの後、ベッドの上で横になっていたわたしは気付か
ないうちに眠ってしまったみたいだ。
「もう夜、かぁ……」
窓の外はすっかり暗くなり、家々にはどこも灯りが点いている。わたしはぼんやりとし
た頭のまま立ち上がり、電灯のスイッチを入れ、カーテンを閉めた。
「お兄ちゃん、まだ帰ってないのかな」
無意識に、ポツリと呟く。物音がしないということは、多分そういうことなんだろう。
一応部屋から出て階下の様子を窺ってみたが、真っ暗なままだった。
「なによ……妹を置き去りにするなんて、最低だよ……。わたしの気も知らないで……」
思わず本音の欠片がもれ、わたしは慌てて続ける。
「べ、別にお兄ちゃんがいなくたって、わたしに関係は……」
自分に言い聞かせるように発した言葉は、しかしその途中ですぼむ。わたしは寂しさが
心を刺すのを無理やり無視すると、部屋に戻った。
既に何度も読んだ漫画雑誌を本棚から取り出し、再びベッドの上に戻ると背を壁に預け
るようにして座る。ぱらぱらとページをめくると、お気に入りの恋愛漫画のページを開く。
すぐさま、兄に甘える妹のシーンが目に入った。漫画の中の妹は、わたしとは似つかな
いほど素直でかわいく、何のためらいもなく兄に抱きついている。
「素直で可愛い妹、かぁ……」
フィクションだとは分かっていても、とてもじゃないがそんなことは出来ないわたしは、
彼女に羨望を感じてしまう。それとも、ちょっとだけでもわたしが変われば、兄とああい
う風になれるのだろうか。
「……ばかばかしい。どうかしてる」
わたしは溜息と共に読んでいた雑誌を閉じると、傍らに投げ出す。シーツの上に本が落
ちるばさりという音を耳にし、そのままゆっくりと身体をシーツの上に横たえた。
ツインの髪がベッドの上に広がり、シャンプーの香りがかすかに鼻をつく。
「はぁ……」
ぬいぐるみが並べられた棚を見つめ、もう一度息を吐き出す。視線の先にあるのは、ぼ
ろぼろになったくまのぬいぐるみ。あちこちほつれた所を縫い直し、棚の一番見栄えのい
い場所に座るそれは、まだ私と兄が一緒に暮らしていた頃、幼いわたしに彼がくれたもの
だった。
そのぬいぐるみを見るたび、小さな頃からずっと胸に秘め続けてきた兄への想いと、か
つて素直に兄に甘えていた自分を思い出す。
その後、両親が離婚し、兄と遠く離れて暮らさなくてはいけない日々が続いても、ぬい
ぐるみを彼と思い、再開できた時にはいっぱい甘えよう、いつか胸に秘めた想いを伝えよ
うと想い続けることで乗り越えることが出来た。
だが、今のわたしは想いを伝え、甘えるどころか、顔を合わせればひどい言葉ばかり。
何年も離れ離れだった兄と、こうして再会できて、しかも一緒に暮らすことが出来るよう
になって、嬉しいはずなのに、もう寂しくないはずなのに。
あの日、兄の顔を再び見たときにこの胸に湧いた気持ちは、恥ずかしさと戸惑い。そし
てわたしをずっと放っておいたくせに、自分は明日奈お姉ちゃんと楽しそうにしていたと
いう、兄へのやつあたりにも近い感情だった。
そんな歪んだ感情は今でも消えず、結果わたしは彼の前ではいつもああなってしまう。
「なんでわたし、こんな子になっちゃったんだろ……」
自分がいやで、無性に悲しくなったわたしは目をつむり、腕をまわして身体を抱きしめ
る。胎児のように丸まり、目を瞑るといつものように兄の姿が浮かんできた。
空想の中のわたしは、現実とは違い、兄に対して素直になることが出来る。にっこりと
満面の笑顔を浮かべながら、自分から彼に近づくとその手を取ることだって出来る。
そのまま彼の手を胸に導き、距離をつめる。
「おにいちゃん、好き……」
飾ることなく、心に浮かんだ言葉を素直に伝える。兄はそんなわたしに優しく微笑んで
くれた。わたしは嬉しさに涙を浮かべ、彼に抱きつく。兄もまた、しっかりとわたしを抱
きしめ返してくれた。
そのまま、静かに唇を重ね合わせる。
「……あ」
いつの間にか、現実のわたしの手は自らの股間に伸びていた。スカートをまくり上げ、
下着の上から秘所に触れる。指先に触れた下着は、すでにしっとりと湿っていた。
「や、やだ……もう……」
空想だけで濡らしてしまう自らのいやらしさに自己嫌悪を感じながらも、股間にあてが
われた手はゆっくりと割れ目を擦り始める。指を前後に動かすたびに秘所が刺激され、指
と布が擦れる音を耳にするわたしの中に少しずつ快楽が生まれていった。
ベッドに寝転がったままのわたしはひたすら手を動かし続ける。口はだらしなく開かれ、
荒い呼吸が静かな部屋に響く。
きっと、今のわたしはどうしようもなくえっちな顔をしているんだろうな。そんなこと
を頭の片隅にわずかに残った理性が考えたが、それもすぐに快楽に押し流されていった。
「はぁ……はぁ……、これじゃ、たりない、よぉ……」
しばしそうして淫らな行為にふけっていたわたしだったが、やはり布越しでは満足でき
なかった。もどかしさに耐えられなくなったわたしは下着をずらすと、直接そこに指を触
れさせる。
「んっ……」
敏感な場所に触れた瞬間、私の身体が跳ねる。太ももの間に腕を入れ、もじもじと擦り
合わせながらも秘所をいじる。
「おにいちゃん、おにいちゃぁん……」
無意識のうちに兄の名を呼んだ瞬間、先ほどとは比べ物にならないほどの快楽が全身を
駆け巡った。
そうだ、この手はわたしのものじゃない。おにいちゃんの手なんだ。既に冷静さなどと
は無縁の頭が、ぼんやりとそんな考えを浮かべる。
おにいちゃんがわたしの身体を求めている。そう想っただけで、よく知っている自分の
手がまったく別のもののように感じられた。その感覚と共に、興奮はどんどん高まってい
く。
「おにいちゃん、あっ、理梨のこと、もっと、もっとさわってぇ……!」
媚びるような声を出し、わたしは股間をいじり続ける手とは反対の手で服のボタンを外
し、その中に入れる。
わたしは兄にしてもらいたいことを思い浮かべながら、優しく胸にあてがった手をなで
るように動かす。ツンと立った乳首に指が当たるたび、秘所から得られる物とはまた別の
快感が背に電気を走らせた。
「きもちいい、おにいちゃん、気持ちいいよぅ!」
空想の中で兄に愛撫されるわたしは、歓喜の悲鳴を上げる。熱の高まるまま、最早愛液
でどろどろになった割れ目に指を差し込むと、わたしの理性を根こそぎ焼き尽くすほどの
快感が襲った。
「やぁ……あ、ふぁっ!」
中をぐちゅぐちゅとかき回し、涙と涎をたらしながらわたしはただひたすら快感を貪る。
寂しさと自己嫌悪を快楽で塗りつぶそうとするかのように、その動きは激しさを増してい
った。
「お、おにいちゃぁ、だめ……、わたし、いくっ! あ……っ、も、もう、いっちゃうよ
ぉ……っ!」
高まり続ける快感に、わたしは限界を感じる。そして指が膣内の一際敏感な場所を擦っ
た瞬間、わたしは絶頂に達した。
「あっ、――――――っ!!」
上げかけた声を、とっさに枕に頭を埋めることで消す。わたしは目を硬くつむり、達し
たあともいまだびくびくと震える身体を抱きしめていた。
しばし、わたしは気だるさを感じたままベッドの上で横になる。やがて快感の熱が引い
ていき、代わりに理性が戻ってきた。
「はぁ……はぁ……、ん……」
呼吸はまだ荒いままであったが、さきほどよりは少し落ち着いたわたしはゆっくりと身
体を起こす。そして自らの行為を振り返り、自嘲気味に呟いた。
「……最低」
髪は乱れ、全身にかいた汗が服を肌に張り付かせている。股間にいたってはぐちゃぐち
ゃで、ぐっしょりと濡れた下着の感触が気持ち悪い。
よく見れば、寝ていた場所のシーツにもうっすらと汗やら何やらで湿った跡が残ってい
た。
「とりあえず、シャワー浴びよ……」
力なく呟き、わたしはお風呂場に向かおうと腰を上げる。
その瞬間、部屋の片隅からかすかな、だが確かに音が響いた。
「!」
わたしは思わず音のした方に振り向く。先ほどまでわたし以外誰もいなかったはずの室
内、その開いた窓にはいつの間にかよく見知った人物が腰掛けていた。
「あ、気付かれちゃった」
わたしの視線を受け、その少女はいたずらっぽくぺろりと舌を出す。その光景を理解す
るよりも早く、わたしは呆然としたまま彼女の名を呟いていた。
「明日奈……おねえ、ちゃん?」
「うん、そうだよ。こんばんは、理梨ちゃん」
わたしの声にいつものように明るく頷く少女。その姿は、紛れもない明日奈お姉ちゃん
だった。
「勝手にお邪魔しちゃってごめんね? ほら、ちょっと声がかけづらい状況だったしね」
いつの間に? どこから? どうして? 様々な疑問が頭に浮かび、わたしを混乱させ
る。
だが、それよりも。明日奈お姉ちゃんが発した言葉。先ほどから彼女がここにいたとい
うことは。
「あ……」
見られた。誰にも知られないように、隠そうとしていた、あんな淫らな姿を。それも、
姉のように慕ってきた、仲のいい、大好きな明日奈お姉ちゃんに。
停止していた頭が再起動し、それをわたしが理解した瞬間、羞恥とそれ以上に恐怖が襲
い掛かってきた。一瞬で嫌な汗が噴出す。足は震え、心臓が早鐘のように打ち鳴らされた
のがわかった。
「ち、ちがうの……。あ、明日奈お姉ちゃん、これは……」
目の端に涙が浮かぶのを感じながら、わたしは震える声で弁解を試みる。しかし一部始
終を見られていたのだとしたら、それは無意味で無駄な行動でしかなかった。
わたしという女の子の本性がこんないやらしいものだと知ったら、明日奈お姉ちゃんは
笑うだろうか? それとも、嫌悪するだろうか?
明日奈お姉ちゃんは窓枠から立ち上がり、わたしに一歩近づく。
次の瞬間には浴びせられ、わたしの心を砕くであろう言葉を聞きたくないとわたしは耳
を塞ぎ、絶望を突きつけるであろう現実を見たくないとうつむき目を瞑る。
そんなわたしにお姉ちゃんが近寄ってくるのが、気配で分かった。わたしは彼女から少
しでも距離をとろうと後ずさろうとしてベッドの端にぶつかり、腰掛けてしまう。
「きゃ……」
思わず目をあけると、すぐ目の前に明日奈お姉ちゃんの顔があった。彼女はいつも通り
の優しい微笑を浮かべて、私の目をまっすぐに見つめている。
「……あの、あの……ね……」
何を言おうとしているのか自分でも分からないわたしの言葉を遮り、明日奈お姉ちゃん
が口を開く。
「理梨ちゃんは……」
それにわたしはびくりと震え、うつむき目をそらす。それに構わず、彼女は続ける。
「お兄ちゃんのことが好き……。ううん、それ以上に、愛しているのね?」
「……」
私は否定も肯定もせず、ただ押し黙る。先ほどの自慰、その一部始終を見られていたの
なら、わたしの想いが誰に向いているのかは知られてもおかしくは無い。だが、こうして
改めて言われてみると、決して赦されない想いだということを強く感じられた。
きっと、彼女は兄に劣情を抱き、さらには兄とのことを想像して自らを慰めるわたしを
軽蔑するだろう。
だが、彼女の口から続いたのはわたしの予想とは異なる言葉だった。
「離れ離れだった兄と妹が再び出会って、一つになる。なんだか素敵ね。こんなにも強く
想えるなんて、想われるなんて。ふふ、ちょっと妬けちゃうかな」
「!?」
彼女の言葉が、わたしを更なる混乱に突き落とす。彼女の口から発せられた言葉には、
嫌悪の響きも、軽蔑の響きもありはしなかった。本来なら禁じられた関係だというのに、
そこにあったのは禁忌を犯したことさえ赦し、わたしの抱く愛情を優しく祝福するかのよ
うな響きだった。
「ね、そうなんだよね? お兄ちゃんと一つになって、愛し合いたいんでしょう?」
明日奈お姉ちゃんはさらに顔を近づけ、重ねて聞いてくる。その目には不思議な色が浮
かび、まるでわたしの心を覗き見ようとするかのようだった。
パニック状態のわたしは、いつもと違う彼女の不自然さに気付けるはずもなく、だが反
射的に否定の叫びを上げる。
「ち、ちがうもん! あんなバカ兄を、わ、わたしが好きになんて!」
「そう?」
明日奈お姉ちゃんは可愛らしく小首をかしげ、わたしの手を取る。そして彼女はその手
を先ほどまでわたしがいじっていた場所、足の付け根へと導く。
「ひぅっ!」
いまだに敏感なあそこに自分と明日奈お姉ちゃんの指が触れた瞬間、わたしは小さな悲
鳴を上げた。いまだに濡れていることは、指先に湿り気が感じられたことからも分かった。
あまりの恥ずかしさに、顔が熱くなる。明日奈お姉ちゃんはそんなわたしの顔を覗き込
み、尋ねた。
「ここがこんなになっちゃってるのは、お兄ちゃんを想って一人エッチしちゃったからじ
ゃないの?」
「ちがう! ちがうもん! そんなのしらないもん!」
愛液で濡れた手を見せ付けられても、わたしは幼児のようにいやいやと首を振る。そん
なわたしの様子を目にした明日奈お姉ちゃんは苦笑を漏らした。
「素直じゃないな〜。まあ、理梨ちゃんらしいといえばらしいけどね」
そう呟いた瞬間、彼女の雰囲気が一段と妖しさを増す。
「……お姉ちゃん?」
流石に違和感に気付いたわたしが声をかけ、さらに問いただそうとするよりも早く。明
日奈お姉ちゃんは突然わたしの頬に手を添え、唇を重ねてきた。
「んっ!? む……っ!」
あまりにも突然のキス。衝撃にわたしが目を見開き、混乱するのにも構わず、彼女は舌
を伸ばしてわたしの口にねじ込み、私の舌と絡め、中を舐めまわす。
「んふ……んっ、ちゅ……ちゅぅ……」
「……ん、んん〜〜っ!」
楽しそうにわたしの口内を蹂躙し、彼女は自分の唾液を飲ませてくる。頭をがっちりと
固定し、口と口との間を隙間なくふさがれたわたしにそれを拒むことは出来ず、明日奈お
姉ちゃんの唾液が、どんどんわたしの中に流れ込んでいく。
「ん……ちゅ……、あっ……ふぁ……」
そうして明日奈お姉ちゃんからキスをされているうちに、わたしの身体に小さな変化が
生じた。先ほどの自慰のときと同じような、じんわりとした熱が下腹部に生まれてきたの
だった。
はじめは小さな違和感であったそれは、彼女の舌がわたしと触れるたびに、少しずつ大
きなものとなっていく。わたしの身体は熱病に掛かったかのように火照りだし、それと同
時に再び肉欲が頭をもたげてくる。
「ちゅ、ちゅぱ……。ん……っ、こんなものかな?」
そのわたしの様子を見、明日奈お姉ちゃんが顔を離す。ゆっくりと遠ざかる明日奈お姉
ちゃんの顔とわたしの間には、唾液の橋がかかった。
「ふふっ、どう? 理梨ちゃん。私のキスもなかなかでしょ?」
「ふ、あ……」
ちょっぴり誇らしげに、明日奈お姉ちゃんが言う。彼女にもたらされた快感のためか、
わたしは全身から力が抜け、ベッドの上にくたりと倒れこむ。
熱でぼんやりとした頭をなんとか動かし、わたしは明日奈お姉ちゃんの顔を見る。彼女
はいつもより少しだけいたずらっぽい、愉快そうな微笑を浮かべてこちらを見つめていた。
「おねえ、ちゃん……どうして……?」
身体の熱と、幼馴染として以上に実の姉のように慕っていた少女からされたことへの戸
惑いに私は涙を浮かべながら、彼女に問いかける。
「どうしてって? それはね、あなたが自分の気持ちに素直になって、お兄ちゃんと愛し
合えるようになってもらいたかったから。そう、そのために、理梨ちゃんもわたしと同じ
ようにしてあげたいの」
彼女がそう言った瞬間、目の前に立つ明日奈お姉ちゃんの身体を、黒い霧が包む。闇よ
りも濃い霧はお姉ちゃんの身体を完全に包み込み、わたしの目から隠した。
「な、なに……? なんなの?」
一瞬、身体にこもる熱を忘れ恐怖の混じった声をあげるわたしの耳に、霧の向こうから
明日奈お姉ちゃんの声が聞こえてきた。
「あは……、あん、いい……。きもち、いいよぅ……」
霧が彼女を覆っていたのは、実際にはほんのわずかな時間だったのだろう。やがて黒い
靄は明日奈お姉ちゃんの身体に吸い込まれるようにして消え、一人の少女が姿を現す。
「ふふ……」
光沢を持ち、身体にぴっちりと密着する布は少女の要所を覆っているものの、肩やお腹
は大きく露出し、健康的な肌色をあらわにしている。その扇情的なデザインは紫を基調と
した色合いと共に、見るものを否が応にもどきどきさせる。そのセクシーさと共に胸元や
腰についた大きなリボンが可愛らしさをも演出する衣装は、まるでゲームか漫画に出てく
るキャラクター身につけるもののようだった。
だが、わたしが驚き、戸惑ったのは明日奈お姉ちゃんの服が変わったことだけではなか
った。
明日奈お姉ちゃんの背中よりやや下、腰のやや上辺りからは蝙蝠のような、薄い皮膜の
羽が姿を現していた。さらに同じく腰からは細く長い尻尾までもが伸び、くねくねと揺れ
ている。
それだけではなく、彼女の頭、その両脇からは髪をかき分けるように尖った耳が左右に
ピンと張り出し、頭の上には硬質で節のある角が一対生えていた。
「……っ」
思わずわたしは息を呑む。新たに生まれたパーツの持つ質感や、なめらかな動きはアク
セサリーや仮装なんかではなく、まさに彼女の身体の一部であることをまざまざと見せ付
けた。だがそれは決して彼女のプロポーションを崩すものではなく、むしろ、年頃の少女
の持つ魅力的なシルエットに調和しているとさえも思えた。
「えへ、理梨ちゃん、私の姿どうかな? 可愛いでしょ?」
彼女は目の前でくるりと一回転し、変化した自分の姿をわたしに見せる。腰から伸びる
尻尾をくねらし、楽しそうに微笑む少女は明日奈お姉ちゃんであって、しかしわたしが知
る明日奈お姉ちゃんとは全く別の存在であった。
「あ、明日奈お姉ちゃん……い、いったいどうしちゃったの?」
ベッドからよろよろと身を起こし、震える声でわたしは問いかける。仮にこの少女が本
物の明日奈お姉ちゃんだとしても、角・羽・尻尾を持つその姿を指すものの名は自分の知
識の中にある言葉を当てはめるなら、一つしかなかった。
そう、「悪魔」と。
明日奈お姉ちゃんはわたしの戸惑いを予想していたらしく、口元に指を一本当てて苦笑
しながら言う。
「ん〜、やっぱりびっくりしちゃうか。ええとね、簡単に言うと、私はサキュバスになっ
たの」
「さ、サキュバス?」
わたしは戸惑いも露に明日奈お姉ちゃんの口から発せられた単語を繰り返す。それにこ
くりと頷き、悪魔の姿をした幼馴染のお姉ちゃんはうっとりと頬を染め嬉しそうに言う。
「そう、サキュバス。私ね、ずっと自分の気持ちを隠して、押し込めてきたの。でも、も
う今は違う。私、サキュバスになって、人間だったときよりずっと素直に、幸せになれた
の」
お姉ちゃんが何を言っているのか、よく分からない。ただ、彼女の口から発せられた
「サキュバス」という単語が意味するものは確か……色欲にまみれ、夜な夜な男を襲いそ
の精気を奪う淫らな魔物のことではなかっただろうか。
けれど、それはあくまで空想の産物のはずだ。現実にそんなものがいるはず無い。
そう必死で考えても、目の前の少女の姿は何よりも明白な証拠として、真実を伝えてく
る。人が古くから脳裏に思い描き、しかし決してその姿を見ることの無かった魔物という
ものは確かに存在するのだと。
ならば本当に、そのサキュバスに、明日奈お姉ちゃんがなってしまったというのだろう
か。仲のいい、大好きなお姉ちゃんが人間でなくなっちゃったというのだろうか。
「だから、ね? 理梨ちゃんにも私と同じ幸せを分けてあげようって」
混乱しているうちに、いつの間にか明日奈お姉ちゃんはわたしのすぐ目の前、肌が触れ
合うほどのに距離にまで近づいてきていた。
「あ……」
彼女の身体から不思議な気配が立ち上るような錯覚を感じたと同時、再びわたしの身体
が熱を持つ。逃げようとする前に思考は靄がかかったように霞み、これからどうなるのか、
自分はどうすればいいのか、冷静な判断さえも出来なくなっていく。
「さ、理梨ちゃんも仲間になろうよ……?」
気付いた時にはそんな呟きが耳元で聞こえていた。明日奈お姉ちゃんはわたしを正面か
らから優しく抱きしめ、胸と下半身にそっと手を伸ばす。
「ひゃう!」
「ふふ、ぴくってしたね。可愛い」
わたしの反応に微笑み、明日奈お姉ちゃんは首筋に舌を這わせる。彼女に触れられるた
び、わたしの身体の熱が高まっていく。
「理梨ちゃんの肌、すべすべだね。羨ましくなっちゃうな」
「はぅ……あ、お、おねえ、ちゃん……や、やめてぇ……」
熱に浮かされ、自分の身に起こっていることが上手く把握できないためか、わたしは弱
弱しく声を上げるだけで、身体はほとんど抵抗らしい抵抗をしていなかった。
「え〜? こんな状態で言っても、全然説得力ないよ?」
明日奈お姉ちゃんは下半身に伸ばした手を下着の中へと滑り込ませ、股間に触れる。そ
の瞬間わたしに電気が走り、再び愛液を滴らせていたあそこからはいやらしい水音が響い
た。
「ほら、ね? こんなにびちょびちょだよ?」
「や、あ……言わないでぇ……」
最早わたしは彼女の言葉に否定もせず、ただぎゅっと目をつぶる。その拍子に目じりか
ら涙の粒が一つ流れ落ちた。
「あ、ごめんね。いじめるつもりはなかったの。泣かないで」
明日奈お姉ちゃんはわたしの頬を伝った涙をそっと指でぬぐうと、優しい声で語りかけ
る。
「理梨ちゃんも、ちゃんと気持ちよくなれるようにしてあげるから。ね? とっても素直
で素敵な女の子になって、お兄ちゃんといっぱい幸せになれるようにしてあげるからね」
そう言いながら、彼女は再びわたしにキスをする。先ほどと同じく、彼女の舌に触れ、
唾液を飲まされたわたしの意識はお酒に酔ったように、とろんとしていった。
そんなわたしに微笑み、明日奈お姉ちゃんは服を脱がせていく。上着のボタンが外され、
下着を剥ぎ取られると、わたしの小さな胸があらわになる。
「理梨ちゃんの胸、可愛いよ」
「……ふぁ、あ……」
明日奈お姉ちゃんの声に、わたしは力なく彼女に目を向けたものの何をすることも出来
ない。身体を蝕む熱の異常な感覚に戸惑い、切なげな吐息を吐き出すだけだった。
そうしているうちに、あっという間にスカートとパンツが下ろされる。湿った下着がな
くなると、股間からとめどなく湧き出す透明な液が、太ももを伝った。彼女の手が股間に
触れるたび、身体の中のじんじんとした感覚が強くなっていく。
「はぁ、はぁ……ぁ……ん……」
肉欲はすでにもどかしいまでの渇きとなり、狂ってしまいそうなほどにわたしを責め苛
んでいる。そんなわたしの様子を満足げに見つめ、明日奈お姉ちゃんは頷いた。
「うん、準備はこんなものかな? それじゃあ理梨ちゃん、はじめるね」
言葉と共に明日奈お姉ちゃんがまとう衣装が虚空に溶けるように消える。お互いに一糸
纏わぬ姿となると、彼女は腰から伸びる尻尾の先端をわたしの秘所に押し当てた。
「ちょっとだけ、私の魔力を入れさせてもらうね。だいじょうぶ。大事なものは傷つけな
いから」
快感と恐怖に思わず震えたわたしを安心させるように、彼女が言う。それと同時に、尻
尾の先端がほんの少し、わたしの中にもぐりこんだ。
「ひ……、やぁん!」
指とは異なる形、質感の異物が膣内に侵入する感覚に、わたしは悲鳴を上げる。だがそ
れだけではなかった。さらに、尻尾からわたしの中に何かが注がれていくような感触が生
じた。
ざわわ、と背筋を何かが走る感触がある。別に何か液体が注入されているわけではない。
けれども、明らかに「何か」がわたしの中に浸み込んで行くのが分かった。そして、それ
が少しずつわたしを変えていく。
身体だけではなく、心にもそれは浸み込み、少しずつわたしの中の何かを変えていくよ
うに思えた。
「はぁ……あ、あぁ……」
得体の知れない感覚にわたしが身体を震わせるのを見つめ、尻尾を突きたてたまま、明
日奈お姉ちゃんは手でも愛撫を続ける。彼女が触れるたびに、手のひらや指先からも何か
がわたしの中へと浸み込んでいき、さらに熱を高めた。
「ふふっ、よく頑張りました。それじゃ、尻尾は抜いちゃうね」
どれほどの時間、そうしていたのだろうか。やがて秘所から明日奈お姉ちゃんの尻尾が
引き抜かれる。その先端はわたしの液で汚れ、照明の明かりを受けててらてらと輝いてい
た。わたしは身体の中を不思議な感覚で満たされ、浮遊感にも似た心地よさに揺られてい
た。自然と、その口から吐息が漏れる。
「ふぁ、あ……」
「ふふ、すごくよかったでしょ? でもね、こんなのはまだ序の口だよ? これから、も
っと気持ちよくなれるからね」
力の抜けた私をベッドに優しく横たえさせると、明日奈お姉ちゃんも隣に寝転び、微笑
む。ぼうっとしたわたしの視線を受けたまま、彼女は続けた。
「でもその前に、理梨ちゃんの本当の気持ちが知りたいな」
「ほんとうの、きもち……?」
「そう。ねえ理梨ちゃん、さっきも聞いたけど、理梨ちゃんはお兄ちゃんのことが好きな
んでしょう?」
兄という言葉に、熱に浮かされたわたしの頭には羞恥と共に少しだけ理性がもどる。そ
れによって、わたしはいつものツンツンした不器用な妹の仮面を被りなおした。まだ熱の
残るわたしは上気したままの顔で、否定の言葉を弱弱しく口にする。
「ち、ちがう……そんなんじゃないもん……」
お兄ちゃんに抱く気持ちを否定した瞬間、わたしの下腹部が疼く。それを無理やり無視
して頷き、さらにわたしは続けた。
「おにい、ちゃん……なんか、好きじゃ、ないもん」
「そう? 本当に?」
再び私の身体が疼く。そんなわたしの顔を明日奈お姉ちゃんは間近から覗き込んできた。
心をも見透かすような瞳がわたしを捉え、彼女は口を開いた。
「小さい頃はお兄ちゃんとずっと一緒だったのに、それが突然引き離されて、10年以上
も遠く離れ離れで暮らさなくちゃいけなくて、寂しかったりしなかったの?」
「そ、それは……」
胸のうちに秘めていた想いを突かれ、わたしは言いよどむ。それに、彼女は重ねて尋ね
てくる。
「お兄ちゃんと一緒じゃなくても平気だったって、お兄ちゃんのことなんて考えもしなか
ったって、言える?」
「う……」
「どこへ行くにも、何をするにもあんなに一緒だったのに、そのお兄ちゃんがいなくなっ
て寂しくなかったの?」
「……しかった」
「え? なに?」
「寂しかった! お兄ちゃんと離れ離れになっちゃって、寂しかった! ずっと会いたか
った!」
わたしは辛かった日々の記憶を吹き飛ばすように、叫ぶ。彼女の言うとおり、お兄ちゃ
んと離れて暮らしていた間中、いつだって彼が恋しく、寂しかった。友達の存在や勉強に
打ち込むことでなんとか誤魔化していたが、結局わたしはお兄ちゃんと一緒にいられない
とダメだったのだ。
それを再認識したと同時に、わたしの身体を責める疼きが消え、代わりに喉の渇きが満
たされるような快感がもたらされる。
さらにそれだけではなく、背中に奇妙な感覚が走った。
「……っ!?」
背中のやや下側、わずかに腰の上辺りの皮膚が、盛り上がったような気がした。だがそ
れは錯覚などではなく、次の瞬間、何かがわたしの身体を突き破り、生え出していく。
「な、なに……、なにか、出てくる……? い、いや……やだ、やだよぉ……!」
涙を浮かべ、わたしは悲鳴を上げる。見えない場所で、ぐにぐにとなにかが蠢く感触が
わたしに言いようのない嫌悪感と恐怖をもたらす。
「あぁ……やだ、ふ、あっ……こんなのいやなのに……」
だが、わたしは嫌悪や恐怖だけではなく、奇妙な快感も感じていた。いやいやをしなが
らも身体は快楽に火照り、口からは熱のこもった吐息が漏れてしまう。
「あ、ああぁぁ……」
一際長い息を吐き出した瞬間、背から生え出したものがばさりとはためいた。わたしは
身体に新たな部分が生まれた感覚に怯えながらもおそるおそる「それ」を動かす。
わたしの意を受け、紫色をした薄い皮膜の羽が身体を包むように動いた。明日奈お姉ち
ゃんの腰から伸びるものとは形状が少し違っているものの、それは明らかに悪魔の持つ羽
であった。
異形と化した自分の姿に、思わずわたしは涙ぐむ。
「やだぁ……こんなの……うそだよぉ……」
「あは。まずは変身の第一段階終了だね。綺麗な羽だよ、理梨ちゃん」
だが、明日奈お姉ちゃんは羽を生やしたわたしににこりと微笑む。さらにはそっと抱き
つき、自らの秘所をわたしのそこに合わせてきた。
「ひゃ、あぁん!」
「ふふ……さっきより、ずっと気持ちいいでしょ?」
羽が生え、身体が変わってしまったせいか、わたしの体の感度は今まで以上になり、先
ほどよりも強烈な快感がわたしに迸る。堪えきれず快楽の悲鳴をあげるわたしの耳元で明
日奈お姉ちゃんは囁き、首筋にそっと舌を這わせた。
「ん……っ、理梨ちゃんの汗、おいしい」
「いや、やめて……あっ、ああっ! だめ、おねえ、ちゃん……だめぇ!」
わたしの懇願も空しく、お姉ちゃんは子犬のようにぺろぺろと肌を舐めまわす。さらに
は身じろぎをするたびに触れ合った股間からも強烈な快感が押し寄せた。逃げ場のないわ
たしは、すぐにでも達してしまいそうなほどの快感を連続で与えられ、涙を零す。
このままじゃおかしくなっっちゃうんじゃないか。そんな考えがうっすら浮かんできた
頃、ようやく彼女は口を離す。だが彼女は身体を離すつもりはないようで、しっかりと抱
き合ったまま、再び耳元で囁いた。
「理梨ちゃん、ずっと一人で寂しかったんだね。ねえ、なら……あなたがずっと会いたか
ったお兄ちゃんと再会できて、また一緒に暮らせるようになって、どう思ったの?」
「はぁ……ぁ……。べ、別に、あふっ、どうも……おもって、ない……」
「……そう? 自分の気持ちに嘘はよくないよ?」
反射的に、いまだに無意味な意地を張る。さっきと同じ疼きと渇きが襲うが、わたしは
目をつぶってそれをぐっと堪えようとする。そんな様子に明日奈お姉ちゃんはちょっとだ
け呆れたような顔を浮かべたが、すぐにそれは意地悪っぽい笑顔に変わった。
「ふ〜ん、そんなこといっちゃうんだ。お姉ちゃんに嘘つくような悪い子の理梨ちゃんに
は、おしおきしないとね」
彼女はそう言うと、わたしの背に回した手を動かし、腰の方へと滑らせる。不審に思う
間もなく、彼女の手はわたしの身体に生まれたばかりの器官、悪魔の羽の根元を強くつま
んだ。
「ひぅあ……っ!」
今まで感じたこともない奇妙な感覚が、わたしの身体を突き抜ける。明日奈お姉ちゃん
はわずかに嗜虐的な笑みを浮かべ、わたしの羽をなで、つまみ、引っかいて弄り回す。
「ああっ、あ、ひ、やだ……だめ、つねっちゃ、やだぁ……」
未知の、異様な快感に翻弄され、わたしは身悶える。
「ね? 正直に言わないと、もっといじめちゃうよ?」
彼女の声が耳に届く。感覚を敏感にされたせいか、先ほどよりも降伏は早かった。
「いう、ひっ、しょうじきに、いうからぁ! やめ、あぁっ、おねえちゃん、おねがい、
ゆるしてぇ……!」
喘ぎ声の混じったわたしの言葉に、彼女の手が止まる。わたしはいまだ引かない熱の
もたらす荒い呼吸をなんとか落ち着かせようとしながら、口を開いた。
「はあ、はぁ……、う、うれし、かった……おにいちゃんと……また、はぁ、はぁ……
いっしょ、だって……ずっと、いっしょ、だって……うれしかった……っ!」
本音を吐露した瞬間。再びさっきと同じ快感が身体を満たす。それと同じくして、さ
らにまた体内に違和感が生まれる。今度は皮膜の羽の付け根、そこよりわずかに下、お
しりのやや上の中央部で熱がいっそう高まっていった。
「ああっ、や……やだぁ、また、こんな……っ」
皮膚の下でむずがゆい感触が生まれたかと思うと、それは先ほどと同じようにわたし
の身体の中からずるりと飛び出す。
「ふあぁぁ……っ!」
喘ぎを上げるわたしの腰から伸びだしたのは、羽と同じ紫色をした、細長く滑らかな
尻尾だった。その先端は大きなハート型をしており、首を回したわたしの目にはくねく
ねと動く様子が映る。
「し、しっぽまで……!? いやぁ、こんなの、こんなの、わるいゆめだよぉ……!」
「う〜ん、可愛いと思うし、そんなにいやがることないのになあ。すぐに慣れて、気に
もしなくなるよ?」
涙を零すわたしに、明日奈お姉ちゃんは少しだけ困ったような表情を作る。だが、そ
れでも彼女にはわたしの姿を元に戻す気も、この淫らな儀式を止める気も無いようだっ
た。
「よいしょっと」
明日奈お姉ちゃんは身を起こし、ベッドの上に寝転ぶわたしの背後に回ると抱きすく
めるようにしてわたしを抱え起こす。
彼女は尻尾をくねらせ、羽をはためかせながらわたしの肩に顎を乗せ、囁く。
「ねえ、理梨ちゃん。理梨ちゃんがずっと一人で寂しかったってこと、離れ離れだった
お兄ちゃんとまた一緒になれて嬉しかったってことはわかったよ? それじゃあ、今は
お兄ちゃんのこと……、本当はどう想ってるの?」
「だ、だから……、なんとも……、おもって、ない、もん」
疼きに途切れ途切れになりながらも、わたしはそれについてだけは譲らない。先ほど
の自慰など、既に状況証拠などから火を見るより明らかでも、それだけは決して口にす
まいとわたしの中の何かが意地を張っていた。
「我慢は身体によくないと思うけど」
明日奈お姉ちゃんの言うとおり、わたしが自分の気持ちを否定するたびに、身体の中
にこもる熱が暴れる。まるで素直になれない自分を責めるような快楽の炎に身もだえし
ながらも、わたしは兄への想いの否定を示し続けた。
そんな様子に、このままではいつまでたってもらちがあかないと悟ったのか、明日奈
お姉ちゃんは溜息を一つつくと、呟く。
「……仕方ないなあ。本当は理梨ちゃんに素直になってもらってから呼ぼうと思ったん
だけど」
彼女はちらりと部屋の入り口に目を向ける。わたしもその視線を追い、ドアへと目を
向けた瞬間、ゆっくりと戸が開き、見慣れた人物が姿を現した。
「……理梨?」
「……お、おにい、ちゃん……」
そう、廊下に立っていたのはわたしの兄だった。彼は室内の様子にも戸惑った風はな
く、足を一歩、踏み入れる。
その彼に明日奈お姉ちゃんが申し訳なさそうに声をかける。
「ごめんね、待たせちゃってたのに、ちょっと上手く行かなくて。理梨ちゃん、ここま
できてもなかなか素直になってくれないの」
彼女の言葉に、今、自分がどんな姿をしているのかを思い出したわたしは羞恥に顔を
染め、泣きそうな声で叫ぶ。
「ち、ちがうの! おにいちゃん、これはなんでもないのっ! や、ぁ……みないで!
おねがい、みないでぇ!」
裸というだけでなく、既に人間じゃなくなってしまった自分の姿を兄に見られたくな
いわたしは身体を隠し、お兄ちゃんから目をそらして言う。だが、もう遅い。明日奈お
姉ちゃんに後ろから抱きかかえられたわたしの姿は、お兄ちゃんにしっかりと見られて
しまっただろう。こんな、悪魔みたいな羽や尻尾を生やしたわたしのことなんて嫌いに
なったに違いない。
「う、うぅ……」
つぶった目から、ぽろぽろと涙がこぼれる。だが、わたしの耳に届いたのは、想像と
は異なるお兄ちゃんの言葉だった。
「ええっと……よくわかんないけど。そのカッコも可愛いよ、理梨」
「っ!?」
思わず顔を上げ、お兄ちゃんの方に向ける。わたしの視線の先には頬を染め、少しだ
け気まずそうにして立つお兄ちゃんの姿があった。その表情が、何よりも雄弁に彼の心
中を語ってくれている。聞き間違いなんかじゃなかった。確かにお兄ちゃんは「可愛い」
と言ってくれたんだ。
そう思った瞬間、安堵よりも喜びがわきおこる。だが、まだ少し不安を残すわたしは、
おどおどと彼に問いかけた。
「おにいちゃん……わたし、こんな姿になっちゃったのに……、嫌いに、ならない?」
「なるわけないだろ。大事な、大好きな妹なんだから」
「! おにいちゃん……!」
ずっと聞きたかった言葉をお兄ちゃんから手に入れ、わたしの心にこれまでにない喜
びが広がる。その熱が同時に、どうしても今まで素直になれなかったわたしの心の氷を
溶かしていく。
「わたしも……おにいちゃんのこと、だいすきだよ……!」
ごく自然に、わたしの口から言葉が飛び出す。どうしてこんなに簡単なことが出来な
かったんだろう。でも、それももうどうでもよかった。わたしはやっと、素直な妹に戻
れたんだから。そう思うと共に、喜びと興奮がどんどん高まっていく。
「ほら、見てないでお兄ちゃんのところにいってきたら?」
明日奈お姉ちゃんの声に、頷く。言われるまでもなく、心の中に広がる感情を抑えき
れなかったわたしは弾かれるように飛び出した。さっき見ていた漫画のように、勢いよ
くお兄ちゃんへと抱きつく。
「おっとと」
そんなわたしをお兄ちゃんは優しく抱きとめてくれる。大きな兄の胸と、自分とは違
う男の子の匂いがわたしを興奮させる。
「だいすき、おにいちゃん、だいすき……!」
今まで溜めた分の想いを全て吐き出すように、わたしは好きと言い続ける。俺もだよ、
とお兄ちゃんが言ってくれると、さらに幸福感が心にわき、満ちていく。
「ね? 自分の気持ちに素直になった方がずっと幸せになれるでしょ? ほら理梨ちゃ
ん、ちゃんと言わないと。あなたが本当に欲しいのは、一体なに?」
抱き合うわたしたちを笑顔を浮かべながら見守っていた明日奈お姉ちゃんが、そう声
をかける。それにわたしは頷くと、口を開いた。
「お兄ちゃん、わたし……お兄ちゃんが欲しいの。大好きなお兄ちゃんと一つになりた
いの……。おねがい、お兄ちゃんのを……ここに、いれて、たくさん、気持ちよくして
ください……」
今までなら、決して口にしないような淫らな台詞を嬉しそうに囁きながら、わたしは
媚びるようにお兄ちゃんを見上げる。既にわたしの心には、そんな自分の変化に違和感
を抱くだけの理性は、残っていなかった。
今はただ、自らを兄に捧げ、快楽を共に得たいということのみが思考を占めている。
「ね、さわって……わたしのここ、もうこんなになっちゃってるんだよ……?」
わたしはお兄ちゃんの手を取ると、愛液で濡れそぼる自らの秘所に導く。彼の指が触
れた瞬間、自分の手や、明日奈お姉ちゃんのものとも違う感触に、思考を焼くような強
烈な快感と幸福感が走った。
わたしはお兄ちゃんのシャツを握ったまま、ベッドの上に寝転ぶ。わたしにひっぱら
れ、お兄ちゃんはわたしの上に覆いかぶさるような形になった。
「あは、お兄ちゃんのも、もうおっきくなってるね」
「ああ……まあ、な」
ズボンを膨らませる兄のものを認め、わたしの顔に笑みが浮かぶ。わたしの裸に欲情
してくれた。その考えがわたし自身の興奮をも高めていく。
「おにいちゃんの苦しそう。わたしがぬがしてあげるね……」
淫らな微笑を浮かべたまま、わたしはお兄ちゃんのズボンに手をかける。ベルトを外
し、ジッパーを下げ、下着の中の硬くなったものに手が触れると、兄の一物はびくりと
ふるえた。
「あ、ごめんなさい、痛かった?」
「い、いや……大丈夫、理梨の手が気持ちよかっただけ」
恥ずかしそうなお兄ちゃんの言葉にくすりと微笑み、わたしはそのまま口付ける。さ
っきの明日奈お姉ちゃんとのキスを思い出し、舌を伸ばしてお兄ちゃんと絡めあった。
お兄ちゃんもわたしに応え、舌を触れ合わせてくれる。
「んんっ……ちゅ、ちゅ……ん……」
唾液を交換し合う音が、室内に響く。
やがてどちらからともなく顔を離したわたしたちは、しばし間近で見つめ合う。わた
しがこくんと頷くと、お兄ちゃんもまた頷き返し、そっと肉棒をわたしの割れ目にあて
がった。
「んっ……」
お兄ちゃんの肉棒は大きいだけでなく、焼けるように熱く、肌の表面に触れただけで
わたしは声を漏らす。
「大丈夫か、理梨? 怖いなら……」
心配そうにわたしを覗き込むお兄ちゃんに、わたしは首を振る。
「大丈夫。だいじょうぶだから、やめないで。わたし、心から……お兄ちゃんと一つに
なりたいんだから」
「……わかった。ちょっと痛いかもしれないけど、ごめんな。出来るだけやさしくする
から」
決意のこもったわたしの言葉にお兄ちゃんはそう言ってくれる。嬉しさと幸福感に満
たされながら、わたしは自らの割れ目に手をあて、指で押し開いた。
「……きて、お兄ちゃん……」
「ああ……」
その声と共に、わたしの膣内に兄が入ってくる。ぴっちりと閉じたきつい膣内を、お
兄ちゃんのものはゆっくりと肉を押し広げるようにして侵入してくる。その初めての感
覚は、わたしに指では味わえない快感をもたらした。
「んっ……あぁぁ……っ、おにい、ちゃんの……はいって、くるよぅ……!」
「ぐぅ……っ、理梨のなか、すげぇ……」
堪えるような声が聞こえる。お兄ちゃんもまた、わたしの中で快感を得ているようだ
った。わたしの膣内、気持ちいいんだ。そんな考えが浮かび、お兄ちゃんに喜んでもら
えることに、なんだかわたしも嬉しくなってくる。
やがて、お兄ちゃんのものはその根元までをしっかりとわたしの中に埋め込む。身体
が変わってしまったためか、それとも兄と結ばれた幸福感のせいか、思っていたより痛
みはなかった。
だが、わたしとお兄ちゃんの結合部からは、薄桃色の液が垂れ、シーツに染みを作っ
ている。
「おにいちゃん、ありがとう……。わたしの、はじめてをもらってくれて……」
「……いや、こっちこそ。ごめんな、理梨は俺のことこんなにも想ってくれてたのに、
ちゃんとしてやれなくて」
お兄ちゃんの言葉に、わたしは首を振る。そんなことは気にしていなかった。だって、
今はこうして、お兄ちゃんと一つになれたんだから。その幸せをかみ締めながら、繋が
ったままのわたしたちはお互いの身体を抱きしめあっていた。
「ね、お兄ちゃん……そろそろ動いても大丈夫だよ」
「ああ、じゃあ、少しずつ動くな……。理梨、苦しかったら言えよ」
わたしの言葉に、覆いかぶさったままの格好でお兄ちゃんが腰を動かし始める。
「あふっ……あ、あぁん……」
ゆっくりとした動きで腰が振られ、お兄ちゃんの肉棒がわたしとこすれる。それだけ
でもわたしは達してしまいそうなほどの快感を得、口からは喘ぎが漏れた。
それはおにいちゃんも同じようで、快感の吐息を漏らしながら、わたしを揺さぶり続
ける。
お互いを気遣うような、やさしく穏やかな交わり。
だが、しだいに体の中に溜まっていく熱と興奮は、それだけでは満足できなくなって
きていた。
「理梨……ごめん、おれ……がまん、できないかも……」
「いいよ……はげしく、んっ、しても……。わたしも、あっ、もっと……きもち、よく
して、ふぁ……ほしいもん……」
お兄ちゃんの言葉に、わたしも頷く。
「やっ、ふぁ、やあああああああああん!!」
次の瞬間、先ほどとはうって変わって激しく一物を突き入れられ、わたしは強烈な快
感に悲鳴を上げた。肉がぶつかり合い、汗が飛び散る。
「く、あぁっ。理梨、すごい……気持ち、いいよっ!」
覆いかぶさったまま、わたしの中で一物を動かすお兄ちゃんの口から、快楽の声が漏
れる。わたしもまた、さらなる快楽を求め、お兄ちゃんの動きに合わせて腰を動かした。
「ふぁっ、ああっ、きもち、いいよぉっ! やぁあん! おにいちゃん、すごい、よぉ!
おにいちゃぁん……っ!」
体の中で燃える炎はその大きさを増し、思考を焼いていく。揺さぶられ、体の中をか
きまわされ、背筋がぞくぞくするような興奮を感じながらわたしは快感の涙を零す。
しばし快感を貪っていたわたしたちも、やがて限界を迎えそうになる。
「あぁ、おにいちゃ……、わたし、あっ、も、もう……だめ、いく、いっちゃいそうだ
よぉ!!」
「ぐ……う……、理梨、俺も……もう……」
びくびくと震えだしたのを堪え、わたしはさらに動きを早める。お兄ちゃんもまた歯
を食いしばって出してしまいそうになるのを堪えながら、動き続けた。
そして、お互いに一際強く腰を打ち付けあった時が最後だった。一番奥まで届いたお
兄ちゃんの肉棒がわたしとぶつかり、絶頂を導く。
「やぁ、いく、あっ、いっちゃうよぉ……あっ、やあぁぁぁぁぁぁぁぁん……っ!!」
達したわたしはお兄ちゃんにしがみつく。それに連動するように、無意識のうちに肉
壁が収縮し、お兄ちゃんの肉棒を締め付けた。
「理梨……っ、くっ、うぁあぁぁ……っ!!」
お兄ちゃんのうめき声が上がる。わたしの中でお兄ちゃんも達し、熱い液体が先端か
ら勢いよく迸った。どろどろの精液が膣内を満たす感覚に、わたしはお兄ちゃんにぎゅ
っとしがみついたまま震える。
「あふ……ふぁ、あ……おにいちゃん、いっぱい、出たね……」
最後の一滴までも搾り取り、わたしは嬉しさに微笑みながら声をかける。気を失った
のか、力の抜けたお兄ちゃんの体がわたしの上に覆いかぶさっていたが、ちっとも苦し
くなかった。どうやら重くないよう、押しつぶさないように、気を使ってくれてたらし
い。
「んっ……」
少し名残惜しい気がしたが、わたしはお兄ちゃんのものを膣内から引き抜く。その拍
子にほんの少し血が混じった白い液がどろりとこぼれ、わたしのももとシーツを汚した。
それをそっと指ですくい、ぺろりと舐める。お兄ちゃんとわたしが結ばれた証のそれ
は、舌を蕩けさせるように甘かった。
「ありがとう、お兄ちゃん。……大好きだよ」
そう呟いた瞬間、わたしの頭、丁度ツインの髪の両脇辺りから二本の角が飛び出す。
同時に耳にも違和感が生まれ、ぐにぐにと伸び、ぴんと尖った。
それに手を伸ばしてさわり、確かめるとわたしは小さく笑う。
「あは……これでわたしも本当に、サキュバスになっちゃった」
そう呟くわたしには、さっきまでのような恐怖も戸惑いも嫌悪も、後悔も無い。むし
ろ、すがすがしいとさえいえる気分だった。
「うふふ……なんでもっと早くきづかなかったのかな……。こうすれば、簡単にお兄ち
ゃんと一緒になれたのに……。んっ……こんなにも気持ちいいのに……」
淫らな光を瞳に宿し、わたしは笑う。目を閉じた兄に口付ける。そっと唇同士が触れ
ただけのキスなのに、人であったときには得られない快感を感じることが出来た。
今まで感じたこともないほどの幸福に包まれながら、わたしはお兄ちゃんの胸に頬を
あて、そっと目をつぶるのだった。
不意に、枕元に誰かが立つ気配がする。
「おめでとう、理梨ちゃん。これであなたも、私といっしょだね」
「明日奈お姉ちゃん」
顔を向けると、嬉しそうな笑顔の明日奈お姉ちゃんが立っていた。わたしはお兄ちゃ
んを起こさないようそっと離れ、ベッドから立ち上がると、ぺこりと頭を下げる。
「ありがとう、明日奈お姉ちゃん。わたし、サキュバスになれてよかった。だって、よ
うやくお兄ちゃんと一つになれたんだもん」
「ふふ、よかった。でも、二人ともあんまりにも気持ちよさそうなんだもの。ちょっと
やけちゃっったな」
「ご、ごめんなさい」
思わずわたしは謝る。そういえば、あまりにも夢中になっていたため、明日奈お姉ち
ゃんのことをすっかり忘れていた。目の前で濃厚なえっちが繰り広げられている間、完
全にほったらかしでは、それはやきもちの一つもやくだろう。
「なんてね。気にしないで。彼が起きたら、今度は三人で楽しみましょ?」
「うん。そうだね」
明日奈お姉ちゃんの提案に、わたしも頷く。大好きなお兄ちゃんと、大好きなお姉ち
ゃんと一緒にする。それはとても魅力的なことに思えた。一体どれほど気持ちよくなれ
るんだろう。想像しただけであそこが熱くなり、湿ってしまう。
そんなわたしの様子を見、明日奈お姉ちゃんはどこかエッチな光を瞳に宿らせ、楽し
そうに言う。
「でもそのまえに、理梨ちゃんにいいものプレゼントしてあげる」
「いいもの?」
小首をかしげ、聞き返したわたしに明日奈お姉ちゃんが抱きつく。
「うん、とっても気持ちよくなれる魔法のおまじない。えっとね、ルーンっていうのを
体にかきこむだけで、何倍もの快感を得られるんだって」
彼女の指先にピンク色の光が灯り、わたしの肌をなぞる。くすぐったさに身をよじる
わたしを押さえつけ、彼女が指を動かすとハートのような模様がわき腹に描かれた。
「ええっと、これでいいはずだけど……」
明日奈お姉ちゃんが言う。だが、こうしてただ立っている分には特に変わったことは
ないみたいだ。
「ほんとにもっと気持ちよくなってるのかな……」
半信半疑でわたしは指を股間に伸ばす。
「ええっと、――ッ!?」
割れ目にかすかに触れた瞬間、わたしの口から声にならない声が発せられる。全身に
電流を流されたかと思ったほどの快感。サキュバスになっただけでも体の感度が上がっ
てはいたが、それ以上だった。
「これ……すごいかも」
ポツリと呟くが、明日奈お姉ちゃんには聞こえていなかったみたいだ。彼女はぶつぶ
つと呟きながら、わたしに顔を向ける。
「ん〜。一個だけじゃなんか寂しいね。それにきっと、いっぱいあったほうが気持ちい
いよね!」
どこか晴れ晴れとした笑顔がこちらに向けられる。いやな予感を感じる間もなく、指
先に魔力の光を灯したお姉ちゃんはわたしを押し倒してきた。
「ちょ、ちょっとタンマ! お姉ちゃん、たんま〜!」
「大丈夫! ちゃんと可愛く刻むから〜!!」
室内でどたんばたんともみ合うわたしとお姉ちゃん。そんな騒ぎに、一人夢の中のお
兄ちゃんは、幸せそうに寝言を呟くのだった。
「だいじょうぶだ、理梨……。お兄ちゃんは、ずっと側にいてやるからな……」
―― EXシナリオ 理梨編『そして彼女は魔へと堕ちる』 終わり ――
時刻は深夜。場所は先ほどと同じ夜麻里家、理梨の部屋。
あの後目を覚ました兄と理梨、明日奈の3人で繰り広げられた宴も終わり、理梨はサ
キュバスの姿のまま、すやすやと幸せそうな寝息を立てている。
ベッドの端に腰掛け、その妹を見下ろす兄に、同じくサキュバス姿のままの明日奈が
声をかける。
「ふふ……これで理梨ちゃんも、あなたの虜だね」
どこか邪悪な笑い声を気にした風もなく、兄もまた、彼女に言葉を返す。
「ああ、そうだな。明日奈、ありがとうな」
「ううん、いいの。わたしもね、素直になれない理梨ちゃんのこと、気になってたから。
理梨ちゃん、よかったね。やっとお兄ちゃんのものになれて」
ベッドに腰掛けて夢の中の理梨に向かい、微笑みながら明日奈は彼女の頬をなでる。
「でも、まだまだ足りないよね。あなたのためのハーレムだもの。もっとたくさんの女
の子を仲間にして、あなたの素晴らしさを知ってもらわないと」
「ああ……期待しているよ……」
しなだれかかる明日奈の肩をそっと抱き、眠る理梨の髪を梳きながら少年はどこか淫
らで、妖しい笑みを浮かべる。
その瞳には理梨や明日奈と同じ、魔性の色が浮かんでいた。
|